【黒ウィズ】空戦のシュヴァルツ Story5
空戦のシュヴァルツ Story5
空の支配者ランダバル(絶級)
空賊たちのケジメ
story
ハリールースの艦隊は、ブルンヒルトのケーニギン号を完全に包囲していた。
四方から砲撃をまともに受けて、さすがのケーニギン号も艦の姿勢を正常に保てなり状況に陥った。
主砲による砲撃。小型の空賊艦などが、ハリールース旗艦の身代わりになって沈んでいく。
読みどおり、ハリールースは、ケーニギン号の主砲の威力を恐れて旗艦を後退させた。
推進機関を噴かし、艦を進めるケーニギン号。だが、遮るものがないはずの中空に、突如としてる。
つまり、これはただの幻。路上の陽炎に惑う必要はありません。前進するのです。
だが、慌てる必要はねえ。俺には、もうひとつ切り札があるんだわ。
長い飛行機雲を引き摺りながら、高速で移動する艦があった。
その艦影……またしてもランダバルの介入だった。
ランダバルのラザンツ号は、音もなく接近し、ハリールースとケーニギン号の間に制止する。
ケーニギン号に艦載されていた小型艇が出撃して行く。
女王が放った弾丸となりて、ミラディアたち親衛隊は、敵を射ち倒すべく迫る。
空へと飛んだミラディアたちは、ランダバルの艦をハリールースの旗艦から引き離そうと奮戦する。
速さこそ強さであることを知らないようだ。愚かな。私が、いまから証明してやろう。
その宣言に偽りはなかった。
ラザンツ号は、稲光のように空を飛ぶ。
ケーニギン号から発進した小型艇4隻は、瞬く間に撃墜させられたが、時間を稼ぐことには成功した。
その間にも、ケーニギン号が、ヴァルネン号に肉薄していた。主砲の砲撃によってー撃で葬れる距離だ。
主砲から砲火が飛び散る――寸前、ケーニギン号は、強烈な衝撃と圧力を受けて姿勢を失った。
ラザンツ号からの砲撃が、ケーニギン号に命中した。
鋼鉄の装甲に砲弾による穴が開き、黒煙が辺りに充満しはじめる。
ケーニギン号の速度が落ちた。艦内の至るところで、火が燃え盛っている。
故に人は私を女王と呼ぶ。
(古代遺物〈混迷の羅針盤〉……。あれさえあれば、この危機など、危機ではないのに……)
その羅針盤は、ロレッティに奪われた。
魔法使いたちに、あとを追わせたものの。その後なんの連絡もない。
無線に混じる声。それは、救いのお告げに等しい。
いま、ジークのナハト・クレーエ号でそっちに向かう。あたしの手下と艦を返してもらうからね?
だから、それまで勝手に沈まれちや困るから、いいね!?
子分たちを助けるため――ハリールースの艦隊に囲まれたこの戦域に首を突っ込むと言うのか。
なんと言う命知らずな。
だが、その心意気こそが空賊だった。大空賊の血こそ受け継いでいないが、空賊の意志は、間違いなく受け継いでいる。
ロレッティの抱いた空賊としての誇りと志に――ブルンヒルトは、初めて敬意を抱いた。
***
フェリクスの空賊艦ゲヴィッター号は、情けなくも、ハリールースの艦隊に曳航されたまま、打つ手を失っていた。
しかし、ブルンヒルトとの戦が始まり、転機が訪れる。
ハリールースの手下たちは、ほとんど戦闘に狩り出され、見張りは、誰もいなくなった。
鉄製のワイヤーを全て切り取り、ゲヴィッター号は、再び自由を取り戻す。
リクシスの後ろで、キャナルが不安げにしていた。
せっかく、巡り会えたはずのドラコは、再びどこかに飛んでいった。
行き先は見当がついている。ハリールースに奪われた〈原石〉のところに向かったのだ。
流れ弾に当たったりしてなければいいのだが。
グウィスと長く付き合っているのに、リクシス王子は、そんなこともわかってなかったの?
