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幻魔特区スザク2 Story2

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作成者: にゃん
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すげえ……なんだ、ここ……。

 暗い道をしばらく進んだ先に現れたのは、広大な廃墟だった。

すごい場所にゃ……もしかして、昔はここにも人が住んでたにゃ?

多分、そうだと思う。でも、建物の状態から見て1000年以上前のものみたい。

 そう言うと、ヤチヨはヘッドフォンをして周辺の様子をじっと観察する。

彼女はシキの機能を使って、この場所のことを調べているようだ。

あの穴に見える場所も、透明な構造体で塞がれてて、雨とか風が入らない造りになってる。

なるほど……だからこんなに綺麗に建物が残ってるにゃ?

うん。普通に雨風にさらされたら、すぐに風化しちゃうもの。

ロッドが完成してから、使われなくなったのかな……。

……そんなこと、分かったってなんにもなんねーだろ。

くだらねーことに、自分のガーディアンを使うんじゃねえよ。

 イライラした口ぶりで、君たちに向かってスミオは言う。

確かに、今は緊急事態であることに変わりは無いが……

……以前のスミオなら、この光景を見れば喜んでいたんじゃないか、と君は思う。

(私達がクエス=アリアスに帰って、もう一度ここに来るまでの間に何が起きたのか……

気にはなるけど、これはとても聞ける雰囲気じゃないにゃ……)

だいたい、兄ちゃんが戦えなくても、俺は戦えたんだ。

……相手は二人いた。お前一人じゃ勝てなかっただろう。

そんなの、やってみないとわかんないだろ!新しい力も手に入ったんだ、これで――

馬鹿を言うな!!

 叫ぶように、トキオは言う。その声に驚いたのか、スミオはビクッと体を縮ませた。

……お前と口論をしているヒマはない。ヤチヨ。この周辺に水場は無いか。

あっ、ええと……少し先に進んだところに。

行くぞ。スミオと俺の傷の応急処置をしなきゃならん。

 誰とも目を合わせずに、トキオは傷だらけの体をひきずって歩き始める。


……ねえ、あの……。

 ふと、君の袖を控えめに引いて、アッカは不安げに声をかけてきた。

あのね、さっきの扉のこと……なんだけど……。

キワムがね、ここなら隠れられるかも、って砂をどかしてたから、手伝おうと思って……

私が触ったら、開き始めたの。

……どういうことにゃ?

わかんない。でも、私、その……収穫者に作られたからさ。

 アッカは天井の穴を見上げながら言う。そこからは、巨大なスザクロッドの一部が見えた。

ここに入ったことで、スザクロッドに……何か……悪いことが起きるんじゃないかって……怖くて。

アッカ……。

 君とウィズは、そんな彼女を見て言葉に詰まる。どう答えればいいのか、わからなかったからだ。

だが――

気にしすぎだろ。アッカは色々心配しすぎなんだって。

 困った君を見かねたのか、キワムが助け舟を出してくれた。

うーん……でも、もし――

はいはい、もし、とか、だけど、とか禁止。

 キワムは抱きかかえたクロを撫でながら、ぽつぽつと話し始めた。

色々さ、先のことを心配したりするなんてもったいないよ。

今日のアッカは、今日生きるのにすげー忙しいんだって。

だからさ、明日の悩みは明日のアッカに任せとけばいいんだよ。

俺達は、ずっとここで生きていかなきゃいけないんだからさ。

 キワムの言葉は、どこか自分にも言い聞かせているようにも聞こえる。

けれど、それを聞いて、アッカは少し気分が晴れたようだった。

……そっか、そうだよね。何が起きるかなんて、わかんないし。

えヘヘ、ボーっとしてたら、置いてかれちゃうね。行こう、二人共!

ああ。はぐれないようにしないとな。

 君とキワムとアッカは一度顔を見合わせると、少し遠くなったスミオたちの背中を追った。


 ***


キワムたちは、あれからどうしてたにゃ?

スザクロッドの近くにある廃墟で、なんとか暮らしてるよ。

廃墟で?なんでスザクロッドに住まないのかにゃ?

あそこは俺達の場所じゃないよ。スザクロッドは、あくまで「人間」の住むロッドだ。

それに、収穫者とも戦わなきゃいけないからさ。あそこの人達を巻き込むわけにはいかないよ。

……色々大変だにゃ。

でも、キワムはあんまり変わってないように見えるにゃ。

そんなことないって、俺も色々変わったよ。

この20年は、特に色々とさ。

 …………?ふと、君は自分の耳を疑う。20年とは、なんのことだろうか。

にゃはは!キワム、何言ってるにゃ、そんなに経ってるわけ――

いや、そのはずだろ。お前たちが居なくなってから、今年で20年ちょっとじゃなかったっけ?

