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【黒ウィズ】空戦のシュヴァルツ Story1

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story1 髑髏諸島の空賊たち



 君たちは、ローヴィが艦長を務める艦に乗艦させてもらった。

艦に入るやいなや、即座に艦内の奇妙さに気づいた。

空賊艦を装ってはいるか、ローヴィも乗員もみんなドルキマスの軍人だった。

これから、聖なる石の〈原石〉の手がかりが見つかりそうな場所へ向かうのだという。

島が見えてきたにゃ!

 ドルキマスの遥か南方。果てしなく続く大海原に、小さな島が飛び飛びで浮かんでいる。

その諸島は、上空から見ると髑髏の形をしている。それゆえ人々はそこを、髑髏諸島と呼んでいた。

あそこにゃ?空賊たちが頻繁に出没する場所というのは?

私も、はじめて来たのですが、思ったよりも静かな場所ですね。

 空は澄み渡り、島を囲む海は、瞳にその色が映るほど蒼い。

陰惨な戦争を繰り返していたドルキマスの南方に、こんな景勝地のような場所があったなんて。

w”そこの艦、止まって!……そして、あたしを助けて~”

 空賊艦が1隻、背後から猛スピードで接近してくる。

甲板に立つ無線機と遠眼鏡を持った少女は、空の風にへし折られそうなほどか細い。

あれは空賊艦のようですが……。空賊の頭にしては、ずいぶんと可愛いらしい、お嬢さんですね。

 ローヴィは、舵を切るように操舵士に指示を送る。

あれを見るにゃ!

 背後に見えるもう一隻の空賊艦の影。どうやら、少女は襲われているらしい。

”お嬢ちゃん、このエクサヴェル様が、あんたの艦を沈めさせて貰うぜ?”

”う……撃ってきた!? あたしたち、ロレッティー家に喧嘩売って勝てると思ってるの?

こら、危ないよ!砲弾が当たったらどうするの?だから、そんなことしたら、危ないって!”

 君たちの目の前で、空賊艦同士の空中戦が始まった。

こういう場合は、どうしたらいいのでしょう?

 余計なもめ事は避けたい。でも、無視して進むのも気が退ける。

”ありゃ、また撃たれてる……。あ、命中。もうー発命中。ちょっと、どうしよう?”

い、意外と冷静にゃ。

”お嬢ちゃん、あんたの持ってる遠眼鏡、そいつはちと匂うなあ。特殊なお宝の匂いがぷんぷんするぜ?

大人しく渡してくれれば、艦を沈めるのはやめてやるがどうだ?”

”やーだよ。べ口べ口……ば~っ!あんたなんかに、あたしの宝物は、あげられないよ。”

”じゃあ、艦を沈めて奪うしかねえのか。しょうがねえ。これも仕事だ。悪く思うなよ?”

 ロレッティを追う艦がスピードを上げた。さらなる接近で、砲撃の命中精度を上昇させるつもりだ。

傷ついて、悲鳴をあげはじめているロレッティの艦では、これ以上の被弾に耐えられないだろう。

さすがは髑髏諸島。空賊たちが集い、争い合う魔性の空域とは、よく言ったものです。

そんな冷静に分析してる場合かにゃ? あの子を助けてあげないと撃ち落とされてしまうにゃ!

空賊は、義理堅い人たちです。ですが、他人の仕事を邪魔するのは、掟に反すると聞きました。

 君たちが少女の助けに入るということは、あのエクサヴェルという空賊の仕事を邪魔することになる……のだろうか?

でも、私たちは空賊じゃないにゃ。

 空賊の掟なんて、君たちには関係ない。

”よし! あたしも一家を率いる、いっぱしの空賊だ。覚悟を決めた!”

”お、降参するってのか?”

”違うわ。醜く命乞いする覚悟を決めたって意味よ!”

