【黒ウィズ】続アルティメットサマーガールズ! Story2
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「わはは!」
アリエッタの笑い声は、どこにいても聞こえてくるにゃ。
その声がするほうに進むと、そこにはレナと住民だけがいた。
わかりやすくていいわね。アリエッタはどこか行ったみたいだけど。
世界の反対にいても聞こえてきそう……。
先生。
どうした?
接触に失敗しました。
だろうな。予測はできても対応が困難だから、天災なんだ。
わたくしが会話を試みる寸前に、アリエッタさんとレナさんが現れ妨害されました。
この島に住む方々は、レナさんの魔法に興味を示し、今のところ関係は悪くありません。
ただその……。
言ってみろ。
アリエッタさんが逆に村の人に興味を示し、追いかけ回し始めました。
……………………そうきたか。
捕まえてきます。
エリスが頭を抱えながら走りだしたのを見て、君はそのあとをついていくことにした。
***
待てー!
あっちに行った!
え、ちょっ……何?何なの!?いつまで追いかけてくんの!?
へえ、それがですね、俺らのやってることがバレたみたいで。
あ、あいつら島外の魔道士ですぜ!なんて奴らだ!野蛮極まりないぜ!
魔物なら手懐ける方法もあるけれど、あの先頭の子ども、あれ、まるで怪獣よ……。
魔道士……あのお方を縛りつけただけでは飽きたらず、よりにもよってこの島ごと……。
させない。させないわよ……。あのお方が目覚めるそのときまで、我々はここを守らなければいけないの!
アリエッタたちは、ミツボシの報告どおり、島の人たちを追い回していた。
スイカを抱えたまま走る姿は、少し滑稽でもあった。
君たちは先回りして、向かってくる住民を待つ。
……っとと。
あれ?黒猫の魔道士さん。
突然、木陰から飛び出してきたのはレナ。確か、住民と接触したと聞いていたけど。
そうそう。結構仲良くなってね。
島の中心に眠る古代都市トランディアを崇めてて、毎日祈りを捧げてるって情報を聞き出したの。
あそこに見える巨像。あれはトランディアを模したものらしいわね。
でも今ほら、あの真っ先に逃げてる女性。あの人が長になってから、それも少しおかしくなってきたって聞いて。
だからアリエッタたちが追いかけているんだ。
……またおかしなことをしたのかと思ったわ。
いやまあ……話を聞いてとは言ったけど、なんで追いかけてるのかはわかんない……。
グレェェートザッパァァァーっ!!
だから投げるなと……言っているだろうにいぃぃぃぃっ!
追いかけ、追いつけないリルムが、しびれを切らしたように杖を投げつけた。
ひっ――。
だがそれは、住民たちの間をすり抜け、よりによって君たちのほうへと飛んでくる。
そいっ!
あうっ……。
それをレナが蹴り返し、再びリルムの元へ……。
うわ、返ってきた……。
出てこい、本!
新魔法書2万とんで32頁。大魔法――杖返し!
いや、あれ本を立てて防いでるだけにゃ。
どこかの空間から現れた巨大な本が、アリエッタとリルムを守るように立ち塞がる。
そこにエターナル・ロアがぶつかり、3度彼はどこかへと飛んでいってしまう。
杖を何だと思ってるのだああああああッ!!
投げられ、蹴り飛ばされ、挙げ句、本をぶつけられ……。
なんて可哀想な杖だろう……。
ぬわあああああああーー!?
吹き飛ばされたエターナル・ロアは、巨像に激突し……。
あ。
あ……。
勢いを殺せなかったエターナル・ロアが、像を……破壊してしまった。
あ、あああああああ!?
……ど、どうするのよ、あれ。
壊れた……。
いやー……えげつない吹き飛び方だー……。
アリエッタのせい?
わたしのせいか?
皆が招いた悲劇であることは否定のしようがない。
はあ……先生になんて言えば……。
大丈夫?と君はエリスに訊く。
大丈夫に見える?胃が痛くて倒れそうよ。
ははははっ!魔杖の威力すっごい。
なんで笑ってるのよ……ていうかどうするのよ、あれ。
き、貴様らああぁぁぁーー!
