【黒ウィズ】続アルティメットサマーガールズ! Story1
story1 航海、大魔道士
船は順調に航海を続けている。
頬を為でる風、飛沫を上げる波、海の匂い。
それはとても新鮮で、心地よかった。
「キミ!現実逃避はやめるにゃ!」
君は何故か、船の上にいた。
そしてすぐに囲まれた。
みんな見知った魔道士たちだ。
ここアリエッタの船だよ?
ずいぶんと立派な船だ、と君は思う。
何がきっかけかはわからないが、異界に飛ばされてしまったようだ。
状況をだいたい把握した君は、この船どうしたの?と尋ねた。
街に。
アリエッタが操舵輪を握ったまま、口にする。
……アリエッタが操縦しているんだ。君はそう思った。
最も非常識な人……ではなく杖が、そんなことをぼやいた。
君はできれば帰りたいかも、と言ってみた。
ウィズはどうやら既に受け入れたらしい。
どうしたものかと悩んでいると、今度はエリスが姿を見せた。
どうやら船尾のほうにいたらしい。
話すと長くなるんだけど、と君は口にする。
あの大会が終わってから少しして、あなたが急にいなくなったから、結構探していたのよ。
あなたの住んでいるところでは、別れの挨拶はないのかしら?
君はごめん、と謝罪する。
みんなで遊びに行くの?と君は問いかける。
仕事?君は首を傾げた。
アリエッタ、島作った説とかね。嘘というか、デマというが流れちゃったのよね。
レナが心底楽しそうに笑いながら言う。
実はそういうわけにはいかないんだなー。いきなり島浮かぶとかわけわかんないでしょ?
確かにわけはわからないけど、めちゃくちゃやってきたみんなを知っているから、君はそこまで驚かなかった。
どう?と訊かれたところで、帰れないのだからついていくほかない。
かくして君は、この魔道士たちと一緒に突如浮上した島へと向かうことになった。
どうやら順調に進んでいるらしい。
エリスは少し、大人びたかも、と君は口にした。
理事……それって要するに、偉くなったということだろうか?
偉くなりたいんだ、と君はリルムに問いかけた。
クールな表情とは裏腹に、言葉はどこか嬉しそうだった。
君は、そういえばソフィがいないね、と言った。
一様に沈鬱な表情を浮かべている。
船の空気は、一気に重くなった。
……そんな。君は愕然として、
帆柱に頭をぶつけた。
いきなり船が揺れたから、と答えようとした瞬間、大きな飛沫を上げて、タコが乗船してきた。
なんでもいいから食べる!捕まえろー!
乗船してきたタコは、1匹や2匹ではなかった。
杖を――。
小娘、考えなおせ。目測を誤ったら、我、落ちちゃう。海に落ちちゃうから。
ぬわああ振りかぶるなあああああ!!
タコを吹き飛ばした衝撃で、どうやらソフィは起きてしまったらしい。船の奥からゆっくりと姿を見せた。
君は苦笑しながら、食べるとしたらどうやって調理するのだろう?と考えた。
結構な混沌が生まれていた。
こっちはこっちで、何か別の混沌が生まれそうになっていた。
***
アリエッタが指差した先には、小さな島がひとつ。
うっすらと気づいてはいたが、やっぱりみんな遊ぶ気だったようだ。
エリスは不安そうに――いや、心底面倒くさそうにそう言った。
だが今さらこの船が止まるわけもなく………
船は進む。
この先に何が待ち構えているのか、ちょっとした不安と期待を抱きながら。
story2
航行を続けていた船が、浜辺付近に停泊した。
聞くところによると、どうやら彼女たちは丸1日船に乗っていたらしい。
エリスが箱を浮かせながら、周囲を見回した。
生い茂る緑はあるが、しかしそれぐらいだ。
リルムが黒々とした大きな玉を取り出した。
スイカ?艶といい、重そうな見た目といい、鉄球の間違いではないのだろうか?
君は、先生?と訊き返す。
あのね、イーニアはね、ふふ、実はね。
何が可笑しいのか、アリエッタがニヤニヤしながら話しかけてきた。
そいつはかんべんしてつかあさい……。
ひとまず先生と合流する必要があるから、遊んでないで行きましょう。
いいかもしれない!
そう言って、アリエッタたちが森の奥へと進んでいく。
その後を追うように、レナが走りだした。
黒猫の。ちょっと我を運んでくれ。
そう言われても……と君は言いよどむ。
初めてこの異界に来たとき、彼……魔杖が人を乗っ取ったことを思い出した。
だから置いてかないで。
何だか哀愁を感じてしまって、君は魔杖エターナル・ロアを引き抜いた。
……そんな言葉をかけられて、不意にエリスの匝に目を向けてしまった。
そうならないように意識しないと……。
走って追いかけるよ、と君は告げる。
それならエリスだって、と君は言う。
そういった訓練や修行のようなものを、エリスはやってきたということだ。
真面目な彼女らしい行いだ。
そんな話をしながら、アリエッタたちが進んだであろう森を駆け抜けていると、小さな影が視界に入った。
木の後ろから飛び出してきた小さな女の子。
君は空中で体をよじらせ、その少女を避けようと試みる。
お互いに勢いを殺すことが出来ず、何故か胸に飛び込んできた少女を抱きかかえる形になって――
君は大木に激突した。
幸い衝撃はそこまででもなく、落下することもなかった。
エターナル・ロアにもダメージはないようだ。
君は、大丈夫だよ、とエリスに告げて、少女にもごめん、と言った。
魔物に囲まれたのでな。広い場所で蹴散らそうと移動していたのだ。
魔物……そんなの危ないよ、と君は声をかける。
先生……?その言葉を聞いて、君はその少女を二度見してしまった。
先生はね、各国の魔道士育成に熱心なお方で――あっ、あなたも知ってるわよね、これぐらい。
あのレナも指導を受けたことで、急激に魔法の才能が開花したの。
そうなんだ、と君は口にした。
そうだね、と君は小声で言う。
アリエッタと同じぐらいの年齢……もしかするとそれよりも下に見える。
だというのに驚くほどの経歴を持っている。
世の中わからない……。
と思ったが、よくよく考えてみれば、自分の師匠も今は猫であった。
そんなことはないよ、と言って、君は少女――もとい、大先生に向き直る。
ほう。黒猫の魔道士か。噂はエリスから聞いているぞ。なるほどあの動きはそれ故のものか。
私は――
と彼女が口を閉ざして、君たちの背後に視線を向けた。
君は向かってくる魔物を見据えて、力―ドを取り出した。
ひとまずは魔物退治だ。
魔物を退けて進んだ先に、先行していたみんながいた。
わはは、私より小さい!
