【黒ウィズ】ルドヴィカ編(3周年)Story
2016/02/29
凛眼に宿る決意 ルドヴィカ・ロア(3周年)
目次
登場人物
story
かつて天下に覇を唱えたさる王国の騎士団として「グラン・ファランクス」は誕生した。
ひとたび盾となれば巨人の檻棒を弾き返し、竜の炎をも跳ね返し――
ひとたび剣となれば、敵を跡形もなく打ち砕き、その苛烈な攻撃は、軍場の大地すら割ったという。
グラン・ファランクスの騎士は恐れを知らず、情けを知らず、敗北を知らなかった。
騎士団長の持つ左眼――覇眼から放たれる青き燐光が、彼らの心からー切の”無駄”な感情を取り去るのだ。
彼らの心に残るのは、ただ敵に対する殺意のみ――。
その覇眼こそ、グラン・ファランクス騎士団が最強たる所以であった。
しかし、争いの絶えぬ異界において、絶対的な強者など存在するはずはない。
やがて王国は滅亡し、最強と謳われたグラン・ファランクス騎士団の存在も忘れ去られた。
ルドヴィカ・ロアが覇眼に目覚めるまでは――
集え!ルドヴィカ・ロアの名のもとに!
我が左眼の極星が輝き続ける限り、グラン・ファランクス騎士団に敵はない!
再び歴史の表舞台に現れたグラン・ファランクス騎士団――
彼らは、仕えるべき王を持たなかった。
ただ挑まれるままに戦い、己の義に反するものを敵とした。
敗北を知らぬグラン・ファランクス騎士団を、人々はやがて正規軍と認め、ルドヴィカを王とみなすようになった。
しかし、ここは争いの絶えぬ異界であり、ルドヴィカの本質は王ではなく、騎士であった。
正規軍となった後も、グラン・ファランクス騎士団は常に戦い続けた。
***
その日、グランファランクス騎士団は、いつものように賊軍を討伐するために荒れ果てた岩崖の上に陣を敷いた。
戦場の匂いがするな……。
ルドヴィカは、眼下の都市を見下ろして呟いた。
……あれはどこの軍か?
先遣隊を務めていた亜人の騎士、エスメラルダが答える。
軍?「ハーツ・オブ・クイーン」なんて名乗ってるみたいですけど、いいトコ暴れ牛の群れって感じ?
なるほど、暴れ牛の群れか……言い得て妙だな。
ルドヴィカはつまらなそうに眼下で暴れるその“群れ”に目をやる。
さあ全部奪い尽くすのよ。何ひとつ残す必要なんてないわ!
まだ若い指揮官に鼓舞されて、“群れ”は略奪の限りを尽くしていく。
……リヴェータ。イレ家もここまで落ちぶれたか。
随分と懐かしい顔ですね。「ハーツ・オブ・クイーン」ですか?今更女王様って柄でもないでしょうに……。
え?何?知り合い?どういうことですか?誰なんですか、あれ?
リヴェータ・イレ。かつて我々の領主だった家の娘だ。お前も話くらいは耳にしたことがあるだろう?
うそ?ルドヴィカ様が打ち取ったっていう、あのイレ家の!?
ああ、そういうことだ。
さて、どうしますか?ルドヴィカ様……。
ギルベインの問いに答えることなく、ルドヴィカはふうと、息を吐いて瞳を閉じた。
……同郷のよしみだ。我が剣で相手をしてやろう。
そう言って、彼女は後ろに控える騎士たちに目を開いた。
彼女の左眼から青い閃光が迸る。
覇眼――「凛眼」が発動したのだ。
その殺気は、崖の下にいる「ハーツ・オブ・クイーン」にも伝わる程強烈だった。
彼らはその異様な気配に気が付き、略奪の手を止めた。
リヴェーダの寡黙な右腕、ジミー・デヴィスが、その気配の根源――ルドヴィカの存在に気がついた。
極端に口数が少ない代わりに、周囲の状況の変化に異常なほど敏感なのだ。
…………!
グラン・ファランクスがいる。そうジミーは目で訴える。
……ってことはいるのね?アイツが。
……。
ジミーは頷いて、無言のままリヴェーダに退却を訴える。
……んなこと出来るワケないじゃない!
リヴェーダはルドヴィカを睨みつける。
ルドヴィカ!裏切り者が、私より高いところに立ってんじゃないわよ!
