【黒ウィズ】アルティメットガールズ Story1
目次
story1 魔道士たちの戦い
手紙に書かれていた文字を読み上げた瞬間、君とウィズは見知らぬ地に立っていた。
活気に満ちた人々の声、賑わう街並み……どこか風情のある空気感。
君は首を傾げる。ここがどこかなんてわかるわけがない。
「ようこそ大魔道士様。あなたは大会の参加資格を得ました」
これだけしか書かれていない手紙。
あまりにも突然のことに、困惑を隠しきれずにいた。
味わいのある街を見ながら、君はどうしよう、と呟いた。
「おお、魔道士様じゃねえか!こいつ食って頑ってくんな!」
歩き始めた途端、見知らぬ人に呼び止められ、挙句、果物を投げ渡された。
そしてそういうことをする人は、一人ではなく……。
いつの間にか君は、手では抱えきれないほどの食料や衣類を受け取っていた。
君はもちろん、わからない、と言う。
そもそも頑張って、と皆が皆言っていたけれど、どういうことだろうか。
―ふと、前方を見ると小さな人影が近づいてくるのが見える。
慌ててその人影を避ける。
そうだ。わけがわからないまま歩いていても、手荷物が増えるばかり……。
ここがどこかも理解していないのに、このままじゃまずい……。
君は、ウィズが言うように思い切って通り過ぎて行く女性に声をかけた。
訝しげに眇めるような眼差しを向けられるが、君は臆することなく問いかける。
この場所は?街のお祭り騒ぎはいったい……?
まだまだ訊きたいことはあったけど、まずは自分の置かれた立場を理解したかった。
彼女の警戒は解けていない。
……どころか、素っ頓狂な質問をしてしまったようで、その視線はより冷ややかになっている。
君は自分の名前を名乗り、ウィズの紹介もした。
誤魔化すように、この土地に来たのは初めてで、と付け加える。
ミステリアスな空気を醸す少女は、おもねる様子もなくさらりと言い放った。
君の肩に乗ったウィズが、囁きかけてくる。
君にしか聞こえないほど小さな声だったのに、彼女は驚く様子もなく猫が喋ることを受け入れた。
ただそのおかげか、エリスと名乗る少女の警戒心が幾分和らいだように思えた。
君は言われるがまま、エリスが指さした方角に目を向け――
ウィズと同じく驚愕の声を上げた。
箒に乗った少女と屋根を駆ける少女が、互いに極大の魔法をぶつけあっている。
それは爆炎であったり、滝のような水であったりと様々だが……
信じられないほどの歓声が上がっている。
何が始まってるの?と君は尋ねた。
エリスのその言葉で、君はさらに混乱してしまうのだった。
超魔道列伝☆
アルティメットガールズ
見知らぬ土地、見知らぬ生活、見知らぬ娯楽。
そして、グリモワールグランプリ……。
世界各地の大魔道士が集い、その年の1番を決める大会。
魔法――この地では魔道とも呼ぶそれは、世界中の人間が使えるが、
魔道士と呼ばれる人間は、その中でも卓越した力を有している者を指す。
いわば職業のようなものだ。
人々の生活に役立つ魔法、魔道の開発だとか、魔物討伐をしたりだとか……。
特にこうして街中で行われる魔道士たちの勝負事は、みんなの関心ことなのよ。
聞くところによると、世界中の人は一切の例外なく、魔法を使って生活をしているらしい。
火をおこすのも水を汲むのも、料理をするのだって魔法の力を使う。
君は頷く。……もちろん、そんな事実はない。
ウィズはすでに開き直っているのか、普通に喋ってしまっている。
エリスが言葉を濁したことに気づいたが、君は触れずにいた。
なんでも、かつて世界を恐怖に包み込んだ凶悪な魔道士を封印したことから、
強い魔道士、力のある魔道士を、世界中が求めるようになったらしい。
話によると、その悪い魔道士は、この近くに封印されており、
魔道障壁等で、その永き眠りから目覚めないようになっているのだとか。
ぼそり、とエリスが呟いた言葉を、君は聞き取ることができなかった。
ほら見て。アレは3年前、かの大魔道士、レナ・イラプションが吹き飛ばした屋根。
アレだけでお店は大繁盛。ご主人は時の人になったのよ。羨ましい限りだわ。
その招待状を持っているということは、参加者なんでしょう?
