幻魔特区スザク2 Story4
story
つまり量産型ガーディアンが生産されるきっかけとなった生物だ。
荒々しく足を進めながら、アサギは君たちに背を向けたまま話し始めた。
現在から1292年25日前、観測できる最初の「カリュプス」が衛星軌道上に現れた。
「鋼鉄」という意味を持つ奴らは、その名の通り強固な外殼を持っていた。
……それこそ、当時の人類が持つ兵器があらゆる意味で通用しないほどにな。
カリュプスは地上に降り立つと大屋の分身を生みながら、あらゆる都市を破壊し尽くしていった。
奴らが出現した理由も、奴らの目的もわからない。
ただただ、「この星のあらゆる生物を食いつくす」……それだけを遂行する生物だった。
苦虫を噛み潰したような表情で、アサギは続ける。
だから、人類は空に逃げた。奴らは地上に降りて以降は、高く跳ぶことができなかったからな。
そこまで言い、おもむろにアサギは天井を見つめる。その先の空を、睨むように。
それにさっき、アサギはそいつ――「カリュプス」を「C資源」って呼んでただろ。
その怪物が……何も通用しないくらい強い怪物が、なんで資源になるんだよ?
この怪物に何としても復讐してやる、確実に息の根を止めてやる、と憤怒の炎に燃えていたのだ。
アサギの目の奥には、鮮烈な怒りが渦巻いていた。
それはまるで、1000年前の人間たちが抱えた怒りが、彼女の中に息づいているかのような――
人類は、自分たちが過ごしてきた想い出を焼き払ってでも、その怪物に復讐したかった。
アサギは、スミオに向けていた視線を、もう一度見えないはずの空に向ける。
そこには、暗く、深い闇に包まれた天蓋から突き出た、巨大なトゲしか見えていない。
まるで、恨みを込めて、地面に突き立てた剣のような――。
それに……資源って……つまり、スザクロッドは……アサギさんたちの任務は……。
震える手で口元を覆いながら、ヤチヨは言う。恐ろしいものを見たような目をして。
悲しく笑いながら、アトヤはめくれた岩盤に突き立つ、トゲの先端を指さす。
でもな、当時の人間たちも、そのくらいで奴がくたばるとは思っちゃいなかったんだよ。
……だからな、永遠に「殺し続ける」ことにしたんだよ。あの怪物をな。
アトヤの言葉と同時に、ロッドの先端から、聞き覚えのある音が聞こえる。
……そう、君たちは気付いてしまった。この音は「カリュプス」の叫び声だったのだ。
その声を聞いて、皆スザクロッドの先端を見つめて驚いた顔をしている。
だが、キワムだけは、何故か目をそらし、悲しそうな表情を浮かべていた。
絞りだすようにそう言うと、ヤチヨは唇を噛んでうつむく。
その肩を、ミュールがそっと抱く。
敵意に満ちた瞳をロッドの先端に向けながら、ヤチヨは言う。
だが、そんな彼女を冷ややかな目で見下ろしながら、アサギは言った。
だから、当時の人類はそれを利用することにした。ただそれだけのことだ。
君は、正面に見える岩の間から流れ落ちる、青白く光る液体を見たことがある。
スザクロッドを歩いていた時、地面を走っていた、あの光の正体……。
つまり、あれは怪物の拍動。吸いだした体液を走らせる、いわば血管だったのだ。
……それらを狩り尽くし、人間が住める場所を作る。
それがお前たち、マスプロダクション型ガーディアンと「小ロッド」の役目だった。
「カリュプス」に落とされた「大ロッド」。その周辺の掃除を永遠に行うためにな。
おそらくは、1000年近く、お前たちはあのロッドで暮らしてきたはずだ。
繰り返し、繰り返し……ロッドのプログラムした日常を過ごしながらな。
アサギの冷たい言葉は、何一つ容赦なくトキオの心を打ち砕いたに違いない。
その証拠に、彼は力なく瓦礦の上に座り、見えるはずのない空を仰いでいた。
***
最初はツライもんだぜ、俺だってそうだった。
悲しげな目をして、アトヤはコベニをたしなめる。
そんな皆を見ながら、君は複雑な心持ちでいっぱいになっていた。
どうすればいいにゃ……?
耳元で囁くウィズにわからない、と君は言う。
それでも、何かができるはずだ。そう思い、君がー歩踏み出し、口を開こうとした……
その時だった。
アトヤの声に思わず身をかがめた直後、頭上を強烈な閃光が通過する!
そしてその閃光は、スザクロッドの先端へと急激に角度を変えた!
アサギの表情が凍りつく。
そう、あの閃光が、仮にスザクロッドの先端を破壊したとしたら。
スザクロッドが止まるのはもちろん、まだ生きている怪物が――
死に続けているはずの「カリュプス」が復活してしまう!
しかし、その閃光は君が魔法を発動する暇もなく、スザクロッドの先端へ伸び――
と、ミュールが叫んだ瞬間、閃光は掻き消えてしまった。
アサギの、下げてるそれ……それから、あのひとのコイン、ぜんぶいっしょ!