怒号が飛んできて、君は咄嵯に身構えた。
なんてことを……なんてことを……ッ!!
……怒るのも無理ないわ。アリエッタ、直しなさい。
直すのはいいけど、でかいから時間かかるよ?
やめろ貴様ら、触れるな!我らが至高のお方に、貴様らの汚らわしい手で触れるな!
許さん……魔道士どもめッ!お前たち、魔道士の連中を囲んでボッコボコにしなさいッ!
どうしてこうなるのよ……。
ぐぬぬ……よーし、とりあえず……。
やっつける!
え、ちょっ――待ちなさい、アリエッタ。
しょうがないなぁ。あれだけ怒ってたら、話も聞いてもらえないだろうし、ちょちょいっとやっつけたほうが手っ取り早いわね。
どうしてそういう思考になるにゃ。
島に来た人たちを捕まえて。トランディアヘの貢物にしようとしていたのよ。あの女の人が長になってからね。
魔道士協会が派遣した2名も、彼女たちに捕えられてると見ていい。だからまあ、つまりそういうことね。
ここの住民も力づくで従わされていたみたい。助けてくれって泣きつかれたわ。
どのみち戦闘は避けて通れなかった、と。なんだか溜め息が出る話ね。
像を壊したのは問題だけど、理由があるなら戦うしかない。
キミ、気を抜いちゃダメにゃ!
なあ、黒猫の魔道士。お前、見たことのない魔法を使うな?
世界広しといえども、魔道士協会が把握していない魔法に見える。
ここの魔道士――いわゆる大魔道士と呼ばれる連中にも負けず劣らずといった魔法だが……。
どこで魔法を学んだのだ?
まあ、田舎の出だから……と君は言葉を濁す。
ふうむ……いやしかし、どこの田舎だ?
先生。その話はまた後ほど。
うむ、そうだったな。さて、お前たち、結果的に行方不明になっていた魔道士と、捕えられていた人々を解放できたわけだが。
……レナの話によれば、貢物を捧げることでトランディアの目覚めが早くなると、あの人は信じていたそうよ。
今、君たちの前で縄に縛られている、島の住民とその長。
忌々しげにアリエッタを睨みつけている。
あの大きな像、壊れた部分を魔法で補修して、時間が経つと、自動的に立ち上がるようにしたよ。
そんな不気味な一手間はいらないにゃ……。
確かに、普通に暮らしていた住民も、驚いて腰を抜かすかもしれない、と君は思う。
どうして追いかけたのよ……もう……。
リルムが……。
人のせいにしないの。
ええっ!ほんとなのに!
罰として、ここを出たら毎日、都市の掃除と、魔法の研究書を日に1枚提出すること。
罰がえげつない!
どうやら人間を貢物にしようとしていることに憤ったリルムと、それについていったアリエッタ。
自分たちの悪さを知られ逃げ出した住民という、そんな構図だったようだ。
この族長から吐くものを吐かせてしまおう。どんな理由であれ、人を捕らえて悪に手を染めようとしたのは許せることではない。
イーニア先生が杖を振るって、捕らえた住民を眠らせる。
あとはわたくしが。
ああ……しかし、トランディア……お前は、こんな悪を生み出していたのか。
イーニア先生が小さく呟く。
その言葉は何か、イーニア先生と古代都市トランディアの、不思議な因緑を感じさせた。
***
はい、皆にソフィの薬をあげるよ。
ありがとう、ソフィちゃん!あ、杖のひとも飲む?
我はいらん。口がないからな。
エターナル・ロアは今、土にずんと突き立てられていた。
ところどころ汚れが目立つが、怪我、いや、破損?はないようだ。
杖、割れなくてよかったね。
ふん。人間どもと一緒にするな。我は魔杖エターナル・ロア。神秘なる叡智と偉大なる力を授けるものだぞ。
えい。
押すな。すごく斜めってるから。バランス感覚が要求される体勢になってるから。
それで?このあとどうするの?やっぱり古代都市――遺跡のようなものを探すの?
レナさんからの情報を元に、おおよその場所は見当がついている状況です。
この機会を逃してはならないかと。やはりトランディアを叩くなら今しか……。
ちょーっとばかり骨が折れそうね。
まったくだ。
魔道士協会、いや世界に認められた大魔道士が何を言う。
先生がやればいいのに。
そうだそうだ。
アリエッタもっと言ってやって。
いちばん小さいんだからイーニアがやればいい!
