寒江独釣(2022冬)
概要
レア度 | 画像 | マス |
---|---|---|
効果
7510
入手方法
厳さま2022冬限定建築
物語
虎さんは観星台の建設を終えると、家に帰り、母親とのんびりとした日々を送っていた。虎さんの母親は長生きで、すでに傘寿を越えていた。親孝行をするべく、虎さんが官を辞して家に帰り、母に尽くしていることは、町中で美談になっていた。家で暮らす老人にとって、冬とは、最もつらい時期である。老いた母が薬を飲んで苦しんでいる姿を見て、虎さんは胸が苦しくなった。心を落ち着かせようと、虎さんは小川のほとりの亭へと赴いた。六十耳順の年を越えた今となって、虎さんの心に波風を立てるような出来事など最早ほとんど無いが、母親のこととなれば別だった。冬の雪が、亭に、石上の青松に、そして釣り竿に降り積もっていく。小川がさらさらと流れている。虎さんは釣り竿の雪を払い、座りこんで釣りを始めた。水の中には魚がたくさんいるようだったが、釣り針にはなかなか掛かってくれなかった。そこに、杖をついた老母が、孫の手を借りて、一歩一歩、亭の中へ入って来た。「あんたの父さんも、春夏秋冬を問わず、この亭で釣りをするのが好きだったわ。」虎さんはあわてて釣り竿を置いて立ち上がり、心配そうに母に話しかけた。「母さん、こんな寒いところにどうして!お身体に障ります……」「あたしゃ、珂さんが昔釣りをしていた場所をもう一度見たかっただけよ。」老母は、さっきまで虎さんが坐っていた場所を杖で指した。「あの時、あんたの父さんはここに座ってあたしに話したんだ。この子は『虎』と名付けよう、虎坊だ、虎の子のように威勢がいい、子供らしくて良いじゃないか、ってね。」老母は笑い、虎さんも笑った。それでも彼は、老母の手を引いて家の中へ連れ戻った。虎さんは、長椅子に横たわる母親が、またうとうとと眠ってしまうのをじっと見つめていた。「母さん、どうかお身体を大切に。私を虎坊と呼んでくれるのは、もうあなたしかいませんから。」虎さんが暖炉のそばで呟いた。亭の下の小川では、魚が餌にかかっていた。