【黒ウィズ】双翼のロストエデン Story2
story3 上級 螺旋の胎動
君とウィズは、ルシエラに抱えられ、天界の空を飛んでいた。
うわー、こうして見ると、何もなくてつまらないところですねえ。
自分の故郷をひどい言いようにゃ。
故郷?ここはそんな良いものじゃありませんよ。
どうして?と君はルシエラに訊ねた。
どうしても何も、気づいた頃には、暗くて冷たくて狭い所に閉じ込められていましたから。
そんなところを、どうやって好きになるんですか?
馬鹿も休み休み言ってください。ふざけたこと言っていると、落としますよ。
や、やめるにゃ!
君は、閉じ込められていた理由をルシエラに訊いた。
さあ?知りません。気にしたことないです。
なんでもかんでも理由を求めるのは、よくないですよ。
あなたとその黒猫さんは、何か理由があるから一緒にいるんですか?
だとしたら、つまらない関係ですね。特に理由もないのに、一緒にいるのがステキなんですよ。
運命で繋がる関係みたいでステキじゃないですか。
そういうものなのかな?と君は思った。
そんなことを話していると、大地のいたる所で、岩が溶け出し、沸き立ち始めた。
その灼熱の沼から、魔族たちが飛び出してくる。
そして、その場にいる天使たちに見境なく襲いかかった。
魔族が反撃に出たにゃ……。
きっとアルさんですね。これは私たちも駆けつけなければいけません。行きますよ。
そういうものかな?と君が言うと、
えー、落としますよ。それでいいですかー?いいですよねー?
やめて………という君の諦めの声を聞くと、ルシエラは天使と魔族たちが戦う戦場へと向かった。
***
君たちが、魔族と天使の争いの中を駆け抜けていると、見覚えのある少女を見つけた。
わ!敵ですか?
敵ですよ!悪いことしますよ!ふふふふ。
あわわわ……
何をやってるにゃ……
ミカエラと一緒にいた天使の子だね、と君は落ち着かせるように、少女に声をかけた。
はい。この混乱を収拾しようと思ったのですが、元々非力なもので……
上手くいきませんでした。
まあ、この場合は腕力がモノを言いますからね。
もうちょっと遠慮しなよ、と君がルシエラ論していると……
その通りだな。
ミカエラの側にいた、もうひとりの人物。
いつの間にか、彼を含む数人の兵に君たちは取り囲まれていた。
マ、マクシエル様。彼女は私たちと同じ天使です。争いはやめて下さい。
やめないと、ぶっとばしまーす!
え?
台無しにゃ……
ふん。ということだ、クリネア。話し合いは終わりだ。
彼は高々と杖を褐げると、一息にルシエラに向けて振り下ろした。
キミ!
君は、とっさにルシエラをかばおうと、身を投げ出す。
しかし、それよりも早く反応した者がいた。
君の前には見た事がある剣が、地面に突き立てられていた。
聞こえなかったか?やめなければ、ぶっとばすと言ったはずだ。
アルドベリク……。
ルシエラに向けられた一撃は、その直前でアルドベリクの剣によって、阻まれていた。
覚悟はいいか?
***
BOSSマクシエル
***
クッ………まだだ。
だが勝負はついていた。
マクシエルは、君とアルドベリクの前にひざまずき、傷ついた体を抱いていた。
すると、彼の前にクリネアが飛び出してくる。
もう、終わりです。この人は戦えません……。
君は傍らに立つアルドベリクを見やった。
抵抗できぬ者をなぶる趣味はない。
それだけ言って、彼はきびすを返した。君は震えるクリネアに目配せを送る。
………ふぅ。
それを見ると、クリネアは安堵の息を漏らし、
よかったです……。
緊張の糸が切れたのか、彼女はその場にへたり込んだ。その背後から何かが見えた。
ぬっ、と現れた鈍い光の軌跡が、君の脇をかすめていく。
君は咄唯にローブを振り回し、それを叩き落とそうとした。
手応えはあった。普通なら叩き落とせただろう……。
だが、それはローブを突き破り、背後へと吸い込まれていった。
……ッ!……な、に?
あうっ……。アルさん……。大丈夫……ですか?
彼女は、なぜか安心したように笑っていた。
ルシエラ!
アルドベリクヘと向けられた刃は阻まれた。ルシエラが身を挺したことによって。
けれど、君は妙な錯覚をした。その刃は、初めからルシエラに向けられていたのではないか。
そんな、妙な感覚である。
しかし、それどころではなかった。
ぐぁ……!
貴様……。
マクシエルの胸ぐらを掴み、もう片方の手には魔力が込められていく。
お、落ち着いてください。
一瞬、君とクリネアを睨んだ彼の目は……初めて見るものだった。
俺は、そこまでお人好しではない。
よせ!アルドベリク。
焦げた臭いが辺りに立ち込めた。マクシエルから逸れた火球が地面を焼く臭いだった。
間一髪、やってきたイザークが我が身を顧みずアルドベリクを制止したのだ。
アルドベリクの腕を取る、イザークの手もまた焼かれている。
それでも彼はその手を離さなかった。
あれは……アルドベリクか?