これぐらいのこと知っていて当然だと思うけれど………よほどの僻地から出てきたのね。
そう言うわりに、懇切丁寧に教えてくれる。
無論、よくはない。だが、どうやって辞退すればいいのか、君にはわからなかった。
と、エリスが何か口にしようとしたところで、地鳴りが起きた。
君は咄嵯のことに対処できず、バランスを崩し尻餅をついてしまう。
大地がひび割れ、慌てふためく人々がこちらに向かってくる。
story2 恐怖の逃亡劇
小さな少女と、黒い塊が落下してきた――ところまでは覚えている。
少女が、君を覗き込んでいた。
君は、名前を告げて立ち上がる。
ウィズは、いつの間にやらアリエッタに抱きかかえられていた。
いったい何に対してごめんなのか、君には理解できない。
君は恐る恐る視線を下に向ける。
巨大な……底の見えない黒い穴が広がっていた。
何がおかしいのか、アリエッタと名乗る少女は爆笑していた。
ウィズは撫で回され続けていて、なんだかすごく大変そうだ。
君はエリスに目を向けた。
などと自信満々に言っているが……
こんな破壊力のある大魔道士でも、勝ち抜きが難しい戦いが繰り広げられている……。
そのレベルの高さに、君は驚きを隠せない。
自分以外は全員が敵という状況。
他人が誰かと共謀することだって……。
などと言っているアリエッタ。
だからごめんね、黒猫のひと!一気に吹き飛ばしちゃう!
そういえば大会はもう始まっている、とエリスが言っていた。
君は咄嗟にアリエッタに視線を移した。
アリエッタが両腕を大きく広げた瞬間、ウィズが飛び出し、君のもとへ駆け寄る。
あんな危ない魔法を人に向けるなんて、とんでもないにゃ!
君は大魔道士が持つ、力の片鱗を見た。
まるで隕石のような岩が降り注ぎ、魔道障壁を突破して美しい街並みを破壊していく。
君は必死に走った!今、あんなものが直撃したら、ただでは済まない!
魔力を込めて対抗する!?そんな隙を、彼女が見せるとも思えない!
そして観客は、もちろん助けてくれない。
むしろこの戦いを――いや、アリエッタ・トワという少女の戦いを楽しんでいる。
突然現れた箒に乗った少女。それは先ほど戦っていた子だ。
君は言葉を発することなく、無我夢中で少女の手を掴む――!
アリエッタの手から逃れるために!
***
箒で飛んでいるのに、それにもめげずアリエッタが追いかけてくる。
建物の壁が、眼前に迫っていた。
ソフィが急停止した瞬間――
アリエッタが大きく振りかぶり、強大な魔法を叩きつけてきた。
巨大な隕石がひとつ、ふたつ……いや、数えても仕方ない。
よもや見知らぬ異界で、こんなことになるなんて、という後悔を抱き……
声――
そして声。
君は慌てて前を見た。
帽子を被った少女が、アリエッタの隕石に向かって杖を放り投げ、見事に相殺し、
そしてもうひとり。頭上から降りてきた少女は、隕石を力強く蹴り返していた。
轟音と煙が立ち込め、瞬く間に視界が覆われる。
君は、呆然と助けてくれたふたりを見つめる。
君の隣には、エリスの姿があった。
いきなり追いかけられただけで、やりあうつもりはなかったんだけど、と君は口にする。
エリスは、手に持った鍵の形をした杖を、ぶんっと振り下ろす。
額をおさえながら、アリエッタがよろよろと近づいてくる。
自身の放った魔法を受け止めてなお、傷を負っていない。
魔法を魔法で相殺したり、街中で魔法を直接、思い切りぶつけあったり……
いつのまにやら集まっていた人々の熱狂も、何もかも……
本当に、とんでもない……君はそう思った。