まったく、キャナルは、竜のことになると、人が変わったように真剣になるもんな……。
フェリクスの号令が下る。ゲヴィッター号の推進機関が点火され、艦はようやく眠りから目覚めた。
でも、ー度依頼を受けたら、達成するまで粘り続けるのも傭兵だ。
愛用の16粍高射砲から砲架を外した特殊砲を担ぎあげる。
前方から飛んでくるのは、1羽のカラスだ。それは、ジークからの使いだった。
赤い太陽が、水平線より向こうへ沈んでいく。
眼下の雲は、陽を浴びて紅く色づきはじめ、空の青さに薄い闇のベールが、覆い被さろうとしている。
ローヴィの態度や口調は、ドルキマスの王族に接する、よそ行きのものに変化していた。
ローヴィは脆き、改めて臣下の礼を取る。
空賊と偽り、ジークユーベル様を喘した罪滅ぼしとして、お母上様との再会の仲立ちをさせてください。
ジークは、子分たちを眺め。そして、君とウィズと目を合せた。
ハリールースを倒し、俺を陥れた落とし前をつける。それしか、考えていない。
脆くローヴィをー瞥すらせず、ジークは無線機を手に取った。
お前の持っている〈原石〉は、俺のものだ。いまから、奪いに行く。
王子様が遊ぶには、ここは少々物騒だ。怪我しないうちにお帰りになってはいかがですか?”
ハリールースの手下たちがー緒になってはやし立てる。
自由の民である空賊たちにとって王族や軍人らには、日頃から反発心を抱いている。
この空域でジークの味方をするものは、誰もいないかに思えた。
なんなら、自慢の用心棒を切り刻んでやろうか?
言葉の端々、そして全身から殺気が滲み出ていた。
口調は冷静だが、腹に据えかねた怒りを抱えているのが君にもわかった。
ランダバルのラザンツ号。その艦速には、目を見張るものがある。
ナハト・クレーエ号といえど、太刀打ちできないかに思われた。
空に散ったところで、哀しむものなどいない。
ジークは、魔法陣から下りた。
どうやら、クレーエ族の魔力を使わずに、純粋な操艦技術だけで勝負するつもりのようだ。
ジークの言葉に気迫が宿っていた。
空で生きると決めたジークの覚悟と生き様をこのー戦で、他の空賊たちに示すつもりなのだと君は感じた。
やがてランダバルのラザンツ号が、白い気流を吐き出して、暮れなずむ空に舞い上がる。
ナハト・クレーエ号も、それに続いて飛翔する――
***
大気を切断し、雲を穿つように2隻の空賊艦は、互いの速度を競わせた。
半先を行くのは、ランダパルの高速艦ラザンツ号。
流星のように航行しつつも、ロールとピッチを調整しながら、細かく気流をつかんでいた。
その有様は、空を翔る隼のごとく。空では、翼で風をつかんだものが、速さを手に入れることができる。
ラザンツ号の背後から、ナハト・クレーエ号が追い迫る。
操縦技量は、ランダパルとほぼ同じだった。ランダパルがバンクすれば、同じようにバンクし、ロールすれば、同じだけロールする。
両艦の操縦者の腕は大差がない。あとはどれだけ、風と運を味方につけるかだ。
ジークは舵を握りながら、輝きを失いつつある夕日に映る、小さなラザンツ号の影戻り:を見つめている。
そして、ラザンツ号は、厚い雲の中に突入した。
蒸気の分厚い壁は、ランダバルの艦影を完璧に覆い隠す。
空で敵影を見失う……その危険は、空で生きるものならば、誰もが知るところ。
背後から迫る危機を感じて、ジークはとっさに舵を切る。
直後、ラザンツ号が、砲弾を超える速さで、ナハトクレーエ号を背像なら急襲する。
稲妻の直撃を受けたような、強烈なー撃。艦は傾き、乗員は艦内を右へ左へぐ流される。
揺れる視界。水平姿勢も取り戻せない状況ながら、ジークは舵を切って艦の姿勢を建て直した。
その目は、ただひたすらランダパルの艦影だけを追っていた。
訓練を積んだ軍人が操縦する艦には到底及ばんと……。
ランダバルは周囲を確認した。
雲を突き抜けた冷たい大気の中、ラザンツ号だけが浮かんでいる。
他のどの艦も……ナハト・クレーエ号ですら振り切り、空の頂きを制覇しているのはラザンツ号のみ。
ランダバルは気づいていなかった。すぐ真下にある雲の中に、小さな艦影が映し出されていることに。
