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【黒ウィズ】ひねもすメアレス Story2

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作成者: にゃん
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魔法使いさんが都市に来てたのも驚きだけど、〈ボンノウン〉がこれだけ出るようになったのも驚きだわ。

 q猫を飼いたいんだ……いいかな?

 qオトシダマとやらを貰いに来てやったぞ。ガキだからな。

 q今日はキノコ料理よ!!

今日はまた、一段と多いね~。

 君は、知り合いの煩悩っぽいものがいくつかあるような気がしたが、気のせいだろうと思いこむことにした。

ていうか、アレ、放っておいていいの?

特に害のない煩悩はね。いずれ自然に消えるから。

そういうものなの?なら、いっか。


qこれで、俺のことを罵ってくれねえか。

qおや?興奮しているんですか?僕もですよ!!

qなあ、頼むよ。口汚く罵ってくれ。俺の心と身体を、踏みにじってくれ。

qいやいや、あなたもなかなか……。


ヤバい息の合い方してるのがいるにゃ。

あれも放っとく?

今のうちに潰した方が良さそうね。

そーね。

q罪を憎んで人を憎まず。放っておきなさい。見逃してあげましょう。

いやあんたもだから。

下天ボンバー。

q人でなし!!



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qお!おたくのお子さん、かわいいですねえ。さぞやご自慢でしょう。

 なんともおかしな〈ボンノウン〉だった。

人の子を見るなり、やたらと褒める。そして、何をするでもなく去っていく。

なんだありゃ。斬っといた方がいいか?

うーん……でも、悪いことしてるわけじゃないですからねえ……。

qこの子の瞳のつぶらなことといったら!まるで天使のようじゃありませんか。

お嬢ちゃん、もう字が読めるのかい賢いねえ。将来は学者も夢じゃない!

 この〈ボンノウン〉の奇妙な振る舞いに困惑していた都市の人々も、次第に慣れた。

なにせ、自分の子供を褒められて悪い気になるはずもない。いつしか、その〈ボンノウン〉は当たり前の光景として受け入れられていた。



 あるとき、〈ロストメア〉が現れた。そいつは、明らかに〈ボンノウン〉を狙っていた。

qひい、ひい、お助け~!

しゃあねえな、っと!

 〈ロストメア〉が倒れると、〈ボンノウン〉はホッとした様子で礼を述べた。

qいやはや、ありがとうございます。危うく喰われるところでした。

 〈ボンノウン〉の身体も魔力でできている。より強い力を求める〈ロストメア〉にとっては格好の餌だったのだろう。

おまえ、戦いに役立つ能力とかないのか?

qいやあ、それがぜんぜん。なにせ私、ただの〈子煩悩〉なもので。

我が子がかわいくて仕方がない――そんな人々の煩悩から生まれたのです。

なら、俺の煩悩も混じってるかもな。

qきっとそうでしょう!



 数日後、通りを歩いていると、恰幅のいい紳士の喚き声が響いた。

Z誰か、誰かそいつを捕まえてくれ!うちの子がさらわれた!喰われちまう!

 小さな子供を抱えて走るのは、あの〈ボンノウン〉だった。

wやっぱりあいつは怪物だったんだ。

w私たちを騙そうとしていたんだわ。

w石を投げてやれ!

 石が、雨のように降り注いだ。〈ボンノウン〉はボロボロになりながら、追っ手を振り切り、裏路地へ逃げ込んだ。

それが限界だった。〈ボンノウン〉は力を失い、通りに倒れた。

騒ぎを聞きつけてやってきたゼラードは、見た。

幼子が、泣きながら〈ボンノウン〉にすがりつく。その腕に、足に、一見していくつものアザがあった。

おまえ。

 〈ボンノウン〉はゼラードを見上げると、かすかに笑った。

qこの子を……お願いします。

 そして、消えた。彼であったものは、はばたく光の蝶となった。

そこに、あの紳士が駆け込んできた。

Zおお、あなたがあの怪物を倒してくれたのか!よくやってくれた。お礼をしよう!欲しい物があれば、なんでも言ってくれ!

