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【黒ウィズ】Birth of New Order 2 Story1

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最終更新者:にゃん



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ここの作物も、みんなやられてる。

 瘴気は、大気を淀ませ、水を腐らせた。その結果。

インフェルナの大地に咲く作物が、すべて枯れ果てようとしていた。

あれ~?そこにいるのは、もしや?


乾いた土の上に横たわる黒い影。それは、猫だ。黒猫だった。

外套で頭まで覆った人間もいた。人と猫は、互いに手を取り合うように仲良く倒れている。

大変、干からびてるよ。

妹たちから水筒を受け取り、干物になりつつある行き倒れの黒猫と旅人に水を掛けた。

キミ、雨が降ってきたにゃ。天の恵みにゃ!

お?生き返った。

 ウィズとメルテールの視線が重なる。雨など降っていない。空はカラカラに晴れ渡っている。

ここにメルテールがいるということは、つまるところ、いつものアレが起きたようにゃ。

 そうみたいだね、とうなずく君の言葉に力はなかった。



ウィズちゃんに、会いたかった。今までどこに行ってたの?

私たちは、ずっと旅していたにゃ。どこと一言では言えないにゃ。

 テントの中には簡素な机があった。ランタンが照らす地図には、この大陸の地形が記されている。

また、戦争にゃ?

