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【黒ウィズ】メインストーリー 第09章 Story

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最終更新者:にゃん

メインストーリー 第09章


2015年12月29日




プロローグ



 街道を進み、目的地に近づくうちに土を踏む感触が変わる。

足元の土の上にはうっすらと雪がおおっている。

君はふとアユ・タラの汗ばむような熱気を懐かしく思ってしまった。

そして、あそこでの出来事も、それにつられて思い出すのだ。


どうしたにゃ。じっと雪なんか見つめて。そんなに面白いものでもないにゃ。

 ウィズがそう言って、先へ進んでいく。

君の頭にも、もちろんウィズの頭にも同じことがしこりのように残っている。

アナスタシアの復活。そして、彼女とクォの企み――。

零世界の召喚。と世界の変革である。

こうしている間にもアナスタシアたちが最後の宝珠を手にいれてしまうにゃ。

私たちもさっさと用を済ますにゃ。

 そういえばこれから向かうところはウィズの故郷だった。

その割にはあまりうれしそうではないことが、君は気にかかった。

故郷だからと言って、はしゃぐこともないにゃ。それに――。

遊んでいる暇もないにゃ。私たちにはやることがあるにゃ。

 そうだった、と君は再び薄くかかった雪の上を踏み出す。

ウィズが故郷に隠したという〈神託の指輪〉。

アナスタシアたちに対抗する為に、それを手に入れなければいけなかった。

にしても、いったいどこに隠したのだろうか。

ウィズの口ぶりは、誰にも見つけられないことを確信しているようだった。

街には大きな図書館があるにゃ。そこの本の中に隠したにゃ。

 教えてもらった隠し場所は、とてもそうは思えなかった。

雪深くなってきたにゃ。……そろそろヴェルタが見えるにゃ。

 どこか寂しげにウィズはそう言った。せっかくの帰郷だというのに。

故郷・ヴェルタの名を本当につまらないもののように口にした。




雪降る町 ヴェルタ




story 図書館へ



 ヴェルタ――。

その街はしんしんと雪が降り続けていた。

街に着いた君とウィズはさっそく〈神託の指輪〉の隠し場所である図書館へ向かった。

その図書館は街のどの建物よりも巨大で、街のどこから見てもその姿は確認できた。

道に迷う心配はまるでない。と言ってもいいほどだ。

君は大きな構えの門を抜けて、図書館の中に入る。目の前は広間になっていた。

先には受付らしきものが見える。

君は広間を占有するように靴音を鳴らして、受付を目指し歩いた。

zあら?

 君の靴音に気がつくと、受付にいた女性は顔を上げた。


魔道士の方ね?ここはヴェルタ中央図書館。兼ヴェルタの魔道士ギルドよ。

私はキーラ。この図書館を管理しているわ。もちろんギルドマスターでもあるわ。

えーと、君は図書館に用があるのかしら、それともギルド?

 君はただ図書館に用があるとだけ答えた。

はい。ではギルドの紹介状を見せてもらえる?持っているでしょ?

 思わぬ言葉にポカンとする君を見て、キーラはすぐに理解する。

なるほど。知らなかったのね。ここの資料を閲覧するにはギルドの紹介状が必要なの。

年に何度かは君みたいに事情を知らない人が来ちゃうのよ。どうしましょうか?

 どうする、と言われてもどうすればいいのか君もわからない。

思わず、すがるような視線をウィズに送ってみるが……。

いつもなら君の足元にいるはずのウィズがいない。あわてて辺りを見回していると、

もしかしてあの猫のことを探してる?

 彼女が指さしたのは入口に近い窓辺だった。

ウィズは窓の下の、柔らかい光が射し込む場所で丸まっていた。

ご主人様が困っているのに、気楽なものね。で、どうする?

必要なら取り寄せることも可能だけど、手続きする?

