【白猫】デクスター【NPC】
デクスター・ベイリアル cv.橋詰知久 |
2018/03/30
長男 | ||
デクスター | 妻、息子 | |
長女 | 夫 | |
次女 | 夫 | |
アンジェラ | 長兄に暗殺されかかる |
【蒼き炎のテンペスト・序章】
「困ったものだ。」
「どうなさったのですか? お兄様。」
「ロイド・イングラムという男の話は聞いているか?」
「いいえ。知りませんわ。」
「領内で民を煽動していた男だ。間諜の類かと思い、捕らえたはいいのだが解放しろと嘆願が多くてな。
厄介なことに臣下の者たちにも彼奴の賛同者がいる。
そこで相談がある、アン。」
「なんでしょうか?」
「ロイド・イングラムの件、貴様に任せる。
あの男が謳う四魔幻獣なる兵器……本当にあるのならば、接収せよ。」
「ですが、私にそのようなこと……」
「……お前は俺の代わりに指揮をとればよい。現に俺の戦果はお前の進言を聞いて得たものだ。」
「ですが……」
「隣のルバイヤが、どうにもキナ臭い動きをしていてな。俺はウルドを離れられん。
アンジェラ、これは命令だ。お前がウルドにとって有用か、その試金石だと思え。」
「……わかりました。命令、謹んでお受けいたします。」
「期待してるぞ、アン。唯一無二、俺の最後の家族よ。」
【蒼き炎のテンペスト 11話「別の形で……」】
「私の一日は自分の死を思うことからはじまる。
私が生まれた嵐の国は常に戦乱状態。当然、戦、戦、戦の連続だ。
戦上手だった父が死に、暗愚な長兄と聡明な次兄が家督をめぐって争った。
その際、私は長兄に暗殺されかかってな、次兄のデクスターに助けられた。
次兄は長兄に家督を譲ると言って白旗をあげた。そして相続の儀式が終わり、祝宴の場で次兄は敵をまとめて毒殺した。
自分も毒のはいった酒を飲んで、長兄を油断させてな。いや、それだけじゃない。
その祝宴の場には、私の姉二人とその夫、次兄の妻、息子もいた。皆殺しだ。
参加者で生き残ったのは毒消しを飲んだ次兄だけ。兄上自身、生死の境をさまよったがな。」
「ひどい……」
「人を欺くために家族さえ殺す。そんな兄上のもとにいれば、いつ自分が殺されるかわかったものじゃない。
だから毎朝、目覚めた瞬間、頭のなかで自分の死に様を想定する。無様な終わりは御免だ。」
「嫌なら反抗したらいいんですよ。そんなの。」
「……兄上に私心はないんだ。常に民のことを第一に考えている。非情に映るが賢君だよ。」
「お兄さんのこと、好きなんですか?」
「好きとは言い切れないな。だが、あの方の行動はともかく、ただ民の嘆きを滅らすというその信念は美しいのだ、本当に……」
「……私にはわかりません。」
「ハッハッハ! それでかまわんさ。兄上は嫌われ者だからな。
だが、最後の身内として、私だけは兄上の罪を許してやらねばならん。
この任務を失敗すれば私は兄上に殺されるだろう。それでは、あの人を許してやれる者がいなくなってしまう。
だから、私は死ぬわけにはいかんのだ。これが私の動機と目的だよ。理解してくれたか?」
【蒼き炎のテンペスト 最終話】
「なるほどな。飛行艇の過半を失い、得たものはナシ。
失態だな、アンジェラ。」
「……反論の余地もございません。罰は受けますわ。」
「…………」
「ですが、私の有用性は示せます。
今回、ウルド軍はルバイヤ海軍、魔幻獣と戦闘になりました。
飛行艇の過半を失ったのは事実。ですが、二つの戦闘に勝利し、すべての兵を帰還させました。
お兄様、私には為政者としての才はございません。謀略も苦手です。
ですが、将としての才はあるかと。私はお兄様の剣になれますわ。」
「…………
ようやく認めたか。」
「?」
「お前が俺を恐れ、その才を隠していたことくらい、すでに承知の上だ。
おおかた将としての才を理由に、家臣がお前を担ぐとでも思っていたのだろう。浅いな。俺が許すとでも思うか?
