【黒ウィズ】 ウィズセレクション ミラノ編
ウィズセレ
チッタ・レ二-ノは冒険家に憧れる少女である。
だが、今日も彼女は冒険に出ることはなかった。
「ミラノ! ミーラーノ! 一緒に冒険行くって約束したでしょ!
出てきなさーい!」
邸宅のエントランスから耳慣れた声が聞こえる。
「もぉう。また来た。」
その声から逃げるように、ミラノ・サリスはぬいぐるみのパーキー・パーキーに顔を埋めた。
毎日のようにミラノを誘いに来るチッタ。毎日その誘いから逃げるミラノ。
そんな攻防がここ3ヶ月あまり続いていた。
「入るよー、ミラノ。というかもう入ったよー、ミラノ。」
しかし、3ヶ月も続いたのにも理由はある。
「ふう。そろそろ逃げるか。」
ミラノ・サリスには特別な能力があった。彼女は鏡の中に潜ることができるのだ。
それも自分の思い通りの世界を映す鏡の中に、である。
「今日はどうしようかな……? まあ、なんでもいいや。」
そして相棒兼寝床のパーキー・パーキーを抱えた彼女は鏡の中へと消えてゆく。
「しまった! 気づかれたか。」
チッタがミラノの部屋に着いた時、すでにミラノの姿はなかった。
とはいえ、チッタもこれには慣れっこである。
チッタは冒険道具がパンパンにつまった鞄を鏡の中に放り込むと、自らも中へと飛び込んだ。
story2
深い森をかき分け、チックは奥へ奥へと進んでいった。
すると奥には、パーキー・パーキーの上で微睡むミラノの姿があった。
「見つけたー!」
「あ! チッタ。」
「ミラノっ! なんで逃げたの!」
「ち、違うよ。逃げたとかじゃなくて、体調が悪かったから寝ていただけだよ。」
「ウソばっかり! じゃあどうして鏡の中に入ってるのよ!
さっさとパーキーから離れなさい!」
「い一やー! おか一さーん!」
「早くしないと日が暮れちゃうでしょ。」
駄々をこねて、パーキーにしがみついているばかりだったミラノは急に抵抗するのをやめる。
そして真剣な顔でチッタを見返した。
「な、なによ。」
「チッタ。違うよ。」
「な、何が違うのよ。」
「冒険ならすぐ側にあるよ。胸に手を当ててみて。」
「こう……?」
突然調子を変えたミラノに気圧され、チッタは言う通りにする。
「ほら……。あるでしょ、冒険が。
あなたの胸の中に。」
「……そういうのいらないから。」
「だめか……。」
「ほら、外に出るよ。」
「ま、待って……! 本当に待って。」
「何よ。」
「私がこの中ならなんでも思い通りに作れるのは知ってるでしょ?
だから、チッタのためにステキなものを作ったよ。キラキラ光ってきれいだよ。
「な、なに。もしかして魔法の石とか魔力の宿る金属とか……冒険に付き物のああいうやつ?
「ううん……。」
ミラノはやさしく包まれた両手をチックの目の前に差し出す。
そして、ゆっくりとその手を開いた。
「マジカルカナブン。」
「なめてんのかー!」
「助けてー!」
と、こんな調子でミラノの逃亡が終わる頃、たいてい外は夕暮れを迎え、冒険の行方は……。
また明日ということになっているのだ。
ただ、ふたりともまったく気づいていないが、鏡の中の不思議な世界の冒険なら――
毎日のように続けているのだということに。
- 完-