【黒ウィズ】ひねもすメアレス Story5
story
らっしゃーせー。
らっしゃーせー!
Fら、らっしゃーせー……。
あ、みんなそれなんですね。
この店の伝統だそうよ。ちなみに私は最初、異国の言葉かと思ってた。『羅殺星』みたいな。
殺意すごくない?
羅殺星……。
目を見て言うのやめて。
フィネアは魔法を使えるようになったけど、まだバイトを続けるんだね、と君は言った。
Fはい。お金を稼がないといけないので……。
クエス=アリアスと違って、この世界じゃ、魔法が使えるからって手に職つけたことにはならないのよ。
手に職かあ……そーだ!
魔法が使えるようになったフィネアのために、このリピュア先輩が、〈巡る幸い〉亭の特別メニューを伝授してしんぜよーう!
Fえっ、そんなのあるんですか?
ありよりのあり!ハイまずは材料をいろいろ用意します!
で、玉葱と、人参と、あとブロッコリーをね、トコトコーン!て食べやすーいサイズに切るの。でもって、牛肉に塩胡根パッパしといて。
そしたら牛肉を炒めてー、玉葱、人参も入れちゃって!
赤ワインどぼーってして、グツグツきたら、水ざばーしてまたグツグツさせてね。
アク取ってー、そっから弱火で、お肉がふにゃんってなるまで煮まーす。
ふにゃんてなったら火を止めて、シチュールーを溶かして、とろんってなるまで火にかけるの。
あ、あと横で苑でてたブロッコリーも混ぜちゃって。
次は、ポテト!ジャガイモの皮をむいてー、ゆでてー、そんでもってマッシュ!マッシュあ、硬さは牛乳で調整してね。
んで、ジャガイモこねて、シチュージンの形にしたら、上からシチューをざばっとな!
最後にジャガイモでおめめを作って、ケチャップでまーるく目立たせてあげたら、できあがり!
Fなるほど~。
……なんだけどー。
Fえ?
めんどっちいから、魔法でホイ!
Fええっ!?
はい、完成。あっという間にシチュージン♪
できるわけないだろ!!!!
愛が足りなーい。
愛の問題じゃない。
我はシチュージン……。
カレージン……。
ポトフジン……
増やすな!!!いやちょっと待て、最後の色がおかしい!なぜ青い!
あ、ほんとだ。海の幸、入れすぎちゃったかな?
海の幸にそんな力が……?
というかこれ、なんでしゃべるの?
そこに口があるから?
いらないですよね。口。
……で、誰が喰うんだ。俺は嫌だぞ。
魔法使い。1杯奢らせてくれ。
お肩もみまーす!
押しつけにかかったにゃ!!
さすがに全部は……と君が難渋すると。
Cなんだ?盛り上がってるな。
D聞いてくれよフィネアー!俺らついに〈ロストメア〉倒したんだぜ祝ってくれーい!
祝いだ。喰いな。
Dナニコレ!!!?
その日、〈巡る幸い〉亭に3つの悲鳴が重なり響いた。
ちなみに普通に美味だった。
一家に一食、シチュージン!みんなも自宅で試してみてね!
わたくしが作ると、薬効合体DXヤクゼンジンになりますね!
慈悲トッピングだね!
(知らない人がいる……)
story
がちゃりと扉を開けて、〈巡る幸い〉亭に入る。
通い慣れた店の中に、見慣れた人々の姿がある。〈見果てぬ夢〉の怪物〈ロストメア〉と戦う〈夢見ざる者〉――〈メアレス〉たちだ。
カウンターの空いた席に座ると、すぐに、店員の少女――〈黄昏〉リフィルが、注文を取りに来る。
かと思いきや、リフィルは、ことりとカウンターにグラスを置き、抱えていた瓶から淡い色合いの液体を注いだ。
こちらの不思議そうな顔に気づいて、彼女はちらりと、カウンターの奥に目を向ける。
奢りだそうよ。
そちらを見ると、奥まった席に座る少年――〈夢魔装〉ラギトが、微笑を浮かべ、手にしたグラスの氷を鳴らしていた。
あんたには世話になっているからな。1杯奢らせてくれ。
あら、気前のいいこと。
からかうように言って、〈墜ち星〉ルリアゲハが隣に腰かける。
視線を向けると、ぱちりとウィンクが返ってきた。
結構するのよ、それ。
へえ。それなら俺も、世話をしてやってる礼に奢ってもらいたいもんだな。
あんたにビール以外の昧がわかるとは思えん。
どうせ、酒ならなんでもいいんでしょ。ガバガバ飲めるからビールばっかり頼んでるだけで。
どっちかっていうとゼラードの方がお世話になってるんじゃない?横槍を叩き込んでもらって。
剣の通じない相手だと、勝ち目ないですからねえ……。
おまえらな。
すみませーん!おー、みんないるいるいる!
あわただしく扉を開け、ミリィが飛び込んできた。〈メアレス〉たちの顔に緊張がよぎる。
ミリィ?何かあったの?
ひょっとして、〈ロストメア〉が出たんですか?
……かどうか、わかんないんすけど。しゃべるネズミが出たって、外が大騒ぎで!
しゃべるネズミ?
正確には、ネズミじゃない。ハムスターだ。
言いながら、何かがカウンターの上に乗った。
ネズミだった。
本人(?)の主張はともかく、ほぼネズミだった。
出たーーーーーーーー!!
しゃべったーーーーーーーー!?
え、これ何?〈ロストメア〉?ハム擬態級?
それは普通にハムじゃないのか?
あー……斬っていいか?
そうね。飲食店にネズミは厳禁。早く駆除しないと。繋げ、〈秘儀糸〉!
待て待て待て待て待て!俺だ!レッジだ!!
あ、なんだ、レッジさんでしたかーってえええ!?ちょ、どうしたんすか!?こんなにちっこくなっちゃって!
わからん。朝起きたらこうなっていた。
そんなことができるとしたら、〈ロストメア〉の能力か――
どこぞの妖精のお嬢ちゃんかだな。
呼んだー?
……リピュア。正直に言え。俺をハムスターにしたのはおまえか?
えー?違うよー。そんな魔法、使ってないもん。
本当か?だとすると〈ロストメア〉が――
〝レッジがかわいくなりますように〟って魔法なら使ったけど。
明らかにそれだろ!!!!!
とにかく戻せ!今すぐ戻せ!
えー、いいじゃんかわいいよー。ほら、なでなでしたげるー。
いらん!やめろ!今日も書類がたまってるんだ滞ったらどうしてくれる!
レッジさんもレッジさんでズレてますよね。
ズレッジ。
やめろ。
休暇だと思って楽しめばいいんじゃねえか?回し車でも回してよ。
むしろ苦行だそれは!
〈ラウンドウィール〉。
名づけるな!
いつも通りの騒がしさが店内に響き渡る。
その騒がしさを味わうような気持ちでカウンターに置かれたグラスに手を伸ばすと、ふと、リフィルと目が合った。
そういえば――
あなた、今、夢はあるの?
夢はある。
夢はない。
返答すると、
そう。
リフィルは、穏やかに微笑んだ。
夢があろうがなかろうが、意地を抱いて生きていく。
意地を抱き、現実を見据え――戦う限り、〈夢想見ざる者〉よ。
そう言って、彼女は小さなグラスを掲げる。
あなたの選んだ道と、その道をゆく意地に。
互いのグラスを軽く打ち合わせると、からん、と軽やかな氷の音が響いた。
それはどこか、祝福のために鳴る、鐘の音のようだった。
黄昏メアレス | |
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