 おかしい。キワムは何を言っているのだろう。君にはよくわからない。

…………。

 君は深刻な表情で黙りこくるウィズに目配せをする。

すると、彼女は君にだけ聞こえる、小さく震えた声でこう続けた。

あり得る話にゃ……。

クエス=アリアスと異界は、時間の流れが違う場合があるにゃ。

もし、ここがそうだとしたら……。

 ……君は、ウィズの仮説を聞いて、背骨に氷水を流し込まれたような錯覚を覚えた。

前回の訪問から、そう時間が経っていないはずだと君は思い込んでいたのだ。

……だが、それは大きな間違いだったとしたら。

……20年もの時間が、この世界では経過していたとしたら。

そしてそれを証明するように、君の脳裏に、彼らと交わしたいくつかの会話が蘇る。


「もー、「今の今まで」どこに行ってたのよ!ずいぶん探したんだからね!!」

「「ずいぶん戦い続けてきた」し、みんな私達ガーディアンの扱いが上手になってきたの!」

「キミがまた居なくなっちゃったり、怪我したりしたら、キワムが泣いちゃうからさ。」

 ……アッカやシキの言葉、少し大人びたヤチヨの雰囲気。

「ガーディアン持ちの収穫者が来る!全員手伝え!」

「……!?魔法使い、お前、なんでここに!」

 ……スミオの変貌と、トキオの言葉。

「だからさ、明日の悩みは明日のアッカに任せとけばいいんだよ。

俺達は、「ずっとここで」生きていかなきゃいけないんだからさ。」

 自分に言い聞かせるような……キワムの言葉。


じゃ、じゃあ……みんなは、20年ずっと……。

何言ってるの、キミたちも色々大変だったでしょ?

そうそう、苦労してんのはお互い様だしな。俺らは。

 ……彼らの明るい言葉で、ハッと君は思い出す。

君がガーディアンではない事を知っているのは、この中ではトキオだけだ。

スミオとトキオは、どうしてああなっちゃったにゃ……?

 ウィズの質問に、キワムは前を歩く二人を見て、少し悲しそうに目を伏せる。

……あの二人はさ、ちょっと疲れてるだけなんだよ。少しだけびっくりしてるだけなんだ。

20年ずっと変わらない自分自身が、本当に人間じゃないんだ、っていうことに。

だからさ……少し荒れてるけど、嫌ったりしないでくれよ。

 申し訳無さそうに言うキワムに、君はもちろんだ、と返す。

何か、私達で力になれないかにゃ……?

……ありがとな。でも、大丈夫だよ。

俺達はさ、ずっと一緒に暮らしてきたんだ。このくらい、すぐ乗り越えてみせるさ。

 キワムの頼もしい言葉に、思わず君が微笑んだ……その時だった。

地面を揺らすほどの異様な叫び声が、君たちの進む方向から響いてくる……!

俺達がやる!ヤチヨたちは下がってろ!

 そう言いながら走りだすキワムの背を、君は追いかけた!


 ***


こいつで終わり、かな。

……そうみたい。辺りにガーディアン以外の反応は無いわ。

ごめん、キワム。こいつ、姿を表わす直前まで検知できなくて……。

 ヤチヨは、破壊された人形を見下ろしながら、申し訳なさそうにため息をつく。

……結局、こいつはいったい何だったんだ?えらくうるさい敵だったが……。

確かに、とにかく大きな音を出してたって感じでしたね。

襲ってはきたけど、あまり攻撃的ではなかったですし……。

 今しがた倒した敵は、いったい何が目的だったのだろう。君たちは首をかしげた。

……なあ、この体についてるやつって、スピー力ーなんじゃないのか?

 銃の先で、動かなくなった敵を小突きながら、スミオは言う。

それになんていうか、戦い方は時間稼ぎのそれだったし――

はは……もしかして、こいつって警報装置みたいなもんだったんじゃ……?

 顔をひきつらせながら、た。彼がそう口にした時だった。

「当たりだぜえ、侵入者さんがた。いやー、元気だねぇ。」

誰だッ!!

おいおいおい、物騒なもん向けんなよ兄弟仲間だろ、な?

俺たちに俺たち以外の仲間は居ない。誰だお前……!

 聞く耳を持たない、という様子で、スミオは手にしたノイズを低く唸らせる。

俺はアトヤだ。そして、お前らと同じように、住むべきロッドを失ったガーディアンでもある。

……!?お前、なんでそれを……!