”そこの艦艇。見てないで助けてよ。こっちは、もうそろそろ墜落しそうなの。

えーん。えーん。死にたくないよ一。えーん、えーん……”

……。

 その明らかな嘘泣きは、助けてあげようと思う君の心を容赦無くへし折りに来る。

ここで見捨てるのも寝覚めが悪い。彼女の助太刀に入ります。いいですね?

 もちろん異論はないよ、と君は答える。

両機微速。取舵一杯!

 ローヴィのポーラル・シュテルン号は、艦首を傾け、ロレッティを狙う空賊艦に狙いをつけた。


”てめえ、人の仕事の邪魔をするつもりかよ? 空賊の端くれなら、掟(・)ぐらい知ってるだろう?

ああん!?”

空賊というのは、幼い子どもの艦も沈めるのですか?

”……わかったよ。まず、てめえの艦から沈めてやるぜ”

 ローヴィは部下たちに命令を下し、副砲からの砲撃を命じた。

その迅速さは、さすがドルキマス軍人。砲撃は精確を極め、全弾命中する。

さすが、ローヴィにゃ!

いえ、今の命中は、この艦からの砲撃ではありません。

 空の彼方に、きらりと一粒の輝きを放つ艦影。

見たこともない艦だが、無線根から聞こえる声には、覚えがあった。

”こちら、通りすがりの空賊艦。艦長のフェリクス・シェーファー……ああ、いやいや!ただのフェリクスだ。

ずっと見てたから、だいたいの流れはつかんでいる。人助けなら、俺も手伝うぜ”



>本当に髑髏みたいな島の形にゃ。



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story2



 君たちが謎の空賊艦の姿を視界に収めた直後、閃光のような一発の砲弾が、蒼穹を切り裂いた。

砲弾は、エクサヴェルの空賊艦に吸い込まれるように突き刺さり、凄まじい爆発音を轟かせた。

俺様の雷光号のケツに砲弾がぶち込まれただと……?

ちっ、また人の仕事を邪魔するやつが現れたのか?空賊の掟を知らない奴ばかりだな。嘆かわしいぜ。

”どんな掟があろうが、小さい子どもを虐めていいわけがねえ。

おかしな掟を振りかざして、好き放題する奴は、この空賊フェリクス様が、全部沈めてやる”

 フェリクスが空賊を名乗っているのを聞いて、君は驚きを隠せない。

前の戦争では、傭兵としてドルキマス軍に加勢していたはず。傭兵としての誇りを持っていた彼がなぜ空賊に?

”よお、魔法使い。まあ、いろいろ事情があって空賊になったんだ。

これも、可愛い領民と家臣たちを食わせるためだ”

 蒼天を自由に飛び回るフェリクスの艦は、猛スピードでエクサヴェルの雷光号に向かっていく。

その姿は、さながら隼のよう。

ちょうどストレスが溜まってたんだ。遠慮無くやらせてもらうぜ。

”口だけは達者なようだな!?けどよ、空賊ごっこは、家に帰ってやりな!”

 フェリクスの艦から放たれた一条の輝光が、またしても雷光号を貫く。

”また、俺様の雷光号に当てやがった!?”

こちらとら傭兵上がりでね。あんたたち空賊よりも、戦いに勝つための手管には長けてんだ。

俺の16粍高射砲が狙いを付けたぜ。次は、あんたがいる艦橋を撃ち抜いてみせる。

”傭兵あがりの空賊か……。厄介な野郎が介入してきたもんだぜ”

 その時、東の空に多数の艦影がみえた。

太陽を反射し、星のような輝きを放ちつつ接近してくる艦。その数は、1個艦隊に匹敵する。

”ようやく、お仲間の登場だ。悪いな傭兵の兄ちゃん。空賊にだって勝利を招き寄せる手練手管ってものはあるんだぜ?”

なるほどなあ。それが、空賊のやり方ってわけか……。おもしれえ!