 手続き、と聞いて君は躊躇する。

君がいまここにいることをギルドに知られてしまっていいものか。

深く悩むまでもなく、答えは出る。

そんなことをすればクォやアナスタシアが放ってはおかないだろう。

そう。じゃあ、やめておくのね。ごめんなさい。これも規則なの。

 君はキーラに礼を言ってから、ウィズの元へ向かった。


やっぱり駄目だったにゃ。そうなるだろうと思ったにゃ。

 やっぱり?妙な言い方だなと思い、君は改めてウィズに訊き直す。

だがウィズは君の後ろをー瞥すると、口をつぐみ、そっぽを向いてしまう。

後ろを見やると、ひとりの男が立っていた。


wあのー。あなた、魔道士ですよね。

 物腰の低い男の問いかけに、君は素直に首肯する。

wよかった。私は街で宿を経営している者ですが、至急頼みたい仕事があるんです。

ここのギルドマスターはちょっと規則に厳しい方で……。ですがいまは時間がなくて……。

 話の途中ではあったが、ウィズは立ち上って出口へと向かい始める。

図書館に入れない限り、ここにいても仕方がない、という意味なのだろう。

確かにそれもそうだと思い、君は宿の主人の話を聞いてあげることにした。

wおお!ありがとうございます!ではさっそく、案内しますね。



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 宿の主人の頼みとは、温泉付近に出現した魔物の退治であった。


wすいませんね。こっちは魔物が出たってだけで客足が遠のいてしまう客商売なんでねえ。

ー刻も早く魔物を退治しないと、大事になってしまいますからねえ。

 主人の話に相槌を打ちながら、君は次の場所に案内してもらう。

wキーラさんはいい人なんですけどね。融通が利かなんというか……。

 客商売ゆえの癖だろうか、宿の主人はこちらが聞いてもいないことを延々と話し続けた。

とはいえ、そのおかげで街の事が少しだけわかった。それからしばらく歩くと……。

wああ、ここです。さ、お願いしますよ。魔物という魔物は全部退治してください。

 言われるままに、君は仕事に取り掛かる。

どうやら紹介状なしでは図書館に入れない。

宿の主人が話すキーラの評判を聞くと、そう考えた方が良さそうだ。

ウィズはそのことを知っていたのかもしれない。

だから早々に諦めて、日向ぼっこなんてしていたのだ。

せめてー言欲しいな、と君は思った。


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wいやあ、ありがとうございました。これで問題なくお客様を迎えられます。

 温泉付近の魔物を全て退治し終わったのを確かめると、宿の主人はうれしそうに言った。

君は宿の主人に魔物退治を急いでいた理由を訊ねた。湯治客で賑わう雪の時期だからなのか、と。

wいいえ、雪は年中降っています。昔はそうじゃなかったんですが。

突然、雪が積もるようになりましてね。

 …………。

 突然、ウィズが勝手に歩き始めたので、君は主人と別れ、後を追いかけた。

どうしたんだろう?と君は思った。今日のウィズはいつもと違う。

そんな気がした。


 ***


 気づけば空は薄闇のベールをまとい、夜の装いを整えつつあった。

段々と夜気が辺りを支配し始める。雪降る街らしい厳しさを予感させるものだ。

こんなに寒いなら宿の主人に部屋を頼んだらよかった。

そう思い始めた矢先だった。

今日は私の家で過ごせばいいにゃ。

 思わぬー言に君は驚く。たしかにここはウィズの故郷だった。

家があるのは当たり前だ。だがウィズが言うと、なんとなく意外な言葉で、似合わない気がした。

何、変な顔してるにゃ。ぼーっとしてたら置いていくにゃ。



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さあ、着いたにゃ。

 君が案内されたのは、街の外れにある大きな樹を利用して作られた家だった。

街に建ち並ぶ他の家とは見た目からしてまったく違う。

ウィズは枝の上にある洞の中から鍵を取り出してくると君の前に置いた。

その鍵を拾い、君は家の扉を開ける。

ずいぶん留守にしていたから、たぶん部屋中埃まみれにゃ。

にゃは。心配ないにゃ。寒さをしのぐだけなら充分のはずにゃ。

 ウィズはそう言って、少しだけ開いた扉の隙間から中へ滑り込む。

それに続いた君が見た部屋は……。

にゃにゃ?