エリス。
はい。お仕置きよ、アリエッタ。
なんでわたしだけ――ぎゃあ!
匣の中から現れた異形が、アリエッタに襲いかかる。
何度見ても不気味だ。
うわあ……私、あれはダメ。あれはダメなやつ。
我も。我もあれはダメなやつ。
なるほど。どうやらこの先、森を抜けたところに古代の遺跡があるようです。
魔物が棲みつき、島の住民でさえ近づくことができないようです。
……やはりか。
やはり?その言葉に疑問を覚え、君はそれを問いかけてみた。
いずれ話す。お前たちはこのまま森を抜けて、古代都市トランディアの場所へ向かってくれ。
イーニアは?
私とメリイは別行動だ。
くれぐれも気をつけてくださいね。話によれば、こちらの森はとても凶暴な魔物がいるそうですから。
ミツボシの言葉に頷いて、君たちは森へと足を踏み入れた。
道中、ソフィが物珍しそうに木々を眺めていた。
どうしたの?と君は問いかける。
昔の魔道士はすごいなあって思って。こんな島と、都市を作り上げちゃうなんて、当時からそんな理論があったってことだもん。
魔法で作ったってことかにゃ?
魔法ってなんでもできる万能の力じゃなくて、何かを成し得たいと思ったときに、それを具現化させるための手段なんだよ。
ここを作った人たちは、悪い人だったのかもしれないけど、そういう強い思いを持ってたんだなって思って。
なるほどにゃ。ソフィはいいこと言うにゃ。
そんなことないよ。ソフィはまだまだだもん。
魔法の才能に溢れるリルムちゃんが近くにいるし、アリエッタちゃんみたいに、ソフィよりも年下なのに天才って呼ばれる子もいるから。
だからもっともっと頑張って、もっともっと皆に喜んでもらえるような魔法を覚えなきゃ!
ソフィはいい子だ、と君は思った。
そして、ソフィなら大丈夫だよ、と告げる。
そうだ。ソフィのお薬、黒猫さんにもあげるね。
ありがとう、と言ってその薬を見た。
胃薬。
胃薬!?
お腹が痛くなったら飲んでね。
どんなタイミングにゃ。今は絶対必要ないにゃ。
なんか面白そうな気配がする!
古代都市の調査という名目があるのに、すっかり忘れてしまってそうな……。
いいじゃんいいじゃん。ワクワクしないの?黒猫の魔道士さん。
古代都市ももちろん大事だけど、楽しいと思えることに興味を示すのも、魔道士として大切なことだしね。
それとも黒猫の魔道士さんの国では、魔道士としての知識欲を深めるのは、ダメって言われてたりする?
えっ!?そうなの?じゃあ、こうやって森を探索するのはダメ?
いや、そんなことはないよ、と君は言った。
あまり緊張しっぱなしじゃ、いざというときに体が強張るかもしれない。
逆にアリエッタたちのようにお気楽すぎると、そのいざというときがきた際に何もできないかもしれないけど……。
黒猫のひと、超強いんだから、心配しなくても大丈夫。
やばかったら逃げればいいし、やばくなかったら戦おう!
根拠も何もあったものではないな。戦うのはいいが、あまり我を投げるなよ。
やけにポジティブなリルムに何故か励まされ、君たちは森の奥へ奥へと進む。
お?
お?
道すがら、声をあげたアリエッタとリルム。
君も立ち止まり、彼女たちの視線のほうへと目を向けた。
木を扶ったような跡があるにゃ。
大きいね。人がやったものじゃなさそう。
うーん……まあ、妥当な線だと魔物?
超やばい。
それは、手で扶り取ったのか、あるいは口で噛み千切ったのか、どちらにせよ異様な切り取られ方をしていた。
ミツボシも魔物がいると言っていた。
どうする?逃げる?
