【白猫】Holy Night Story ~あるある王子とまんぞく姫~ 前編
2015/11/30
目次
登場人物
story1 封印されし絵本
みんな!よく来てくれた!思う存分、パーティーを楽しんでいってくれ!
<主人子たちは、ディオニス主催の豪華絢爛なパーティーに招かれ、夢のようなひとときを過ごしていた。>
ううううう……!
?
どうしたのキャトラ?それは……本?
タイトルは……『あるあるおうじとまんぞくひめ』……絵本かしら?
さっき見つけたこの本をね、ペラペラしてたんだけど……
だけど?
なんかおかしいの。最後の方のページがね、くっついてるみたいに開けないのよ。
え?
のりづけされてるわけでもないし、なんか気になっちゃって……
どうしたのだ?
あ、ルーシーちゃん。
あ!ごほんなのだ!ルーシーも読みたいのだ!
それがねルーシー、これ、最後の方がめくれなくて……
貸してみるのだ!ふんっ……ぬぬぬぬ……!……ダメなのだ~!
ルーシーちゃんの力でもピクリともしない……なにかの魔法かしら……?
ふぇ~?ぼんたち、どうしたんじゃ?ほれ、この飴をお食べ~。
でろでろのおかしを持ってきてもらって恐縮だけど、いまちょっと込み入ってて……
みなさんそろってなにやってるでござるか~?洋ナシをキャドゥーでござる。
フランさん、いつも洋ナシありがとうございます。あのね……
チェシャ~♪あっちにおっきな七面鳥があったよ~♪
それはターキーって言ってね……
おい、アイリス!我のパートナーに命じてやる!一緒に踊れ!
いまちょっとね……
は~♪よいこらさっさ、よいさっさ~♪
レンファさん、いまちょっと待ってね……
うひょひょひょ~♪あらしも混ぜてぇ~♪
シズクまで!なんなのよ!ちょっとみんな、静かにしてっ!
❗❓
<――突然、キャトラの持つ本が光を放ち始めた!>
えっ!?ナニコレっ!?
なんてことだ!
ディオニスさん!?
でろでろのおかしに洋ナシ、七面鳥、ダンスヘの誘い、祝福の舞、へべれけの女性、それと悪魔と高貴なる鎧!
全てが揃ってしまったぁっ!
ハァッ!?
解けるぞッ……!封印がッ……!
な――!?
なんなのよぉ――――!?
story2 絵本の中の世界
<――気がつくと、主人公たちは見たこともない場所にいた。
季節を無視した色とりどりの草花、どことなく雰囲気の違う衣服に身を包んだ通行人――
はるか遠くからは、巨大なもみの木がこちらを見下ろしている。>
<――ここは――?>
なっ……!なんてことだ……!ここは……!
本の中ね!
えっ!?ごほんの中なのだ?わ~いなのだ~!
へへへ~♪おもしろ~い♪
これこれ、あんまりはしゃぐと転ぶでのぅ。
たしかに、この衣装だと走りづらいでござる~。
フラン!子供に張り合っても敵わないと思うわっ!
なんだこの者たち……!この不可解な現象に、疑問が湧かないのか!?
――ハッ!?私はまた、いつの間にかふにゃふにゃしていたようですね……ここはどこですか?
絵本の中の世界でござる。
なるほど。把握しました。
おいっ!?
言い伝えの通りだ……こうなってしまっては、俺たちがここから出るには――
出るには?
この物語を、終わらせなくてはならない!
<ディオニスが語るには、この本は、結末が封じられた呪われし絵本。誰も終わりを知らない物語。
本の中に誘われてしまった者は、物語をハッピーエンドに導くまで中から出られないという。>
<祝福されし最後のページ>……それを作り上げるしか、ここから出る方法はないのだ。
ふん。簡単なことだ。ここは本の中なのだろう?元々のストーリー通りのシーンを作ればいいだけじゃないか。
だからね、最後の方は、誰も読んだことがないんだって。
なんだと!?それじゃあわからないではないか!
わーい!祝福されるのだー!
へっへへ~♪そ~ゆ~の、エシリア得意だも~ん♪
これこれ、勝手に行ったら迷子になってしまうぞぇ~。
あっ!こら!僕を無視するなよっ!
ちょっ!アンタたち、別行動は――
――もし?
旅人様でございますか?
旅人……まぁ、そうね。そういう風に言えなくもないわね。
それでは、見知らぬ土地で何かと不便もあるでしょう。
わたしはナンシー。よろしければ、皆さまのご案内をさせて頂けませんか?
そんな。初対面の方に、面倒をかけるわけには。
面倒などではありません。わたしは――
――まんぞくしておりますから――
story3 少女と怪獣
あら、ナンシー?お客様?
