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【黒ウィズ】黄昏メアレス Story4

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作成者: にゃん
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目次


Story14 虚ろにさまよう夢

Story15 孤高なる夢

Story16 謎の魔法使い

Story17 黄昏に咲く夢



story14 虚ろにさまよう夢



 その〈ロストメア〉は、人の姿でさまよっていた。

「う……ああ……。

酔いおぼれたようにふらつく足取り。道行く人にぶつかり、ののしられながら、前に進む。

「門……へ……。

門へ……行かなければ……。みんな……いっしょに……なるために……。

「――あら。

 ふと。

倒れ込むようにして細い路地裏に入り込んだとき、婿然と微笑むひとりの少女に出くわした。

「人擬態級の〈ロストメア〉とは。でも、せっかく人の姿をしているのに、それじゃばればれよ。

「う……うう……。

 泣き崩れそうになる〈ロストメア〉の頭を、少女は慈しむような手つきで撫でる。

「ねえ――私が手伝ってあげましょうか。ほら、教えて。あなたの夢はなに?

「私の……夢は……。

 少女が、〈ロストメア〉の手を握った。すると、〈ロストメア〉の瞳が淡く輝き始める。

「三人で、いっしょに……生きて、過ごして……。どこまでも……ずっと……ただ、幸せに……。

「――なるほど。

 いつしか、少女の瞳に、みっつの人影が映っていた。

目の前の女と、大柄な男と、小さな女の子とが、仲睦まじく笑い合う――そんな姿が。

「なんとまあ。あなた、〈メアレス〉の男が捨てた〈見果てぬ夢〉なのね。

 微笑んで――少女は、そっと〈ロストメア〉のほっそりとした肢体を抱きしめた。

「かわいそうなこと。あなたを生み出した男は、夢見ざる存在として、私たちを狩りに来る。

「そんな……どうして……?自分で抱いた夢なのに……。

「泣いたってどうしようもないわ。そういうものなの。

だからこそ……私たちは自分で自分を叶えるしかない。そうでないと幸せになんてなれないのよ。

私が力を貸してあげる。現実に行くための力。そして……あなたを生んだ男に復讐する力を。

「わたし……現実に、なれるの……?

「もちろんよ。

だから、私とともに来なさい。夢として生まれた意義を、果たすために。

「……はい。

〈ロストメア〉は、うなずいた。

誰かに優しく抱かれることのあたたかさを、生まれて初めて感じながら――

〈見果てぬ夢〉に過ぎぬという己がさだめを、今さらながらに嘆いて、泣いた。



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story15 孤高なる夢



「細工は流々……あとは仕上げをご覧じろ、というところかしらね。

 人気のない路地裏で、少女はひとり、満足げにうなずいていた。

その手は糸を編んでいる。どこか禍々しい形状の糸……。

糸の群れは彼女の足元から広がり、蜘蛛の巣のごとく、この都市全体に伸びていた。

「すごいですね……。

「アストルムの〈秘儀糸〉……。この都市の霊脈に沿って咲き、土地の魔力を吸い上げてくれるわ。

「じゃあこれで、莫大な魔力があなたのものになって……。

あの〈メアレス〉たちを滅ぼして……。現実に進むことができるんですね……。

「まだ気が早いわ。あちら側には、リフィルがいる。

私と同じ古代の魔道の使い手……あの子を無力化しておくのが、最善の手というものよ。

そのために、あなたに働いてもらうことになるわ。

「それは、構わないのですが……。

どうして、゛始末、じゃなく゛無力化、なんですか?

