【黒ウィズ】ひねもすメアレス Story1
story
qあ、どうもすいませんねみなさんね、ちょっとバージンロード通りますんでね、道開けてライスまいてくださいね、はい。
F下ろしてぇぇえ~……。
〈ボンノウン〉が大通りを疾走する。
通りの人々は、驚いて道を開けながら、ライスを投げてふたりを祝福した。
Dいやなんでみんなライス持ってんだよ!そんな持ち歩くもんじゃねーだろ!米派かよ!!!
わからん!気づいたら持っていたんだ!
強制的に道を開けさせるとともに、手にライスを生み出し、投げさせる……おそらく、それが奴の能力だろう。
都合上、奴の前方に位置する相手にしか作用しないようだ。戦うなら後ろから攻めろ応援してるぞ!!
Cプロだな。
Dなんのだ!……って、おまっ――
ダリクは、並走するグラースが懐から銃を取り出すのを見て、ぎょっとなった。
D馬鹿、おまえ何持ち出してんだ!そんなの撃ったらサツが来るだろ!
Cしょうがないだろ。このまま追っても追いつけない。足を止める必要がある。
D俺らの仕事、忘れたのかよ!サツに捕まったらパアだぞ、パア!
言い合うふたりの前方では、〈ボンノウン〉がライスシャワーを浴びながら、かぱっと大きな口を開いていた。
qそれじゃあハニー!そろそろ誓いのキスをしよう!
Fい、嫌ー!
C見ろ、フィネアが喰われる!やるしかない!
Dああああああもう神様のクソッタレ!!
数発の銃声が上から響き、弾丸の雨が降り注いだ。
弾丸はフィネアにはかすりもせず、〈ボンノウン〉だけを正確に直撃する。
q痛!めっちゃ痛!何これ!明らかにライスじゃない!
あら、ごめんあそばせ。祝砲のつもりだったんだけど。
横合いの屋根から、スッと女が現れる。彼女は手の中の銃をくるりと回し、優雅な微笑みを浮かべてみせた。
〈墜ち星〉、着到!
とは言うものの……何これ。〈ボンノウン〉?なんでこんなの湧いてるの?
ま、いっか。ひとまずここは久々に、数撃ちゃ当たるの理屈で攻める!
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流星のごとく降り落ちる銃弾が、怪物の身体に次々と重婚を、――もとい、銃痕を穿つ。
Cなんて腕だ……。
Dやべ、すげーなアレ。ひょっとして、〈メアレス〉ってヤツか?
qひー、ひー!こうなったら――
〈ボンノウン〉はフィネアを羽交い絞めするように持ち替えた。
q撃つのをやめろー!嫁がどうなってもいいのかー!
Dおまえの嫁だろ!いや嫁じゃねーけど!なんでおまえが人質にしてんだよ!
q死なば諸共!!
Cまずいな。いざとなったら心中するタイプか。
D迷惑すぎんだわ!!!
あらら。これじゃ撃てないわね。困ったわ。こうなると――
魔法に頼るっきゃないわね。
光の矢が駆け抜けた。
それはフィネアを迂回し、怪物の胴体に突き刺さる。
qあおん!
怪物は、たまらず手を離した。その隙に、フィネアは涙目で走り出す。
いたにゃ。ルリアゲハもいるにゃ!
里帰りしてたんだよね?と、君は隣のリフィルに尋ねた。
そのはずだけど、帰って来たみたいね。それより――
リフィルは、ずいと前に出た。逃げてきた少女をかばうように、彼女と怪物の間に立ちはだかる。
下がってなさい。
少女は、戸惑うようにリフィルを見た。そんな細身で怪物に立ち向かうつもりなのか、という驚きが瞳に浮かんでいる。
次の瞬間、少女の瞳はさらなる驚きに塗り潰されることになった。
繋げ――〈秘儀糸〉!