どのみち森の中だから、逃げてるときに魔物に遭う可能性は高いよ。
ええ、まあ、そうね。この跡は、自分の縄張りだから、これ以上先に入ってくるな、という意昧合いなのかも……。
黒猫の魔道士さん含めて6人もいれば、簡単に倒せそうな気もするけど。
いい?レナ。アリエッタは気まぐれすぎるから、魔物と戦ってくれない可能性があるのよ。
あと全力で魔法を使われると私たちが巻き添えになるかもしれないから、仲間とも言い難いかもしれない。
みんな言いたい放題だ。
レナだって大魔道士なんだから、アリエッタの魔法ぐらい防げるだろうに……。
黒猫の魔道士さん、わからない?この子こんなに小さいのに、魔法の威力がすごいことになってるでしょ?
たとえば正面から魔法を撃ち合う、いわゆる殴り合いみたいな状態になったら間違いなく押し切られちゃうわ。
大魔道士レナをして、そこまで言わせるとは。アリエッタ・トワという女の子だけは、敵に回してはいけないのかもしれない。
どこにそんな貯蔵してるんだってぐらい、魔力が無尽蔵なんだから。
ま、戦いに正面からってルールはないし、それなりに策を立てれば、全然勝てるけど。アリエッタって気分によっては魔法使わないし。
最近、怒ったら巨大化することが発覚したわね。
わはは!成長期!
むちゃくちゃすぎる……。
それでどうしますか?エリスさん。
……そうね。
スイカはしまっておこう。
いったい本やスィカはどこにしまってるにゃ?
わたしの魔道空間だね。ベッドもふたつあるよ。
魔道空間?
なんていうか、何でもしまっておける異空間みたいな。空間の維持には飛び抜けた魔力量が必要だけど。
そんなの持ってるの、大魔道士の中でもアリエッタちゃんだけだよ……。
我も少し本気を出せば、その程度造作もなく作れる。
ロアちゃんは杖だから……。
杖を差別するのか?ソフィ。お前まで我を……。
でもロアちゃん、杖だよね?
うむ、杖は杖だが……。
魔道空間から本を取り出してたにゃ?
そうみたいだね、と君は言う。
スケールが大きすぎて、何がなんだか……。
だいじょうぶだいじょうぶ!わたし、今日は調子がいいから魔物なんて素手でやっつけてあげるよ!
そうみたいだね、と君は言う。
いやあのね、魔道士なんだから魔法を使いなさいよ。
あはは!確かに!魔法を使えばわたしは誰にも負けな――。
――がぶ。
わあああああ!?アリエッタあああああっ!?
あ、アリエッタが食べられたにゃ!
突如、どこからか現れた巨大な魔物が、アリエッタをぺろりと平らげてしまった。
え、うそ、ええっ!?ちょ、ちょっとアリエッタ大丈夫なの!?
頭から飲み込まれた……。
我、ああいうのはちょっと無理。
これがミツボシさんの言ってた魔物……?すごく大きいね……。
これは、ここの住民じゃ手も足も出ないかもね。
ちょっ――なんでそんな冷静に話してるのよ!アリエッタ丸呑みにされたんだけど!?
アリエッタを返しなさい!今なら許してあげるわ!
アリエッタなら平気。超強いし。
ま、確かにアリエッタは兵器みたいなものだしね。
…………。
それもそうね。行きましょ。
にゃ!?それでいいのかにゃ!?
丸呑みにされたアリエッタを放って、先へ進もうとする魔道士たち。
魔物のお腹からバリッて出てくるんじゃない?
それめっちゃぐろい。
え、え?ほんとに行っちゃうの?
そうにゃ!アリエッタを助けるにゃ!
君は頷く。暴走すると手がつけられなくて、勝手気まま、自由な子だけれど大事な仲間だ。
そんな仲間を見捨てて先に行くなんて、絶対にできない――!!
うむ、その心意気やよし!
上空からゆっくりと降りてきたのは、イーニア先生とミツボシだった。
まったく……誰彼なく迷惑をかけるやつだな、アリエッタは。
ほらお前らも遊んでないで、魔物退治だ。
イーニア先生の言葉に反応して、苦笑しながら魔道士の皆が振り返る。
呑気というか、遊び心に溢れているというか……。
いくぞ、黒猫の魔道士!
***
いっけー!チャランポライザー!
スパーキングイグニッション!
シューティングスター・ライド!