数だけは多いようですね。だが、所詮は烏合の衆。私たちの敵ではありません。

 専門的な戦闘技術を身につけたローヴィにとって、空賊の艦隊などいい砲撃の練習相手に過ぎない。

副砲と主砲の一斉砲撃。無数の砲弾が、援軍に駆け付けてきた敵空賊艦に命中する。

次弾装填急げ。敵の反撃が来るぞ。焦ることはない!面舵30!落ち着いて対処するんだ!

向こうも撃ってきたにゃ!

 飛び交う砲弾と硝煙の匂い。視界は黒煙に覆われ、その隙間から覗くのは宙に浮かぶ敵戦艦。

空戦らしくなってきたね、と君はウィズを励ました。

キミも、ずいぶん戦場に慣れてきたようにゃ。逞しくなったにゃ。

 ローヴィの艦隊操縦は巧みだった。敵の砲撃を受けても被害を最小限に抑えながら反撃している。

敵の数は多い。だが、怯むことはない。機動力と火力は、こちらが上だ。精確に狙いをつけろ!

 砲撃を受けながらも、動揺は見せず、兵を鼓舞し、指揮を続けるローヴィはさすがはドルキマス軍人だけはある。

ディートリヒの副官だった頃の彼女しか知らない君には、指揮官席から命令を飛ばす彼女の姿は、とても新鮮に映った。


まるで戦争みたいだね。お前たち。今のうちにそろ~りとご退場させてもらうよっ!

メーヴェ号、反転!

wあいよ!お頭のご命令どおりに。

 しかし、四方八方、エクサヴェルの仲間の艦に取り囲まれている。逃げ道など、どこにもなかった。

や……やっぱり、空賊たる者、この戦いに参加しなきゃ、一生の恥だね!

お爺ちゃん譲りの空戦技術、披露しちゃうよ!

 逃げようとしていた艦を再度反転させて、無謀にも敵艦隊の中に突っ込んでいく。

”自殺行為にゃ!?”

どんな時でも、空賊らしくあれ。それがあたしの生き方だもん。さっき逃げようとしてたの、あれは……気の迷いって奴。

”命がなくなったら、元も子もないにゃ”

空賊は命なんかより、お宝と意地が大事なのよ。

 砲門が開く。恐怖を蹴散らしながら、砲火が間断なく連なる。

近くにいた敵艦が、火を噴きながら落下していく。ロレッティは、さらに次艦へと狙いを定めた。

”普通に強いにゃ。心配することなかったかにゃ?”

あれ、直撃だ。甲板に穴、空いちゃった。

”だから、そんな他人事みたいに……”

 ロレッティのメーヴエ号は、装甲の一部を砲弾によって破壊された。

もうもうと黒煙を吐き出し、高度を落としていく。このままでは、蒼い海に艦を墜落させてしまう。

その時、君の視界に影が過ぎる。その速さは、空を舞う黒鳥さながら。

な、なんにゃ……いまのは?


 君には見えた。鳥ではない。あれは、魔道艇。しかも、黒い魔道艇だ。

あれを乗りこなしている人物を君は知っている。

w”……エクサヴェル。お前の頭に伝えろ。”

”その声は、てめえジーク・クレーエか!?”

”え?ジーク!?ハト・クレーエのジークが来てくれたの!?”


俺の持つ聖なる石の〈原石〉は、ここにある。欲しければ、直接奪いにこいとな……。

”魔力が宿る石――聖なる石の〈原石〉は空賊であれば、誰もが欲しがるー級品のお宝。

ハリールースに報告するまでもねえ。俺様がいまこの場で、てめえから奪ってやるぜ!”

……雑魚に用はない。下がっていろ。

”ひっ!?”

 黒い魔道挺は、それそのものが砲弾の如く疾駆し、エクサヴェルの雷光号に襲い掛かる。

猛スピードで、ナハト・クレーエ号が通りすぎたように見えた直後、雷光号は炎上し、沈みはじめた。

キミ、いまの無線通信、聴いていたにゃ?

