第五章「七人の怨念」

トウ家の古い屋敷は怨霊の織と化した。亡者たちが一歩一歩と迫り来る。埋められ、無視され、口を塞がれてきた過去が、ついに当事者たちに牙を剥く。
CARACTER
登場人物
| キャラ名 | 概要 |
|---|---|
| イレン | アリスの先輩の魔女。周辺で起きた異変により殉職した先輩の一人。エントロピーの残骸から、彼女が身につけていたアヤメ模様のブローチが見つかる。 |
| シンジの母 | 7人の子を身ごもるも、すべてトウ家によって意図的に流産させられたことを知り、母であるシンジの祖母を責める。回想の中で祖母に刃を向ける。 |
| シンジの祖母 | トウ家とニャンニャンのため、術を使って娘の7人の子を流産させたと母から責められている。本人は「トウ家のために、やむを得なかった」と語る。 |
STORY
列車を降りた俺たちは、アリスの案内で夜明け前の山道を進んだ。
改めて名乗ったアリスは、何年もこの一帯を守っているという。
だが数年前から周辺は高危険地域に指定され、住民も避難。近くの駅まで封鎖されていた。
「他の魔女はどこにいるんだ?」
俺の問いに、アリスは俯いた。
「先輩方は……全員、殉職されたんです」

かつては多くのベテラン魔女がいた。
しかし古い屋敷の状況が突然悪化し、大量のエントロピーが出現。先輩たちはアリスを守るために命を落としたという。
それほどの事態なのに、MAJOから応援は来なかった。
アリス自身も、それ以降はほとんど身を隠してやり過ごし、本部から人員が来るのを待ち続けていたという。だが、誰も来なかった。
本部は人手不足だったのか。それとも、この無人地帯で起きていることを隠していたのか。
俺には分からない。
「無関係な人間があと何人犠牲にならなきゃいけないんだ!」
苛立ったシンジは、一人で実家へ向かってしまう。
俺たちは何度も襲ってくるエントロピーを退けながら後を追った。
途中、倒したエントロピーの残骸から、アヤメ模様の壊れたブローチが現れた。
「……イレン先輩のものです」
アリスの先輩が持っていたものらしい。
友萌は、先ほどのエントロピーがイレンを捕食していた可能性を口にする。
ブローチを握り締めたアリスは、小さく漏らした。
「あの場所さえなければ……トウ家さえなければ……」
聞き返すと、彼女は「なんでもない」と首を振った。
やがて俺たちは、赤い提灯が並ぶトウ家の屋敷へたどり着いた。
だが屋敷の前には、見えない壁がある。
これまで他の魔女たちも突破を試みたが、どうしても入れなかったという。
シンジは迷わず壁へ踏み込んだ。

「やっぱりな。これはトウ家の者しか通れない結界だ」
そのまま一人で屋敷へ入っていくシンジ。
冗談じゃない。
ここまで来て、あいつだけ行かせられるか。
しかし、俺達にはこの結界を通る術がない。
いったいどうしたら……。
俺は考えた挙句、結界に向かって口走った。
「俺はシンジの、か、彼氏で、今日は一緒に挨拶に来たんです」
一気にざわつく魔女たち。
だが――

通れてしまった。
どういう理屈なのかは考えたくない。
屋敷へ入り、俺はシンジと合流した。
「ぶっちゃけて、この屋敷はお化け屋敷だ……トウ家の幽霊しかいない」
子どもの頃から存在していたらしいが、今は以前と様子が違うという。
しかも、屋敷には独特の「家のルール」があり、逆らえば霊たちから容赦なく制裁される。
俺が彼氏を名乗って入ったせいで、霊からは完全にシンジの恋人扱いだ。

途中、シンジは床に落ちていた赤い半月型のオブジェを拾い上げ「兄さん……」と呟いた。
何に使うものなのか、この時の俺にはまだ分からなかった。
俺たちが探しているのは、ニャンニャンを祀る場所――より正確には、ニャンニャンそのものだ。
ところがシンジは、もうニャンニャンの気配を感じないという。
代わりに、何かがこの屋敷に居座り、ずっとシンジを待っている。
そんな感覚があるらしい。
霊たちに招かれて食堂へ入ると、巨大な円卓には豪華な料理が並んでいた。

だがシンジによれば、すべて幻覚だ。
食べれば霊たちを「家族」だと思い込み、二度とここから出られなくなる。
シンジはニャンニャンの神像の場所を問いただした。
「ニャンニャンは邪神に堕ちた。浄化しなきゃならない」
その言葉に、霊たちは激怒する。
さらに彼らはシンジを、
「自分の産みの母親を殺した子」
と罵った。
シンジは答える代わりに、円卓をひっくり返した。
豪華な料理は床へ落ちる前に、黒い泥へと変わった。
戦いのあと、屋敷の奥から少年の声が聞こえた。
「……アイモン」
シンジの顔色が変わる。
「……あれは二番目の兄さんの声……」
あり得ないと言いながらも、シンジは声を追って走り出す。
俺も追ったが、気づけば青白い腕に囲まれていた。
罠だった。

血の海に倒れた祖母。
その前に、刃物を手にしたシンジの母が立っている。
「七人!七人の子どもよ!七回も身ごもって……全部あなたたちが計画して流産させたの!?」
母は祖母を責め続ける。
七度の妊娠。
生まれるはずだった七人の子ども。
母は、それらがトウ家によって意図的に流産させられ、祖母が術を使って子どもたちを殺したのだと責める。
「お母さん、やめて!」

シンジの叫びと共に、その光景は途切れた。
目を覚ますと、俺とシンジは屋敷の中で捕らえられていた。
シンジは、自分が兄たちの声に釣られたことを悔やむ。
その後、シンジは自分の私室で何かを必死に探し始めた。
「アタシの兄さんたちを呼び出せるものだ」
シンジは一つ確信していた。
ずっと自分をこの屋敷へ引き戻そうとしていたもの。
それはニャンニャンではない。
「アタシの兄さんたちだ……生まれる機会すらもらえなかった、あの七人の兄さんたち」
兄たちを呼び出せば、なぜ自分をここへ引き寄せたのか分かるかもしれない。
必要なのは、子どもの頃に兄たちと決めた約束に使う「ポエ」。
一つは先ほどシンジが拾っていた。
そしてもう一つは、俺が倉庫で偶然拾っていた。
「よくやった」
珍しく褒められた。
二つのポエを使い、兄たちを呼び出す。

だが現れたのは、シンジの記憶にある兄たちではなかった。
床に紫色の亀裂が走り、複数の顔を持つ黒い異形が姿を現す。
「アンタたちは……こんな風になるはずじゃなかった……」
シンジの声が揺れる。
「全部アタシのせいだ、アタシさえいなければ──」
「シンジ、集中しろ。あいつらはもうお前の記憶の中にいる兄貴じゃない」
「うるさい、そんなことわかってる!」
俺たちは、変わり果てた七人の兄たちと向き合うことになった。
BOSS

| 推奨戦力 | |||
|---|---|---|---|
| HP |