アッハッハッハ!お前わっかりやすいなぁ、図星かよ!

いやぁ~、俺以外のはぐれガーディアン、初めて見たわ!すげぇ~、ほんとに居たんだなぁ!

 アトヤは大声で笑いながら、嬉しそうに君たちへと歩み寄る。

仲良くしようぜ!お前らはどっから――

止まれ!……それ以上こっちに来んな。

んだよォ、怒んなってばぁ。

その様子だとアレかァ?そろそろ色々と不安になってきた頃合いだろ?

……何?

ニセモンだったとしてもよぉ、人間らしい生活が恋しいよなぁ。

楽しかったよなぁ、毎日毎日、“自警団“として、魔物を狩ったりしてさぁ……。

な……!?お前、何故それを知って――

 うろたえるトキオに向かって、アトヤはにやりと笑いながら、こう答えた。

だからさぁ、言ってんじゃんよ。俺は仲間で、お前らと同じ――

住むべきロッドを失った、ガーディアンだって。



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story




こっちだ、ついて来い後輩ども~。

 アトヤにそう言われ、案内された先は、奇妙な柱が立ち並ぶ異様な空間だった。

うわぁ……!また凄いところだね、天井たかーい。

濃い水のにおいがする……調べなくてもわかるよ。ここ、水路だった場所なんでしょ?

ざァんねーん、単純に湿気の多い地下道でしたァー。

えっ、マジ……?

濃い水のにおいがする……だってさ!アッハッハ!

ちょっ、や、やめてよ馬鹿!もう、変なこと言うんじゃなかった!

あっはあ~、ヤチヨちゃんは何?テレ屋さんなの?かわいいねぇ!ねぇ!

こっち来んな馬鹿!もう知らない!!

やってることが完全におっさんにゃ……。

 キワムたちと境遇が同じとは思えない明るい調子で、アトヤは無遠慮に話し、豪快に笑う。

でも、アトヤさんのお陰で、みんな表情が柔らかくなったよな。

すごいな……俺も、あんなふうにできたらいいのに。

えー、キワムがあんなセクハラおやじになったらヤだなー。

んんー?だーれーがイケメンハンサムだって?

ぎゃっ、出た!

おやおや、アッカ嬢は大人の魅力をわからんと見える。とまぁ、冗談はここまでにして、だ。

 そう言うと、アトヤはわざとらしくごほん、と咳払いをする。

すると、彼の足元のガーディアンも、アトヤと同じジェスチャーをした。

この先に、俺と「お師匠さん」の住処がある。そこならキッチリ傷の手当ができるぜ、後輩くん。

 言いながら、アトヤはまだ腕をかばっているトキオに目配せをした。

……その「後輩くん」っていうのはやめてくれないか。

いいじゃねえかよネジヅカ兄。俺のほうが見た目とか含めて先輩だろ?

そのネジヅカ兄っていうのもやめろ。呼ばれ慣れていないから反応しづらい。

じゃあトキオきゅん。

却下だ。撃つぞお前……!

んだよオ、お前文句ばっかだなぁ!多分だけど、人生楽しくねえだろ!

ああ、今が特に不快指数が高い。体が万全ならお前に掴みかかっているところだ。

 不快感を露わにするトキオを見て、一瞬アトヤは動きを止める。

それから、せきを切ったように彼は笑い始めた。

アッハッハッハ、そうそう!そうやって素直になんでも言やぁ良いんだって!

…………!

お前は溜め込みすぎだ、トキオ。キッチリ悩んだ後は、誰かとその結果を答え合わせしてみな。

そうすりゃ、多少楽にはなるぜ。例えば……そうだな、そこのネジヅカ弟とかとな?

……なんだよ、面倒くせぇから俺に絡むな。

 スミオの態度と言葉は、変わらず刺々しい。それを見て、アトヤは大きなため息をついた。

あのな、俺だってこんなこと言いたくて言ってるわけじゃねえ。

お前らのチームは見たところ脆い。誰かが欠けたらそっからダメになる。

お前がそのダメになるきっかけになるんじゃねえぞ、って言ってんの。わかる?