 ルヴァルから依頼を受けた聖なる石の〈原石〉。まさか、ジークが持っていたとは……。

渡して欲しいといっても、素直に渡してくれるとは思えないにゃ。

 簡単に終わらせられる仕事じゃなさそうだね。と君は重いため息と共に答えた。




>く、空賊艦が撃ってきたにゃ!




くっ……これがナハト・クレーエ号の速さか。俺さまの雷光号じゃ、太刀打ちできそうにねえ。ここは、退かせてもらうぜ。

 大破した艦は、それ以上の戦闘は不可能に見えた。

逃げ時を見失うことなく、空賊艦は赤い炎を纏いながら後退していく。

エクサヴェルが敗れたと知り、仲間の空賊艦も、次々に退散していった。

……このまま、大人しく帰すと思うか?

 艦首を上げて、黒い魔道艇は追撃の準備を取る。その様は、さながら嘴を持ち上げた黒鴉。

だが、ジークの視界に飛び込んできたのは、被弾していまにも落下しそうになっているロレッティのメーヴエ号だった。

やばいよ……。やばい……。このままじゃ、墜落しちゃう。

ねえ、ジーク。あたしの艦を地下ドックまで曳航していってよ。いいでしょ?

”ロレッティ……。なぜ、ここにいる?”

えヘヘっ。久しぶりだね、ジーク。



 ロレッティを助けた君たちは、髑髏諸島の島のひとつに着陸した。

島には酒場があり、昼だというのに空賊らしき格好をした者たちで賑わっていた。

まだ年端もいかない娘さんのようだけど、君も空賊なのかにゃ?

もちろん! こう見えても、―家を率いる空賊なんだ。

調子に乗るな。お前がー家を率いるのは、早すぎる。

wそんなことないですよ。ロレッティお頭がいてくれるから、俺たちはひとつにまとまっていられるんです。

どうかしてるぞ。こんな小娘を持ち上げるとは……。赤髭バロームが遺したー家の名を汚すだけだ。

 ここに来るまでに赤髭バロームの名前は、ちらほら耳にした。

昔、存在した「大空賊と呼ばれる凄い空賊だということしか、君は知らない。

そしてジークは、その赤髭バロームの最後の子分だと言われている。


そんな冷たいこと言わないでよ。本当はあたしと会えて、嬉しいんでしょ?ね?

……殺される覚悟は出来ているようだな?

 双眸から放たれる暗い眼光が、ロレッティを射貫く。

元親分の孫娘に向かって、その殺意丸出しの視線、ありえなくない?大人げないよー。

とっとと帰れ。帰って、バロームの墓でも守っていろ。

そんなこと言っていいの?せっかくジークを子分にしてあげようと思ったのに……。

誰がなるか。

あ、そう。そういう態度とっちゃうんだ?あとで吠え面かいても知らないよ?

 ロレッティは、散々悪態をついてからジークの前から去って行った。

彼女のあとを、手下たちが追っていく。どうやら、彼らがロレッティの子分らしい。

ジークは、酒瓶を手に取る。グラスに注いで、一気に煽った。ふと、君たちと目が合う。

魔法使い、黒猫。こちらに来い。一杯おごってやる。

 お酒は飲めないから、水かミルクを貰うと君は言った。

一方ウィズは、君の背中に回り込み、ジークを警戒していた。

以前会った時、散々弄ばれたにゃ。私は、そう簡単に身体を差し出す女じゃないにゃ。

……嫌われているのか俺は。

 心底落胆したように肩を落とした。

君は、聖なる石の〈原石〉のことを聞き出すタイミングを見計らっていた。

魔法使い、なぜ髑髏諸島にいる? ディートリヒと行動を共にしていたお前が、この空賊の巣になんの用だ。

 とつぜん、周囲の客の雰囲気が一変する。

ディートリヒ……。いや、ドルキマス軍人の名前は、彼ら空賊を殺気立たせるのに十分な理由(・・)があるらしい。

もし、お前がドルキマス軍から、なんらかの命令を受けて動いているなら、やめておけ。

この髑髏諸島は、誰でも出入り出来る。だが、軍人の息のかかったものは、五体満足で出られる保障はない。

 それはまるで、脅しに近い警告だった。


……魔法使い殿。ここにいたのですね?おや?