征くぞ、グラン・ファランクス騎士団!
ルドヴィカはそう言って大剣を足元に突き立てた。
奴らを――
剣先から伸びる地面の亀裂は、ヒシヒシと音を立てながら崖の両端へと伸びていく。
押し潰す!
その声とともに、グラン・ファランクス騎士団は「崖ごと」ハーツ・オブ・クイーンヘと突撃した。
ルドヴィカァァァァァァ!!
リヴェータァアア!!
ふたりの叫びと共に、争いの絶えぬ異界の片隅で、またひとつ、戦乱の歴史が幕を開けた。
***
グラン・ファランクスとハーツ・オブ・クイーンの初めての戦いは、あっけなく幕を閉じた。
あまりに明らかな、力の違い――。
許せ。少々力を出しすぎた。仲間の野盗は全て失せたぞ。
失せた?何ワケ分かんないこと言ってんのよ!
それにこいつらは野盗じゃなくて――
と、リヴェータは後ろを振り返るが、そこに仲間の姿はない。
ルドヴィカの、大剣で崖を砕く様子を見ただけで、ハーツ・オブ・クイーンは完全に戦意を喪失し、敗走していたのだ。
……チッ。あいつら、後で思いっきりヤキ入れてやる。
そうボソリと毒づいてから、リヴェーダは再びルドヴィカと向かい合う。
ルドヴィカ!まだ勝負はついてないし、私はあんたを絶対に許さない!
怒りに身を任せ、
リヴェータは手にした鞭を振り上げる。
しかし、それを振り下ろすよりも早く、ルドヴィカの手が彼女の手首を掴んだ。
……くっ
……そんなものがこの鎧に通じると思うか?
……放せ!
それに応じることなく、ルドヴィカは彼女の怒りに満ちた瞳をじっと覗き込む。
……やはりまだ、目覚めていないか。
ルドヴィカはつまらなそうに呟いて、リヴェーダの右手を解放した。
……さあ、とっととその剣構えなさいよじゃなきゃこっちから――
と、リヴェーダは再度鞭を振り上げるが――。
全軍、退却だ!
ルドヴィカは、リヴェーダに背を向けて、
逃げる気?
……ああ、お前の援軍も来たようだしな。
振り返ることなく、ルドヴィカは去って行く。
……援軍?
聞こえてくる蹄の音にリヴェーダが振り返ると、ジミーがやってくるのが見える。
……ったく。指揮官をおいて退却するってどういうことよ?
……。
無言のまま、ジミーは首を横に振る。
……あんた、気絶でもしてたわけ?
崖のかけらにでもあたったのだろう。
額にできた大きなコブをさすりながら、ジミーは申し訳なさそうに頷いた。
よろしかったんですか?リヴェーダをあのまま逃がしてしまって……。
“群れ”は散らした。それで終わりだ。つまらぬ喧嘩をする趣味はない。
しかし、イレ家の覇眼です。やはり目覚める前に潰してしまうべきかと……。
くどい!
ルドヴィカはヤーボの言葉をー蹴する。
見てみたいのだ……。覇眼に目覚めたリヴェーダを……。
その後、グラン・ファランクスは幾度もハーツ・オブ・クイーンと戦ったが――
ルドヴィカがリヴェータを討つことはなかった。
story
カンナブルという街がある。
奥その街を見下ろす小高い丘の上にある墓地に、ルドヴィカの姿があった。
そこはかって、リヴェーダのー族が領主として治めていた街であり――
ルドヴィカによってー度は焼き払われた街だ。
おじさん……。お嬢さんがとうとう煌眼に目覚めました。
ルドヴィカはかすかに微笑みを浮かべ、墓に花束を供えた。
その墓石には「イレ家」の文字が刻まれている。
リヴェーダが煌眼に目覚めたのは、ダリク砦の戦いの最中だった。
ちょうど、黒猫を連れた不思議な魔法使いが、ハーツ・オブ・クイーンに加わっていた時のことだ。
ルドヴィカは芝生の上に腰をおろし、懐から古い手帳を取り出した。
それは彼女がカンナブルでつけていた日記だった。
カンナブルの街並みを眺めてから、ルドヴィカはその日記を読み返す。
「凛眼」によって失われた感情は、もう蘇ることはないだろう。
しかし、そこに記された記憶はまだ、彼女の中に残っている。
ルドヴィカのー族、ロア家は代々、領主であるイレ家の侍衛を務めてきた。
しかし、そのような身分の隔たりは、ルドヴィカとリヴェーダの間には存在しなかった。
ルドヴィカは、おてんばな妹を優し<諌める姉であり、リヴェーダは、そんな姉に頼りっきりの妹だった。
日記を読むルドヴィカの脳裏に蘇るのは、厳しい軍服姿のリヴェータではない。
いつも綺麗な服を着て、パーティーの中心で笑っていたリヴェーダだった。
またいつか、あんな風に笑うリヴェーダに会えるときが訪れるのだろうか?