 そこは捨て置かれていた部屋とは思えなかった。

誰かの手が入っているように綺麗な部屋だった。

ウィズ自身もなぜか片付ている部屋を不思議そうに見ていた。

ウィズはひとしきり部屋を見て回ると、テーブルの上に飛び上がって言った。

まあ、いいにゃ。きれいならそれに越したことはないにゃ。

 楽観的な考えだが、深く考えた所で答えが出ないのも事実だ。

君もウィズに同意し、その部屋でしばらく過ごすことにした。

備えてあった薪を使い、暖炉に火をつける。じんわりと部屋に暖気がまわってゆくのが分かった。

時折、弾ける炎の中の薪を見ながら、君はいつ以来かのゆっくりとした時間の流れを感じる。

ウィズの故郷にやってきて、久しぶりに過ごす休息の時間。

もっと色んな話が聞けるとよかったのかもしれないが……。

むにゃ……。

 あいにくウィズは暖炉のそばに座り込むとすぐに寝息をたてはじめた。

かくいう君もソファの上に落とした腰は重く、瞼はそれ以上に重い。

頬にペチペチという柔らかい感触。

wキ……ミ……。キ……ミ。……キミ!

 突然、耳を襲う声と額にたてられた爪の刺激で君は目が覚める。

朝……?の割には空は暗い。というか真っ暗だ。

何寝ぼけてるにゃ。早く出発の準備をするにゃ。

 どこに?とまったく見当のつかない君はウィズに聞き返す。

どこって、図書館に決まっているにゃ。

 こんな時間だよ、と君は言う。ウィズはそれでもふふんと鼻を鳴らして、言いかえす。

こんな時間だからにゃ!そうじゃないと忍び込めないにゃ!

 忍び込む?……忍び込む!?と驚く君をよそにウィズは余裕の表情を見せる。

驚くことないにゃ。私は猫になってからよくいろんな家にお邪魔してるにゃ。

それと大差ないにゃ。

 猫が家に入り込むのと、人が入り込むのは訳が違う気が……。

と君は言いかかるが、方法がない以上仕方がないのかもしれないと思った。

何よりも、アナスタシアたちの動向が気になった。

彼女たちがすでに最後の宝珠に手をかけている今、少しでも時間を惜しんだ方がいい。

君はすぐさま外套を身にまとった。



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ほら、意外と簡単だったにゃ。

 図書館の床を軽快な足取りで進むウィズの姿はどことなく自慢げである。

たしかにいとも簡単に忍び込めたのは、ウィズのおかげではあったが……。

反面、自分の知らない所でのウィズの姿を知って、少しだけ不安な気持ちにもなってしまった。

いったいどこで何をやっているのやら……。

そんなことを考えている間に、ウィズは奥の扉の前に座り込んで、君を待っていた。

ここにゃ。ここの奥に大きな書庫があって、そこにある本の中に隠したにゃ。

 君はゆっくりと扉を開き、書庫の中に入る。もちろん滑り込むようにウィズも入る。

音を殺して扉を閉じると、君は明かりを灯すためカードに手をやる。

ふと妙な気配を感じる。その途端、君は気づいた。誰かいる?

書庫の景色がおかしい。書棚の連なりで造られた通路がどこまでも続いている。

常識ではありえない空間の広がりが書庫に生まれている。まるでそれは迷路のようである。

にゃにゃ!これは……まさか……。

 君はすぐさま背後の扉を開けようとするが、ビクともしない。

閉じ込められた!?

無断で入ったらこういうことになるとは知らなかったにゃ。にゃは、失敗にゃ。

 そんな軽く言うことじゃないよ……。と君は不満げに口にする。

こんな大掛かりな魔法の罠……。やはり貴重な蔵書を守るためだろうか。

やはりー筋縄ではいかないようだ。ふと書棚から書棚へと飛び移る影に君は気づいた。

本を守っている何かのようだった。

なんとか脱出する方法を見つけるためにも君は覚悟を決める。


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 追手の姿が見えなくなったのを確かめ、君はその場に立ち止まる。