 まずいタイミングでローヴィがやってきた。彼女も、周囲の空気に気づいた。

wその肩に掛けてる上着は、上等な軍服に見えるが、当然、持ち主を殺して奪ったんだよな?

……お前には関係ないことだ。

wなんだと!

 激怒して立ち上がった酔っ払いは、しかし、次の瞬間、意識を失って倒れ込んだ。

おいおい、大丈夫かよ?飲み過ぎじゃねえのか?

(いま、殴ったにゃ。目にも止まらぬ速さで……)

 意識を失わせた空賊を他人に託すと、何事もなかったかのようにローヴィの隣にやってきた。

お嬢ちゃん、空賊としてやっていくつもりなら、もっと笑顔の練習をした方がいいな。

私は、笑顔を作るよりも引き金を引く方が早い。そういう女だと覚えておいてください。

おっかねえな。そういうところ、直した方がいいぜ?

 フェリクスの言葉など意に介さず、ローヴィは黙って、グラスに注がれた果汁水を飲んでいた。

魔法使い、久しぶりだな元気してたか?

空賊になったなんて知らなかったにゃ。

まあ、いろいろあってな……。なんせ、国っていうとてつもなくデカいものを養っていかなきゃいけねえからな。

そっちはそっちでいろいろ大変なんだにゃ。

おっとそっちにいるのは、空賊のジークじゃねえか。前の戦いでは世話になったな。

……お互いにな。

 ジークは黙って瓶を差し出す。フェリクスが掲げたグラスに琥珀色の液体が注ぎ込まれていく。

お互い乾杯のつもりでグラスを合わせる。だが、再会の気分をかき消すように、慌ただしく駆け込んで来るものがいた。

K大変だ、相棒! やられたぜ!

 息を切らせて駆け付けてきたのは、ジークの子分だった。

K油断している間に盗られちまった! 俺たちのお宝を!

なにを盗られたんだにゃ?落ち着いて話すにゃ。

K盗られたのは、石だ……。ナハト・クレーエ号にあったあの〈原石〉が奪われたんだ!

 その〈原石〉こそ、君たちが探し求めていたものだ。

あれは、運び出すだけでもー苦労なはず。お前たちは、居眠りでもしていたのか?

Kそれが不思議なんだ。目の前から忽然と消えたっつーか……。

そんなこと、あるわけないにゃ。

K甲板で他のお宝とー緒に日干ししてたら、とつぜん、消えたんだ。盗まれたとしか思えねえだろ?