ルドヴィカはそんなことを考えて、ふと我に返る。
私はもう、笑えないかもしれないな。
日記を読み進めていくルドヴィカ。
ふたりが互いの身分の違いを理解するようになった日を境に、楽しい日々の記録に暗い陰が差し始める。
その日、リヴェーダの父親は唐突に、領民たちに徴兵を強いることを宣言したのだ。
彼はそれまでも温厚で優しい領主とは決して呼べない男であった。
しかし、それでも領民たちは自分の仕事に見合うだけの税を納めてさえいれば、自由な生活を楽しむことはできた。
突然の徴兵は、領民たちからそんな生活をも奪ったのだ。
男たちは兵士としてイレ家に集められ、領民の心はイレ家から離れていった。
リヴェーダの父はまだ十分に鍛えられていない兵たちを連れ、次々と周りの領地へと攻め入った。
働き手を失った領民の苦しみが、聞き入れられることはなかった。
リヴェーダの友達であった領民の子供たちも、次々と彼女から離れていった。
リヴェーダを泣かせたくない……か。
彼女の日記は、そんな言葉で終わっていた。
***
「それは私の誕生日の朝だった。
鏡の前に腰を掛け、髪に櫛を通している時、私の左眼が、青く光った。
それが「凛眼」の光だと気がついたのは、私の心からー切のぬくもりが消えたあとだった。
つくづく間抜けな話だ。
「凛眼」の力を身を以って知った私に、父は「覇眼」について話してくれた。
リヴェーダの父が、誰よりも強い「覇眼」持っていることを――。」
その力をその覇眼は「煌眼」と呼ばれ、人の心に闘志を芽生えさせる力を持っていた。
そしてそれは、かつて、無敵と謳われていた伝説の騎士団、グラン・ファランクスを討った力だった。
以来、覇眼を持つ家系は辺境の地であったカンナブルヘ移され、その力を隠して生活する様になった。
リヴェーダの父は、覇眼の使用を禁止する密約を破り、父に向けてその力を使ったのだ。
ロア家の「凛眼」は、相手に「氷の感情」を叩き込み、ー切の無駄な感情を排すことが出来るものだった。
リヴェーダの父はそれを利用し、最強の私設軍を作ろうとしていたのだ。
「なぜ人に闘志を与える「煌眼」で、父を操ることが出来たのか?
その時の私が、そんな疑問を抱くことが出来ていれば、後に続く悲劇を避けることが出来たかもしれない。
しかし、話を終えた父の、私に言ったあのひと言が、私の理性を完全に奪い去った。」
「これでお前もイレ家のお役に立てるんだ」――
そう嬉々とした表情で言い放つ父からは、強い闇の気配と死の匂いが立ち上っていた。
いくら「凛眼」で心を失っていても、何が正しくて、何が間違っているかの判断は出来る。
リヴェーダの父も、私の父も、間違っている。
だから私はそれを止めることにした。
分厚い鎧を纏って、大きな剣を取って、戦うことを決意した。
自分の父とリヴェーダの父を討つ決意を――。
そして私はまず――自らの父親を討って捨てた。
***
覇眼は闇を引き寄せる――――。
それが父の最期の言葉だった。
私の腕の中で、ようやく正気を取り戻した、父の最期の言葉だった。
ルドヴィカ!こっちは片付いたあとはイレ家を落とすだけだ!
亡き父の骸を抱えていた私は、そんな彼の声で我に返った。
わかった。他に我々の側につくものは?
俺も仲間になろう。お前の覇眼に賭けてみたくなった。
外を見てみろ多くの仲間が、俺やヤーボだけじゃないお前の後ろに付いている!
見ると、まだ覇眼に毒されていない領民たちが、私の後に続いていた。
ありがたい。ー気に落とすぞ!