乱れた息を整えるために、目を閉じ大きく深呼吸をする。

再び目を開いて、あたりを見ると、ウィズが床に落ちているー冊の本を開こうとしていた。

ちょっとこの本を開いてほしいにゃ。

 何の本かと思いながら、君は言われた通りに、本の表紙を開いてあげた。

「イヴァン・ナーシェフ著ヴェルタの5人兄弟」と1ページ目に記されている。

にゃは。懐かしいにゃ。子供の頃よく読んだ本にゃ。

 君はさらにページをめくる。そこには子供向けの平明な文章が並んでいた。

どうやら童話か民話の類のようだった。

もうちょっと先のページも見せてほしいにゃ。

 ウィズに言われるまま、ページを先に進めていく。

本にはヴェルタに住む5人の兄弟が力を合わせて妖精の種火を手に入れた話が記されていた。

物語自体は5つの章に分かれていて、それぞれ兄弟たちが活躍して困難を乗り越えるにゃ。

今読むと、なんてことない話だけど、子どもの頃はとても印象に残ったにゃ。

 物語の流れはこうだった――。

ヴェルタで暮らす5人の兄弟。

彼らは仲の良い兄弟として有名だった。ただし、欠点が多い兄弟としても――有名である。

長男は大ほら吹き。次男は臆病者。三男はのんびり屋。四男はずぼら。五男は少しましで心配性。

町の人たちは、彼らに温かく接しながらも、彼らの年老いた母親に同情していた。

そんなある日、兄弟の母親が病に倒れたにゃ。

そこで兄弟たちは、どんな病でも治す妖精の種火を探すことにしたにゃ。

 当然、町の人たちは彼らにそんなことができるわけがないと決めつけた。

けれども彼らはそんな言葉を気にとめず、母親のために、妖精の種火を探す旅に出た。

欠点だらけの兄弟が旅に出るにゃ。子供の時はそこがワクワクしたにゃ。

 最初に兄弟が訪れたのは、もうもうと白い湯気が立ち込める洞窟だった。

視界が悪く、兄弟たちは先に進むごとに体を壁に打ち付け、怪我をした。

それを見ていた臆病者の次男はこの先何があるかわからないと言ってすごく怖がったにゃ。

臆病者の次男は、傷ついたらその傷を癒えるのを待って、ゆっくり進もうと提案したにゃ。

 次男のその提案のおかげで、兄弟たちが洞窟を抜ける時、兄弟たちはまったくの無傷だった。

兄弟たちはこうやってお互いの欠点を活かして、旅を進めていくにゃ。

 兄弟たちがふたつ目に訪れたのは、大きな河だった。

妖精たちに会うには、その河を渡って向こう岸に行かなければいけなかった。だが……。

その河にはすぐに怒るかいぶつが住んでいて、兄弟たちの邪魔をした。

だから泳いで渡るわけにいかなかった。

でも今度は、いつも空ばかり見ているのんぴり者の三男が、空に光の衣が浮かんだ時だけは、

河に氷が張って、向こう岸に渡れることに気づくにゃ。

 兄弟たちは、かいぶつを怒らせないように素早く氷の上を渡り、事なきを得た。

次に兄弟たちは緑の豊かな町に訪れた。

その町では、三匹のおおかみが朝、昼、晩と交代しながら、町を荒らしていた。

朝にー匹追い払っても、昼と夜にはまた別のおおかみがやってきて、町を荒らした。

町の人たちはとても困っていたけど、ずぼらな四男は町の人に怠けることを提案するにゃ。

朝のおおかみも、昼のおおかみも追い払わずに、放っておくことにしたにゃ。

 すると夕方になるころに、朝、昼、夜の三匹のおおかみが町に揃ったにゃ。

町の人たちは、三匹のおおかみをー網打尽にして三匹同時に退治することに成功した。

兄弟たちは町の人に感謝されながら、次の場所に向かったにゃ。

 そして兄弟たちは、猛吹雪の雪山にたどり着いた。

一面の猛吹雪に、少しでも踏み外せば滑落してしまう厳しい山道が兄弟たちの行く手を阻んだ。

でも、心配性の末弟がみんなをー本の綱で繋ぐことを提案したにゃ。

 その綱のおかげで、誰かが道を踏み外しても、九死にー生を得ることができた。

そして兄弟たちは、見事に猛吹雪の雪山を乗り越えた。

4つの困難を乗り越えて、兄弟たちは妖精が種火を守る迷宮にやってきたにゃ。