なら、この子をもらおうか。

 ゼラードは幼子を担ぎ上げた。かわいそうに、彼女はすっかり怯えきって、小刻みに身体を震わせていた。

Zなんだと?その子は私の子供だぞ!

 わめき散らす紳士に、ゼラードは抜き放った剣の切っ先を突きつけた。

だったらこの痣はなんだ?思いっきりぶん殴られて、手当もされずに何日も放っておかれたような、この痣はよ。

 ぎくりとなってこわばる紳士に背を向け、ゼラードは歩き出した。

あいつのなかには俺がいた。だが、おまえさんはいなかったようだな。

 光り輝く蝶たちが、去りゆく戦士の背中を追うようにはばたいた――


――なんて〈ボンノウン〉がいたらどうする?

ふぃくしょん!!!?



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 君がレッジの部屋を訪れたとき、レッジは大量の書類と格闘していた。

邪魔しちゃったかにゃ?

いや、ちょうど一区切りついたところだ。

 大変そうだね、と声をかけると、レッジは渋面を作ってうなずく。

最近は特にな。〈ボンノウン〉の調査や事後処理に、相当時間を持っていかれている。

 根を詰めすぎても良くないよ、と君は言った。

そうそう。気晴らしも必要にゃ。いっそ何日か休暇を取って、小旅行でもして来たらどうにゃ?

旅行か……そうだな。

 レッジは目を細め、窓の外を見つめた。

昔行ってみたかった場所が、いくつかある。夢を失って以来、行く気も失せていたが――

行ってみるのもいいかもしれない。今は、そんな気もする。

行くなら、やはり秘境だな。人のいない雄大な自然の風景というものを、一度でいいから見てみたい。

 と。

差し入れ持ってきたよー!!

 しんみりした空気を蹴っ飛ばすような明るい声とともに、リピュアが部屋に突っ込んできた。

はいこれ!〈巡る幸い〉亭の新名物――〈食べられるウィール〉!!

ドーナツだ。

細かい細かい。

細かくない。

で、なんの話してたの?

レッジが人のいない場所に行きたいらしいにゃ。

待て!うかつにそういう話題を振ると――

ほほうほうほうそれはよきかな!その願い、フェアリー魔法で叶えてしんぜよーう!

やっぱりか!待て、いいか、待て、リピュア。旅行というのはな、下準備が大事なんだ。まずは場所を決め、日取りと旅費を――

つるかめつるかめ、どっとはらい!

わかっちゃいたが!!!



…………。

どこだ!

「よっ。お疲れ様ニャ。いろいろ御苦労様だったニャ。あ、キュウリ冷えてるニャよ。

「……。

「カレオツちゃーん。

人がいない。


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F繋げ――〈秘儀糸〉!

 フィネアの指先から、光り輝く糸が伸びる。

おおー。うまくできてるじゃない。

問題はここからよ。――フィネア。

 リフィルは、ぽんと何かを放った。くじらのような見た目のぬいぐるみである。

まずは〈秘儀糸〉の扱いに慣れるところからよ。その人形に〈秘儀糸〉を繋いで、操ってみて。

Fは、はいっ。

 フィネアは緊張しながら、ぬいぐるみに糸を繋いだ。

ぬいぐるみは彼女の思念に従い、ゆっくりと宙に浮きあがる。

うまいもんにゃ。

魔力に干渉する適性がずば抜けている。本人の資質もあるんでしょうけど――

 ぬいぐるみの操作に集中するフィネアを眺め、リフィルは思案げにつぶやく。

〝彼女〟の影響も、あるのかもしれない。

〝彼女〟って――〈レベルメア〉?

