【黒ウィズ】ひねもすメアレス Story2
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q猫を飼いたいんだ……いいかな?
qオトシダマとやらを貰いに来てやったぞ。ガキだからな。
q今日はキノコ料理よ!!
君は、知り合いの煩悩っぽいものがいくつかあるような気がしたが、気のせいだろうと思いこむことにした。
qこれで、俺のことを罵ってくれねえか。
qおや?興奮しているんですか?僕もですよ!!
qなあ、頼むよ。口汚く罵ってくれ。俺の心と身体を、踏みにじってくれ。
qいやいや、あなたもなかなか……。
q罪を憎んで人を憎まず。放っておきなさい。見逃してあげましょう。
q人でなし!!
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qお!おたくのお子さん、かわいいですねえ。さぞやご自慢でしょう。
なんともおかしな〈ボンノウン〉だった。
人の子を見るなり、やたらと褒める。そして、何をするでもなく去っていく。
qこの子の瞳のつぶらなことといったら!まるで天使のようじゃありませんか。
お嬢ちゃん、もう字が読めるのかい賢いねえ。将来は学者も夢じゃない!
この〈ボンノウン〉の奇妙な振る舞いに困惑していた都市の人々も、次第に慣れた。
なにせ、自分の子供を褒められて悪い気になるはずもない。いつしか、その〈ボンノウン〉は当たり前の光景として受け入れられていた。
あるとき、〈ロストメア〉が現れた。そいつは、明らかに〈ボンノウン〉を狙っていた。
qひい、ひい、お助け~!
〈ロストメア〉が倒れると、〈ボンノウン〉はホッとした様子で礼を述べた。
qいやはや、ありがとうございます。危うく喰われるところでした。
〈ボンノウン〉の身体も魔力でできている。より強い力を求める〈ロストメア〉にとっては格好の餌だったのだろう。
qいやあ、それがぜんぜん。なにせ私、ただの〈子煩悩〉なもので。
我が子がかわいくて仕方がない――そんな人々の煩悩から生まれたのです。
qきっとそうでしょう!
数日後、通りを歩いていると、恰幅のいい紳士の喚き声が響いた。
Z誰か、誰かそいつを捕まえてくれ!うちの子がさらわれた!喰われちまう!
小さな子供を抱えて走るのは、あの〈ボンノウン〉だった。
石が、雨のように降り注いだ。〈ボンノウン〉はボロボロになりながら、追っ手を振り切り、裏路地へ逃げ込んだ。
それが限界だった。〈ボンノウン〉は力を失い、通りに倒れた。
騒ぎを聞きつけてやってきたゼラードは、見た。
幼子が、泣きながら〈ボンノウン〉にすがりつく。その腕に、足に、一見していくつものアザがあった。
〈ボンノウン〉はゼラードを見上げると、かすかに笑った。
qこの子を……お願いします。
そして、消えた。彼であったものは、はばたく光の蝶となった。
そこに、あの紳士が駆け込んできた。
Zおお、あなたがあの怪物を倒してくれたのか!よくやってくれた。お礼をしよう!欲しい物があれば、なんでも言ってくれ!
ゼラードは幼子を担ぎ上げた。かわいそうに、彼女はすっかり怯えきって、小刻みに身体を震わせていた。
Zなんだと?その子は私の子供だぞ!
わめき散らす紳士に、ゼラードは抜き放った剣の切っ先を突きつけた。
ぎくりとなってこわばる紳士に背を向け、ゼラードは歩き出した。
光り輝く蝶たちが、去りゆく戦士の背中を追うようにはばたいた――
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君がレッジの部屋を訪れたとき、レッジは大量の書類と格闘していた。
大変そうだね、と声をかけると、レッジは渋面を作ってうなずく。
根を詰めすぎても良くないよ、と君は言った。
レッジは目を細め、窓の外を見つめた。
行ってみるのもいいかもしれない。今は、そんな気もする。
行くなら、やはり秘境だな。人のいない雄大な自然の風景というものを、一度でいいから見てみたい。
と。
しんみりした空気を蹴っ飛ばすような明るい声とともに、リピュアが部屋に突っ込んできた。
どこだ!