 素朴、と言っていい問いに、少女は、珍しく苦笑を浮かべた。

「……できれば、あの子を手にかけたくないのよ。

私は、アストルム家一門が抱いた魔道再興の夢の見果てぬ残骸……。

でも、それはあの子も同じことなの。

 少女の瞳に、慈悲と憐情の色がのぞく。

「夢を失った一門が゛魔法を保存し続ける、ために道具として育て上げてきた子……。

アストルムー門の犠牲者という意味では、同じなのよ……私と、あの子は……。

だから、あの子にも夢を見せてあげたいの。

あなただって夢を見ていいって……広い世界にはばたいていくことができるんだって……。

そう、教えてあげたいの。私自身を現実にして、世界に魔法を復活させることで……ね。

「私には……よく、わからない感覚です。

でも、あなたがそう強く願うことなら……きっと、すばらしいことなんだろうって思います。

「ありがとう。いてくれて、あなたのような話し相手が私、うれしいわ。

(そして……あなたさえリフィルに倒されてくれれば、我が計画は成就を見る……

〈糸〉を張る前に〈メアレス〉については調べ尽くした。あの子以外に障害となる者はない。

私を叶えるときが……私の生まれた意義を果たすときが、ようやく来る……!)

 黄昏に染まる空を見上げて――少女は、恍惚と吐息をもらした。

彼女は知らない。

〈メアレス〉について調べ終え、〈糸〉を張り始めた、ちょうどその時期に現れた変化のことを。

この都市を訪れた異界の魔法使いが、彼女の計略にいかなる影響をもたらすのかを――


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story16 謎の魔法使い



 様々な商店が立ち並ぶアーケード街。

ガラス張りの屋根の下、都市のあちこちからやってきた人々の活気あふれる喧騒が渦巻いている。

「昧、鮮度、食感、お値段!どれを取っても、うちのがダンチだ!いい肉を食いたけりゃ、ぜひ寄ってくんな!

 他店に負けじと声を張り上げる肉屋の前に、ふと、艶やかな金色の長髪がひるがえった。

予期せぬ来客に、肉屋は思わず凝固する。

「あ、あんた……〈メアレス〉の……。

「〈黄昏(サンセット)〉リフィル……。

「古の魔道を使う、魔法使い……。

 〈見果てぬ夢〉の化身たる怪物〈ロストメア〉と戦う、〈夢見ざる者〉――〈メアレス〉。

なかでも〈黄昏(サンセット)〉リフィルは、特に異質で異様な〈メアレス〉として知られる。

廃れ、失われきった神秘の技、〝魔法〟の使い手なるがゆえに。

存在そのものが非現実的な少女の到来。アーケード街に満ちていだ日常、の空気が、瞬時に凍てつき、霧氷のごとくなる。

「な――なんの用だ――

 ごくり、と唾を呑み込む肉屋の主人を、少女は蒼い瞳でひたりと見すえ、言った。

「――豚。

「!

「豚2頭。〈巡る幸い〉亭の追加注文よ。来週の開店記念日に、豚の丸焼きをふるまう予定だから。

 肉屋の目が点になる。

「えっと……んじゃ、あんたは……。

「無論――

 リフィルは、凛然と言い放った。

「おつかいよ。


あ、いたいた!リフィルさーん!

〈黄昏(サンセット)〉!ちょうどよかった!

 すたすたと街路を歩いていたリフィルは、突然、ミリィとラギトに呼び止められた。

なに?店に戻るところなんだけど。

あ、そりゃすいません。でもいちおう、お耳に入れといた方がいいかなーってことがあって……。

聞いて驚け。都市に、魔法使いが出たらしい。

……魔法使い?まさか――黒猫の?

いや、別人だ。

 ラギトは、都市で聞き込みをして得たという、゛新たに現れた魔法使い、の特徴を、リフィルに伝えた。

年端もいかない少女と聞いている。それが、各所で魔法を使っているそうだ。

おばあさんの無くした指輪を見つけたり、壊れた馬車の車輪を直したり、もう大活躍だそうで!

 ふたりの言葉に、リフィルは眉をひそめた。

〈ロストメア〉にしては、やることが奇妙ね。まさか、またぞろ、異界とやらから魔法使いが……?