 リフィルは神妙にうなずいた。

倒れた〈ロストメア〉の魔力は、〈夢の蝶〉となって願い主の元へ戻り、前に進むための力となる……。

 フィネアの場合、もともと魔力操作に高い適性があったせいか、〈夢の蝶〉から得た魔力を無意識に使っていた節があるの。

そうなの?

崖から落ちたけど奇跡的に無事だったって話よ。おそらく〈レベルメア〉の魔力を使って、本能的に念動を発動させたんでしょうね。

なるほどね。

その割には、大変そうだけど。

慣れないうちは、あんなものよ。私も、よく〈秘儀糸〉が絡まって、大笑いされたわ。……母に。

……あの人ならそうでしょうね。

今となっては感謝してるわ。笑われてたまるかって思ったからこそ、今の私の意地があるわけだし。

Fリ、リフィルさん!すみません、絡まっちゃって……た、助けてくださぁい!

……私も大笑いすべきだと思う?

んー……。

無様なものね!それ、本気でやってるの?

たぶんバッキバキに心折れるわ。

そんな?

Fリフィルさぁ~~~~~ん。



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コピシュ。この前言った本だ。

ありがとうございます!楽しみにしてたんです。

ふたりは本の貸し借りをしているにゃ?

はい。ラギトさん、いろんな本を持ってるから、よく貸してもらってるんです。

 どんな本を読むの?と、君はラギトに尋ねた。

エッセイ、文芸、詩、辞書、怪談、神話……気になったものは、なんでもだな。

乱読派ってわけにゃ。ちなみにそれは、どんな本にゃ?

いわゆる幻想物語のシリーズものだ。貧乏な子供が主役なんだが、あるとき、見知らぬ世界に飛ばされてしまう……。

そこは誰もが魔法を使える世界だ。それだけじゃない、いろんな不思議に満ちている。

そう、そこが面白いんですよ。たとえば、主人公が最初に出会うのは、なんと!しゃべるライオンなんです!

 君は沈黙した。非常に言いづらい感想を抱いてしまったので、つい口を閉じてしまったのだ。

それの何が面白いにゃ?

 ウィズ――――!!と、君は心の中で声を上げた。

しゃべる黒猫のあんたからしたら、そんなものかもしれないが……。

だが、しゃべるだけじゃないぞ。そのライオンは人のように立って歩き、さらには剣を振るって戦うんだ。

そうなんですよ!それがすごくカッコよくて!

 …………。

だめにゃ……そのカッコよさは、私たちには伝わらないにゃ……。

ライオンだぞ?

 ライオン……。

剣で戦うんだぞ?

 剣で戦う……。

ライオンなら、たぶん普通に四つ足で走って噛みついた方が強いにゃ。わざわざ剣を使う理由がないにゃ。

かっこいいじゃないか……。

 これがカルチャーギャップか、と君は思った。




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 結局、魔匠銃剣を借りることにした。

理由は単純で、〈墜ち星〉と〈徹剣〉、どちらの言い分も一理あると思えたからだ。

クラースは人気のない夜の裏路地を選び、軽く仮想訓練を始めた。

基本的には、銃として扱う。しかし相手に接近されたら、銃身に付属した刀身を活かし、牽制して距離を稼ぐ。

そんな動きを何回か繰り返したところで、

物騒だな。

 背後から、声がかかった。

人に見つかったら、通報されても文句は言えんぞ。

C〈ロストメア〉は、裏路地に潜んでることもあるんだろ?