リフィルが高らかに唱えるや、彼女の指から光り輝く糸が伸びたからだ。
Fこれって――
魔法よ。
さらりと答え、リフィルは敵に向き直った。
***
qふぎゅつつつつ……。
倒れた〈ボンノウン〉が、魔力となって散っていく。
戦いが終わったのを確認して、ルリアゲハが軽く手を振りながら歩み寄ってきた。
どうも、久しぶり。魔法使いさんとウィズちゃんも来てたのね。
ずいぶん早いお帰りね、ルリアゲハ。妹に追い出されたの?
あら、相変わらずの対応。でも、あのおかーさんを見た後だと、むしろかわいく見えるわ……。
は?
怪冴げに眉根を寄せるリフィル――その横を、輝く蝶が通り過ぎていく。
〈ボンノウン〉の肉体を構成していた魔力だ。君たちが背後にかばった少女の元へと、導かれるように飛んでいく。
Fえ?え、え?
光る蝶に囲まれて、少女は泣きそうな顔をした。
あの子……魔力を自分に誘導している。あの様子だと、無意識にやっているみたいだけど。
あの子は――と声を上げる君に、リフィルはうなずきを返す。
ええ。おそらく、そうでしょうね。彼女は――
〈レベルメア〉の願い主よ。
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Dあーあ。来て早々、ひどい目に遭ったな。
Cひどい目に遭ったのはおまえじゃなくてフィネアだろ。
Fすみません、ご心配おかけして……。
C俺たちこそ、すまなかったな。なんの役にも立たなかった。
Dしゃーねーしゃーねー。魔法使いがふたりもいたんだ。どのみち出る幕なかったって。
にしても、とんでもねーよな。怪物は出るわ、魔法使いはいるわ。前言撤回、超ファンタスティックな都市だぜ。
Fそうですね……。
(あれが……魔法)
久々の里帰りはどうだった?ルリアゲハ。
そりゃもう大変だったわよ。何せリフィルのおかーさんときたら、やることなすこと無茶苦茶で……。
あ、大変だったのそっちすか。
いいなー。私も、リフィルのお母さんに会ってみたーい!
それはやめといた方が……いや、むしろリピュアなら意外と気が合うかも……?
お!てことは、ノリが良くて明るい人なんだね!
うん……まあ……合ってる……。
これはやべえ奴のパターンだな、と、君は何人か知り合いを思い浮かべた。
元気にやってるみたいね、あの人も。死んじゃいないだろうとは思ってたけど。
ところで、あっちのテーブルの3人だが――
やっぱり、似てますよね。あの〈夢〉たちに……。
ああ。やはり、あいつらの願い主か……。
別人たァわかってるが、あのツラを見ると、どうにも身構えちまうな。
睨んじゃ悪いですよ、お父さん。あの人たちは、〈ロストメア〉のしたことなんて知らないんですから――あれ?
コピシュが意外そうに瞬きをした。まさに話題の渦中にある少女が、あちらのテーブルを離れ、歩いてきていた。
少女は見るからに緊張した様子だが、意を決したように、君とリフィルに話しかけてくる。
Fあの……先ほどは、ありがとうございました。
いいのよ。それより災難だったわね。あんなのに絡まれるなんて。
Fはい……びっくりしました。あの怪物にも――魔法にも。
あなたたちは、魔法使い――なんですよね?
まあね、と君が答えると、
Fでしたら――お願いします。私に魔法を教えてください!
少女は、がばっと深く頭を下げた。あまりの勢いの良さに、君はきょとんとした。
リフィルの方は驚いた様子もなく、じっと少女の様子を観察している。
気の迷い――ではないようね。
どうして魔法を教えてほしいの?
F私――何もないんです。
頭を下げたまま、少女は答えた。
その声は、空っぽの壷に雨が落ちたときのような切ない震えを帯びていた。
F命を狙われて……父が亡くなって――もうなんにもなくなって、それで、私、ここに来たんです。
何をしたらいいのか、わかりませんでした。どう生きたらいいのか。でも……。
あなたたちの魔法を見て――私、それがすごくまぶしくって――それで、思ったんです。こんなふうになれたらって――
お願いします。私を弟子にしてください。私――魔法使いになりたいんです!