 お宝を日干し……。そんな人目に付くことしてたから、狙われたんだと君は言う。

魔法か……その類いの力が働いたとしか思えないな。

 ジークは、なにも言わずにグラスを傾けた。

やがて、なにかに気づいたのか、うっすらと微笑を浮かべた。

もしかして、古代遺物を持つものが、この諸島にいるのか……?ふっ、面白い。





 君たちが、降り立った島は、髑髏諸島の中でも最大規模のドックがある島だった。

沢山の空賊艦が停泊してるにゃ。

 実際、島に降りてみると、空から眺めていた時とは、まったく違う印象を抱く。

艦を収容するドックは、あちこちの島にあり、その間を移動するのは、地底に広がっている地下道網だった。

この閥僣廬島に空賊が出没するのは当然。なぜなら、間難諸島全体が、空賊たちが共有する巨大アジトになっているのだ。

右眼に光紋がある若い男……。この沢山の空賊から探し出すのは、難しそうですね。

 あっちを見ても、こっちを見ても空賊ばかり。それゆえ、少しでも空賊らしからぬ素振りを見せると、たちまち疑いの眼を向けられてしまう。

これだけ空賊艦があったら、盗み出した〈原石〉が積まれている艦があってもおかしくないにゃ。

 目的のものを探してあちこち見回っていると、一際大きな空賊艦から、大勢の人が降りてきた。


大空賊と呼ばれた赤髭バロームは、もうこの世にいねえ。睨みを利かせる奴がいないから、雑魚どもがやりたい放題だ。

ああ、まったくだ……。

 エクサヴェルの姿を君は確認する。

この世界では、イグノビリウムに精神を乗っ取られてないってことにゃ?

 でも、空賊になって人に迷惑をかけてるんじゃ、元も子もないけどね、と君は厳しい。

それで、エクサヴェル。頼んだ仕事はどうした?お宝を奪ったんなら、拝ませて欲しいんだがよお?

実は、それなんだが……。

なに?お前の仕事を邪魔した奴がいるって?人の仕事の邪魔は掟破りだってのを知らないゴロツキがいるようだな?

やれやれ……大空賊バロームがいなくなってからどいつもこいつも、空賊の掟をないがしろにしやがるぜ。

どこのどいつだ!?俺が依頼した仕事を、邪魔した野郎は?

 割れるような怒声が、地下アジト中に響き渡る。

それまで我が物顔でのし歩いていた空賊ですら、その声を聞くと、肩をすくめて存在感を消しはじめた。

かなりの影響力を持つ、空賊のようだが……。


ハリールース、相変わらず元気ね?でも赤髭バロームは、空賊仲間にそんな乱暴な口は利かなかったらしいよ。

誰かと思えば、ロレッティのお嬢ちゃんじゃねえか。空賊どもの巣窟になにしに来た?

刺客を差し向けたのは、そっちじゃない?あたしに会いたいみたいだから、わざわざこうして会いにきてあげたのに。

ああ、会いたかったぜ。バロームが遺したお宝を持ってきてくれたんだろ?

ダメだよ。こいつは、お爺ちゃんの形見だもん。あげられないよ。

形見……。へっ、そうかい……。

 ハリールースは、ロレッティに迫った。距離を詰められる。背後は壁。逃げ場がない。

渡す気がないなら、お嬢ちゃんの手から、無理やり奪い取っても良いんだぜ?

……あんたにとっても上手い話、持ってきたのにな。そんな態度に出られたんじゃ、取り引きはご破算だね。

生憎、取り引きって言葉は好きじゃねえんだ。強奪って言葉は好きだがな。

 どうやら、ロレッティの持っている遠眼鏡をハリールースは狙っているらしい。

何の変哲もないただの遠眼鏡に見えるが、狙うだけの価値があるお宝なのだろうか。

w……子どもを脅すなど、空賊のやることとは、思えませんね。

 なにもない水面にさざ波を起こすほどの静かな声。


大空賊を目指すならば、立ち振る舞いにも、それなりの品が求められますよ?

空賊ブルンヒルト……。てめえが、この髑髏諸島に来るなんて珍しいな?

戦争が終わり、ようやく取り戻した空の静寂を打ち破るものがいると聞きました。

私は、その不届き者を討伐しにきたのです。ハリールース。不届き者とは、貴方のことですか?

さあ、どうだかね。案外、賑やかなのも嫌いじゃないんでね。

我が家族の眠る空を騒がすつもりならば、私のケーニギン号が相手になります。覚悟なさってください。

 ブルンヒルトは、礼儀正しくお辞儀すると、配下のものを連れて立ち去った。

あ、ブルンヒルトさん。待って。あたしと、取り引きしません?ねーねー?

とても雰囲気のある女性だったにゃ。

名前は、聞いたことがあります。空の女王ブルンヒルト……。

にゃ!?ローヴィ、知ってるにゃ?