だったら、こういう狭い場所での立ち回りを身につけておくに越したことはない。

〝身につける〟というより、〝身に沁みついたものを思い出す〟ように見えたな、今のは。

 ラギトは、すっと目を細めた。

あんたからは、においがする。泥にまみれながら延々と戦ってきた――そういう人間のにおいだ。

C……そうしなきゃ、取り戻せなかったんだ。奪われたもの――失われたものを。

結局――取り戻せなかったが。


 クラースは貴族の家の長男として生まれ、すべてをそつなくこなして生きてきた。

しかし、跡目を狙う弟が雇った刺客に襲われ、命からがら逃げに逃げ――故郷を離れてさすらう日々を送ることになった。

泥の中を這いずりながら、グラースは誓った。泥をすすり、喰らいながらでも生き延びて、失われたすべてを取り戻すことを。

そのために、手段を選ばず戦った。裏社会に身を投じ、命を奪う技術を磨き、刺客と暗闘を繰り広げた。

やがて、追っ手を根こそぎ仕留め、ついに生まれた屋敷へ戻ったが――

屋敷は、彼が泥の中で戦い続けている間に、愛する両親や憎むべき弟もろとも、災害によって無惨に失われていた。

取り戻すべきものをすべて失い、後には血まみれの両手だけが残った。う


〝失われたものを取り戻す夢〟――

それを失ったがゆえの〈メアレス〉か。

C珍しくもないだろ。この都市じゃ。

そうだな。

だが、あんたとは縁がある。あんたの知らない縁だがな。

C……?

 わからない、という顔をするグラースに、ラギトは、それでいい、というような鷹揚な笑みを見せた。

〈巡る幸い〉亭に、いい酒が入ったらしい。一杯どうだ?

Cいい酒、か……。

 そういえば、久しく酒をたしなんでいない。逃げている間はそれどころではなかったし、夢を失ってからはそんな気も湧かなかった。

自分はそれほど涸れていたのかと、グラースは少し驚いた。

C悪くないな。

 この少年に誘われて飲む酒なら、少しは昧を感じられるかもしれない。

そんな気がしてうなずくと、ラギトが軽く肩を叩いてきた。

奢るぞ。金がないんだろ。

Cおまえのせいでな。

自業自得と言うんだ、あれは。

 ラギトは、なんでもないことのように軽く肩をすくめた。


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Dそんでよお、行ったわけさ。戦争。なんせ金がねえからよお、もうそれしかねえっつうかよお。

俺の隊はよお、みんなそんな感じでよお。ほとんどガキばっかだぜ。みんな。

それがクソみてえな作戦でヒイヒイ言いながら戦わされてよお。誰も助けちゃくれねえ。勝つっつうより生きるのに必死でよお――

 ぐでんぐでんに酔っ払って愚痴をこぽすダリクの隣で、ゼラードがうんざりしたような息を吐いた。

おいアフリト、おまえのせいだぞ。新人に付き合ってやれとか言ってよ。こいつ、喋り上戸じゃねえか。

わしが奢ると言った途端、ホイホイ食いついてきたのは、どこの誰だったかね。

 ずいぶん苦労したみたいだね、と、君はミルクを飲みながら言った。

彼の〈ロストメア〉は、〝みんなを守る夢〟だったにゃ。その夢が失われたということは――

俺たちは、オチのわかりきった長え愚痴に付き合わされてるってことだ。――ったく、貧乏クジ引いたぜ。

金のかからんクジなど、貧乏クジに決まっているだろうさ。

うるせえなこんにゃろ屁理屈言うな。

しょうがねえ。魔法使い、なんか面白え話してくれよ。なんかあんだろ、おまえさんなら。

 君は記憶を漁り、何かあったっけ?とウィズに尋ねた。

7昔、別の異界で戦ったときの武勇伝なんてどうにゃ?

お、いいねえ、そういうのを待ってたんだ。聞かせてくれよ。どんなとこでどんな奴と戦ったんだ?

妖精だらけの異界で、凶悪な妖精と戦ったにゃ。ボコボコにしてやったにゃ!

……ほう。妖精を、ボコボコにねえ……。

ん?どうしたアフリト。顔色悪いぞ。

いや……。

聞き捨てならぬでござーる!

