【黒ウィズ】双翼のロストエデン Story2
story3 上級 螺旋の胎動
君とウィズは、ルシエラに抱えられ、天界の空を飛んでいた。
どうして?と君はルシエラに訊ねた。
そんなところを、どうやって好きになるんですか?
馬鹿も休み休み言ってください。ふざけたこと言っていると、落としますよ。
君は、閉じ込められていた理由をルシエラに訊いた。
なんでもかんでも理由を求めるのは、よくないですよ。
あなたとその黒猫さんは、何か理由があるから一緒にいるんですか?
だとしたら、つまらない関係ですね。特に理由もないのに、一緒にいるのがステキなんですよ。
運命で繋がる関係みたいでステキじゃないですか。
そういうものなのかな?と君は思った。
そんなことを話していると、大地のいたる所で、岩が溶け出し、沸き立ち始めた。
その灼熱の沼から、魔族たちが飛び出してくる。
そして、その場にいる天使たちに見境なく襲いかかった。
そういうものかな?と君が言うと、
やめて………という君の諦めの声を聞くと、ルシエラは天使と魔族たちが戦う戦場へと向かった。
***
君たちが、魔族と天使の争いの中を駆け抜けていると、見覚えのある少女を見つけた。
ミカエラと一緒にいた天使の子だね、と君は落ち着かせるように、少女に声をかけた。
上手くいきませんでした。
もうちょっと遠慮しなよ、と君がルシエラ論していると……
ミカエラの側にいた、もうひとりの人物。
いつの間にか、彼を含む数人の兵に君たちは取り囲まれていた。
彼は高々と杖を褐げると、一息にルシエラに向けて振り下ろした。
君は、とっさにルシエラをかばおうと、身を投げ出す。
しかし、それよりも早く反応した者がいた。
君の前には見た事がある剣が、地面に突き立てられていた。
ルシエラに向けられた一撃は、その直前でアルドベリクの剣によって、阻まれていた。
***
BOSSマクシエル
***
だが勝負はついていた。
マクシエルは、君とアルドベリクの前にひざまずき、傷ついた体を抱いていた。
すると、彼の前にクリネアが飛び出してくる。
君は傍らに立つアルドベリクを見やった。
それだけ言って、彼はきびすを返した。君は震えるクリネアに目配せを送る。
それを見ると、クリネアは安堵の息を漏らし、
緊張の糸が切れたのか、彼女はその場にへたり込んだ。その背後から何かが見えた。
ぬっ、と現れた鈍い光の軌跡が、君の脇をかすめていく。
君は咄唯にローブを振り回し、それを叩き落とそうとした。
手応えはあった。普通なら叩き落とせただろう……。
だが、それはローブを突き破り、背後へと吸い込まれていった。
彼女は、なぜか安心したように笑っていた。
アルドベリクヘと向けられた刃は阻まれた。ルシエラが身を挺したことによって。
けれど、君は妙な錯覚をした。その刃は、初めからルシエラに向けられていたのではないか。
そんな、妙な感覚である。
しかし、それどころではなかった。
マクシエルの胸ぐらを掴み、もう片方の手には魔力が込められていく。
一瞬、君とクリネアを睨んだ彼の目は……初めて見るものだった。
焦げた臭いが辺りに立ち込めた。マクシエルから逸れた火球が地面を焼く臭いだった。
間一髪、やってきたイザークが我が身を顧みずアルドベリクを制止したのだ。
アルドベリクの腕を取る、イザークの手もまた焼かれている。
それでも彼はその手を離さなかった。
それは彼を知っている者なら、誰もが口に出した言葉だろう。
少し遅れて、その場にやってきたミカエラは、そう言った。
イザークはちらりと、ミカエラを見た。
ミカエラは、確かにそう言った。
その言葉は、それが持つ通りの意味として、使われていた。
信じられないことだが、間違いなく。
story4 封魔級 決意の時
――これは何度目の出会いのなのだろうか?
「おい。顔を見せろ。」
「あ、こんにちは。」
「……なんだそれは?」
「挨拶ですけど……?よくなかったですか?
囚われの身らしく、しくしくと泣いていた方か良かったですか?
そういうの、堅苦しくないですか?私、自分のやりたいことは自分で決めますよ。
泣きたくなったら泣くし、笑いたかったら笑います。」
「名は?」
「ルシエラ・フオルですよ。
あなたのお名前聞いていませんけど?」
「アルドベリクだ。」
――そしてこれは、何度目の別れなのだろうか?
「そういえばお前、なぜ魔界に来た?
自分で魔界に来たのか。それとも魔界に来ざるを得なかったのか?」
「内緒です。」
「……答えは帰って来てから聞くとしよう。」
――その答えを、俺はまだ聞いていない。
***
アルドベリクは何を考えていたのだろうか?
彼はじっと壁に背をもたせかけて、ミカエラたちの話を聞いていた。
君はただ、その様子を見ていた。
イザークの話は、クエス=アリアスの感覚からすると少し荒唐無稽に聞こえた。
アルドベリクとルシエラは、あらゆる次元で、存在を変えながら、出会い――
運命に引き離されるように、「死」という別れを繰り返しているらしい。
それを先代聖王のイアデルが調査しました。そこでわかったのです。
アルドベリクとルシエラが、延々とふたりだけで小さな時間の流れを繰り返していることが……。
神界のどこか、神界ですらないどこか、あらゆるところで、その小さな時間の流れは、繰り返されていた。
名を変え、姿を変え、あらゆる形で、彼らは同じ時間を繰り返していた。
と、イアデルは言っていました。あらゆる〈可能性〉を繰り返していますが――
ただひとつ、ふたりがともに生きるという〈可能性〉を捨てた。
その報われない想いは、永遠に、未練を残しながら繰り返されている。
そしていま、彼らの循環は、再びひとつの終わりへと向かっている。
いつも通りの繰り返しを行う為に。
彼女は秘密の存在として、長く匿われてきました。
双方が出会わなければ、何も起こらない。少なくとも不毛な繰り返しを止められる。
そういう判断らしい。
そして、先代聖王のイアデルが崩御し、神界が7つの異界に分かれた、混乱の中、
ルシエラは逃げ出した。
ルシエラはきっとお前に会いに来たのだからな。
その言葉に、アルドベリクは少しだけ反応した。
〈回廊〉を開きます。そこにはあらゆる〈可能性〉があります。
調和を重んじるイアデルは、その方法を避けてきました。
ですが、私は聖王の名において、それを行おうと思います。もちろん……。
そこまで話し終わって、エストラが口を開いた。
これがデタラメだということが!見ろ、周りは皆、天界の奴らばかりだ!
イザークも含めてな!
アルドベリク。お前がかつてどんな存在であったとしても、いまのお前は魔族だ!
……魔族であることを示せ。
アルドベリクは黙って、寝台の上に寝ているルシエラの元に歩いていった。
意識を失っていたはずの、ルシエラは足音が近づくと、薄く眼を開けた。
アルドベリクがその顔を覗き込むと、彼女は言った。
それだけ言うと彼女はまた意識を失った。
何か理由が必要か?俺は、そうは思わない。
君はルシエラが言っていたことを思い出した。
何にでも理由を求める心要はない。
アルドベリクの言っていることは、少しだけルシエラに似ている。
そんな気がした。