瘴気が発生して、大気の汚染が進行しちゃったの。

 空気の悪さは君も感じていた。瘴気は、人や植物の命を現在進行形で蝕んでいる。

住む場所を戦って奪い取る。じゃないと、あたしたちインフェルナは、ここで死ぬだけだよ。

 瘴気で汚染されていない場所。それは、サンクチュアと呼ばれる聖域だけだ。

これは生きるための戦いだとメルテールは、断言する。

それに怪しい噂もあるわ。サンクチュア軍が、聖域の跡地におっきいものを建造しているらしいの。

 妹たちが、スケッチを開いて示した。それは、山をひとつ飲み込むほどの巨大な建造物だった。

きっとあたしたちを虐殺するための巨大兵器だよ。

兵器にしては、大きすぎると思うにゃ。

もしかして、それが瘴気を発生させている元凶かもしれません。叩いておくに越したことはありません。

 イスカの顔つきが、以前よりも大人びていた。

君たちが、この異界を離れている間に、頭首として色々な葛藤を、乗り越えてきたのだろう。

前は、もっとふわっとした子だったにゃ。きっと立場が、イスカを変えたんだろうにゃ。

戦いの心得を教えた生徒を放っておくのは無責任にゃ。無茶しないように、見守っててあげたいにゃ。

 支えてあげたいというウィズの願いを、君は了承した。

ウィズにゃーのご主人様は、強いから大歓迎だよ。

 以前君は、リュオンの下で、サンクチュア側の助っ人として戦った。

それでもインフェルナの兵たちは、君が反乱軍に参加するのを歓迎してくれた。

味方してくれる手練れを排除するほど、インフェルナは、戦力に恵まれていない。

それに聖職者たちのやり方に疑問を覚えた聖堂兵たちが、すでに何人も反乱軍に加わっている。

クロッシュも、そのひとりだった。

戦士としての心構えを完全に会得したとは思っていません。

こうして再会できたのも運命です。今度こそ、ウィズ先生のすべてを教えてください。

構わないけど、弟子の前でウィズ先生は、ちょっと恥ずかしいにゃ。

じゃあ、ウィズ野郎。

ウィズ先生で結構にゃ。

 サンクチュアと戦争になる。おそらく執行騎士が出てくるだろう。

君の背筋にぞくっとしたものが走った。リュオンには、世話になった。仲間として、ともに背中を預け合った。

彼の強さは知っている。できれば、敵にしたくない相手だ。



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 インフェルナ軍は、サンクチュアヘ侵攻を開始した。

武装した兵士が進軍し、そのあとをインフェルナの民がつづいた。

R聖域で良い暮らしをしている奴らを皆殺しにしてやる。

 サンクチュアとインフェルナ。ふたつの勢力を隔てる溝は深い。

聖域に暮らす人々は、インフェルナ人を人間扱いしていない。

悪の熔印を持ち、煉獄に堕とされた落伍者として差別している。

義父さんが、状況を変えたはずなのに。

 イスカの養父イーロスが命を賭けて敵の聖皇を斬り棄てた。

そして、大審判獣エンテレケイアの封印は解き放たれ、大聖堂と聖都は、灰燼と化した。

聖都を焼け出されたサンクチュアの民は、見下していたはずの反乱軍に助けを求めた。

すべての民を平等に助けたイスカを救世主と呼ぶものもいた。

話し合い、心を通じ合わせれば、いつかきっと争いのない世界が来るはず。

 イスカの純粋な信念は、多くの者に笑われた。それでも曲げずに来た。

結果、たくさんの命を救った事実だけが残った。

Rイスカ様。後方で、また喧嘩です。

 女は、マスク代わりの口を覆う布を外して告げる。

どうやらインフェルナの民と元サンクチュアの民が、食料の配分で揉めているらしい。

またなの。もう、放っておこうよ。

 争いは日常茶飯事だった。インフェルナの民の憎しみは、激しい。

いくらイスカが、聖堂と煉獄の融和を訴えても、深い感情の溝は簡単には埋まらない。


みんな聞いて!この戦いは、サンクチュアの民を傷付けるのが目的じゃないの。

私たちの力を相手に認めさせて、手を結ぶ方法を探るのが、この戦いの目的よ。

 自分の信念をみんなに訴える。

だが、イスカの言葉を、くだらないと吐き棄てるものたちがいる。

R手を結ぶだと?そんな温いことで戦争に勝てるかよ。

R俺は、サンクチュアの連中に子どもを殺された。仇を討たなきゃ気が済まねえ。

 怨みは、深々と根を張っていた。元々、聖域からインフェルナ人を追い出したのは、サンクチュアの方である。

いくらイスカが言おうと、インフェルナ人の憎悪が消え去るものではない。

君は、理解した。お互いの溝はイスカが思っているほど、簡単に埋まるものではないことを。

みんなの気持ちはわかる。だけど、憎しみを連鎖させたくない。どこかで断ち切りたいの。

 その言葉は、誰の耳にも届かなかった。

後方で起きたもめ事は、イスカの公平な裁きによってー応収束したものの、頭首に対する不満は積りはじめていた。

みんな殺気立ってるね。戦場に向かってるんだもん。しょうがないか。

人の心は簡単に変えられないにゃ。焦らず、時間をかけるにゃ。

む。待つにゃ。

 君は、イスカの前に飛び出してカードを引き抜いた。


Bこの戦いで手柄をあげれば、方舟に乗る資格を教主様がくださるそうだ。

B奴らは瘴気を吸って弱っているはず。我々の敵ではない。

 サンクチュア軍の先遣隊と遭遇した。たいした数ではない。きっとインフェルナ軍を偵察に来たのだろう。

ウィズにゃーのご主人。それにクロッシュ兄。奴らを逃がしちゃ駄目だよ。

 敵兵はまだ気づいていない。こちらの居場所を本隊に報告されるよりも先に叩くに限る。

わかった。

この身体に刻まれた悪の熔印は、本当は誰につけられるべきだったか。それを、いまから思い知らせてやる!

 強い憎しみと戦う理由を抱えているのは、インフェルナの方だ。

その中にあってイスカは、人が平等に扱われる世の中の到来を願っている。

この異界では、希有な存在だった。

それゆえに君は、イスカの理想の実現に手を貸してあげたいと思った。


 ***


 相変わらずイスカは、純粋だった。

博愛主義と言えばいいのか。誰とでも話せば仲良くなれると信じている。

その純粋さは、はっきり言って羨ましかった。

ようするに、子どもなんだよね。

 向かって来るサンクチュアの聖堂兵を叩きのめす。

イスカの手前、命までは奪わない。それでも、二度と立ち上がれない程度に痛めつけておく。

ほんと、世話のかかる子だこと。

 権力を手にして豹変する人間は多いが、イスカはそうじゃなかった。

イスカは、どこまでもイスカだった。

水も植物も少ない過酷な土地で暮らしながらも、ー片たりとも心を濁らせることなくここまできた。

羨ましかった。そして、とてもまぶしかった。

イスカは、あたしたちに道を示してくれる。インフェルナであっても、人間らしい優しさをもって生きろって。

ずっと影の中で生きてきたメルテールとは、対照的だ。

本来なら相容れないふたり。混ざり合うことのないふたり。

でもなぜだか、ー緒にいると居心地がいい。


あれを見るにゃ。

 右手の奥に土煙があがった。交戦中の部隊よりも、さらに大規模な隊が進軍してくる。

勝てると思ってるんだ。ふーん。

あたしたちは新手を潰すよ。ついてきて。

 身の丈以上もある巨大なハンマーを、片手で軽々と担いで駆ける。

援軍の先頭は騎馬部隊だった。騎兵は馬の腹を蹴り、襲歩でメルテールに襲い掛かる。

バカだなぁ。家に帰れば、家族が待っているんでしょ?