空では無敗。最強の称号を持つ女空賊だとか。あそこにいるハリールースと、勢力を二分する空賊だそうです。

 ハリールースとブルンヒルトというふたりの空賊。

赤髭バローム亡きあと、大空賊の称号を巡って、このふたりが激しく争っていた。

ちなみに大空賊には、全ての空賊を従える権利が与えられる。

称号を得るには、勢力、人望、度胸……。すべてにおいて、どの空賊よりも勝っていることを証明しなければいけない。

ちなみにジークの評判はどうなんだにゃ? さすがにまだ、噂になるほどの空賊ではないのかにゃ?

wナハト・クレーエはその名のとおり、闇に紛れて行動する……。人の口に上る必要などない。

キミ、なかなか、ジークのものまねが上手いにゃ?

 ものまねなんかしてないと君は言った。

ということは……?

 物陰から黒い衣装の男が現われた。噂をすれば、というやつだ。

女……。お前が持っているその軍服に見覚えがある。

 殺気のこもった声。まさか、ローヴィの正体に気づかれたのかと、君は身構える。

お気づきでしたら、隠すつもりはありません。これは確かに、ドルキマス空軍元帥の制服です。

奴の命令を受けて、この髑髏諸島に来たのか?……答えろ。

違います。この軍服を着ていた男は、私の父を殺した男……。

父の仇として、ずっと追っています。この軍服は、その手がかり……。

 嘘ではない。しかし、すべてを話しているわけでもない。

そんな戯言、信じると思うか?

 ナイフを抜く。ローヴィも、銃を構えて応戦しようとしたが、ジークの方が早かった。

この髑髏諸島に軍人を呼び込み、空賊たちをー網打尽にしようと画策している悪党がいるらしい……。

先ほども、空賊を装う軍人を捕らえた。

……ご立派です。

 銀に輝く刃にローヴィの白い首筋が映る。

空賊を装って、俺たちを陥れようとする犬(・)は許せん。

もし、軍人たちと繋がっている証拠をつかんだら、躊躇わずにお前を殺す。覚えておけ……。

 焼け付くほどの殺意が、ジークの双眸から放たれた。

ん?その右眼……もう少し、見せてください。

なんだ?女、あまり近づくな……。じゃれつかれるのは、猫だけでいい。

お願いします。もう一度、右眼を拝見させてください。危害は加えませんので……。

 ローヴィは、ドルキマス王族の証を持つ男を探している。右眼を覗き込むのは、そのためだ。

……断る。なぜ、お前に眼を見せなければいけない?おい、近づくな。

 しばらく、ふたりの押し問答が続いた。

”やっほー。ジーク、聞いてる?”

 アジト内に少女の声が響き渡った。これは、ロレッティの声だと君はすぐに気づく。

”あたしをないがしろにしたお礼(・・)に、あんたの艦にあった綺麗な岩を盗んであげたよ。”

にゃにゃっ!?

”これって、聖なる石の〈原石〉っていう一級品のお宝だよね? 返して欲しかったら、あたしの子分になるの。いいね?”

呆れた娘だ……。

 君とウィズは、視線を交わしてから、ロレッティの艦を探した。

ちょうどいま、出航しようとしている戦艦がある。きっとあれが、ロレッティの艦だ。

君たちは、慌ててその艦に飛び乗った。


おい、聞いたかお前ら?聖なる石の〈原石〉だとよ。

一欠片、金貨10枚で取り引きされている聖なる石の、でっけえ〈原石〉ともなれば、とんでもないお宝だぜ。

奪わない手はねえ!お前ら、出航の用意だ!

おうよ!

 子分たちは、息急き切って親分の願いを叶えるための行動に出る。

子分たちがみんないなくなると、ハリールースは、陰謀屋としての一面を覗かせる。それは彼のもうひとつの顔だった。

本国に連絡しろ。探してるお宝は、髑髏諸島にあるとな。

zわかった。




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