ほら、エリス。縛りつけろ。
凶祓いの絶鍵。目覚めよ、従僕。祖は原初なり。祖は至高の王なり。漆黒に生まれ落ち、征服と支配に酔いしれる――
ゆけ、従僕。我と汝の敵――歪み穢れを全て喰らい尽くせ!
大気をどよもし現れた異形が、巨大な魔物に襲いかかる。
それは一瞬の出来事だった。空気を喰らい、魔物を喰らい……そして匝へと戻っていった。
するとどこからともなく拍手がわき起こり……。
かっこいい。
詠唱かっこいい。
えっ、ちょっ……やめてよ、恥ずかしいから!だいたい何よ、今さら……何回も聞いてるでしょ!
それにしても不気味なものを飼っているものだ。こんな物好きはシャルム家ぐらいのものだな。
シャルム家は特殊な家系で、詠唱の長さに応じて、賢――いわゆる匣の魔物の強さが増すのです。
詳しいんだね、と君は言う。
ええ、わたくし、魔法にだけは詳しいのです。おかげで今はイーニア先生の助手です。
…………。
アリエッタ、大丈夫なの?
…………。
まるで抜け殻のようなアリエッタが、そこに立ち尽くしていた。
なんか視界が真っ暗になったかと思ったら、エリスの匣の魔物が襲ってきて、気づいたらまた外にいたのですが。
気の毒にゃ……。
でもかける言葉も見つからず、君はそっと土汚れを落とすための布を手渡した。
アリエッタちゃん、ソフィ印のお薬もあげるね。
今から行くところは、この魔物など足元に及ばないほどの巨悪だ。
皆さん、気を引き締めてまいりましょう。
はーい!
うふふ、とてもよい返事ですね。
けど……ソフィたちだけで大丈夫かな?
なんとかなるよ。黒猫の魔道士さんもいるしね。
そんなに信頼されても……と君は口にした。
魔物や悪い住民を倒したのは事実だが、島で暴れまわっているのはほとんど彼女たちだ。
むしろ気圧されているぐらいだった。
はぁ……。
けど……アリエッタが少し大人しくなったのは、もしかしたら不幸中の幸いだったかもしれない。
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重苦しい空気が漂っていた。
言葉では言い表せないほどの不穏さがある、君はそう思った。
なるほどな。周囲に結界を張り巡らせ、外に瘴気が漏れないよう防いでいたのか。
だからエリスも気づかなかったのね。
だけどそれならどうして辿り着けたのだろう?
結界を張ったときの魔力が微量だけど溢れてたから。
魔道士の魔力は、感覚的にわかりやすくて、ピリピリと来るような感じでぼんやり理解できる。
特に魔道障壁以前の結界は仕組みが杜撰で、周囲の人に与える影響が取り沙汰されていた。
集中力を乱す、魔力を奪う、空気を重くするなど、様々な懸念点を抱え続けていた。
この結界は、懸念、不安を持ちながら、改善案、対策を講じなかった魔道士の怠慢であり、前時代的な魔法の、憐れな末路であるといえる。
……これ誰にゃ?
ごめんなさい。この子、疲れるとこうなの。短時間で戻るから。
どうなってるにゃ!?
学者然とした語り口は、普段のアリエッタからは想像できなかった。
気にしないで。さ、ほら進みましょう。この先、暗くなっているから気をつけて。
***
トランディアは数百年も前に海に沈められた、悪そのものなんだ。
ふむふむ。
ビジェッタら、悪の魔道士が作り上げたとはいったが、制御するつもりは毛頭なかったようだ。
ふむふむ……なるほど。
……あのときの、私の不安が的中したな。
リルムちゃん、わかるの?
ううん、全然。でもなんかやばいのはわかったよ!
リルムちゃん……。
要するに、悪い魔道士が起きないように、また海の底に沈めてしまえってこと。
元も子もないが、まあ、そういうことだ。
……そういうことか!