 砂塵を巻き上げ迫る騎馬部隊。敵を前にしても、メルテールは小揺るぎもしない。

思念獣タイタナスのハンマーを握りしめ、君の方を振り返った。

魔法が使えるんだって?あたし、魔法使いさんのいいとこ見たいな。

あ、命まで奪う必要はないよ。イスカが悲しんじゃうからね。

 ハンマーを振り下ろす。

地面が割れた。土煙が視界を覆う暗幕となった。

敵は動揺している。ここを狙えと、メルテールに言われているのだと思った。

君は、魔法を放った。馬のいななきが轟く。敵が次々に倒れていく。

メルテールと君とで、新手の大部隊をほとんど片付けてしまった。


落ち着いたものにゃ。歴戦の強者のようだったにゃ。

場数だけは踏んでるからね。そういうウィズにゃーのご主人様こそ、剛の者って感じだったよ?

前も言ったけど、ご主人様じゃないにゃ。私の弟子にゃ。

じゃあ、ウィズにゃーがー番の剛の者だ。武辺者だね。

なんだかよくわからないけど、格好よさそうにゃ。

 しばらくして、大方の戦いが終わった。メルテールは、終始イスカの視界から外れたところで戦った。

そして、本隊に敵を近づけなかった。それが自分の役割とばかりに率先して敵を叩いた。

いつもこうしていた。イスカの見えないところでメルテールは己を危険に晒し、手を汚してきた。

さて、戻って本隊に合流するよ。

 養父イーロスを失ったイスカをこれ以上悲しませたくない。

それが、メルテールの戦う理由だった。



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 クロッシュの剣が、サンクチュアの兵を斬った。

人ひとりを両断できる切れ昧を持つ大剣。それは、思念獣フェンリナルが宿る剣であった。

……終わりだ。

 血飛沫が散華する視界。偵察の兵はすべて斬った。

しかし、インフェルナの兵にも多少の犠牲が出た。

敵も死に物狂いだったにゃ。

……戦だ。

 甘さを棄てろ。サンクチュアとの戦はこんなものではない。とクロッシュの目は訴えている。

これまで、クロッシュは復讐を果たそうとして果たせなかった。そして5年も無為に過ごした。

愚か者だ。俺は。

復讐の機会はたびたびあった。だが、サンクチュアは強大すぎた。

この地上に6つの聖域がある。それを管理する聖堂がある。それを守護する執行騎士までいる。

対して、反乱軍と侮蔑されるインフェルナ軍は、指導者に恵まれず、まとまりを欠いていた。

これまでの冬の時代は、イスカが終わらせる。だよね?

力の限り頑張る。

 数多の敵兵を倒して進むだろう。そのたびにイスカは、返り血に塗れる。思い描く平和が遠のいていく。

それも覚悟の上だ。いちいち、うしろを振り返ったりはしない。

W反乱軍の頭首様が、どこに向かおうとしているのか、教えてくれませんかね?

 人の声がする。気配も感じる。だが姿が見えない。

上にゃ。

 さすが師匠だ。見破るのは早かった。

岩陰から、いたずらがバレた子どものような顔をした少年が飛び出してきた。


どうして魔法使いさんが、インフェルナ軍にいるんですか?

もしかして寝返ったんでしょ?顔に似合わず、悪いことしますね。リュオン団長に言いつけちゃいますよ?

 そういうシリスこそ、どうしてここに、と君は訊ねた。

サンクチュアの服装を隠す気もない。事情を知らない兵士たちが、敵襲かと騒いでいる。

雑魚がうるさいなぁ。せっかく、君たちのタメになる情報を持ってきてあげたのに。

来てくれて嬉しい。けど、目立つところで会いたくないと言ったはずよ。

ごめんなさい。知ってる顔がいたんで、つい飛び出しちゃいました。

 君を指し示す。

彼は、確かサンクチュアの執行騎士にゃ。

 敵であるはずのシリスが、親しげにイスカと話している理由は、すぐにわかった。

この先にサンクチュア軍の聖堂兵およそ3000が待ち構えています。

無駄な戦は避けるか、ぶつかるかは、お任せしますよ。

 執行騎士の身分でありながら、イスカに情報を漏らしている。

スパイという奴だ。悪い奴なのはどっちだよ、と君は呟く。

リュオンは、元気?