むしろ、あのまま猫をかぶっていたほうが、よからぬ火種になっていた。斬ろうかとも考えていたが……
俺の剣になるということは俺とともに地獄へ落ちるということだぞ?
救済も平穏もなく、屍山血河を築く悪鬼羅刹。そんなモノになる覚悟はあるのか?」
「はい。ともに乱世を生き抜いてみせましよう。だって、家族なんですから。」
「……わかった。お前はウルドのために生き、ウルドのために死ね。己を捨て、民草の剣となり盾となると誓え。」
「はい。この胸に燃える蒼炎に誓いますわ。」
「その誓いを破った時、俺はお前を斬る。そして俺が道を違えた時、お前が俺を斬れ。」
「……はい。」
「お前を殺すのは俺だ。それまで死ぬことは許さん。……無理はするなよ、アン。」
「お兄様も私の刃下で果てるその時まで、どうか、どうかご自愛ください。」
【飛行島「アンジェラ・思い出」】
【思い出2】
「――事後調査、ですか? お兄様」
「そうだ。機材の手配が整った。改めてリンツヘ向かい、現場の再調査を行え。
<あの事件>は極めて特殊だ。徹底的に痕跡をさらえば、思わぬ発見があるかもしれん」
「わかりました。……もしも重大な痕跡を見つけた場合は?」
「無論、接収する。
必要とあらば、リンツもろとも」
【思い出4】
「――報告は以上か?」
「はい、お兄様。遺跡内部はすでに、何者かに荒らされていました。
持ち帰れる物は接収しましたが、軍事的な価値はありません。元より儀礼的な、墳墓の類であったと推測できます。
かの島にはもはや、ウルドが介入する意味は皆無と考えますわ」
「――――」
(遺跡の詳細は口外しないよう兵たちには命令したが……本当にこれで良いのか?
身命を国に捧げると、蒼炎に誓ったこの私が……)
「――わかった。ご苦労だったな」
「……もったいないお言葉ですわ。期待に応えられず、面目次第もありません」
「構わん。見つかれば拾い物、程度の認識だった。元よりな。
ときにアンジェラ、余力はあるか?」
「問題なく」
「ならば少し付き合え。俺なりの労いだ」
「それは……兵棋ですか。
最後に一戦交えたのは、もうずいぶん前でしたね」
「善き領主で在り続けるのも、いささか疲れる。
たまには家族と、水入らずで戯れたいと思ってな」
「私の拙い腕前でよければ、お相手になりますわ」
「そうこなくてはな」
***
戦場を模した図上に並ぶ駒を、アンジェラとデクスターは熟考しつつ、動かしていく。
「こうして盤を隔てていると、幼いころを思い出しますね」
「戦略演習用の兵棋も、この国では玩具代わりだからな」
「もう一戦、もう一戦とせがむ私に、お兄様は笑いながら付き合ってくれました。
私を泣かせないために、手加減もしてくれましたね」
「そう言うアンは、みるみる頭角を現していったがな。
やはり将に向いているよ、お前は。……ん、その夜襲は悪手だ。もう挽回はきかんぞ」
「あら、本当ですね。私としたことが……」
「白々しいな。手心のつもりか?」
「買いかぶりですわ」
「面白い。あくまでも兄に花を持たせるわけか。
ならば否が応でも、本気になってもらう必要があるな」
「ですから、手加減など……」
「――何を(・・)隠している、アンジェラ?」
「…………ッ!」
「席を立つな。瞳を逸らすな。真実以外を口にするな。
それら一切を違うこと、ウルドヘの反逆と心得よ」
「お兄様! 私は……!」
「アンジェラ。お前に残された道は一つだけだ。
勝利し、守れ」
【思い出5】
「軽率な一手だ。動揺が采配に表れているな。
(まずい……序盤の加減が相当に響いている。もはや……)
「慣れない嘘などつくからそうなる。
やはりお前に謀の才はないな、アンジェラ。
安心しろ。お前が俺を謀っているという確たる証拠があるわけでもない。言いがかり、というやつだ」
「それは……」
「お前が勝てば、今回の不義不忠には目をつぶってやる。
ただし俺如きに負けるようなら、蒼炎にかけて、真実を語れ」
***
(この劣勢から巻き返すなど、もはや望むべくもない……
……そもそも兄上はすでに真実を知っていて、私を試している可能性すらある。
ならば今この状況で、私が勝とうと抗うこと自体が、兄上への――ウルドヘの反抗になってしまう……!)
