【黒ウィズ】空戦のシュヴァルツ Story1
story1 髑髏諸島の空賊たち
君たちは、ローヴィが艦長を務める艦に乗艦させてもらった。
艦に入るやいなや、即座に艦内の奇妙さに気づいた。
空賊艦を装ってはいるか、ローヴィも乗員もみんなドルキマスの軍人だった。
これから、聖なる石の〈原石〉の手がかりが見つかりそうな場所へ向かうのだという。
ドルキマスの遥か南方。果てしなく続く大海原に、小さな島が飛び飛びで浮かんでいる。
その諸島は、上空から見ると髑髏の形をしている。それゆえ人々はそこを、髑髏諸島と呼んでいた。
空は澄み渡り、島を囲む海は、瞳にその色が映るほど蒼い。
陰惨な戦争を繰り返していたドルキマスの南方に、こんな景勝地のような場所があったなんて。
空賊艦が1隻、背後から猛スピードで接近してくる。
甲板に立つ無線機と遠眼鏡を持った少女は、空の風にへし折られそうなほどか細い。
ローヴィは、舵を切るように操舵士に指示を送る。
背後に見えるもう一隻の空賊艦の影。どうやら、少女は襲われているらしい。
こら、危ないよ!砲弾が当たったらどうするの?だから、そんなことしたら、危ないって!”
君たちの目の前で、空賊艦同士の空中戦が始まった。
余計なもめ事は避けたい。でも、無視して進むのも気が退ける。
大人しく渡してくれれば、艦を沈めるのはやめてやるがどうだ?”
ロレッティを追う艦がスピードを上げた。さらなる接近で、砲撃の命中精度を上昇させるつもりだ。
傷ついて、悲鳴をあげはじめているロレッティの艦では、これ以上の被弾に耐えられないだろう。
君たちが少女の助けに入るということは、あのエクサヴェルという空賊の仕事を邪魔することになる……のだろうか?
空賊の掟なんて、君たちには関係ない。
えーん。えーん。死にたくないよ一。えーん、えーん……”
その明らかな嘘泣きは、助けてあげようと思う君の心を容赦無くへし折りに来る。
もちろん異論はないよ、と君は答える。
ローヴィのポーラル・シュテルン号は、艦首を傾け、ロレッティを狙う空賊艦に狙いをつけた。
ああん!?”
ローヴィは部下たちに命令を下し、副砲からの砲撃を命じた。
その迅速さは、さすがドルキマス軍人。砲撃は精確を極め、全弾命中する。
空の彼方に、きらりと一粒の輝きを放つ艦影。
見たこともない艦だが、無線根から聞こえる声には、覚えがあった。
ずっと見てたから、だいたいの流れはつかんでいる。人助けなら、俺も手伝うぜ”
>本当に髑髏みたいな島の形にゃ。
story2
君たちが謎の空賊艦の姿を視界に収めた直後、閃光のような一発の砲弾が、蒼穹を切り裂いた。
砲弾は、エクサヴェルの空賊艦に吸い込まれるように突き刺さり、凄まじい爆発音を轟かせた。
ちっ、また人の仕事を邪魔するやつが現れたのか?空賊の掟を知らない奴ばかりだな。嘆かわしいぜ。
おかしな掟を振りかざして、好き放題する奴は、この空賊フェリクス様が、全部沈めてやる”
フェリクスが空賊を名乗っているのを聞いて、君は驚きを隠せない。
前の戦争では、傭兵としてドルキマス軍に加勢していたはず。傭兵としての誇りを持っていた彼がなぜ空賊に?
これも、可愛い領民と家臣たちを食わせるためだ”
蒼天を自由に飛び回るフェリクスの艦は、猛スピードでエクサヴェルの雷光号に向かっていく。
その姿は、さながら隼のよう。
フェリクスの艦から放たれた一条の輝光が、またしても雷光号を貫く。
俺の16粍高射砲が狙いを付けたぜ。次は、あんたがいる艦橋を撃ち抜いてみせる。
その時、東の空に多数の艦影がみえた。
太陽を反射し、星のような輝きを放ちつつ接近してくる艦。その数は、1個艦隊に匹敵する。
専門的な戦闘技術を身につけたローヴィにとって、空賊の艦隊などいい砲撃の練習相手に過ぎない。
副砲と主砲の一斉砲撃。無数の砲弾が、援軍に駆け付けてきた敵空賊艦に命中する。
飛び交う砲弾と硝煙の匂い。視界は黒煙に覆われ、その隙間から覗くのは宙に浮かぶ敵戦艦。
空戦らしくなってきたね、と君はウィズを励ました。
ローヴィの艦隊操縦は巧みだった。敵の砲撃を受けても被害を最小限に抑えながら反撃している。
砲撃を受けながらも、動揺は見せず、兵を鼓舞し、指揮を続けるローヴィはさすがはドルキマス軍人だけはある。
ディートリヒの副官だった頃の彼女しか知らない君には、指揮官席から命令を飛ばす彼女の姿は、とても新鮮に映った。
メーヴェ号、反転!