艦首を真上に向けながら、沖天の勢いで雲を貫くのは、1羽の夜鴉。
俺たちがなぜ、ナハト・クレーエと呼ばれているか、身をもって思い知れ。
ラザンツ号は姿勢を整えた。ダメージは負っているが、構わず推進機関をー杯まで噴かす。
両者の艦が、舷側をこすりつけながら、雲の波間を突き進んでいく。
ナハト・クレーエ号は、ダメージを負うことも躊躇わず、ラザンツ号に艦をぶつけている。
ランダバルは、突然無言になった。ラザンツ号は、舵を切り接舷しそうな距離にまで接近する。
音速に近い速度で飛行する2隻の艦は、互いに舷側を衝突させる。
両艦を遮るのは、大気の壁のみ。どちらの艦が、先に装甲を失い、空中分解するかの勝負だった。
けたたましい金属音が鳴り響いた。横殴りの衝突を何度も受けて、ナハト・クレーエ号の装甲が破壊される。
ランダパルはスタビライザーを解放し、ロール角を傾けて、ナハト・クレーエ号を側面から圧迫しにかかる。
横殴りの突進。装甲にダメージを負っているナハト・クレーエ号への、とどめのー撃。
ジークは、ランダバルが仕掛けてくるタイミングを読んでいた。
速度を落として体当たりを躱すと、逆に背後から、ラザンツ号を追い立てる形になる。
こうなれば、背後に張り付いたジークのペースだった。
狩猟犬のように砲撃による咆吼で脅しつつ、ラザンツ号を予定のポイントに追い立てて行く。
その時、ラザンツ号は、雲の切れ間に差し掛かった。
無防備な艦底を海側に晒している。
―発の砲弾が、ラザンツ号の艦底を貫いた。
たったー発の砲撃といえど、高速で移動する戦艦が受ける衝撃は計り知れない。
ジークの元に、フェリクスに伝言を伝え終えたガラスが戻ってきた。
ラザンツ号は、崩した姿勢を建て直そうとしている。まだ飛ぶつもりのようだ。
ラザンツ号の後部にある推進機関に、ナハト・クレーエ号の砲撃が命中する。
空を自在に駆け回った王者は、艦内から赤い火花を散らせて、ついにその王座から引き摺り落とされようとしている。
任務を果たせぬまま、祖国の土は踏めん。ならば、ここで死んだ方がマシだ……。
ランダバルは、火を噴きながら艦ごと落下していく。
黒い煙の尾を引きながら、機体は大気の壁に衝突し、ことごとくバラバラになっていった。
やがて、海上に落ちるころには、ラザンツ号は、艦の形を留めていなかった。
(ランダバルは答えなかったが、おおよそ見当がつく。ドルキマス空軍内の共和派の連中でしょう。
奴らにとって王族は打倒すべき対象。だが、奴らがこんなに速く、勢力を広げるとは……)
ディートリヒ・ベルクというたったー人の支柱を失っただけで――
精強と団結を誇っていたドルキマス空軍は、分裂の予兆を見せはじめていた。
この大陸に置いて比肩する対象のないドルキマス空軍の分裂は、新たなる戦乱の萌芽となるだろう。
だが、ローヴィには、これすらもディートリヒ。いや、テオドリクの予想の範躊であるような気がした。
彼は、どこかで分裂しようとしているドルキマスを眺めているのだろうか?
そうであって欲しいとローヴィは願った。
story
無敵だった用心棒を失って、ハリールースも観念するんじゃない?そうだ。早く、メーヴエ号に戻らないと……。
ロレッティの艦とその手下たちは、ケーニギン号に収容されたまま、お頭が戻ってくるのを待っていることだろう。
でも、あたしは子分たちを守るよ。それは、あいつらとの約束だから……。
君は、ブルンヒルトの羅針盤を取り戻せればそれでいい。ー緒にケーニギン号へ曝勇ことにした。
ハリールースが、この髑髏諸島を支配するためにどこかの国の空軍と連絡を取り合っていた。
その国とは、すなわち――
陽が落ちた空に、無数の艦が整然と並んでいる。
照明弾の光に照らされた空軍艦。それらは、すべてドルキマス空軍第4艦隊の旗を掲げていた。
ハリールースの艦隊と戦いを続けてきたブルンヒルトの艦は、至るところから黒煙を上げて満身創痍。
墜落しないのが、不思議なくらいだ。それに艦載されているメーヴエ号も、無事ではいられないはず。
夜だから、あたしが持ってる〈蒐集の遠眼鏡〉も使えない……。どうしよう?