 そこは紙で出来た壁に、神々しい蔦の這った場所だった。

種火の守り手である妖精たちは、兄弟たちに言った。

伝説の5人の賢者でなければ、この迷宮を通すことも、種火を分け与えることもできない、と。

そこで、大ぼら吹きの長男が自分たちはその伝説の賢者だと嘘をついたにゃ。

 兄弟たちは迷宮を抜けるまで、守り手たちに、自分たちが伝説の賢者であると信じ込ませ、

見事に迷宮を抜けることができた。

そうして、兄弟たちは妖精の種火をヴェルタに持って帰り、母親の病を治したにゃ。

ヴェルタの温泉が万病に効くといわれているのは、妖精の種火のおかげにゃ。

といってもそれは童話の中の話にゃ。ただの言い伝えにゃ。

大事なのは、人の短所も場合によっては役に立つってことにゃ。

だから、短所も長所もまとめて、その人の個性だと思ってあげるにゃ。

 君はなるほど、と思い、本を閉じた。と同時に現実が君の方に手をかける。

追手の気配がだんだんと近づいてくる。

そうだったにゃ……こんなことしている場合じゃなかったにゃ。

 そうだね、と君は返し、本を本棚に戻した。

寄り道するのは、私たちの悪い癖にゃ。

 その欠点が何かの役に立てばいいんだけど、と君は言った。

お話とは違うから、あまり期待できないにゃ。

 と、君たちは急いでその場を後にした。

ただ――この5人の兄弟の話は、なぜか君の記憶に残った。


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いちいち戦っていたらキリがないにゃ。

 ウィズの言うとおり、本を守る精霊達は無尽蔵に本棚の隙間、本の隙間から湧き出てくる。

紙のように薄くひらひらと舞い、襲いかかってくる彼らのー体ー体の強さはそれほどではない。

だが、ー枚の紙を貫くのは容易くても、何重にも重ねられた紙がやがて刃を止めてしまうように、

彼らは分厚いー巻の大著の如く結集して君を攻め立てた。

ここはひとまず逃げるにゃ。

 と、逃げ出した所で周囲は本に囲まれた迷宮のような通廊。

しかも、周囲の書棚は君の行く手を阻むように移動して新たな迷路を創りだしてゆき、

君は思うように逃げることもままならない。

ここは用意周到に準備された罠のまっただ中である。

相変わらず手の込んだことが好きにゃ。まったく。

 まるで知っているふうに言うな、と君は思った。ただ、いまはそれどころではない。

君は目の前の敵を退けながら、ウィズにどうすればこの魔法を解除できるかを訊ねた。

普通の魔法と同じにゃ。魔法を使っている本人を倒せばいいにゃ。

 どこにいるの?と君は聞き返すが……。

そんなこと私は知らないにゃ。

 まあ、そうだよね。と君はウィズに同意する。

そう言っている間にも、君の進む道を閉ざすように書棚が地を滑ってくる。

にゃ!また行き止まりにゃ!

 後ろを振り返ると、紙葉の追撃者たちはものすごい勢いで君に迫ってきている。

君はウィズに何かいい方法がないかを聞いてみる。答えは予想通りである。

もちろんないにゃ。

 君の方でももちろん、そんなものはない。とすればやることは単純である。


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 君は立ちはだかる本を守る精霊たちと戦いながら書庫を進んでいた。

wにゃにゃ!?

 だが、誘導されるように追い立てられ、たどり着いたのは行き止まり。

どうやら彼らの目的は最初から君をここに追い込むことだったようだ。

周囲は完全に取り囲まれてしまったようだ。その数は今まで以上である。

精霊たちが君に光を照射する。確認しているようだ。

どうすれば君を取り押さえられるか……。そんなことを。

宙を舞う紙葉たちはやがてーつに結集していく。そして、巨大な塊を成していった。

どうやらここで力夕をつける気らしい。

塊は、君めがけて突撃を開始してくる。


 ***

 BOSS:

 ***


wよくやったにゃ!これで窮地は脱したにゃ!

