第四章「神の使いが背負うもの」

一族の古い因縁が波のように押し寄せてくる。シンジはトウ家の惨劇と向き合うことを強いられ、七人の兄たち、ニャンニャンの禁忌、神の使いの罪……すべてが、もはや隠しきれなくなった。
CARACTER
登場人物
| キャラ名 | 概要 |
|---|---|
![]() | トウ家に起きている災厄の責任をシンジに求める男。一族を救うためには彼女を犠牲にするしかないと考えている。 |
MAJO
| キャラ名 | 概要 |
|---|---|
![]() | MAJOに所属するウサギ耳の魔女。移動中の列車を追跡・監視しており、エントロピーに襲われた主人公たちを援護する。今回の任務を担当する観測者がアオサギであることや、一行の目的地についても把握している。 |
STORY
俺はマロ、チンと共に、ニュースで流れていたビルへ向かった。
屋上へたどり着くと、そこではすでに、シンジがトウ家を名乗る者たちと対峙していた。

男はシンジを責め立てる。
トウ家には奇妙な病が蔓延し、「ニャンニャン」と呼ばれる神の怒りを鎮めるため、毎年家族を一人、供え物として捧げているという。
そして、それは本来「神の使い」であるシンジが背負うべき役目なのだと。
「お前には死んでもらって、一族に安寧をもたらす!」
神の使い?
ニャンニャン?
何を言っているのか、俺にはさっぱり分からない。
「……交渉決裂だ」
そう言って男は、青い薬液の入った注射器を取り出した。
「ブルーレディ!」
「バカ、そんなもん使うな!」
シンジの制止も聞かず、男は自らの首へ薬を打ち込んだ。

身体は膨れ上がり、青く光る筋が浮かび、やがて人間とは呼べない姿へ変わっていく。
「家族……団結……!」
異形と化した男は、他のトウ家の家族たちをも食べ始めた。
「あらあら。完全に狂ってしまったようね。」
チンが呆れているのもつかの間、男は赤ん坊を抱いたトウ家の女に襲い掛かった。
「あっ…あぁ…」
シンジが女を守るため、異形の前に立ちはだかる。
「アンタの言う団結って、他の家族を犠牲にすることか……?」
暴走した異形が、屋上の床を殴りつける。
その衝撃で、トウ家の女が抱いていた赤ん坊が屋上から放り出された。
「チッ!」
シンジは一瞬で男の首を斬り落とすと、そのまま赤ん坊をめがけて屋上から飛び降りた。

男の首が宙に舞い、シンジの体はビルの向こう側へ消え落ちていく。
俺は咄嗟に手を伸ばし、ギリギリの所で、シンジの腕を掴んだ。
あと一歩遅れていたら、シンジは赤ん坊と共に、命を失っていただろう。
シンジも、そして赤ん坊も無事なようだ。
そこへ、現れたシェンジが、静かに告げた。
「説明してもらいましょうか、シンジ。それとも、トウ・アイモンと呼ぶべきでしょうか?」
――トウ・アイモン。
ニュースで呼ばれていた名前。
それは、シンジのことだった。

「お兄ちゃんたち全員見つけた、アタシの勝ち!」
幼いトウ・アイモンは、七色のウサギの姿をした7人の兄たちと、かくれんぼをしていた。
「アタシはトウ家の『神の使い』トウ・アイモンなんだから、そんなに臆病じゃないもん!」
見つけた、見つからない。
そんなことで言い争いながら、兄たちは「レインボー戦隊」と名乗り、揃ってポーズを決める。
アイモンも負けじと言い返す。
兄たちは互いにからかい合い、怖がる兄を励まし、くだらないことで笑っていた。
「あの頃は、ずっと楽しかったのに、どうしてあんなことになったんだ……」
楽しかったはずの記憶が、闇と血に侵されていく。
「全部、あいつらが悪いんだ……」

俺たちはまだ、あの屋上にいた。
シンジはシェンジから事情を話すよう求められていたのだ。
ただ、シンジは口を閉ざしたまま、何も話そうとはしない。
「マロ、シンジを牢屋へ」
説明を拒み続けた結果、シンジはMAJO本部の牢へ収容されることになった。
その時、俺はもう一つ意外な事実を知った。
マロはかつて、魔女ではなく観測者だったという。
傷を負ったことで魔女へ転向し、かつては「予言」に近い力を持っていたらしい。
「……悪いな、マロ。」
一度は反対したマロだったが、結局、シンジはマロの手によって連行されてしまうのだった。
夜。
俺はMAJO本部を歩き回り、ようやくシンジが閉じ込められている牢を見つけた。

トウ家の男が言っていたことを聞きたかった。
だがシンジは話そうとしない。
「アンタには関係ない。アンタなんかにアタシの何がわかるんだ?」
拒み続けるシンジに俺は言った。
「俺もかつて、家族に刃を向けたことがあるんだ」
「……!」
そして俺は、十五年前の「起源事件」について話し始めた。
大規模な超自然災害によって、多くの人間が犠牲になった港。
俺と父さんも、そこにいた。
世間では、殺人鬼ホー・ヤンエンが高エネルギー兵器を操り、事件を引き起こしたと報じられた。
だが、俺があの日見た父さんは違った。
混乱の中で人々を避難させ、見ず知らずの人間を助けようとして、自らも重傷を負っていた。