彼らが共に立ってくれなければ、あの武装蜂起は成功しなかっただろう。
そして我々は、イレ家の周囲を包囲した。
火を放て!我々は圧政に屈しない!
焼き尽くせ!この地に立ち込める闇の気配を――この街に漂う死の匂いを――!
人々は勇んでリヴェーダの住む家へ火を放った。
家が完全に焼け落ちるまで、リヴェーダの父が表へ出てくることはなかった。
そして私は――
ルドヴィカァァァァァ!どうして父様を殺した!?どうして私たちを裏切った!?
瓦篠の山と化したイレ家の地下室から、父親を抱いたリヴェーダを見つけた。
親としての本能がそうさせたのだろう。
リヴェーダの父親は、娘を地下室に匿った後、そのまま入り口で息絶えていたようだった。
彼の骸からは、闇の気配も、死の匂いも感じることはなかった。
そこにあるのはただ、娘を守り抜いたひとりの父の骸だった。
その時初めて、私の中にある疑問が浮かんできた。
一連の騒動は、リヴェーダの父がひとりで画策したのだろうか?
父も、彼も、誰かに操られていたのではないだろうか?
リヴェーダの父の最期は、私にそう思わせる程、娘を想う慈愛の念に満ちていた。
リヴェーダの父もまた、別の覇眼に操られていたのだとしたら――
私は取り返しのつかない過ちを犯してしまったことになる。
リヴェーダを泣かせたくない……。
墓地のある丘の上からカンナブルを見下ろして、ルドヴィカはそう呟いた。
story
死の匂いと、強い闇の気配――。
グラン・ファランクスの指揮宮室で、ルドヴィカはそのことについて考えを巡らせていた。
ルドヴィカ様?
いつの間に入ってきたのだろう?
目の前にヤーボが立っていた。
……漆黒の兵団が現れました。こちらに向かって進軍しているということです。
そうか。すぐに出兵の準備を……。
承知致しました。
ヤーボは彼女にー礼し、指揮宮室を後にした。
彼の開いた扉が完全に閉じるまで見届けてから、ルドヴィカは再び鏡の前に立った。
漆黒の兵団――――。
鏡面に映る自分の顔をじっと見つめて、彼女は呟いた。
西の方角から、初めて黒い甲冑の兵団が現れたのは、リヴェーダが煌眼に目覚めてから、しばらく経ったころだった。
以来、漆黒の兵団は、グラン・ファランクス騎士団の領地へ執拗に攻め入ってくるようになった。
彼らの目的は領土の拡張でもなければ、物資の調達でも、平民の殺戮でもない――。
狙いは私……いや、私の持つ凛眼だ――。
覇眼は闇を引き寄せる……か。
それは、ルドヴィカの父がこと切れる間際、彼女に残した言葉だった。
漆黒の兵団が放つ闇の気配、死の匂い……。
どちらもあの日、カンナブル全体を覆っていた不吉な影と同質のものだった。
そしてあの女が私を――
――見つけた。
それは、ルドヴィカが父親たちの墓を訪ねた帰り道のことだった。
女は唐突に彼女の前に現れて、ただひと言、そう残して消えた――。
あれはまるで“死”そのもの……”闇”そのもの。
漆黒の兵団を操っているのは、おそらくあの女だ。
ルドヴィカはそう確信していた。
と、短く数回、扉を叩く音がして、ルドヴィカは鏡から離れる。
入れ。
ルドヴィカ様、出兵の準備が整いました。如何いたしますか?やはり指揮はギルベインに――?
そうだな……。
そう言って、ルドヴィカは考えを巡らせる。
漆黒の兵団にあの女の影を感じる様になってからルドヴィカは自ら戦地へ赴くことが少なくなり、指揮権をギルベインに委ねるようになっていた。
決して戦うことを恐れているのではない。
ただ――
父の事を、父を手にかけたあの時の感覚を、思い出したくなかったのだ。
あの独特な闇と死の気配が渦巻く戦場に身を置けば、嫌でも父の顔が脳裏に蘇る。
もしギルベインが、戦場に彼女を必要としたならば、進んで剣を取り、馳せ参じるつもりであった。
しかし、戦況がそこまで悪化することはなかった。
……いや、今日は私が出る。
沈黙の後に、予想外の答えを耳にしたヤーボは、少し驚いたようであったが、
……では、直ちに馬の用意をさせましょう。
と、踵を返す。
……覇眼は闇を引き寄せる。
誰に言うとでもない、ルドヴィカの微かな呟きが、ヤーボの足を止めた。
……何か?