 襲いかかってきた紙葉の塊を吹き飛ぱすと、彼らはわずかな残像を残し、消えていった。

wこれだけ倒したんだから、しばらくは向こうも立ち直れないにゃ。

この間になんとか脱出する方法を考えるにゃ。

 ウィズとそんなことを話していると、背後の突き当りにある書棚に影がかかった。

kそこにいるのは誰?

 君の前に現れたのは、昼間にここの受付で出会ったキーラだった。

kキミ……。女の人の声が聞こえたと思ったんだけど……。

 彼女は不思議そうに君の周りを見渡す。ふと黒猫の姿を見つけるが……。

k気のせいだったみたいね。

 と、再び君に視線を戻した。それは咎めるような目であった。

k……ところでキミ、ここで何しているの?

 当然、君には答える言葉などない。

k侵入してまで、ここの蔵書で読みたかったものってなにかしら?

 唯ー、答えられるのは……真実だけ。

しかし、それは荒唐無稽な大嘘にしか聞こえないような真実。

猫になってしまったウィズ……零世界から帰還したアナスタシア。そんな話の連続。

k理由を聞かせて。何も語りたくないのなら……それでもいいけど。

 それは強張る君の体に、染みわたるような声だった。

話してみよう……君は自然とそう思えた。


 ***


kそういうことか……。ウィズは相変わらずね。

 君はキーラに、事の次第を話した。いくつかの事実はもちろん伏せたままだ。

師匠であるウィズに言われ、大事な物を隠した書物を探しに来た。

それは世界を守る為に必要なものだと、ウィズは言っていた、と。

wにゃお……。

 ウィズはいまも別の場所で奔走しているとだけ伝えた。

kいいわ。案内してあげる。どの本なのかはウィズに聞いているんでしょ。

 と、彼女はカードをひと吹きし、書庫にかけられた魔法を解いた。

ー瞬にしてその場所はごく普通の、書棚の並ぶ書庫に姿を変えた。

色々な魔法は見慣れているとはいえ、さすがにその光景には驚いてしまう。

彼女もまたギルドマスターに選ばれるほどの魔道士なのだ。

と、君は改めて思った。

w(どの本かはちゃんと覚えているにゃ。彼女について行くにゃ。)

 君の肩に飛び乗って、ウィズはささやいた。


 見つけ出した本は、見た目には何の変哲もない本だ。ただ少しだけ妙な違和感はある。

頁をひもといてみても何もない。

君はてっきり本の中に指輪を埋め込んでいるのだと思っていたのだが……。

そういうワケでもなかった。ただ、ウィズは……。

wにゃは。ちゃんと本の中に隠したにゃ。

 いつものいたずらっぽい笑顔を見せて、そう言った。



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「本の中に隠したにゃ!」

 と、ウィズは言うものの目の前にあるのは変わり映えのしない埃の被ったー冊の魔法指南書。

ウィズの家へと持ち帰り、しばらくその本と睨みあいを続けた。

けれども、ウィズの真意は分からないまま、やがて疲れに身を任せてしまった。


翌朝、ウィズはようやく答えを教えてくれた。

wこんなこともわからないとは、情けない弟子にゃ。

 自慢げな様子で言うところを見ると、こっちが分からないのを楽しんでいる。

そんなところだろう、と君は思った。

w本の中に隠したというのは本当にゃ。ただし、本の中に知識として隠したにゃ。

 そう言われても、君には何の事だかさっぱりわからなかった。

本の知識として?読めば〈神託の指輪〉が出てくるのだろうか?