「どうした。お前の手番だぞ。
俺の兵を私情でそそのかしたのだ。――さぞや面白い話が聞けるのだろうな?」
(やはりか……! どうすればいい?
ウルドに背くのか。リンツのために抗うのか……私はどちらを選べば良い!?)
「……戦意喪失、だな。どのみち戦況は覆るまい」
「…………」
「お前が、俺に逆らうほどの何をリンツで得たのかは知らないが――
終わりだ」
(私が、あそこで得たもの……
――そうだ。私は、彼女のために――)
「……お兄様。賭けに乗ってはくださいませんか?」
「賭けだと?
屠所の羊もかくやといった無様な敗勢……」
「覆してみせた暁には、ある<取引>に応じていただきたいのです」
「話にならないな。敗北必定のお前に、賭け金など残っていない」
「命を」
「なに?」
「負ければ、斬り捨ててください」
「…………
いいだろう。ただし、取引の内容そのものを飲むかは別だ」
「構いませんわ」
「この盤上には今、お前の命が置かれている。死に物狂いで戦え、アンジェラ」
【思い出6】
「目標地点の突破を阻止。敵軍残存勢力、四割。戦闘終了……
――私の勝ちですわ、お兄様」
「率直なところ、俺は驚いている」
「運に救われただけです。私など……」
「違う。
お前が堂々とリンツを選び、ウルドに反旗を翻したことに、だ。
<取引>とやらの内容を言え」
「……まず先に、私はお兄様に嘘を申し上げました。
発見された古代遺跡には、貴重な情報が眠っている可能性があります」
「なぜ黙っていた」
「危惧を覚えたからです。
あの規模の遺跡を調査するには、長い期間と知識が要るでしょう。
現地の歴史や文化に精通した島民の協力は不可欠です。
武力行使に慣れたウルドとは、相性が悪いと考えました」
「言葉を選ぶな。お前はウルドでなく、俺の<やり方>を恐れたのだろう。
長兄もろとも無関係の者たちを――お前の家族まで亡き者にした、あの祝宴のようなやり方を」
「否定は……いたしません」
「それこそ、お前が判断することではない。
大きく出たな、アンジェラ」
「……遺跡は、かの<魔幻獣>の秘密に関わっている可能性も強く考えられます。
巫親の一族である少女の協力が得られなければ、解明の道は永久に閉ざされる恐れがあります」
「力尽くで聞き出せばいい。
苦痛を与える方法など、いくらでも知っている」
「――屈さない」
「!」
「彼女は、決して屈しません。なぜなら私は知っています。
あの鋼のような強情さを。大切な者のため、命すら懸ける強く気高き精神を。
痛みや恐怖に屈し、理不尽を受け入れるほど彼女は弱くはない……
なぜなら彼女は私が選んだ――初めての<友>だからだッ!!」
「――――」
「<取引>です。
リンツの民を敵に回さぬよう、遺跡には必要最低限の調査隊のみを送ること。
彼らの平穏を脅かさぬよう、良好な関係を築くこと。
それを飲んでいただければ、私自らリンツの民を説得します。難儀な交渉ではありますが、多少は円滑に進むでしょう」
「俺が<取引>に応じなければどうする」
「この首を差し出して、誠意の足しにするのみですわ」
「……忠義(ウルド)も義理(リンツ)も、両方選ぶか。
我が妹ながら、慎ましさの欠片もないな。
久々に胸躍るひとときを過ごした。お前も休め、アン」
「……お兄様」