それは彼を知っている者なら、誰もが口に出した言葉だろう。
始まったようですね。
少し遅れて、その場にやってきたミカエラは、そう言った。
訳のわからんことを言うな。……お前たちは何を知っている。
イザークはちらりと、ミカエラを見た。
私たちは………
ルシエラがもうすぐ死に、やがてお前もそれを追うように、命を失う。
そして、あなた達が、それをもう何度も、数えきれないほど、繰り返していることを。
ミカエラは、確かにそう言った。
その言葉は、それが持つ通りの意味として、使われていた。
信じられないことだが、間違いなく。
story4 封魔級 決意の時
――これは何度目の出会いのなのだろうか?
「おい。顔を見せろ。」
「あ、こんにちは。」
「……なんだそれは?」
「挨拶ですけど……?よくなかったですか?
囚われの身らしく、しくしくと泣いていた方か良かったですか?
そういうの、堅苦しくないですか?私、自分のやりたいことは自分で決めますよ。
泣きたくなったら泣くし、笑いたかったら笑います。」
「名は?」
「ルシエラ・フオルですよ。
あなたのお名前聞いていませんけど?」
「アルドベリクだ。」
――そしてこれは、何度目の別れなのだろうか?
「そういえばお前、なぜ魔界に来た?
自分で魔界に来たのか。それとも魔界に来ざるを得なかったのか?」
「内緒です。」
「……答えは帰って来てから聞くとしよう。」
――その答えを、俺はまだ聞いていない。
***
アルドベリクは何を考えていたのだろうか?
彼はじっと壁に背をもたせかけて、ミカエラたちの話を聞いていた。
君はただ、その様子を見ていた。
イザークの話は、クエス=アリアスの感覚からすると少し荒唐無稽に聞こえた。
アルドベリクとルシエラは、あらゆる次元で、存在を変えながら、出会い――
運命に引き離されるように、「死」という別れを繰り返しているらしい。
なぜ、そんなことか分かる。誰がそんなことを言いだしたのだ。
時界の監視者が、妙な現象を発見したのが最初だ。
世界の時間の流れからズレた、ひとつの小さな時間の流れがある、と。
それを先代聖王のイアデルが調査しました。そこでわかったのです。
アルドベリクとルシエラが、延々とふたりだけで小さな時間の流れを繰り返していることが……。
神界のどこか、神界ですらないどこか、あらゆるところで、その小さな時間の流れは、繰り返されていた。
名を変え、姿を変え、あらゆる形で、彼らは同じ時間を繰り返していた。
何のためだ?何のために、俺達はそんなことを繰り返している。
ひとつの推測として、あなたたちがともに生きるという〈可能性〉を捨てたからではないか。
と、イアデルは言っていました。あらゆる〈可能性〉を繰り返していますが――
ただひとつ、ふたりがともに生きるという〈可能性〉を捨てた。
その報われない想いは、永遠に、未練を残しながら繰り返されている。
そしていま、彼らの循環は、再びひとつの終わりへと向かっている。
いつも通りの繰り返しを行う為に。
イアデルは、あなた達が、この神界の存在として生まれ変わった時、ルシエラを保護しました。
彼女は秘密の存在として、長く匿われてきました。
だから、私も見たことがなかったんですか。
双方が出会わなければ、何も起こらない。少なくとも不毛な繰り返しを止められる。
そういう判断らしい。
そして、先代聖王のイアデルが崩御し、神界が7つの異界に分かれた、混乱の中、
ルシエラは逃げ出した。
それを、俺が魔界で見つけた。しばらくどうするか考えたが、結局会わせることにした。
ルシエラはきっとお前に会いに来たのだからな。
その言葉に、アルドベリクは少しだけ反応した。
それに、ひとつだけ方法があるからだ。お前達の運命を切り開く方法が。
それはなんだ?
あなた達が〈可能性〉を捨てたのなら、〈可能性〉を拾いに行けばいいのです。
〈回廊〉を開きます。そこにはあらゆる〈可能性〉があります。
調和を重んじるイアデルは、その方法を避けてきました。
ですが、私は聖王の名において、それを行おうと思います。もちろん……。
俺次第か。
そこまで話し終わって、エストラが口を開いた。
馬鹿げた話だな!そんな話、誰が信じる。アルドベリク、いくらお前でも分かるだろ。
これがデタラメだということが!見ろ、周りは皆、天界の奴らばかりだ!
イザークも含めてな!
アルドベリク。お前がかつてどんな存在であったとしても、いまのお前は魔族だ!
……魔族であることを示せ。
アルドベリクは黙って、寝台の上に寝ているルシエラの元に歩いていった。
意識を失っていたはずの、ルシエラは足音が近づくと、薄く眼を開けた。
あ、意識を取り戻しました。
アルドベリクがその顔を覗き込むと、彼女は言った。
アルさんでも……そんな顔するんですね。
それだけ言うと彼女はまた意識を失った。
アルドベリク、どうしますか?
そんな話を信じろというのか?出来るわけないだろう。
そうですね………
さすがに、そこまでお人好しではないか。
勘違いするな。俺は行くぞ。……俺は行く。
何か理由が必要か?俺は、そうは思わない。
では、〈回廊〉に案内します。
君はルシエラが言っていたことを思い出した。
何にでも理由を求める心要はない。
アルドベリクの言っていることは、少しだけルシエラに似ている。
そんな気がした。
…………。