それすらもわからない。

w物質を記憶や知識の形にしてくれる精霊の力を借りて、指輪を本に封印したにゃ。

解除するには、私が魔力を込めて合図を送るだけにゃ。

 なるほど、まだまだ知らない魔法があるんだな、と君は思った。

ふとあることに気がついた。おそらくウィズも同じことに気づいたのだろう。

君とウィズは同時に声を上げる。

wあっ!……ダメにゃ、私はいま魔力がないにゃ。

 自分では無理なのか、と君は訊いた。

w私と精霊との契約で作った封印にゃ。キミがいくら魔力を持っていてもそれは無理にゃ。

 君とウィズが頭を抱えていると、家の扉を叩く音がした。扉を開くと……。

kやっぱりキミね。師匠から家の場所まで聞いていたのね。

 君は前夜に受けた恩もあったので、素直にキーラを招き入れた。

振り返るとウィズは暖炉の前で寝たふりをしていた。

キーラ。彼女はウィズを知っているようなのにウィズはキーラを避けている。

それは君の目にも明らかだった

ウィズはヴェルタに来てから、ずっと様子が変だ。

どこか消極的な感じがした。

kこの本に何か書いていた?目当ての物の場所とか。

 キーラは何気なく〈神託の指輪〉が封印された本を手に取る。

kあれ、この本……。

 怪冴そうに何度か本を眺めるキーラ。彼女は君を見て言った。

魔法がかけられている?しかも……封印ね。

 君はこくりと肯いた。

kその様子だと、困っているみたいね。

 キーラはじっと君の眼を見ていた。彼女の視線はこちらの全てを見透かしているようだった。

kなんなら私が手伝ってあげようか?もしよければだけど……。

 彼女の申し出は唐突に聞こえた。なぜ彼女はこんなに良くしてくれるのだろうか。

そんなふうに感じてしまうほどだった。

とはいえ、彼女の申し出を断る理由はなかった。そして、それ以外の方法もなかった。



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 君はキーラが封印を解除の準備を整える間、街の裏にある山へ入っていた。

少なくなった薪を手に入れるためである。

wもうそれくらいでいいにゃ。そんなに長居するわけじゃないから、充分足りるにゃ。

 相変わらず、どこかとげのある言い方だった。

この街が嫌いなのか、と君はウィズに訊ねた。

それは何度も訊ねようと思っていたことだ。

先を歩くウィズは立ち止まり、君を見返した。

w嫌いにゃ。

 ウィズははっきりとそう言った。

wあまりいい思い出がないにゃ。それだけにゃ。

 キーラについても。

w……昔の友だちにゃ。

 ウィズのどこか突き放した言い方に君は思わず言い返してしまう。

あんなに良くしてくれるのに……。と。

君の反応を見てウィズは少し声の調子を和らげて続けた。

言い過ぎたと思ったのだろう。

wにゃは。心配ないにゃ。実は久しぶりで何を話せばいいかわからないだけにゃ。

それにいまの姿はちょっと恥ずかしいにゃ。

 そうだね、と君は首肯した。そして少しだけ安心した。

たしかに何かを引きずっているけど、ウィズはウィズだ。

誰かを恨んだり、裏切ったりはしない。……出来ない。

そのことは自分が良く知っている。

ウィズを信じよう、と君は思い直し、再びキーラの待つウィズの家へと向かった。


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story 険しい雪嶺



 ウィズの家に到着すると、中ではキーラが見た事もない魔法陣を作っていた。

kあ、おかえりなさい。ちょうど準備が終わったところよ。

 これは?と君は訊いた。

kもちろん、封印を解除するためのものよ。図書館に忍び込んだ時に見た魔法を覚えている?

たしか部屋に入った途端、罠のように魔法が作動した。

kあの魔法の罠は私が作ったの。戦いとかは苦手だけどああいうのは得意なのよ。

w(そういえば子供の頃から妙に手の込んだことが得意だったにゃ)

で、封印というのはあれと似たような仕組みがあるの。

調べてみたけど何とかなりそうよ。ウィズらしい大雑把な封印の仕方だしね。

 言われているよ、と君はウィズに視線を送る。

ウィズはむくれたのか、目も合わせずソファーに飛び乗った。

k黒猫さんは無関心みたいね。

 むしろ関心があり過ぎて、ああなった……とは言えずに君はキーラの言葉に肯いた。

kそれじゃ、始めましょうか。

 キーラが本に手をかざすと、ふたつの魔方陣が浮かび上がり、歯車のように互いの歯を探る。

やがてふたつの魔方陣の動きが同調する。

k開くわよ。

 何も変わった様子はなかった。変わらずにウィズの家の中だった。

kよし。想定通りの反応ね。

 訳もわからずその言葉を聞いていると、背後で物音がする。

扉が開いたのだ。誰か来た?違う。誰かが出ていったのだ。

足音でそれがわかる。振り返り、開け放たれたままの扉のむこうを見て……。

君は少しの間、声を出すことができなかった。



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