独り言だ。気にするな。
***
参りましたね。久しぶりにルドヴィカ様が指揮を執られるかと思えばこれだ。
尖兵の報告では、進軍中であるはずの漆黒の兵団は既に戦闘状態にあった。
2つの軍を同時に相手にしなけりゃならないんだ。もし私ー人だったら逃げ帰っていますよ……。
我々にとってはどちらも賊軍だ。なにも今すぐ勇んで攻め入ることもないだろう。
漆黒の兵団の相手をしているのは「ハーツ・オブ・クイーン」――当然、その前線にリヴェーダの姿があった。
みんな!こんな「黒いの」ちゃちゃっと片付けなさい!
戦況はー見して「ハーツ・オブ・クイーン」の優勢だ。
リヴェーダの指揮に従い傭兵の軍はー糸乱れぬ、統率された動きで歩を進め、ぐんぐんと前線を押し上げていく。
それにしても、強くなったな……。
ま、相手があれですからね。
度重なる「漆黒の兵団」との戦いから、ギルベインはその実力、手の内を把握していた。
あいつら、こちらが反撃を始めるとまるで手応えがないんです。ほら、もう逃げ出しますよ。
ギルベインの言葉どおり、漆黒の兵団は陣形を変え、退却を始めた。
それでいてまたすぐに攻めてくる……。まったく、不気味な連中ですよ……。
ギルベインの話を聞きながら、ルドヴィカは戦場のリヴェーダを目で追い続けている。
ほら、逃げ腰のヤツほどチョロい相手はないわ。キッチリ追い詰めなさい!
そう言って、深追いを始めたリヴェーダの背後に――
……。
大鎌を振り上げた女が現れた。
……!
リヴェーダがその存在に気付いた様子はない。
征くぞ!グラン・ファランクス騎士団!
間に合うはずもない。
それでもルドヴィカは、リヴェーダの元へ軍を動かした。
***
ルドヴィカ!後ろから不意打ちキメるなんて、いよいよ余裕がなくなってきたんじゃないの?
戯れ言を……正規軍として、ふたつの賊軍を討つ機を得たまでのこと……。
ルドヴィカが戦場に身を投じた時には、既に女の姿は消え、
はあ?どうせ私たちが黒いのと戦い終わって、弱ってるところを倒す作戦だったんでしょ?
……なぜそのような姑息な策を講じる必要がある?
そんなこと知らないわよ!ま、それだけ私たちが力をつけてきたってことじゃないの?
確かにお前は強くなった。しかし――
まだまだあんたには敵わない……。分かってるわよそんなこと――。
ガンドゥ!
おう!
ガンドゥと呼ばれた巨大な大砲を背負った猫の亜人が、宙を舞いながら次々と砲弾を打ち込んでいく。
瞬く間に、その場は分厚い煙に包まれた――。
……煙幕か。
煙が収まった時、既にハーツ・オブ・クイーンは姿を消していた。
しかし、引き際を知るとは、奴らもだいぶ腕をあげたようですね。
ルドヴィカ様、追いますか?今ならまだ追いつけるやもしれませんが……?
放っておけ。賊軍とはいえハーツ・オブ・クイーンは漆黒の兵団を討ったのだ。
我々に今日の奴らを討つ理由はない。
もう賊軍とは言えませんからね、今のハーツ・オブ・クイーンは……。
事実、最近のハーツ・オブ・クイーンは、領内の民から受け入れられる存在となっていた。
相変わらずルドヴィカの領内で大騒ぎはするが、必要最低限の物資を得る以上の迷惑をかけない。
無駄な被害は出さず、善人を泣かすことはない。
彼女らが暴れることで、泣くのは悪人ばかりだった。
しかし、本当に強くなった……。
ルドヴィカはそう、満足そうに微笑んだ。
ギルベイン!砦に戻り次第、漆黒の兵団に関する全ての情報を集めろ!
はっ!
今、我々が討つべきは、中途半端な賊軍などではない。漆黒の兵団である!
カンナブルでリヴェータの父を操った、真の裏切り者の影――。
漆黒の兵団の中に、ルドヴィカはそれを見た気がした。