「よっ。お疲れ様ニャ。いろいろ御苦労様だったニャ。あ、キュウリ冷えてるニャよ。
「……。
「カレオツちゃーん。
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F繋げ――〈秘儀糸〉!
フィネアの指先から、光り輝く糸が伸びる。
リフィルは、ぽんと何かを放った。くじらのような見た目のぬいぐるみである。
まずは〈秘儀糸〉の扱いに慣れるところからよ。その人形に〈秘儀糸〉を繋いで、操ってみて。
Fは、はいっ。
フィネアは緊張しながら、ぬいぐるみに糸を繋いだ。
ぬいぐるみは彼女の思念に従い、ゆっくりと宙に浮きあがる。
ぬいぐるみの操作に集中するフィネアを眺め、リフィルは思案げにつぶやく。
リフィルは神妙にうなずいた。
フィネアの場合、もともと魔力操作に高い適性があったせいか、〈夢の蝶〉から得た魔力を無意識に使っていた節があるの。
その割には、大変そうだけど。
Fリ、リフィルさん!すみません、絡まっちゃって……た、助けてくださぁい!
Fリフィルさぁ~~~~~ん。
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どんな本を読むの?と、君はラギトに尋ねた。
そこは誰もが魔法を使える世界だ。それだけじゃない、いろんな不思議に満ちている。
君は沈黙した。非常に言いづらい感想を抱いてしまったので、つい口を閉じてしまったのだ。
ウィズ――――!!と、君は心の中で声を上げた。
だが、しゃべるだけじゃないぞ。そのライオンは人のように立って歩き、さらには剣を振るって戦うんだ。
…………。
ライオン……。
剣で戦う……。
これがカルチャーギャップか、と君は思った。
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結局、魔匠銃剣を借りることにした。
理由は単純で、〈墜ち星〉と〈徹剣〉、どちらの言い分も一理あると思えたからだ。
クラースは人気のない夜の裏路地を選び、軽く仮想訓練を始めた。
基本的には、銃として扱う。しかし相手に接近されたら、銃身に付属した刀身を活かし、牽制して距離を稼ぐ。
そんな動きを何回か繰り返したところで、
背後から、声がかかった。
C〈ロストメア〉は、裏路地に潜んでることもあるんだろ?
だったら、こういう狭い場所での立ち回りを身につけておくに越したことはない。
ラギトは、すっと目を細めた。
C……そうしなきゃ、取り戻せなかったんだ。奪われたもの――失われたものを。
結局――取り戻せなかったが。
クラースは貴族の家の長男として生まれ、すべてをそつなくこなして生きてきた。
しかし、跡目を狙う弟が雇った刺客に襲われ、命からがら逃げに逃げ――故郷を離れてさすらう日々を送ることになった。
泥の中を這いずりながら、グラースは誓った。泥をすすり、喰らいながらでも生き延びて、失われたすべてを取り戻すことを。
そのために、手段を選ばず戦った。裏社会に身を投じ、命を奪う技術を磨き、刺客と暗闘を繰り広げた。
やがて、追っ手を根こそぎ仕留め、ついに生まれた屋敷へ戻ったが――
屋敷は、彼が泥の中で戦い続けている間に、愛する両親や憎むべき弟もろとも、災害によって無惨に失われていた。
取り戻すべきものをすべて失い、後には血まみれの両手だけが残った。う
それを失ったがゆえの〈メアレス〉か。
C珍しくもないだろ。この都市じゃ。
だが、あんたとは縁がある。あんたの知らない縁だがな。
C……?