 あくまで、アトヤはヘラヘラと笑い続けながら、不真面目そうに言う。

だが、その言葉は異様なほど彼らの状況を的確に表していた。

ホラ行くぞ後輩ども。置いていくぞー。


……とりあえず、ついていくにゃ。悪い奴じゃないのは確かにゃ。

 ウィズの言葉にうなずき、君たちはアトヤの背中を追う。


 ***


 歩きながら、君たちはアトヤと色々なことを話した。

アトヤは、百年ほど前に天災で壊れた第430号ロッドの住人だという。

そしてやはり、スミオたちと同じように、「スザクロッド」へと「報告」をしに行ったらしい。


そっからが地獄だったな……。

仲間は自分たちが人間じゃねえ、ってことに絶望してどっか行っちまったり……。

ネジヅカ兄みてえに、もうどうでもいいや、って感じでムチャない方して消えてったりよ……。

おい、俺はまだ生きてる。勝手に殺すな。

知ってるっての、んなこたぁ。話の腰を折るんじゃねえよ空気読めねえなネジヅカ兄!

む……す、すまん。

いいよぉ、許す許す。んで……

 と、その時、……妙な音が聞こえてきて、アトヤの言葉は一瞬止まる。

……あー、どこまで話したっけ?

仲間がいなくなっていって、ってところ!

ああそうそう、それ。んでな、そこで俺は「お師匠さん」に会ったわけよ。

その「お師匠さん」っていうのは、どんな人なの?

んー、可愛い人だよ。ただ、俺らよりも全然年上だから――

 と、そこまでアトヤが話した時だった。

……他の侵入者だ。今日は客が多い日だな、近いぞ。

 今までの軽い調子は突如として消え、アトヤの声は一段低くなる。

キワム、あとそこの黒猫の、ついて来い。他の奴らはココに残ってろ。

なんでだよ、俺もノイズもまだ戦える!

知ってる。だからお前はここに残るんだよ。誰がトキオを守るんだ?

あ……。

 皆の考えや気持ちを斟酌した上で、的確な指示を出す。

アトヤ……彼、戦い慣れしてるにゃ。それも、すごく。

 その表情は、少し前に見たキワムとは比較にならないほど、冷たく鋭い。

そういうことだ。ゴチャゴチャ話してる余裕はねえ、行くぞ。

 走りだしたアトヤを、君とキワムは追いかける。

いいか、あのスピーカードローンが叫ぶときは、確実に「外からの侵入者」だ。

……じゃあ、収穫者かもしれない。

そいつらがどんな奴かは知らんが、そうかもしれん。気を引き締めろよ!

わかってる!

 いくつかの角を曲がったその先に、それは居た。

アトヤの言うスピーカードローンを踏み砕いている、巨大な機械が……!

鎖をちぎれ、砕け伽、赳り我が道塞ぐものを断て!!リベルタァアス!!

ウォォォォオオアアアア!!

 アトヤの叫びに呼応して、彼のガーディアンは飛び上がると、空中でその身を変化させる!

そして、そのままの勢いで巨大な機械を殴りつけた!!

ヴゥオォオオオ!!

……行くぞお前ら、遅れんなよ!

 アトヤの声に後押しされ、とてつもない暴力同士のぶつかり合いに、君は躊躇なく飛び込んだ!


 ***


 リベルタス、アウデアムス、そして君の魔法。

3つの異なる破壊の力に圧倒され、既に巨大兵器はその形を半ば失っていた。

……こいつら、やっぱり外から来てやがるな。お前ら、何か知ってるか?

収穫者だ。多分間違いない。あいつら……俺たちを追ってきたんだと思う。

 キワムの言葉に、アトヤは怪訝な表情を浮かべる。

それから少し考えこむように、彼をじっと睨むと……

その収穫者ってのはよ……そこの、アイツみたいな見た目してんのか?

 と言いながら、キワムの背後を指さした。

…………?

え……?あ、いや、収穫者は、もっと普通の見た目だけど……。

あの子は誰にゃ?アトヤの知り合い……もしかしてお師匠さんかにゃ?

いや、知らん。収穫者でもないしお前らの友達でもないって……じゃあ誰だよあれは。

 誰も少女の素性を知らない。嫌な予感が皆の間に満ち始めたその時。

壊れかけた巨大兵器が、何故か再び起動し始めた!

なっ……!?

 君たちは、キワムの背後でこちらを伺っていた少女に気を取られていた。

故に、振り上げられる巨大兵器の腕に、反応することができない!

しまっ……!

 まずい、と咄嵯に感じた君は、ぎゅっと目を閉じる――!

そして、次の瞬間!!

「慌ててはいけませんよ、アトヤ。」

「…………。」

 ばらばらと周辺に散るのは、機械の破片。それを叩き潰したのは、異様な怪物だった。

「大丈夫かしら、あなたたち。」

 優しく笑う少女が、君を見下ろしている。

その腰には、見覚えのある文様が刻まれた札が下がっていた。




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