はい、ご案内しているところです。
あとでドブさらいをお願いできる?
はい、わかりました。
おお、ナンシー。あとでウチの子のお守りを頼めるかな?
ええ、任せてください。
悪いね。
ちょっとちょっと、ナンシー?ヒトが良すぎやしない?
何がでしょう?
あんなに安請け合いしてさ。
お忙しいようでしたら、私たちの案内は……
いいえ、わたしのことならお構いなく。
そうは言われても、なんだか悪いわ。
悪いことなんかありません。わたしはまんぞくしていますから。
?それならいいでござるが……?
…………
さあみなさま、こちらです。
空気も自然も人も素晴らしい、わたしの自慢の村なんです。
どうぞ、ご案内いたします。ゆっくりしていってくださいね。
…………
<その頃、主人公とはぐれたルーシーたちは……>
な~のだ~♪
あっははは~♪
……どこに目をつけている?
ごめんなのだー、かいじゅー!
これこれ、そんなに急ぐと……ふぇ?こちら、どなたさんじゃ?
おれはアルカ。王子のアルカだ。
ふん、王子だと?
む!貴様!
なんだ、やる気か!?
『普通にしているのに、偉そうだと言われる!』
こういうことって、あるよなぁ!?
……なんのことだ?
答えろ!
……まあ、たまにな。
そうだよなぁ!?
…………
……フン!
あれ~?あの怪獣さん、なんか様子がヘンだね~?
どうしたのかのぅ?
ふん、察しの悪い奴らめ。我には先が読めたぞ。
さき?
つまり、奴を導くことが、<祝福されし最後のページ>への手がかりだということだな!
おおー!
ぼんは賢いのぅ。
当然だ。そうと決まれば、奴を追うぞ!
おー!!!
分岐
story4 あるあるおうじ
おい!そこのおまえ!
は、はい、なんでしょう……?
『せっかく並んでたのに、自分の目の前で売り切れてしまう!』
こういうことって、あるよなぁ!?
は、はは……そうですね、ありますね……
そうだよなぁ!?
…………
……行け!
は、はい!
……フン!まだ足りないか!
これこれ、お年寄りは大切にせにゃあいかんて~?
さっきの連中か。何の用だ?
お前は何をしているのだ?
おまえじゃない、アルカだ!
……おれは、誰もが『あるある』と共感する話を探している。
……あるある?
なんのためにそんなことを?
見ろ!おれのこの姿を!
みんなが恐れ、忌み嫌う、みにくい怪物のこの姿!これは呪いなのだ!
ふぇー?
魔女にかけられた呪いだ!これを解くためには、誰かと心から共感することが必要なのだ!
そのために、おれは『あるある』と言ってもらえる話を探している!
だからおれは、おまえたちに構っているヒマなんかないんだ!
おい!そこの村人!ちょっと待て!
ふん……くだらぬ悩みだな。
そうとも言えないのだ。
ルーちゃん?
だれかにわかってほしい、って気持ちって、きっとみんな持ってるのだ。
ルーシーは、シスターにわかってほしいし、シスターのことわかりたいのだ。
それと同じなのだ。悪魔にもあるのだ。きゅうけつきにはないのだ?
……ないな。
えっへへ~強がってるね~?
そんなことないっ!
しかし……あのぼんは、ちょっと乱暴のようじゃのぅ。
見てみい、話しかけられた村人が、怯えておるわい。
しょうがないのだ。ルーシーたちで助け舟を出してやるのだ!
ちっ……仕方ない。ここから抜け出すまで、辛抱してやるか。
はいといえ
story5 おれをみとめろ
おい!そこのおまえ!おれの質問に答えろ!
ひ、ひいっ!?
チッ……!そっちのおまえ!おれは……
うわぁっ!?ばけもの王子だあっ!?
……!おれの話を……!
聞け!聞かないか!
……クソッ!
おうじー!それじゃダメなのだー!みんな怖がるのだー!
おれがこんな姿だからなっ!
それだけじゃないと思うよ~?
決まっている!おれが元の人間の姿だったら、いくらでも共感できるんだ!
この呪い……!なんていう皮肉だ!
怪物だから分かり合えない!分かり合えないから戻れない!
おれにどうせよと言うんだっ!
…………
ぼんや……そう短気にならんでも、見た目を気にせん、わしらのような者もおるぞい?
フン!だれがお前らなんぞ!
ふぇ~?
ここはおれの領地なんだ!ここの住民でなければ、なんの意味もない!
……なるほど……
え~?なにがなるほどなの~?
おれは忙しいんだ!ああ!まだ呪いは解けない!
新しい話を考えねば!
