【白猫】エシリア・イン・ワンダーランド Story 後編
目次
story8 誰がクロノスをうばった?
せっせせっせ。
せっせせっせ。……いい香りだ。
シナモンティーだよ。僕のとくせい。
「あ~んちゃ~ん!」
!? ……この声は……
ほらね。待っててよかったでしょ。
あ~んちゃ~~ん!
エ、エ、エ……!
エシリ、ア……
あんちゃん、ひっさしぶり~!
…………
元気にしていたか?エシリア。
うん、ばっちし元気だったよ~!
そうか……それは良かった。いや、信じていたとも。
オズワルドさん?
……いざ会ってみると、何を話してよいやら……
念願叶っての再会ですものね。言葉も簡単には出てきませんわ。
体が固まってるよ~。お腰モミモミしようか?
あっはは~、あいかわらずだな~、あんちゃんは!
それでは、感動と喜びのお茶会の前に、クロノスを修理しちゃいましょう。
お二人とも。<時操>と<調整>のルーンをエシリア様に。
……ヌッ。あ、ああ……
これ、ど~すればいいの~?
強く握って、天にかざしてください。
と~~~うっ!
<天にかざしたエシリアの手が輝きだす。
その光はやがて一筋の美しい軌跡となって、空の向こうへと音もなく伸びた。>
お~っ! これで、クロノスなおった~?
……直りましたとも。さあ、それではお茶をどうぞ。
シナモンティーだよ。おいしいよ。
え、う、うん。せわしないわね。
あら、でもいい香り。うふふ、いただきます。
待って!
!
そのお茶、飲んじゃダメ!!
ヤマネ……?どうしたの……?
やまねがね、めずらしく怒ってるの。それは、シナモンティーじゃないんだって。
「!!!
どういうことですの?
あーもう。これだからネズミは嫌いなんだ。
大人しく飲めば大人しく死ねたのに。
シナモンティーは、死の香り。シナモンティーは、死飲もうティー。
僕のとくせいだよ。せっせせっせ。
……様子が変だ。エシリア、気をつけろ!
時が来た。時が来た。時代を告げる時が来た。
此方の時代。彼方の時代。我らが時代、クロノスの時代。
我らこそが時空の裁定者。時の番人、時の象徴。
グローバルスタンダード!!
みんな、どうしちゃったの~!?
こ、この気配は……!
<闇>……!
始まりの時。終わりの時。静かに見守る時計塔クロノス。
人と歴史は刻まれる。運命の歯車の音が聞こえる。
故に此処こそ世界の中心。象徴と繁栄の源。
――<現身のクロノス>よ。機会を与えよう。我らと共に来るか?
!
貴様とルーンの力があれば、我らは時空の標準となり、世界の標準を成す事が出来よう。
敬虔なる闇の中で、我らクロノスが人々の<時>を裁定し、粛清するのだ。
さあ。
共に。
正しき暗黒の時を刻もう。
い~~~~~~だっ!エシリアは正義の味方だもんね!
ならばその命――ソウルの結晶を摘み取るまで。
……アタシたち、まんまと<闇>に利用されてたようね!
利用されてたのは、クロノスも一緒なんじゃないかな。
エシリア?
フーちゃんやおじさんたち、とっても苦しんでる。
みんなを正気にもどしてあげなきゃ!アイリス、手伝って~!
ええ、わかったわ!
エシリアよ、小生がいる限り、お前には傷一つ負わせんからな!
お~、あたしも頑張るぞ~。
時計の針よ、グルリンパッパでナイスバディー!
バインバイーンでこらしめちゃうよ~!
粛清とおっしゃいましたわね?……私の方が、クビをハネるのは得意でしてよ?
口を慎め。
我らは正しき闇のクロノス。歪み歪んだ貴様らは――
歪み歪んで死ぬがいい。
story9 エシリアの”証現”
ヌゥン! 今だエシリア!
とりゃ~~~っ!
アイリス……!
<*×○■!&%$…………>
お、おお~っ!?
<アイリスの光が、エシリアの手に握られた三つのルーンの光と溶けあい――
クロノスの<核>を、優しく包み込んでいった……>
…………
……
<ゆるやかに流れる雲、風にふわりとそよぐ木の葉、汗水流して畑を耕す農夫……
不思議な世界は、元の姿を取り戻していた。>
本当にありがとうございます、エシリア様……
エシリアにかかればこんなもんだよ~! えっへん!
まさか、クロノスが<闇>に侵食されていたなんて……
どうして、こんなことに?
……クロノスには、ある種の<意志>のようなものが宿っております。私どものような存在が、それに当たります。
大昔の、今は失われてしまった技術がそれを可能にしました。
世界に流れる時を静かに刻む時計。時の指標と象徴。それがクロノスなのです。
うーん、むずかしい話だなあ~。
しかし、それ故に<闇>に目を付けられてしまった。私どもは、大変困りました。
ですから、自らで壊す事にしたのです。それが、二つの故障。
自分で自分を壊すとは、勇気がいっただろうな。
ですが、<闇>の浸食は止められません。……故に、もう一つ手を打ちました。力の分散です。
つまり……扉、時操、調整のルーンと、<現身のクロノス>の誕生。
……そうか。そういうことだったのか……
あんちゃん~?