 つぶやいたその瞬間、いくつもの悲鳴が重なって響いた。

まさか、と思いながら振り向くと、1台の大きな乗合馬車が塀にぶつかるようにして動きを止めたところだった。

直後――馬車側面の壁を引き裂いて、異形の怪物が姿を現す!

ぅえええ〈ロストメア〉!?どういう状況!?

馬車にまぎれて門の近くまで行くつもりが、乗客に見つかったというところか!

なんにしても、とにかく潰す!繋げ、〈秘――

w修羅なる下天の暴雷よ、千々の槍以て降り荒べ!

 無数の雷条が空を貫き、馬車から出てきた〈ロストメア〉を直撃した。

完全なる不意打ち。〈ロストメア〉は全身を雷に撃たれ、あっけなく爆裂四散する。

wだいじょうぶですか、みなさん?けがとかしてません?

 その雷条を放った少女は、ひょこひょこと馬車に近づき、なかをのぞきこんで声をかけていた。

wあ、無事?無事ですね?それなら良かった!いきなり暴れられたら、たまんないですよね!

リフィルさん、今のって……。

あの詠唱――アストルム一門の魔法か!?

繋げ、〈秘儀糸(ドゥクトゥルス)!

 詠唱。呼び出された骨骸の人形が、リフィルを抱き上げて一気に跳躍。瞬時にして馬車のすぐ側に着地する。

リフィルは人形の腕から軽やかに降り立ち、こちらを向いた少女へ鋭い声を叩きつけた。

貴様――何者だ!〈ロストメア〉か!

wあ、うん。そうだよ、リフィル。

!?

 思わず固まるリフィルヘと、少女はにこやかに微笑みかける。

wどーも、初めまして!私、〝みんなに好かれる魔法使いになりたい〟っていう、あなたの夢!よろしくね!

な――

wとまあ、立ち話もなんだし――

どっかで、食べながら話そうよ。ね?




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story17 黄昏に咲く夢



……で、ごちそうすることになったわけ?

 〈メアレス〉行きつけの定食屋――〈巡る幸い〉亭。

貸し切りとなったその厨房で、リフィルは料理の準備を進めていた。

事が事だ。店は貸し切りにさせてもらった。テーブルに着いておるのは〈メアレス〉だけだ。

あと、あの〈ロストメア〉子ちゃんね。

 視線の先――ミリィ、ラギト、コピシュと同じ卓で、〈ロストメア〉の少女が、にこにこと料理を待っている。

あれがリフィルの夢、って……ホントなの?

認めたくないけど、たぶん。

 ぐつぐつ煮込んだシチューをかき混ぜながら、リフィルは仏頂面で答える。

〈ロストメア〉の毒で、私は確かに夢を抱いた。

ほんの一瞬。結局、すぐに捨てたけど。

その夢が、あの子になった……か。

とにかく……何が狙いか、とっとと吐かせてやる。

 吐き捨てるように告げて、リフィルは盛りつけた皿を運んでいく。

マトンとジャガイモと野菜のシチュー、お待ちどう。

 とろみのあるシチューが卓に置かれた。食べやすいサイズに切られたマトンの肉が、色の濃い水面から顔を出し、アピールしている。

いただきまーす!

 少女は、シチューにスプーンを突っ込んだ。煮崩れたジャガイモとやわらかくなった野菜、それにマトンをひとさじにまとめ、口に運ぶ。

うんうん、おいしい!いいお嫁さんになれるよ、リフィル!

夢は見ない。

でも、〝みんなに好かれる魔法使いになりたい〟って夢は見たじゃない?

それは……。

 言いあぐねて、リフィルはそっぽを向いた。

……捨てたわ。すぐに。

そうだねー。だから私がここにいるわけでねー。

 あくまでもにこにこと笑う〈ロストメア〉に、リフィルは撫然と問いを投げる。

どうして街中で魔法を使ったり、同じ〈ロストメア〉を倒したりする?