わからない、という顔をするグラースに、ラギトは、それでいい、というような鷹揚な笑みを見せた。
Cいい酒、か……。
そういえば、久しく酒をたしなんでいない。逃げている間はそれどころではなかったし、夢を失ってからはそんな気も湧かなかった。
自分はそれほど涸れていたのかと、グラースは少し驚いた。
C悪くないな。
この少年に誘われて飲む酒なら、少しは昧を感じられるかもしれない。
そんな気がしてうなずくと、ラギトが軽く肩を叩いてきた。
Cおまえのせいでな。
ラギトは、なんでもないことのように軽く肩をすくめた。
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Dそんでよお、行ったわけさ。戦争。なんせ金がねえからよお、もうそれしかねえっつうかよお。
俺の隊はよお、みんなそんな感じでよお。ほとんどガキばっかだぜ。みんな。
それがクソみてえな作戦でヒイヒイ言いながら戦わされてよお。誰も助けちゃくれねえ。勝つっつうより生きるのに必死でよお――
ぐでんぐでんに酔っ払って愚痴をこぽすダリクの隣で、ゼラードがうんざりしたような息を吐いた。
ずいぶん苦労したみたいだね、と、君はミルクを飲みながら言った。
しょうがねえ。魔法使い、なんか面白え話してくれよ。なんかあんだろ、おまえさんなら。
君は記憶を漁り、何かあったっけ?とウィズに尋ねた。
なんで妖精と喧嘩するの?仲良くしようよー。
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Fはあ……もっと〈秘儀糸〉をうまく操れるようにならなきゃ……。
Z失敗して落ち込んでる?そいつはいい!最高にクールだよ!落ち込めば落ち込むほどバネが強くなるからね!
Fどなた!?
部屋でお昼寝してるよ、と君は答え、何を買っているの?と尋ねた。
せっかくだし、魔法使いさんもどう?ここの店、けっこう掘り出し物が多いの。あ、これなんか面白くない?
ルリアゲハが、小さな人形を見せる。少女をかたどった、丸っこい人形だ。
部屋のにぎやかしにはいいかも――と君がそれを手に取ると――
Zニャハハハ!殺戮の宴の始まりニャ!嘘ニャ。
君はガボッと人形を閉じて、思いっきり投げ捨てた。
なんでもないよ。
なんでもないよ!!!
面白そうだね、と君は答える。
24人の余、っていう人気のコメディで、なんとそっくりさんが24人も出てくんですいやー、どうやってんですかねー。
あれ?魔法使いさん?なんで後ずさりしてんすか?ちょっと?まほーつかいさーん!
ゼラードって休みの日は何をしてるの?と君は尋ねた。
他の趣味はないの?と君が尋ねると、ゼラードは困ったように腕組みをする。
アホみてえにスッてよ。スッカラカンよ。いつもは大人しい家内に死ぬほど怒られて、あんときゃ本気でヘコんだもんだ……。
Fサルマガンディー!!
反則は?
まずは東チーム、ボールを蹴るのは〈墜ち星〉ルリアゲハである。
わーっ、と叫びながら向かってくる西チームの〈メアレス〉たちを、ルリアゲハはスイスイかわしていく。
囚われよ、不朽の雀羅に囚われよ!
魔法使いにさ!と言いながら、君はボールを蹴り転がしていく。
数人の〈メアレス〉が向かってくるが、君はサツとフェイントをかけて翻弄し、驚く彼らの間をすり抜けた。
サッカーなら覚えがある。というか、優勝経験がある、と君は言った。
ゼラードとコピシュが斬りつけてくる。君は防御障壁を張って一撃をしのいだ。
レッジとルリアゲハが援護射撃をしてくれるが、その間にラギトとミリィが戻ってくる。
……ていうか、おじちゃん。みんなボール無視して殴り合いしちゃってるけど、これ、いいの?
結局。
激しくぶつかる君たちを尻目に、ころころ地道にボールを転がしていったウィズが、見事な猫パンチでゴールを決め――
猫の前肢は『ハンド』かどうかで終わらぬ議論を巻き起こした。