……そして、<闇>に蝕まれながら、お前達は待ったわけか。
悪しき時の解放者を……
『時計塔クロノスでは、不思議な事が起こる――』
そう言われるようになったのは、その頃からです。
……エシリア。良い名前ですね、オズワルドさん。
う~ん……あんちゃん、なんの話をしてるの~?
……とても不思議な話さ。エシリア……
……ねえ、もしアタシたちが失敗していたら、今ごろどうなってたの?
クロノスの力を手に入れた<闇>が、世界中の人々の時間を歪めていたことでしょう。
ヤマネさんやモコさんとは、比較にならないぐらいの歪みです。
あ、そうだ~! ね~ね~、あたしたちの中の時間は。どうなったの~?
それも直りましたよ。
えっ、ほんとに!? じゃあモコ、ずっとバインバイーン……ってあれ、子どものままだ。
完全にとは言い切れませんがね。ですが少なくとも、5年も10年も寝てしまうような事はこの先ないはずです。
何だか、釈然としませんわねえ。どうにかなりませんこと?
今のところは、どうにも…………それに。
やったぞ~! 眠くならなくなったぞ~!
これからは、ずっとヤマネと遊べるね~!
彼女たちにも、変化していく事への<時間>が必要なはずです。
そうですね……
最終話 楽しいお茶会
まあつまるところアレよ。悪者は退治されて、クロノスも元通り。
……みんなみんなハッピーってワケよ!!
強引にまとめましたわね。
いえ~い!ハッピ~!!
お茶会やるぞ~。こんどはあたしがお茶いれるぞ~。
僕も手伝うよ~。せっせせっせ。
ね~、<調整のルーン>、もってていいの~?
もちろん。<時操>もね、オズワルドさん。あなた方なら安心ですから
……ああ。それはありがたい。
クッキーが焼けましたよ。
じゃあみんな、席に座って――
<――――>
……あ。
いまの音は?
…………
どうやら、また故障したようです。
……何ですって?
多分ですね、今まで動かなかった所が動いたせいで、また別の所がヘンになったんじゃないかと。
……えーと……?
年代モノの時計塔ですから。そりゃまあ、普通に壊れる事もありますよ。
不思議だなあ~。
じゃあ、また直さなきゃいけないの~?
え~~~……エシリア、もう飽きた~~~……
そこを何とか。
ここももうタイクツだし、逃げちゃおっかな~♪
えっ、あっ、ちょっと!女王様!<トランプの国>は――
女王さまは、ジュディでいいよ~!
お茶、飲んでかないの~?
もっと遊ぼうよ~!
またこんどね~!
エ……エシリア!
……あんちゃん。……こんどこそ、あんちゃんがエシリアを見つけ出してね~♪
約束だよ~♪
<エシリアは<扉のルーン>を使い、あっという間に扉の向こうへと消えて行った……>
……まったく……あの子らしいわねぇ……
フェネックさん、大丈夫なんですか?
え?ああ、まー大丈夫ですよ。そのうちまた戻ってくるでしょう。
時間は、たくさんありますからね~。
そうだね~!エシリアちゃんには、きっとまたどこかで会える気がする!
もっともっと、お話したいぞ~!
ええ……トランプ勝負の約束、果たしていただいてないですもの……
…………
オズワルドさんも、残念でしたね。せっかく会えたと思ったのに……
……いや、アイリーン。これでいいのだ。むしろ、こうでなくてはいかん。
永遠の美が顕現する真世界。それは自らで探し求めるもの。
小生のたゆまぬ歩みこそが、聖少女を聖少女たらしめるのだ!
あ、いつものオズワルドだわ。
小生は旅の芸術家にして、真世界の求道者。そして――
大事な妹を授けてくれた、優しき時の友である。
いずれまた会いに行くぞ、エシリア……
エピローグ
ヤマネのいれたお茶、おいしいわね~♪
そういえば、キャトラ。クロノスの故障のことだけど……
どうして、すぐに解決方法がわかったの?
……なんでだろうね。よくわからないけど、ヘンに頭がサエてたのよね。
頭をカラッポにしたあたりからかしら。
それは、あなたが<チェシャ>だからですよ。
答えになってるようで、なってないわね。
ええ。『答えなき答え猫』……それがココでのあなた。
寓意的ね。
不思議の世界ですから。
……その不思議な世界だけど、帰る時はどうすればいいの? 出口、どこにもなかったけど。
…………
とりあえず笑っときましょうか。
しょうちしたわ。
エシリア・イン・ワンダーランド -END-