なんで妖精と喧嘩するの?仲良くしようよー。

仕方なかったにゃ。相手は悪い妖精だったにゃ。だからボッコボコにしまくっといたにゃ。

そうかい……悪い妖精をねえ。悪い妖精じゃあ、仕方ないねえ……。

えー。話し合ったら、きっと仲良しになれるよ~。

残念ながら話の通じない相手だったにゃ。そういう奴らはボコボコにするしかないにゃ。

まったくだ。ウィズとは話が合うぜ。

…………。


リフィルさん、あれ、助け舟とか入れなくていいんですかね……。

放っときなさい。面白いから。



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Fはあ……もっと〈秘儀糸〉をうまく操れるようにならなきゃ……。

そんなあなたにアドバイスおじさん!

Z失敗して落ち込んでる?そいつはいい!最高にクールだよ!落ち込めば落ち込むほどバネが強くなるからね!

どなた!?



あら、魔法使いさん。お買い物?ウィズちゃんは?

 部屋でお昼寝してるよ、と君は答え、何を買っているの?と尋ねた。

部屋に飾る置物。そういうの集めるの好きなの。

木彫りのナマコとかね。

あったわねー。そんなのもねー。

せっかくだし、魔法使いさんもどう?ここの店、けっこう掘り出し物が多いの。あ、これなんか面白くない?

 ルリアゲハが、小さな人形を見せる。少女をかたどった、丸っこい人形だ。

部屋のにぎやかしにはいいかも――と君がそれを手に取ると――

Zニャハハハ!殺戮の宴の始まりニャ!嘘ニャ。

 君はガボッと人形を閉じて、思いっきり投げ捨てた。

今の。

 なんでもないよ。

いや今の。

 なんでもないよ!!!



魔法使いさん!劇場行きません?劇場!

劇場ってことは、芝居とかをやるところにゃ?

そうですそうそう!手品とか曲芸とか、お芝居以外にも、いろいろ見れますよ!

 面白そうだね、と君は答える。

娯楽は文化の象徴にゃ。娯楽に触れることは、その文化の心髄に触れることでもあるにゃ。

んじや、さっそく行きましょう!ちょうど今日、人気の演目があるんすよ!

24人の余、っていう人気のコメディで、なんとそっくりさんが24人も出てくんですいやー、どうやってんですかねー。

あれ?魔法使いさん?なんで後ずさりしてんすか?ちょっと?まほーつかいさーん!



 ゼラードって休みの日は何をしてるの?と君は尋ねた。

ん?そうだなあ、コピシュに付き合って買い物に行ったり……あとは剣の手入れをしたり、新しい技を考えたりとかだな。

ほぼ剣の話にゃ。趣味とかないにゃ?

趣味?あれかなあ。珍しい剣を買ってきて、使いこなせるようになるまで振りまくるんだ。変な剣ほどテンション上がるな。

ほぼ剣の話にゃ!!!

ルリアゲハのアレ――なんだ。カタナっつったか。あれなんかも使ってみてえんだがな。この都市じゃなかなか手に入らねえんだよ。

 他の趣味はないの?と君が尋ねると、ゼラードは困ったように腕組みをする。

昔、ちょっと賭け事に入れ込んだことがあったんだが……

アホみてえにスッてよ。スッカラカンよ。いつもは大人しい家内に死ぬほど怒られて、あんときゃ本気でヘコんだもんだ……。

なるほどにゃ。だから今はやってないわけにゃ。

ああ。たまにしか。

……………………。コピシュにチクってくるにゃ。

いや、冗談、冗談だって!あ、行くな行くな、ちょ、おーーーーい!!



アップルターンオーバー!

Fサルマガンディー!!

バブル&スクィーク!!!


どの料理がいちばん強そうだった?

なんの勝負にゃ!!?



さあ始まりました、〈メアレス〉大運動会!司会はわたくしリピュア・アラト、解説はご存じアフリトおじちゃんでお届けします!

おじちゃんだよ。

ルールは簡単!都市の東側と西側に別れて、1個のボールを相手チームのゴールに入れるだけ!

反則は?