わかればよろしい。相当な魔力を秘め、凶悪な魔法を使うからな。気をつけなけれぱならないが……。
優秀な大魔道士の皆さんがいらっしゃれば、何も問題ありませんね、先生。
ううむ……魔法を便うことにかけては、確かに優秀ではあるのだがな……。
イーニア先生は何か言いたげに再び口を開いたが、諦めたようにかぶりを振るだけだった。
禍々しい気配は、進むにつれ強くなっている。
アバド・ピジェックと戦ったときや、エターナル・ロアと戦ったときの、あの空気にとてつもなく似ていた。
我もちょっと前までは無茶をしていたからな。黒猫の、お前らが現れなければ、我は2回目の全盛期を迎えていただろうに。
本をぶつけられて負けたくせによく言うにゃ。
あれは……。
…………。
あれは痛かった。
あらゆる魔法を防ぎ、強大な魔法で君たちを苦しめたエターナル・ロア。
しかしその魔杖も、あのときのことを思い出して、沈鬱な表情を浮かべていた。いや……杖なので、表情はわからないが。
遺跡の形から察するにそろそろ中央部につく頃かと思われます。
……誰だ。
数々の罠を潜り抜けると、不意に低くうねるような声が聞こえてきた。
……我が眠りを妨げるのは、誰だ。
あまりにも強い悪の気配に、君たちは息を呑む。
イーニア先生が言ったように、古代都市トランディアはここにいて、禍々しい魔力を宿しているようだった。
一筋縄じゃいかない、かな。
まさか既に目覚めているとはな……島で散々、こいつらが暴れたせいか?
気配――久しく昧わっていない、生命の気配だ。
……メェェェ。
…………
なんだ羊か……。
ヤギよ!――いや、どっちでもいいわね。
よし。
よしじゃないわよ……。
リルムちゃん、すごく強そうだよ……。
新開発した魔法の出番かもしれない!
魔法――魔法と聞こえたぞ。動物ではないのか……。
は!?
……む。
だいたい罠が仕掛けられたここに、動物が入り込めるわけがないであろう!!
……何か言いたいことがあるのかにゃ?
君は、何でもないよ、と首を振って、ウィズから目をそらした。
ちいっ……こんなことになるのなら、調査などせず初めから沈めておくべきだったか。
それでは、ここの住民にまで被害が及びます。
わかっている。言っただけだ。
懐かしい。懐かしい声がする。我が体――この都市と島を海に沈めた、あのときの魔道士の声がする……。
イーニア・ストラマー。そうだ思い出した。愚かな魔道士、イーニア。そこにいるのか?ふふ、いるんだな?
数百年ぶりだな、トランディア。まだ海の底で眠ってくれていていいんだぞ。
奥からゆっくりと気配が近づいてくる。
そうして君たちの前に現れたのは、女性の姿をしたものだった。
これが……古代都市トランディア……?
いかにも。私が古代都市トランディア。魔道士に作られし、負の魔力を宿したもの。
えっ……でも……。
みんなの困惑はよく理解できた。
凶悪そうな魔力を宿しているようだが、外見は古代都市からは程還い。
かつて栄えた悪の都市トランディアは、初めはあくまでただの都市機能に過ぎなかった。
しかし、悪の魔力を吸い上げ、都市として力を膨れ上がらせていく中で、人の姿を模した個体として活動を始めた。
それがトランディア……古代都市と呼ばれたもの……。
「島には古代都市の、わるーい魔道士がいるんだって。」
アリエッタが言っていたのは――都市と魔道士のことじゃなくて、都市であり魔道士でもあるものを指してたにゃ。
そうか……私は数百年も眠っていたのか。暗い海の底でそんなにも長く……。
目覚めたところでまた眠らせるだけよ。
そうだそうだ!エリスの詠唱を聞けー!
や、やめてよ……本当、意識しちゃうから……。
私を海に落としたとき、生き残ったのは貴様だけだったな。また別の貢物を持ってきたのか?