行っちゃったのだ。
ね~ね~?何かわかったの?エシリアにも教えてよ~!
……仕方ない、特別だ。
我らはよそ者にすぎない。直接関与は出来ないようだな。
どういうことなのだ?
吸血鬼、キョンシー、悪魔……我らなら、あいつと共感することも可能かもしれない。
だけど……僕たちは、この物語の、本当の登場人物じゃない。
え~っと……てことは~?
他に誰かが必要だってことだよ。あいつのことをわかってやる、誰かが、な――
ふぇっふぇ~、ぼんは賢いのう~。
――ふん!まったく、面倒なことだ!
story6 ああ、むしゃくしゃする
ああ!むしゃくしゃする!
<大きなもみの木が影を落とす小さな村――
アルカは、どすどすと大きな足音を立て、苛立ちながら通りを歩いていた。>
おれは王子だ!そのおれがどうして、民と共感なんかしなくちゃいけないんだ!
おれは王子だ、だれよりも偉いんだ!
それを、呪いだなんて!絶対に無理だ!分かり合えないんだ!
ああ、むしゃくしゃする!いっそこの村など、滅ぼしてしまおうか!
<すると、一軒の店で、忙しそうに動き回る少女が目に留まった。>
おい!
おれは王子のアルカだ!おれの質問に答えろ!だがその前に!
おまえにこれをくれてやる!
……?
<そう言うとアルカは、背負っていた棺をナンシーの目の前に放り投げた。>
おれが納得しなかったら、おまえはその中で永遠に眠ることになるだろう!
質問だ!
『城に着いたとたん、降っていた雨が止む!』
こういうことって、あるよなぁ!?
ええ。わかります。
……わかります!?わかるって、なんだ!?
この辺りで城に住んでいるのは、おれ一人だ!
いい加減なことを言うな!約束だ!おまえにはこの棺に入ってもらうぞ!
このおれの牙で、爪で、無残に引き裂いてからな!
はい。
――!?
どうぞ。
……なんだと?おまえ、それでいいのか?
ええ。みなさまが幸せになること。それがわたしのまんぞくですから。
あなたも、みなさまの中の一人ですから。
……!!きれいごとをぬかすなっ!
ナンシー!!
おうじー!
……フン!
命拾いしたな!
ふぇふぇふぇ~、みんな、元気だったかぇ~?
ええ、そちらもご無事で何よりです。
ふむ……そっちは、あの男と一緒にここへ来たようだな。
そうだ。つまりそっちは、あの娘か。
ああ。……よし。お互いに情報を整理しよう。
<一行が話し合うと、一つの結論が見えてきた。
<祝福されし最後のページ>それを作り上げる鍵は――
――あの二人が、お互いに分かり合うことなのではないかと――>
story7 おしつけパーティー
<アルカ王子はめげなかった。
再び村を訪れると、盛大なパーティを開き、村人たちを招いたのだった。>
さあ!思う存分食え!クリスマスパーティーの予行演習だ!
…………
<しかし村人たちは浮かない顔。いつまた王子が牙をむくのだろうと恐れていた。>
飲め、食え、歌え!楽しめ!
…………
ふふん、どうだ?
『一人よりも、誰かと一緒の食事の方が楽しい!』
こういうことって、あるよなぁ!?
は、はい、その通りです……
よし、じゃあもっと聞かせてやろう!
『寒いと口にすると、余計に寒くなる!』
『待っていると、長く感じる!』
『欲しい物はもっと欲しくなる』
こういうことって、あるよなぁ!?
……は、はい……
――!!
こういうことって、よくあるのに……!!
!!
どうしておまえたちは、だれも共感しない!
<アルカ王子は怒り狂い、テーブルをひっくり返し、イスを蹴飛ばし暴れまわる。>
どうして!どうしてだ!おれはこんなにも、よくあることを言っている!
なのにどうして!だれもわかってくれないんだ!
なにをしているのだ、おーじ。
<気がつくと、村人は全員逃げ去ってしまっていた……>
…………
なにをしているのだ、おーじ。
せっかくのパーティー、暴れちゃダメだよ~?
……おれは……ただ……わかってもらいたいだけなのに……
ずいぶん、気落ちしとるようじゃったのぅ……
……少しだけなら、僕にもわかる……
誰かにわかってもらいたい、って気持ちは……
……いまのは忘れろっ!
えっへへ~♪聞いちゃったも~ん♪
こっ……!
しかし、あのぼん、このままじゃかわいそうじゃて……どうにかならんもんかのぅ……
……ルーシーは、思うのだ。
ふぇ?
おしつけだけじゃ、ダメなのだ……!