ハリールースの艦隊に包囲されているケーニギン号。そのさらに遠方から、ドルキマス空軍艦隊が迫っている。
君たちが乗っているナハト・クレーエ号は、先はどの戦いでボロボロだった。
救助が必要なのは、むしろこちらの方だ。
ハリールースの艦隊による包囲。もたもたしていると、向こうから来るドルキマス空軍にも囲まれてしまうだろう。
時間を稼いでるあいだ、お頭は、ー歩でも遠くに逃げてくれ”
お頭みたいな小さい子を騙して、空賊に仕立て上げた……その罪滅ぼしだ。
最期の最期だけど、ここで俺たちに格好つけさせてくれよ”
ロレッティの訴えも虚しく、無線はー方的に切られた。
ブルンヒルトの艦から離れたメーヴエ号は、ハリールースのヴァルネン号目がけて突進していく。
当然、旗艦を守ろうとする他の艦は、―斉にメーヴエ号へ砲火を集中させた。
メーヴエ号に突き刺さる無数の砲弾。あっと言う間に、装甲が剥がれ落ち、黒煙が立ち昇った。
それでも、メーヴェ号は、まだハリールースの艦に食らいついている。
艦の半分は、炎に包まれ、推進機関も壊れ、操舵装置の機能も失ったはずなのに――
中にいるロレッティの子分たちの努力によって、艦はまだかろうじて生きていた。
直後、メーヴエ号は凄まじい輝きを放つ。
その輝きは膨大な熱量を内包し、周辺のハリールースの艦隊を巻き込んだ。
みずから、推進機関を爆破させたのだろう。光の収束と共に辺りには鉄くずが舞い飛んでいた。
ロレッティは夜空を見上げながら、力なくへたり込む。
メーヴエ号爆発の輝きに巻き込まれたハリールースの艦隊は、混乱をきたしている。
あんたたちがいてくれたから、あたしはお頭でいられたのに……。
なんの取り柄もない、小娘ひとり生き残ったって……どうしようもないのに……。
ロレッティはなにも言わなかった。顔を伏せて、必死に泣くまいと我慢している。
泣きじゃくっては、空賊のお頭として格好がつかない。
だから、ロレッティはひたすらに涙を堪えた。
そうすることで、せめてお頭らしくあろうとしたのだが……。
もはや虚勢を張って、自分を大きく見せる相手はいない。彼らは、空に散ったのだ。
言いようのない空虚感が、ロレッティに襲いかかった。
その苦しみに耐えるには、ロレッティの身体は、あまりにも小さ過ぎた。
story 闇夜の果てに(覇級)
島の入江に、空賊たちだけがわかる目印がある。そこは、髑髏諸島の地下アジトヘの入り口だった。
年中冷えた気流が流れこむ地下アジト内にはハリールースー家に属さない空賊たちが逃げ込んでいた。
外には、ハリールースの艦隊。そして、空賊討伐に赴いたドルキマスの艦隊がいる。
逃げ道を失った空賊たちの安全地帯は、この地下アジトしかなかった。
ドックに停泊したナハト・クレーエ号は、子分たちが総出で、受けたダメージの修復を行なっていた。
別のドックには、ブルンヒルトのケーニギン号も停泊し、修理を受けている。
ドックの縁に座り込んでいる小さな影に視線を送る。
あの子になんて言葉をかけたらいいのか……。
……。
君は、背中を向けて座るロレッティの隣に立った。
手下たちが犠牲になるのをロレッティは止められなかった。――見ていることしか刄責なかった。
彼らにとっては、嘘をつき続けてきたロレッティヘの罪滅ぼしのつもりだっななもしれない。
でも、その精算の仕方は間違っていると君は思う。こんな別れ方など、きっとロレッティは望んでない。
だから、ロレッティは悲しんでいる。
身体を震わせて、二度と手に入れられないものを失った悲しみに打ちひしがれている。
君は、ロレッティの悲しみを癒やす言葉が思い浮かばなかった。だから、無言で肩に手を置いた。
ブルンヒルトがやってきた。ロレッティを挟んで、君と反対側に座った。
勇敢な空賊たちに、哀悼の誠を捧げます。