俺は、政府がMAJOと魔女の任務失敗を押しつけるため、父さんをスケープゴートにしたと思っている。
そして、そのための証人にされたのが――幼かった俺だった。
法廷に立たされ、大人たちの目に囲まれた。
何を言えばいいのか分からなかった。
ただ一つ、奴らが望む言葉を口にしなければ、自分も消される。
そう感じた。
「父さんが殺したんだ……」
俺は、自分の父親を指さしてそう証言した。
それ以来、あの日の後悔は消えない。
だからシンジの事情が分かるなどとは言えない。
それでも、家族に刃を向けた人間の惨めさなら、少しくらい分かる。
俺はシンジに言った。
「お前、実家に戻ってすべてをぶち壊したいんだろ?俺が手伝ってやるよ」
シンジは呆れながらも、最後には俺の父について言った。
「アンタの親父さんのことは、アンタのせいじゃない。自分を追い込みすぎるな」
こいつに人を気遣われる日が来るとは思わなかった。
シンジは牢の中にも刃物を隠し持っていた。
だが今の力では、格子を斬ることができない。
ならば、観測者である俺が力を引き出せばいい。
「俺は、脅迫に屈して……お前のナラティブ力を引き出し……お前が格子を斬り裂き、ここを抜け出すのを手伝わされる……といったところか?」
「……死ね」

シンジは格子越しに、俺へ口づけした。
その直後、彼女の刃が牢の格子を斬り裂く。
俺たちは脱走した。
だが当然、すぐにマロに見つかってしまった。
「マロ、アタシにはどうしても実家に戻らなきゃいけない用がある。行かせろ……頼む」
それでもマロは、MAJOの規定を理由に首を縦には振らない。
だが騒ぎを聞きつけた友萌が現れ、シンジを行かせてほしいと頼む。
さらにペトラ、ペーシェットまで次々と加わった。
いつの間にか、シンジのために魔女たちが集まっていた。
「仲間のために大集合なんて、まるで少年漫画の展開だ……」
そう言って、最後にはマロまでもが折れた。
長い列車の旅が始まった。
窓の外には朝日が昇り始めている。
ペーシェットが用意した駅弁を食べながら、騒がしい友萌をシンジが怒鳴りつける。
そんな中、ペトラが昨日「水晶の館」で拾った赤い糸を取り出した。
列車が走り始めてから、何かに反応しているという。
「……やっぱり。昨日の事件も、トウ家の仕業だったってわけか……」
シンジは赤い糸を預かると、ようやく自分の家について話し始めた。

「アンタはもうアタシの本名を知ってる。アタシの姓はトウ、名前はトウ・アイモンだ」
トウ家は古くから巨大な力を持ち、政治、軍事、民生――この国のあらゆる場所に影響を及ぼしてきた。
その力の根源にあるのが、トウ家が仕える神――ニャンニャンだった。
そしてシンジは本家の跡継ぎとして、「神の使い」の身分を継承した。
ニャンニャンの代行者として、家族の和を保つための役目を担ってきたという。
かつてのシンジは、その力を誇りに思っていた。
だが、その裏で何が犠牲になっているのかまでは知らなかった。
「ニャンニャンは血縁を重んじる。そのために、親族たちはアタシの七人の兄、それに母親の命を奪ったんだ」
そしてシンジ自身も、家族の血を流していた。
「アタシはこの手で叔母さんと叔父さんの体にナイフを突き立てた」
それも「神の使い」として、ルールに従った結果だったという。
だが皮肉にも、その行為はニャンニャンの「血縁を殺めてはならない」という禁忌に触れた。
「あの日から、ニャンニャンは徐々に堕落し、歪んだ呪いがトウ家全体に広がっていった」
まだ、すべてを理解できたわけではない。
だが、今回やるべきことだけは分かる。
「そのニャンニャンだか何だか知らん邪神をぶち殺して、すべてを終わらせる。そうだろ?」
「……アオサギ……」
その時だった。
大量のエントロピーの気配が、列車へ近づいてくる。
「どうやら、アタシの実家帰りを歓迎してくれる連中がいるみたいだな!」
そして突然、見知らぬ女が現れた。
「長官! 支援します!」

列車内は、あっという間に大量のエントロピーで埋め尽くされた。だが、俺たちは見知らぬ魔女の援護を受けながら、どうにかエントロピーの群れを退けた。
「長官、よろしくお願いします!」
彼女のコードネームはアリス。彼女はなぜか、俺が今回の任務を担当する観測者――アオサギであることを知っていた。
この列車を追跡し、監視していたらしく、俺たちがシンジの実家へ向かっていることも、すでに承知していた。
アリスはシンジを見る。
「それで、こちらの方が……シンジさん……」
「ん? どうした?」
「いえ……何でもありません」
その反応の意味は、俺には分からない。
戦いの影響で、電車は完全にストップしてしまった。
だが目的地は、駅からそう遠くないという。
「まずはそこへ向かって、状況を整理しましょう」
こうして俺たちはアリスと合流し、シンジの実家へ向かうことになった。
BOSS

| 推奨戦力 | 106600 | ||
|---|---|---|---|
| HP | 410400 |