ふん、あのときとは違う。失態を犯した、あのときとは。
失態……君はイーニア先生とトランディアの関係が気になった。
かつてトランディアと対峙した先生は、複数の大魔道士とともに、彼女を倒そうとしました。
数百年も前のことですが、先生以外の魔道士は皆、トランディアに敗れ、倒れてしまったのです。
先生は最後の力を振り絞って、封印ではなく深海へとトランディアを叩き落としました。
けれどトランディアも、ただやられるだけではありませんでした。
沈むその寸前、先生に呪いをかけたのです。
……体が幼くなる呪いを。
あれ呪いだったんだ……君は驚きのあまり聞き返してしまった。
だけど決して勘違いしないでください。先生はトランディアを目覚めさせて呪いを解こうなんて考えていません。
別にそんなことは思ってないにゃ。
もちろん、しっかりとした考えを持つ、立派な大魔道士だということは、君も十分に理解していた。
残念だったな、トランディア。かつてお前に生を与えたビジェッタは、目覚めぬよう封印されてしまったぞ。
愚かな……愚かな魔道士だ。あのようなもの、しょせんは魔道士に過ぎない。
私は違う。貴様らから魔力を奪い、より強大な都市へと変貌を遂げるのだ。
ふむ。
あれは悪いやつだ。
え、ええ、そうね。悪いやつね。
よーし、やっつける!!
え……どうしてそんないきなりやる気出してるのよ……。
イーニアを小さくさせるなんて面白いけど最低だ!
あいつを倒して大きいイーニアに戻ってもらう!
いえ、別に倒したから戻るとか、そういうことはないかと思うのですが……。
威勢のいい子どもだ。まずは貴様から喰ろうてやる。
トランディアの魔力は確かに強大だけど、皆がいるから負ける気はしない。
わたしの魔法で吹き飛べー!!
***
ちィッ、この魔道士どもがーー!
戦いは熾烈を極め、遺跡の中で様々な魔法が飛び交った。
雷が落ち、炎で燃え、濁流で流され、しかしそれでもトランディアは屈しない。
数百年――多少は魔道も進化を遂げたようだが、この私を殺すには至らない!!
我が寝床を、ここまで破壊した罪は重いと知れ!
君は、エリスに封印の魔法は?と訊ねた。
……ダメね。相手もそれを警戒しているみたいで、詠唱が続かないわ。
皆も疲弊してきている。
このままでは押し切られてしまうかもしれない。
ウィッチリンク!
まだまだ……フルバースト!
リルム式イモータレイザー!
これだけの魔法を撃ちこんでも、トランディアは屈しなかった。
何か何か……うーん、うーん……何かないかー……何かないかー……。
はっ!?あった!!
アリエッタが頭を悩ませていたが、何か思いついたように顔を上げた。
魔道空間にゃ……。
出てこいーー!!
何をするつもりだ、幼き魔道士よ――!いや……させない。させるものか……!
――スイカ!
ぬぎゃっ……。
ずん、とトランディアの頭に落ちたのは、それは立派で、巨大なスイカだった。
きゅう……。
古典的に目を回しながら、トランディアがその場に倒れ伏した。
そしてスイカは割れることなく、アリエッタのもとへと転がってくる。
持って帰らなきゃ。
もっと魔法らしい魔法を使え……。
溜め息混じりにイーニア先生が言う。
……あれはやはりスイカではなかったのでは?
確かめようとアリエッタが持ち上げたそれに手を伸ばしたが――。
触れることはかなわなかった。
む?
先生、ここがもう崩れてきています。
魔法をたくさん使ったから、一気に崩れてきてるよ……。
封印魔法は――。
詠唱が間に合いません。
逃げろー!!
うわー!!
アリエッタの言葉が号令となったのか、トランディアがいた場所が一気に崩れ落ちた。
このままではこの中全てが崩壊する……。
キミ、走るにゃ……!
そんな、これだけ魔法を使ったあとなのに……。
そんなことを言う暇を与えないためなのか、頭上から瓦礫が降り注いだ。
逃げるしかない――!
ちょ、ちょ、ちょっ……どうせ壊れるなら罠が真っ先に壊れればいいのに!
全く大変な目に遭った。
穏便に――とは言わないまでも、せめてこの遺跡、いや都市は……壊さないでおきたかったな。
壊れちゃったものはしょうがない!
黒猫のひとも走って!壊しちゃったし怒られる前に逃げる!
いくにゃ。
君はアリエッタたちが全速力で走るのを見ながら、イーニア先生同様、溜め息をついた。
うん、と君は返答して、走り出す。
帰るのは、いつかと同様、まだ少し先のことになりそうだ。
そんなことを考えながら……。
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