〈ロストメア〉なら、〝現実〟に出るのが目的のはず。

だって、みんな、困ってたから。

 シチューを平らげながら、彼女はあっさり言った。

そりゃ、門には向かいたかったけど。困ってる人がいたから、ついついね。

〈ロストメア〉のくせに。

しょーがないじゃん、リフィルがそういう魔法使いになりたい、って夢を見たせいなんだから。

私は……。

 黒猫の魔法使いの姿が、脳裏をよぎる。

誰かのために魔法を使い、いつしかこの都市に溶け込んでいた、異界の魔法使い。

あんな風になれたら。

みんなを助け、みんなに好かれ……そんな風に、魔法で絆を育めたなら。

確かにそんな夢を見た。自らそうと願ったのではなく。――〈夢を見る〉という毒に冒されて。

わかってる。本当は見るはずなかった夢なんだよね。

 リフィルは、ハッとして少女に視線を戻した。

少女は、あくまでも穏やかに微笑んでいる。

でもさ。いい夢だって思わない?自分で言うのも、なんだけど。

 ことり、と。空になった皿にスプーンを置いて、彼女は何もない天井を見つめた。

自分のいちばん得意なことで、みんなを助けて、喜んでもらえるって……。すごく、いいと思うんだ。

 あまりにもまっすぐで、あまりにも純真な願い。

否定の言葉は出てこない。それは確かに、リフィルのなかに芽生えた願いだった。

たとえ、ほんの一時だけ見た夢だとしても。


 ***


 きらめく光が、地平の彼方に沈みゆく。

いつもなら、多くの人と馬車が行き交い、無数の影を踊り狂わせる、巨大な橋。今は、物寂しく、がらんと広がっている。

〈ロストメア〉の少女は、ルリアゲハと連れだって、踊るようにその橋を渡っていく。

あんまりはしゃぐと、転ぶわよ。

だって、なんかいいじゃん?こんな広いとこ、貸し切りだなんて!

確かに気分はいいけどね。アフリト翁も、やってくれるもんだわ。

 後方、少し離れたところを歩きながら、リフィルは少女の背中を見つめ続けていた。

……なんか、いい子ですよね。敵っぽい感じ、しないっていうか。

 隣で、ミリィがぽつりとつぶやく。

だめなんですかね……こう……友達になったりとかって。

あまり、お勧めはしない。なにせ、気を抜けば死ぬ。

うう……説得力しかなくてめげる……。

どんなにいい人でも……〈ロストメア〉です。わたしたちにしか倒せない……わたしたちの、敵です。

少なくとも〝現実〟へ行かせるわけにはいかない、都市に留まるなら、よろしくやっていけるかもしれんが――

……そういうわけには、いかないでしょうね。

 橋の中央で、〈ロストメア〉は足を止めた。

ルリアゲハが数歩下がり、5人の〈メアレス〉が並ぶ形になる。

……本当に、いいのね?

うん。いいよ、リフィル。

ここまで付き合ってくれて、ありがとね。でも――

やっぱさ。私、夢だから。

夢にとっちゃさ。〝叶える〟ってことが、〝生きる〟ってことだから。

〝現実〟を目指さないわけには、いかないよ。

……馬鹿な夢。

そう思うんだったら、なりふり構わず、門を目指せばよかったのに。

それができないのが、私の私たるゆえんってことで。

まったく。難儀な夢を見たものだわ。

へへっ。

ふ――

 かすかに笑いを響かせて。

リフィルは、かっと眼を見開いた。

繋げ、〈秘儀糸(ドゥクトゥルス)〉!!

 骨骸の人形が立つ。少女の背後に。揺るぎなき覚悟そのもののごとく。

光の糸を、ぐいと引き――リフィルは戦いの雄叫びを上げた。

おまえの始末は――私がつける!!