しかし、四方八方、エクサヴェルの仲間の艦に取り囲まれている。逃げ道など、どこにもなかった。
お爺ちゃん譲りの空戦技術、披露しちゃうよ!
逃げようとしていた艦を再度反転させて、無謀にも敵艦隊の中に突っ込んでいく。
砲門が開く。恐怖を蹴散らしながら、砲火が間断なく連なる。
近くにいた敵艦が、火を噴きながら落下していく。ロレッティは、さらに次艦へと狙いを定めた。
ロレッティのメーヴエ号は、装甲の一部を砲弾によって破壊された。
もうもうと黒煙を吐き出し、高度を落としていく。このままでは、蒼い海に艦を墜落させてしまう。
その時、君の視界に影が過ぎる。その速さは、空を舞う黒鳥さながら。
君には見えた。鳥ではない。あれは、魔道艇。しかも、黒い魔道艇だ。
あれを乗りこなしている人物を君は知っている。
ハリールースに報告するまでもねえ。俺様がいまこの場で、てめえから奪ってやるぜ!”
黒い魔道挺は、それそのものが砲弾の如く疾駆し、エクサヴェルの雷光号に襲い掛かる。
猛スピードで、ナハト・クレーエ号が通りすぎたように見えた直後、雷光号は炎上し、沈みはじめた。
ルヴァルから依頼を受けた聖なる石の〈原石〉。まさか、ジークが持っていたとは……。
簡単に終わらせられる仕事じゃなさそうだね。と君は重いため息と共に答えた。
>く、空賊艦が撃ってきたにゃ!
大破した艦は、それ以上の戦闘は不可能に見えた。
逃げ時を見失うことなく、空賊艦は赤い炎を纏いながら後退していく。
エクサヴェルが敗れたと知り、仲間の空賊艦も、次々に退散していった。
艦首を上げて、黒い魔道艇は追撃の準備を取る。その様は、さながら嘴を持ち上げた黒鴉。
だが、ジークの視界に飛び込んできたのは、被弾していまにも落下しそうになっているロレッティのメーヴエ号だった。
ねえ、ジーク。あたしの艦を地下ドックまで曳航していってよ。いいでしょ?
ロレッティを助けた君たちは、髑髏諸島の島のひとつに着陸した。
島には酒場があり、昼だというのに空賊らしき格好をした者たちで賑わっていた。
ここに来るまでに赤髭バロームの名前は、ちらほら耳にした。
昔、存在した「大空賊と呼ばれる凄い空賊だということしか、君は知らない。
そしてジークは、その赤髭バロームの最後の子分だと言われている。
双眸から放たれる暗い眼光が、ロレッティを射貫く。
ロレッティは、散々悪態をついてからジークの前から去って行った。
彼女のあとを、手下たちが追っていく。どうやら、彼らがロレッティの子分らしい。
ジークは、酒瓶を手に取る。グラスに注いで、一気に煽った。ふと、君たちと目が合う。
お酒は飲めないから、水かミルクを貰うと君は言った。
一方ウィズは、君の背中に回り込み、ジークを警戒していた。
心底落胆したように肩を落とした。
君は、聖なる石の〈原石〉のことを聞き出すタイミングを見計らっていた。
とつぜん、周囲の客の雰囲気が一変する。
ディートリヒ……。いや、ドルキマス軍人の名前は、彼ら空賊を殺気立たせるのに十分な理由(・・)があるらしい。
この髑髏諸島は、誰でも出入り出来る。だが、軍人の息のかかったものは、五体満足で出られる保障はない。
それはまるで、脅しに近い警告だった。
まずいタイミングでローヴィがやってきた。彼女も、周囲の空気に気づいた。
激怒して立ち上がった酔っ払いは、しかし、次の瞬間、意識を失って倒れ込んだ。
意識を失わせた空賊を他人に託すと、何事もなかったかのようにローヴィの隣にやってきた。
フェリクスの言葉など意に介さず、ローヴィは黙って、グラスに注がれた果汁水を飲んでいた。
ジークは黙って瓶を差し出す。フェリクスが掲げたグラスに琥珀色の液体が注ぎ込まれていく。
お互い乾杯のつもりでグラスを合わせる。だが、再会の気分をかき消すように、慌ただしく駆け込んで来るものがいた。
息を切らせて駆け付けてきたのは、ジークの子分だった。