 すべての用件が終わったあと、イスカは何気なく訊ねた。

元気なわけないですよ。聖皇を守れなかった罪を被せられて、罪人として扱われています。

そう。

きっといまごろ、死ぬよりも辛い目にあってますよ。サンクチュアなんかに忠誠を尽くすからそうなるんです。

 吐き棄てた。それでも、シリスの表情は、どことなく晴れ晴れとしていた。

かつてシリスの心を破壊したものがいた。しかし、その襖はなくなった。正直に生きることにしたのだろう。


 ***


 森は深閑として冷たく、生命の温もりは乏しい。

身体を拘束する鎖を引き摺りながら、この秘境めいた森を彷徨っていた。


……。

 舗装された道はなく、人の足で進むには厳しい難険な斜面がいくつもある。

足を取られ、何度も大地に突っ伏した。

それでも、リュオンは進む。

罪を背負った執行騎士の環罪は、無数の審判獣が眠るこの森に足を踏み入れること。

そして生きて帰ること。

十中八九、死に至る流刑であった。

この森、おいら、なんだか懐かしいな。ここに来たことがあるのかも。

 懐に隠れていたマグエルが顔を出す。

記憶が戻ったのか?

もっと先に行けば、元の自分を思い出すかもしんねえ。

気軽に言ってくれる。

 先に進めば、この森で眠る審判獣が目を覚ます可能性が高まる。

その時、人間であるリュオンが、無事でいられる保証はない。

ひえっ!?やっぱり帰ろうぜ!

審判も受けずに帰るわけにはいかん。

 拘束された不自由な身体で、リュオンは奥へと進む。

命を惜しいとは思わなかった。大審判獣エンテレケイアを止めるために、死ぬつもりだった。

それが、こうして生きている。すべてイスカのお陰だ。

また悲鳴だ。なにが起きてるんだ?

 審判獣の覚醒は、人類の滅亡を呼び込む。だが、彼らを抑えていたのは、大審判獣エンテレケイアである。

ところが大教主の陰謀で、封印されていたエンテレケイアは解き放たれた。

それと同時に、この森の審判獣が目を覚ましたとしても、おかしくはない。

z人間か、珍しいな?


 その審判獣とおぼしき存在は、前触れもなく空から飛来した。

あんたたちの縄張を侵すつもりはないんだ。平和に行こう。平和にな。

なんだこの小さいのは。

 珍しく人の言葉を話す審判獣だった。よりによってこういう変わり種と出会うとは、己の不運を呪う。


エンテレケイアが逝き。森の審判獣が目覚め、人間がこの森にやってきた。

目的はなんだ。裁きか?それとも介入か?

 問いの意味は明快だった。リュオンは、拘束された鎖を示す。

裁きを求める。

罪状は、聞かん。私には、意昧のないことだ。

私が求めるのはただひとつ。力を示すこと。貴公が、使える人間ならば赦そう。

 手を振ると同時に、リュオンの両手を拘束していた鎖がはじけ飛んだ。

森の向こうから黒い影が迫ってくる。奴らと戦うことを求めているのだ。

ただ恐懼(きょうく)して裁きが下るのを待つよりも、こっちの方がわかりやすい。

 胸の奥。心臓に繋がる鎖を引く。

背負ってきた傑剣が、生命が通ったかのように動きはじめる。

では、人が審判獣を裁くという愚行を犯させていただく。


 ***


 十字の刃には、磔剣という名がある。

しかし、剣というには、使い手のことをまったく考慮していない造りだった。

磔剣を操るには、鎖で振り回すしかない。ー歩使い手が誤れば、敵もろともみずからを傷付けてしまう。

使い手を選ぶ執行器具だが、リュオンの熟達した技量は、厄介な得物を完璧に使いこなしていた。

素晴らしい。見込んだとおりの腕前だ。

お気に召していただけたかな?

 磔剣の餌食になったのは、2体の弱い審判獣だった。

この森の奥深くで眠り、エンテレケイアの目覚めに呼応して、覚醒したものたちだ。

彼らが興奮して貴公を襲った意味がわかるかね?

 審判獣は磔剣により切り裂かれ、血の代わりに赤くきらめく粒子をまき散らしている。

そりゃあ、人間だからだろ?

審判獣は人間を裁く。貴公も、審判獣だろ。襲ったりはせん。わからんのかね?

おいらは、どうも普通の審判獣と違うみたいなんだ。

人間だった頃の意思が、色濃く残っているようだな。それは貴公の個性だ。

こいつらが、俺を襲った理由を教えろ。

ふむ。

 癖のように手で顎の辺りを触る。その仕草こそ人間のようだ。

諸君たち人間は長い間、エンテレケイアを封印していたが、結局封印を守り切れなかった。

エンテレケイアが目覚めると、なにが起きると言われていたかね?