 ***


はは――ははははは……。

負けちゃった……ね。あはは……。

 少女が、どさりと膝をつく。満身創痍の肉体が、崩壊を始めていた。

ね……リフィル。

最期に、いっこだけ、聞いてもらっていいかな。

……言ってみなさい。

 夢は、ニッ、といたずらげな笑みを浮かべた。

実はね、私――

あなたの夢じゃ、ないんだ。

――え。

 ぽかんと口を開けるリフィルに、夢は、どこかしみじみと告げる。

リフィルの夢はねえ。さすがに、一瞬すぎてさ。〈ロストメア〉にはなれなかったんだよねえ。

〝なりかけ〟でふらふらしててさ。せっかくだから、取り込んでおいたけど。

ちょっ――待って、じゃあ、あなたはいったい――

〝リフィルと友達になりたかった〟。

――!

びきり。壊れの音が、静かに響く。そっと目を閉じ、微笑む少女の内側から。

〝自分を助けてくれた少女と……この都市のために戦ってくれている魔法使いと、友達になりたかった〟

びきり。また響く。後戻りのできない音色が。どこか誇り高く、鮮やかに。

〝自分も魔法を使いたかった。なんでもできるあの子みたいに。なんでもできるあの子といっしょに〟

〝みんなを助けて……みんなに好かれたかった〟

その夢が、私。

 びきり。びきり。音が連なる。旋律を奏でるように。終わりへと加速していくように。

――あなたを願ったのは――

もういない。あなたに助けてもらったけど、その時の傷、治んなくって。

それで、いなくなっちゃった。だから、私が生まれたんだよ。叶わなかった、〈見果てぬ夢〉が。

 びきり。

ねえ、リフィル。あなた、自分で思ってるほど、ひとりじゃないよ。

 びきり。

嫌われてるって、思ってたでしょ。へへ。リフィル、不器用だもんねえ。

 びきり。

でもさ。夢がなくても。夢を捨てても。リフィル、ずっと戦ってきたじゃない?

 びきり。

だからさ。いるんだよ。あなたに助けられた人。あなたにあこがれた人が。

 びきり。

夢を持たないあなたも、誰かの夢にはなれるんだよ――リフィル。

 びきり――びきり――びきり――びきり――

ね……リフィル。

 びきり。

 ほとんど砕ける寸前の顔に、えくぼを刻んで、夢は言う。

最期に、いっこだけ、聞いていいかな。

……言ってみなさい。

私。〝叶った〟?

 問いに。

 リフィルは、震えるような苦笑を返した。

……馬鹿。

へへ……。

 はにかんだような笑顔を最後に残して。

夢は、黄昏に砕けた。



時の凍てついたような静寂が、しばし続いた。

不意にそれを破ったのは、やはり不意に現れたアフリトだった。

……夢は、消えたか。

〝叶った〟と……そう言ってやりたいところだ、アフリト翁。

 どこか神妙に、ラギトは言った。

願った本人が、もはやいないのだとしても……。あの〈ロストメア〉の願いは、きっと、叶った。

複雑なことはよくわかんないですけど。

でも、思いますよ。あの子が、最後、笑顔になれてよかったって。

いいですよね。きっと。そんな風に思ったって。

気持ちは自由であっていい。そう思ったのなら、それでいいはずだ。

……そうね。

 うなずくリフィルを、みなが見つめた。

少女は顔を上げていた。墜ちゆく夕陽に。焼けゆく空に。

何を見て、どう感じるかなんて……。ぜんぶ、自分が決めることよ。

自分の気持ちには、素直であった方がいい。たぶん……自分を見失わないためには。

あの子は、ちょっと素直すぎたけどね。

けど――だから、こっちも素直になれたのかもね。

……かも、しれないですね。


 夜が来る。今日という日を終わらせるために。

夢を持たない〈メアレス〉にとって、日々とは、ただ繰り返すだけのものにすぎない。

だが、それでも。

ひとりの少女の素直な気持ちは、彼らの胸に、確かに何かを刻んでいった。

前に進むための何かを。



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