【黒ウィズ】幻魔特区スザク2 Story1
story
……足に触れる冷たい感覚。どこか懐かしい潮の香り。静かに響く波の音……。
そう、君は今、何故か波打ち際に立っていた。
ここはスザクロッドからは少し離れた場所のようだ。
周辺を見回すと、打ち捨てられた船や、朽ちかけた灯台が見える。
そんな声が聞こえ、ふと足下を見ると……
ずぶ濡れになったウィズが、この世の終わりのような顔をして君を見つめていた。
彼女はそう言いながら、君の服に濡れた体を擦りつけてくる。
君はそんなウィズを抱きかかえ、砂浜へ戻ろうとした……その時だった。
「あ~~!!」
聞こえてきた大きな声に振り返ると、そこにはアッカとヤチヨの姿があった。
ぷんすかと頬を膨らすアッカをなだめながら、君は色々あったんだよ、とお茶を濁す。
ウィズの方を見ると、彼女は彼女でシキやロッカに絡まれていた。
後でちゃーんと謝っときなさいよ!
……そういえば、なんでヤチヨたちは水着なのかにゃ?
それに……私達にあるのは故郷のロッドの想い出だけだから。
少し寂しげに笑いながら、ヤチヨはそう言う。
君の横をすり抜けて、アッカとウィズは楽しそうに砂浜を走って行く。
そんな一人と一匹を眺め、ヤチヨは苦笑しながら君に話しかけた。
キミがまた居なくなっちゃったり、り怪我したりしたら、キワムが泣いちゃうからさ。
心配性なキワムなら、あり得ない話じゃない。思わず君は吹き出してしまう。
水着を着ているせいだろうか、楽しそうに話すヤチヨは、以前よりも少しだけ大人びて見える。
君はそう言う彼女にうなずき、ゆっくりと砂浜を歩き始めた。
***
砂浜をしばらく歩いていくと、見覚えのある後ろ姿が見えてきた。
彼は何故か、足元の砂を一生懸命に掘りながら首をかしげている。
君はキワムの名前を大きな声で呼びながら手を振る。
すると、顔を上げたキワムは一瞬顔をしかめ……
すぐにぱっと明るい顔になり、叫びながら君たちの方へと走ってきた。
元気だったか、おい!まったくこの、コイツゥ!どこ行ってたんだよまったく!
君の体を肩から背中からバシバシとまんべんなく叩きながら、キワムは嬉しそうに言う。
ワンワン!フンフンスンスン……フガッ、クシュン!
彼の気持ちが伝わったのか、クロもむせるほどテンションが上がっているようだ。
ぐす……それにしても、どこに行ってたんだ?心配してたんだぜ、みんな。
ヤチヨはそう言うと、シキの手を指先で握る。
すると、シキが一瞬輝き、ヤチヨの周囲に透明な板がいくつも現れた。
スミオの言葉を借りれば、デバイス形態って奴ね。私は全方位万能探知機ってとこかしら!
一段低いヤチヨの声で、キワムの言葉は遮られる。
そしてそれを合図に、皆の表情が瞬間的に引き締まった。
……アウデアムス。
キワムは、迷うことなく戦いの構えを取った。
……さっきまで談笑していたのが信じられないほどに、冷たい目をして。
不安げなウィズの言葉に君は小さくうなずく。
しかしながら、それを確かめている余裕は無い。
***
君の魔法と、ロッカの爆弾、そしてアウデアムスの凄まじい力により……
収穫者の尖兵たちは一瞬で蹴散らされた。
ウィズが褒めてくれたのが嬉しいのか、アウデアムスは大きな頭を一度振る。
ヘッドホンを耳に当てたヤチヨは、何かを探るようにデバイス形態のシキを操っている。
眉間にシワを寄せながら、ヤチヨは聞こえてくる音の正体を探ろうとしているようだ。
皆が固唾をのんで見守る中、彼女はハッと頭を上げ、海の方向へと顔を向ける。
その方向から現れたのは……!
エクスアルバの背に乗った、険しい顔をしたスミオとトキオの二人だった。
何故か二人は、全身にひどい傷を負っている。
舌打ちをして、トキオはキワムから視線をそらすと、次に君を睨みながら言う。
大きな傷を負ったのか、トキオは不自然に右腕をかばっていた。
そんな状態であるにも関わらず戦おうとするトキオの姿に、君は言葉を失っていた。
君に向けて軽蔑するような視線を向けながら、スミオは巨大な銃を構える。
いつの間にか、トキオの腕にも骨で出来た銃が生まれていた。
どうやら、これが彼らのガーディアンがデバイス形態に変化した姿らしい。
あの時の彼らと、今の彼らは、まるで別人のようだった。
何か変だ。事情を聞いたほうが……と君がウィズに話そうとした時だった。
キワムの言葉に皆が駆け寄ると、そこにはぽっかりと丸い穴が開いていた。
どうやらそれは人工的に作られた穴のようで、端にはハシゴのようなものがついている。
底は暗<て見えないが、下に降りられるようになっているらしい。
ここに身を隠そう。スミオたちの怪我じゃ……言いにくいけど、今戦っても……負けるだけだ。
キワム、ヤチヨ、アッカの三人は、不安げな表情をしてトキオを見つめる。
彼は湧き上がる感情を押し殺すように一度深呼吸をすると、キワムたちを見ずに言った。
全員が穴の底に降りると同時に、ゆっくりと天井の扉が閉まり始める。
体を引きずりながら歩くトキオに、キワムは声をかけられずにいる。
……彼らに、何があったのか。それを、確かめなければならない。