 最終審判。人類にとっての終わりが来る。

人間たちが最終審判と呼ぶそれは、審判獣同士の戦争のことだ。

ギガント・マキアか。

これから続々と審判獣が目覚める。こいつらを斬らせたのは、私の駒になれるか確かめたかったからだ。

人間よ。私と共に来ぬか?貴公が契約しているネメシスとなら、ギガント・マキアを戦いぬける。

大審判獣エンテレケイアが目覚めた。だが、太古の審判獣は寿命で朽ち果てた。

この森の審判獣を制御するものは、どこにもいない。

審判獣同士の争いが起きれば、人間はそれに巻き込まれ、地上から消え去るだろう。

断る。審判獣同士の戦いになど興味はない。

聖域に戻るというのか?

この森を出れば、俺の罪は赦されたことになる。それとも、ここで断罪するか?

 審判獣は、声を出して笑った。

やめておこう。私が欲しいのは味方だ。

この森を出たいならば出るがいい。ギガント・マキアが迫っていることは、人間たちにもやがて伝わる。

生きるために本性を剥き出しにする醜き人間どもの姿を確かめてくるがいい。

あんたは、他の審判獣よりも理性的だな。

 知性を持ち、人間と対等に話す奇妙な審判獣。

再び会うことがあるかもしれない。

審判獣にも色々いるのだ。そこの小さい奴のようにな。

おい、なにするんだ?

マグエルの胴に巻き付いている輪に触れる。

なにも起こらない。きょとんとしていると。

もう用はない。さっさと立ち去れ。

いくぞ。

 審判獣の尾が視界に入る。鋭利な先端が付いた尾。どこかで見た覚えがあった。

イスカという娘を知っている。尾がそっくりだと、リュオンは言った。

審判獣は、その話に興味を示した。



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 人々が寝静まった夜。密かに幕舎を抜け出したイスカは、ひとり湖の畔に佇んでいた。

今夜も、いない……よね。

 毎晩、ここを訪れるのが日課になっていた。

ここでリュオンと顔を合わせ、会話を重ねた。それも遠い、遥か昔の出来事。

もうー度、会って話したい。その願いは、いつも叶わない。

誰?

娘……?

 願いが高じたあげく、幻想を見てしまったのではないかと感じた。

リュオンは、奇麗な水で傷を洗っていた。この湖はまだ瘴気に汚染されていないようだ。

怪我してるの?

 幻想でもよかった。イスカは、慌てて駆け寄った。


あなたが、罪人として拘束されたと聞いて、心配したわ。

 高揚した気持ちを抑えられない。この再会は、天からの贈り物だとイスカは思った。

待ってて、手当てするから。

 羽織っていた外套の端を引きちぎる。

水に浸した布きれで、リュオンの傷を優しく労った。

サンクチュアが巨大兵器を造っている情報を入手したの。

インフェルナの民を守るために、先にこちらから戦争を仕掛けざるを得なかったわ。

戦争の火種になっているのは私。怒ってるわよね?

罪人としての贖罪を求めて北に向かっていた。世情は、把握していない。

 リュオンは戦争の事を知らなかった。だからといって、嬉しい気持ちなど湧き起こるはずもない。

会話が途切れた。イスカは、黙々と傷の手当てを終わらせた。

私は、大勢の民の命を預かる立場になったわ。

 心では、平和を望んでいる。

だが、目の前の命を救うために、イスカの願いとは別の方向に突き進んでいる。

サンクチュアの聖堂兵にも家族がいるだろう。それを知りながら、戦争を仕掛け殺している。

何を言っても、所詮は言い訳だ。でも、本心だけは、リュオンに知っていて欲しかった。

ちょっと不格好だけど応急処置は終わったわ。あ、激しく動き回っては駄目よ。傷口が開くから。

……すまん。

 口数は少なかった。罪人として扱われていることが、リュオンに暗い影を落としていた。

聞いて。私の夢。どうしようもない夢だけど、いつか実現したいと思っているの。

 イスカは、ずっと話したかったことを語りはじめる。描いていた未来を。平和が訪れた世界を。

サンクチュアとインフェルナの区別のない新しい国をこの大地に創りたい。

リュオンとー緒なら、無茶な夢じゃないと思うの。

 途方もない夢。子ども染みた妄想のごとき夢だ。

だがイスカは、信じていた。いつか夢が叶うことを。

いまの俺は罪人。明日首を斬られても文句は言えない。

 夢など語れる立場にない。

わかってる。でも、リュオンには知ってて欲しかった。

差別も区別もない国か。いつか出来るといいな。

 その言葉だけで十分だった。立場は違うが根底では心は同じ。

それが確認できただけで、涙が出るほど嬉しかった。




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