……そうだな……
うむうむ。間違わんよう、見といてやらんとのぅ……
story8 こどくなおうじ
<あることろに、『あるある王子』と呼ばれる王子様がいました。>
こういうことって、あるよなぁ!?
…………
……フン!
<領民を顧みることのなかった王子様は、あるとき、一人の魔女の呪いで、怪物の姿にされてしまいました。>
……ああ!むしゃくしゃする!
<王子様は呪われた姿で、何年も何年も、『あること』を繰り返しています。
こういうことって、あるよなぁ!?
<それは、人々に『あるある』と言ってもらえそうな話を考えては、村人に質問すること。>
そうだよなぁ!?あるよなぁ!?
<村人は王子を恐れ、王子のあるある話に同意します。
――ですが、本当は。>
…………
<王子を怖がる村人に、否定する勇気などないからです。
これでは、心の底からの共感とは呼べません。
王子の呪いは解けません。>
…………
<王子は悩んでおりました。
それはそれは、毎晩城へ帰ると、絶望の涙をこぼすほどに――>
story9 おうじのめいれい
<あるある王子は、ある日再び貧しい少女に出会いました。>
…………
<しかし、そのときの王子の頭の中は、絶望で一杯。
だって、いつまで経っても、誰も自分と共感してくれるそぶりすらないのですから。>
……あら?王子さま?
<少女の声も、いまの王子の耳には届きません。>
……どうかなさいましたか?わたしでお力になれませんでしょうか?
<言葉の意味がわかってくると、王子の心に、少しだけ意地悪な気持ちが湧いてきました。>
……おい、娘よ。
はい、なんでしょうか、王子さま。
『自分だけ疲れていると、元気なやつに、腹が立つ!』
こういうことって…………あるよなぁ!?
<――もしも、『はい』と答えたのなら――
王子はここで、少女を飲み込んでしまおう、と思っていました。
――ですが――>
……いいえ。
<王子は驚きました。
まさかこんな、吹き飛ばせそうなか弱い少女が、否定するとは夢にも思っていなかったからです。>
……なんだと?
わたしに不満はございません。なので、わたしはそうは思いません。
<その言葉を聞き、王子の心の意地悪さが、むくむくと大きくなります。>
おれにそんな口を利くとは、いい度胸だな。
…………
気に入った。
…………
おまえ、おれのきさきになれ。
……はい。
!
…………
<王子自身、心の中では自分の言葉に驚いていました。
ですが、言わずにはおれなかったのです。
もう、一人は――――心底、さびしかったから――>
ふぇ~?こりゃあ、どうなるんじゃあ……?
story10 とざされたこころ
<少女と一緒に暮らすようになっても、あるある王子の心は安らぎませんでした。
なぜなら少女が。どんな命令にも従順な少女が。
自分のあるある話にだけは、決して同意しないのですから。>
……こういうことって、あるよなぁ!?
いいえ。
……!!
<王子は、何度も思いました。いますぐ爪でずたずたにして、外に放り出してやろうかと。
しかし、どうしてもそれをすることが出来ません。>
……ふゆかいだ!
失礼しました。
<毎晩毎晩、王子は少女の部屋を訪れました。
否定され、頭に血を昇らせる、まるで、そのことが必要であるかのように――>
ああ、むしゃくしゃする!ふゆかいだ!
<飾り付け途中のもみの木に見下ろされ、王子は城を降りていきます。
王子は村人に目もくれず、大通りを歩きまわります。>
なんだかちかごろ、つーこーにんにははなしかけないのだな?
他のことで頭が一杯、って感じだねぇ~?
共同生活がうまくいってないんかのぅ~?
……簡単なことではないからな。誰かの心をつかむことは……
おーい!おーじー!
あやあや、ルーちゃん?
なんだ!?おれに何の用だ!
そんなんじゃ祝福されないのだ!もっとちゃんとするのだ!
……祝福……?祝福だって!?
おれは呪われている!こんなおれになんの祝福だ!
だれがこんなおれを祝福するというのだ!
……ふん。そうだろうな。
なんだ、小僧!?
貴様には誰も見えていない。
貴様の心の中には誰もいない!なのに他者と共感だと!?
出来るわけがなかろう!
うるさい!きさまに何がわかる!
<子は頭から湯気を出し、いまいましそうに去っていきました。>
ちっ……!思わず口を出してしまった……
……ぼん。ぼんは間違ったこと、言っとらんぞい。
えヘヘ~、なんか、しんに迫ってたね~♪
きゅうけつきにはおーじの気持ちがわかるのだ?
知らん!忘れろっ!
……おれの、心の中にはだれも……
……くそっ!ああ、ふゆかいだ!
ツリーの飾りつけが終わり……クリスマスが来る頃には……
この呪いを……!
……くそっ……!