笑いながらそう言うミュールが指差す方向には、驚愕の表情でこちらを見つめる女性の姿。
……ずいぶん事情に詳しい小娘だな。このコインの製造法は知られていないはずだぞ。
疲れきった表情をして、ヒミカは言う。それは、先ほどのトキオの表情に驚くほど似ていた。
あらゆるものに絶望し、心が擦り切れ果て、もう何もかも諦めた……そんな表情だった。
ヒミカの放った閃光は、アトヤとコベニを同時に吹き飛ばす。
さらにその閃光は方向を変え、なぎ払うようにアサギとミュールを地面に叩き付けた。
こんな形で生きる塔も、ヒトも、いらない。ガーディアンは、もう充分に耐えたはずだ。
私達が歴史の裏側に消えた、ただの道具で終わるのは……許さない。
言いながら、ヒミカはうなだれる皆に近づいていく。
そして、アッカの髪を掴むと、それを引っ張り無理矢理に立ち上がらせた。
私達はここに生きている。それを、忘れさせはしない。
ふたたび、閃光が放たれる。それはアサギとアトヤをもう一度巻き込んだ。
君は、思わず目をそらし、ポケットの中にあるフォナーを握りしめる。
彼らが悲しむのを、もうこれ以上見てはいられなかったのだ。
君の手の届かないところで、大切なものがどんどん壊れていく気がした。
何もできない自分が腹立たしくて、思わず君の目に涙が浮かぶ。
だが、そんな君の肩を、誰かが力強く、叩いた。
彼は、にっこりと君に笑いかけると、一歩前に出る。
その手には、収穫者のコインが握られていた。
次の瞬間、キワムの体が強く輝く。
そして、そこには……。
いびつな怪物に体を変えた、キワムの姿があった。
そのまま、死ね。
ヒミカのガーディアンから、閃光が三度放たれる。
だが、それをキワムはその腕で弾いた。
俺は決メたんダ、『俺が何かをして、幸せになるヒトがイるんだったら、闘う』ッテ……!!
どんな姿になっテも、何ヲ使っても、ゼンブ、俺がヤッてやル……!!
ダかラ、みんナ……泣かナいでくれよ。
涙を浮かべたキワムは、ヤチヨの言葉を振り払うように、ヒミカヘと突進していく。
その姿を見ていたキミに、ヤチヨが叫んだ。
……!!
そうだ、そうしなければダメなんだ。君は彼女の言葉に、ハッと我に帰る。
そうだ、戦わなければならない。君は、戦わなければならない!!
世界のためだとか、平和を守るとか、大義名分のためではない。
たった一人で戦おうとする友達を、ひとりにしない。
そのためだけに、君は走りだした!!
***
キワムは腕の一撃で、ヒミカのガーディアンを彼女ごと吹き飛ばす。
さらにそれを追いかけようと、地面を殴りつけてキワムは飛んだ。
そして空中で体制を整えようとするヒミカを巨大な腕で掴み、地面に叩きつける!
戦いは一方的だった。だが……。
キワムは頭を抱えうずくまるのに対し、ヒミカはなぜか立ち上がったのだ。
君も全力を出し切ったせいか、もう、立つことが出来ない……。
……おそらく、ヒミカが立ち上がったその秘密は、彼女のガーディアンにあった。
薄く光る翼は、キワムの攻撃を寸前で防御しているように、君には見えていたのだ。
だが、自分のコインを見つめ、ヒミカは舌打ちをひとつ。そして突然――。
……ここがダメでも、次がある。
薄く笑うヒミカに、キワムは腕を伸ばそうとする。
けれど、それは、届かなかった。
まるでその場から煙のように、ヒミカとアッカは消えてしまう。
おそらくは、私と同じ、権限を持っていたのか。だから、ここに……入れたのだな。
ボロボロの体を引きずり、アサギはぶつぶつと呟きながらキワムヘと近づいていく。
キワムは、泣いていた。
半ば人ではない体になりながら、彼は迷子の子供のように、ただ泣いていた。
そんな彼に、アサギは自分の持つエンブレムを押し当てる。
すると、彼の体から、黒い霧のようなものがエンブレムに吸い込まれていく。
次の瞬間には、彼の体は元の形へと戻っていた。
ヤチヨは、倒れこむ寸前のキワムを抱きとめる。
額に手を当てながら、キワムは悔しげにそう言う。
「……いや、お前は充分時間は稼いでくれたぜ、キワム。」
……アッカを、助けてくれ。あいつは今、収穫者の船に載せられて、空に飛ぼうとしてる。
あいつらは、月に行く気だ。アッカの、そしてお前らの生まれ故郷に……!
俺も行くぜ、こうなったら……とことん付き合ってやるよ。
……ありがとう。
アサギは、そんな皆を見て頬をゆるめたあと、君に向かって鋭い視線を投げた。
そう言うと、アサギは君の足元にコインを放り投げる。
君はアサギに対し頷き、地面に置かれたコインヘ魔法を放った。
……知らず知らず、君は以前このコインを集めていた。
これを使えば、確かにガーディアンは強くなる。
だが、使ってしまったら、取り返しがつかないことが起こってしまうのでは……
そんな悪い予感が、君の中に大きく大き<渦巻いていた。
また、彼らの傷が癒え、準備を終えたのち、お呼びします。
……それまで、これを頼みましたよ。
アサギがそこまで言うと、再び君のポケッドの中で、フォナーが振動し始めた。
『ごきげんよう、魔法使い。お気をつけてお帰りを。』
それを……!!
だが、その叫びは途切れ、君はその場から消えた。
(……願わくば、次が最後の召喚になるとよいのですが……)