ボールに手で触れてはならん。あと、殺人はご法度だよ。それ以外は、なんでもありだ。

だそうでーす!みなさん、がんばってくださーい!


さあ、ただいまキックオフの笛が鳴りました!

 まずは東チーム、ボールを蹴るのは〈墜ち星〉ルリアゲハである。

蹴毬は結構得意なの。バシッと優雅に勝ちに行く!

 わーっ、と叫びながら向かってくる西チームの〈メアレス〉たちを、ルリアゲハはスイスイかわしていく。

鬼さんこちら、手の鳴る方へ――って、あれ!?

 お、これは!ルリアゲハ選手のボールがフワッとなってズビャッと行ったー!

 あれはコピシュの念動だねえ。

ルリアゲハさん、すみません!いただいていきます!

ええー!?それ反則じゃないのおー!?

念動禁止とは書いてませんでしたから。お父さん、パス!

おうし!任せなぁ!

 ゼラード選手、ボールを受け取って……剣だー!剣でボールを転がしていますギョバギョバと行っております!

 違反してはおらんが、別のスポーツのようだねえ。

あらよっと。剣さえ使えりゃこっちのもんだ。このままゴールまで突っ走るぜ!

〈ゲイルウィール〉!

 ここで来ましたゲイルなウィール!レッジ選手がポールをシュババン!

ずりいぞこんにゃろ!

なんでもありなら、持てるすべてを使って当然だろう。

そうだな。こちらも心置きなく横槍を叩き込ませてもらう!

 出ましたミスター横槍!鎖でボールをギャンギャギャーン!!

 想像力が求められる実況だねえ。

させるか!囲んで止めろ!

数で来たか。だが……ちょつと足りないんじゃないか?

 東チームのみんながズビャンと行きますが、ラギト選手、ゴギャン!そしてヌギャーーンドカドカグッシャンとはこのことかーっ!

さもそんな言葉があるかのように言うな。

どうするの、あれ。このままゴールまで行かれちゃうわよ。

だったら魔法で食い止める!

囚われよ、不朽の雀羅に囚われよ!

 ここでリフィル選手の魔法がズバーーン!糸がビャビャンと絡みつくゥー!

魔法か……!だが、予想済みだ!〈戦小鳥〉!

うすうす!

 ラギト選手からパスを受け取ったのは……屋根の上のミリィ選手です!完全にノーマーク!ドギャンと独走状態だー!

このままベギャンと突っ込みます!

(実況がうつってる……)

あれ!?取られた!?誰に!?

 魔法使いにさ!と言いながら、君はボールを蹴り転がしていく。

数人の〈メアレス〉が向かってくるが、君はサツとフェイントをかけて翻弄し、驚く彼らの間をすり抜けた。

やけにうまいな……。

 サッカーなら覚えがある。というか、優勝経験がある、と君は言った。

マジすか。ホントなんでもやってますね、魔法使いさん。

それならここで潰すしかねえな!

安心してください、峰打ちですから!

 ゼラードとコピシュが斬りつけてくる。君は防御障壁を張って一撃をしのいだ。

魔法使いを援護するぞ!〈ブラストウィール〉!

実弾じゃないけど、当たると結構痛いわよ!

 レッジとルリアゲハが援護射撃をしてくれるが、その間にラギトとミリィが戻ってくる。

面白い。勝負と行くか、魔法使い!

ボール、返してもらいますよ!

やらせるか!下天ボンバー!

 さあ、激しい乱戦になってまいりました!〈メアレス〉VS〈メアレス〉!勝負の行方はどちらに転がるのか!?

……ていうか、おじちゃん。みんなボール無視して殴り合いしちゃってるけど、これ、いいの?

 毎年のことだからねえ。

 結局。

激しくぶつかる君たちを尻目に、ころころ地道にボールを転がしていったウィズが、見事な猫パンチでゴールを決め――

猫の前肢は『ハンド』かどうかで終わらぬ議論を巻き起こした。






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