その〈原石〉こそ、君たちが探し求めていたものだ。
お宝を日干し……。そんな人目に付くことしてたから、狙われたんだと君は言う。
ジークは、なにも言わずにグラスを傾けた。
やがて、なにかに気づいたのか、うっすらと微笑を浮かべた。
君たちが、降り立った島は、髑髏諸島の中でも最大規模のドックがある島だった。
実際、島に降りてみると、空から眺めていた時とは、まったく違う印象を抱く。
艦を収容するドックは、あちこちの島にあり、その間を移動するのは、地底に広がっている地下道網だった。
この閥僣廬島に空賊が出没するのは当然。なぜなら、間難諸島全体が、空賊たちが共有する巨大アジトになっているのだ。
あっちを見ても、こっちを見ても空賊ばかり。それゆえ、少しでも空賊らしからぬ素振りを見せると、たちまち疑いの眼を向けられてしまう。
目的のものを探してあちこち見回っていると、一際大きな空賊艦から、大勢の人が降りてきた。
エクサヴェルの姿を君は確認する。
でも、空賊になって人に迷惑をかけてるんじゃ、元も子もないけどね、と君は厳しい。
やれやれ……大空賊バロームがいなくなってからどいつもこいつも、空賊の掟をないがしろにしやがるぜ。
どこのどいつだ!?俺が依頼した仕事を、邪魔した野郎は?
割れるような怒声が、地下アジト中に響き渡る。
それまで我が物顔でのし歩いていた空賊ですら、その声を聞くと、肩をすくめて存在感を消しはじめた。
かなりの影響力を持つ、空賊のようだが……。
ハリールースは、ロレッティに迫った。距離を詰められる。背後は壁。逃げ場がない。
どうやら、ロレッティの持っている遠眼鏡をハリールースは狙っているらしい。
何の変哲もないただの遠眼鏡に見えるが、狙うだけの価値があるお宝なのだろうか。
なにもない水面にさざ波を起こすほどの静かな声。
私は、その不届き者を討伐しにきたのです。ハリールース。不届き者とは、貴方のことですか?
ブルンヒルトは、礼儀正しくお辞儀すると、配下のものを連れて立ち去った。
ハリールースとブルンヒルトというふたりの空賊。
赤髭バローム亡きあと、大空賊の称号を巡って、このふたりが激しく争っていた。
ちなみに大空賊には、全ての空賊を従える権利が与えられる。
称号を得るには、勢力、人望、度胸……。すべてにおいて、どの空賊よりも勝っていることを証明しなければいけない。
ものまねなんかしてないと君は言った。
物陰から黒い衣装の男が現われた。噂をすれば、というやつだ。
殺気のこもった声。まさか、ローヴィの正体に気づかれたのかと、君は身構える。
父の仇として、ずっと追っています。この軍服は、その手がかり……。
嘘ではない。しかし、すべてを話しているわけでもない。
ナイフを抜く。ローヴィも、銃を構えて応戦しようとしたが、ジークの方が早かった。
先ほども、空賊を装う軍人を捕らえた。
銀に輝く刃にローヴィの白い首筋が映る。
もし、軍人たちと繋がっている証拠をつかんだら、躊躇わずにお前を殺す。覚えておけ……。
焼け付くほどの殺意が、ジークの双眸から放たれた。
ローヴィは、ドルキマス王族の証を持つ男を探している。右眼を覗き込むのは、そのためだ。
しばらく、ふたりの押し問答が続いた。
アジト内に少女の声が響き渡った。これは、ロレッティの声だと君はすぐに気づく。
君とウィズは、視線を交わしてから、ロレッティの艦を探した。
ちょうどいま、出航しようとしている戦艦がある。きっとあれが、ロレッティの艦だ。
君たちは、慌ててその艦に飛び乗った。
一欠片、金貨10枚で取り引きされている聖なる石の、でっけえ〈原石〉ともなれば、とんでもないお宝だぜ。
奪わない手はねえ!お前ら、出航の用意だ!
子分たちは、息急き切って親分の願いを叶えるための行動に出る。
子分たちがみんないなくなると、ハリールースは、陰謀屋としての一面を覗かせる。それは彼のもうひとつの顔だった。