ロレッティは、俯いたまま答えない。黙ったまま、小さな右手を差し出した。
その手に乗っているのは、ブルンヒルトから盗んだ羅針盤の古代遺物だった。
家族の死は、この〈混迷の羅針盤〉を持っていても避けられませんでした。
好きなだけ泣いてください。小娘だったあの頃の私も……涙が涸れるまで、泣くことしか出来ませんでした。
その言葉が引き金になった。溜まった感情が、ー気に溢れ出す。
ブルンヒルトの胸に顔を埋め、ロレッティは泣いた。
涙が涸れても悲しみが去るわけではない。だけど、気持ちは少し楽になる。
ブルンヒルトはロレッティの頭を撫でた。昔の自分と重ね合わせているのだろう。その瞳は慈愛に満ちていた。
ドルキマス空軍第4艦隊は、髑髏諸島上空に到着する。
各地を騒がせる空賊の根城と噂されながら、これまでは、その所在は謎とされていた。
大人しく出てくれば、正当な裁判を受けさせてやる。罪状によっては、早期釈放もありえるだろう。
もし、逆らうつもりであれば、我々は容赦しない。夜明けまで待ってやる。良く考えてから答えを出せ。
あれを爆発させて、髑髏諸島を粉々に粉砕すると脅せば、ブルって出てくるだろう。
日頃、空賊の意地だの誇りだの偉そうに口上垂れてても、本心では、誰もが命が惜しいんだ。
意地張ってる奴らの化けの皮は、この俺様が剥がしてやるぜ”
元帥捜索という特殊任務を与えられなければ、ローヴィは今頃、第4艦隊の駆逐艦艦長を務めているはずだった。
つまり、エルンストは、ローヴィが所属する艦隊の司令官である。
だが、ここに空賊として潜入していることは、知られてはならない。
ドルキマス王からの直接与えられた任務は、極秘中の極秘だからだ。
あの〈原石〉をなんとかしなきゃドラコとは、離れたままだよ。
もし、あの〈原石〉に宿るエネルギーを悪用されたら、髑髏諸島どころか、この世界は丸ごと破滅に向かうだろう。
それだけの危険性をあの〈原石〉は秘めている。
無茶なことを言うねと君は苦笑する。でも、笑って終わらせるつもりはなかった。
満面の笑みで愛用の得物を手に取った。そしてローヴィを振り返る。
ローヴィは、ジークに向き直る。改めて膝を屈した。
いつかご兄弟が、無事に再会を果たすその日を見届けるまで……。私が、あなた様をお守りいたします。
ジークの言葉に、君は思わず吹き出しそうになった。
ロレッティに近づく。優しい手つきで、彼女を立たせた。
死んだロレッティの目を覚まさせるようにジークは、頬を軽く叩いた。
子分がいるかどうかは、関係ない。
ロレッティにまだ空賊としての魂が残っているのかどうか。ジークは、それが知りたいのだ。
今更、己の生き方を曲げるつもりはありません。自分の家を守るために戦うつもりです。
他の空賊たちも戦う者と、この場から逃げる者とに別れ、それぞれの向かうべき場所に歩きはじめる。
このままだと、ジークともう会えない気がして、思わず呼び止めてしまった。だけど、次の言葉が出てこない。
ジークたちを見てたら、その言葉の意味が、ようやくわかった気がする。
あいつらも……きっと空賊だったんだ。だから、ああしたんだ……。
ロレッティは手で涙を拭った。
あたしもー緒にいく……。ー緒に戦う!
厳しい言葉だが、ジークは、ロレッティに手を差し伸べていた。その表情は、見たことがないほど穏やかだった。
ロレッティの表情が明るく花咲く。涙は消え、気持ちの針は振り切っていた。
圧倒的な戦力差。それでも、空を掴むための戦いに向かう。それが空賊だ。
彼らにとって広大な空は、神聖な場所であり、静寂に満ちた場所であり、野望を果たす舞台である。
なによりも、何人にも支配されない、自由に満ちている。
空賊は、その自由を侵すものと戦う。敵の過多や、国家の関係など問題ではなかった。