おっと挨拶を忘れていたな。黒猫の魔道士よ。
私はイーニア・ハーメティック・ソルルスト・ラクトリティシア・ウォルヴィアラ・メメスリスムルナ・ストラマー3世だ。
君は自己紹介をしたあとで――思わず、えっ?と訊き返した。
……超ながい。
今まで始末してきた魔道士の名前を自分の名前に加えていくという……。
アリエッタがこっそりと耳打ちしてきた。巨大なスイカが当たって少し痛い。
イーニア先生は、なかなか俗悪な趣味を持っているようだ。
イーニア・ストラマーと呼んでくれていい。
それにしても、ロロット家の娘もいるとはな。エリス、お前も交友の幅が広いじゃないか。
あのク一ルなエリスが、イーニア先生の前では恐縮しっぱなしだ。
それは君にとって、少しだけ新鮮な光景だった。
君はエターナル・ロアをリルムに手渡した。
持ってなきゃダメだよ、と付け加えて。
杖が人道を説いていた。
確かに、強大な魔力を有して、人を乗っ取る魔杖を封印できるなんて……。
それが最も効果的な方法だったとはな。リルム・□ロットのように話を聞かなければ、乗っ取られることもない……。
まあ、そんな話はどうでもいいか。
お前らに集まってもらったのは他でもない。この島のことは、大方エリスに聞いていることだろう。
君はイーニア先生の言葉を聞きながら、森を見渡してみた。
禍々しい気配は、奥に進んでも感じない。
孤鳥にあったトランディアは、大魔道士たちとの戦いを経て海に落ち、深き眠りについた。
だが何がきっかけか、こうしてここに浮上した。魔道士協会は、これを看過することはできない。人々を脅かすのはアリエッタだけで十分だ。
そして奴を抑えるための魔法……強力な魔法を使える大魔道士がいなければならない。
そういう意味では……。
イーニア先生が言葉を止めて、周りの皆を見る。
ハーネット商会?君はさっきも聞いたその言葉に首を傾げる。
魔道士としての才能もさることながら、まさか商才もあるとはな。今後100年はハーネット家も安泰だ。
そういった才能も開花させるなんて、ソフィの真面目さが生きたようだ。
それは聞かなかったことにしよう、と君は言った。
story3 発見、大魔道士
悪人であろうと、善人であろうと、魔道士が作った人工の島である。
だけどここには自然があって、人が暮らしているようだった。
けどそんな頻繁には来られそうにない場所だ。
ここでたくさん集めても、次にいつ採取できるか……。
ソフィは真面目だね、と君は言う。
ひとりじゃできなかったことだし、それにこのことで皆に喜んでもらえるのが、本当に嬉しいから頑張れるの。
誇っていいぞ、ソフィ。スイカを抱えているあれとは違い、立派に人のために魔法を使えている。
調合のバランスとか、魔力を込めるタイミングとか……。
君は、イーニア先生は、アリエッタのことが嫌いなの?と尋ねた。
長らく魔道士協会の理事をやっているが、あの子は間違いなく歴代の魔道士の中でも飛び抜けた天才だ。陳腐な言葉だがな。
アリエッタの魔法は比類なきものだ。理に基づいた魔法を使いこなすのはもちろん……。
現代の魔法理論に至っては、あの子が作り上げたものも多く、発想力にも富んでいる。
あの子だからこそ考えついた魔法は数知れないし、世界を発展させたのは間違いない。
…だが、そのなんだ。アリエッタは子どもだ。
好きなことは好きなだけやるし、興味がないことは全くやらない。
魔力を抑えられず地形を破壊するし、気分で凶悪な魔物をぶっ飛ばしたりもする。
大魔道士は、それではいけないのだ。人のため、世界のため、尽くすからこその大魔道士であるべきなのだ。
未熟な心を、正しく育んでほしい。そうすればあの子は、さらに素晴らしい魔道士になるだろう。
私はそう考えている。だから厳しく接する。それだけのことだ。
そこまで言って、イーニア先生はアリエッタを見た。
とても素晴らしい教育者であり、魔道士だけではなく、世界のことも考えている、立派な魔道士協会の理事なのだろう。
メリィ。――メリィ・ミツボシ。いるか?
お前は立派な魔道士だから大丈夫だろうが、我々が現れたとなると、相手は警戒するだろう。
声の主が気配と共に消えていくのがわかる。
レナの国の、4大魔道士のひとり。メリィ・ミツボシよ。グリモワールグランプリの優勝者でもあるの。
そんな大会もあったね、と君は思い出す。
はぁ……エリス、アリエッタをちゃんと教育しておけとあれほど……。
白猫 mark