店中の視線が、君とリフィルに集中する。
自分はまだ弟子の身分だから、弟子を取ることはできない、と言って、君はリフィルの方を見た。
しばらくの間、リフィルは口を開かなかった。
悩んでいる風でも迷っている風でもなく、何かを透かし見るように少女を見つめる。
やがて、
いいわ。
リフィルは、意外なほどあっさりとうなずいた。
あなたには魔力を操る才能があるようだし……私もちょうど、〝私の魔法〟を人に教えられるか試してみたいところだったから。
Fあ――ありがとうございますっ!!
少女は涙に濡れた顔を上げ、また棍棒でも振り下ろすように思いっきり下げた。
Fフィネアと申します!どうぞよろしくお願いいたします!
2
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フィネアは都市に来たばかりだというので、リフィルと同じ貸家を紹介され、また、〈巡る幸い〉亭で働くことになった。
住まいも働き口も師匠に世話してもらおうなんて、なかなか肝の据わった子ね。
Fす、すみません。
怒ってないわ。むしろ褒めてる。貰えるものは根こそぎ貰うのが、魔道士の基本だから。
その通りにゃ。
いやそんなことはないはずだ……と君は首を横に振った。
あのリフィルが弟子を取るとはねえ。なんだか感慨深いわ。
それで、どうやって魔法を教えるつもりにゃ?
どうしたものかしらね。
ノープラン!?
人に魔法を教えるなんて初めてなのよ。まずは、魔力を操る感じを身体で覚えるためにも念動からかしらね。
Fは、はいっ。がんばりますっ。
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Dあのお嬢ちゃん、なかなか大胆なところがあるよな。魔法使いに弟子入りするとかさ。
暗く曲がりくねった路地裏を歩きながら、ダリクはおかしそうに笑った。
C魔法を見て、よほど感動したんだろう。ただ、簡単に学べるものじゃなさそうだからな。途中で挫折しなきゃいいが。
D報われてぽしいもんだね。あの子はさんざん苦労してきたんだからさ。
C今日はやけに優しいな。他人がどうなろうが知ったこっちゃない、ってのがおまえの流儀じゃなかったか?
D貧すりや鈍すの、その逆さ。今日は俺らの努力が報われる日だ。優しい気持ちも湧くってもんよ。
Cうまく行けばの話だ。
Dそうなるように努力したんだろ。
――ほら、いたぜ。先方だ。どこぞの紳士と待ち合わせ中の、ウブな娘っ子みてえなツラしてやがる。
ダリクはそう言ったが、実際のところ、裏路地の奥で待つ男たちの顔つきは、トーストされすぎたパンに似ていた。
Zやっと来やがったか。待たせやがって。
D悪いね。踏むべき手順を踏んでたもんで。運び屋ってのも楽じゃなくてさ。いろいろ手練手管がいるわけよ。
Z手順なんぞ、どうでもいい。あるべきものがあるならな。
Dだ、そうだ。
促され、グラースは手にしていた袋を路地に置いた。
がしゃり、と意味深な重たさを感じさせる音が、夜の空気を震わせる。
控えていた数人が袋に取りつき、中身を検め始める。それを横目に、男は鼻を鳴らした。
Zよくこれだけのものを門から持ち込めたな。
D手順は気にしないんだろ?
Zふん。いいだろう。中身に問題がないとわかったら報酬を――
qぴぴーーーーーー!!
裏取引発見!そういうイケない取引は、本官が取り締まるであります!
叫びと共に怪物が降ってきて――
なんと、クラースたちの運んできた袋をぺろりと呑み込んでしまった。
Zな、なんだ!?〈ロストメア〉――いや、〈ボンノウン〉か!
qもぐもぐ、ごっくん。あー肥える。めっちゃ私腹肥えるわー。至福の私腹だわー。
D……なんだこれ。
C裏取引の現場を摘発し、ブツを懐に納めて私腹を肥やす煩悩……じゃないか?
Dわかりづれーな!そういう警官、確かにいるけど!
Z野郎!そいつを吐きやがれ!
男たちが一斉に銃を構え、〈ボンノウン〉へと向けたが――
q摘発!!
すべての銃が一瞬で彼らの手から消え失せ、〈ボンノウン〉の頭上に移動した。
〈ボンノウン〉は口を上に向かせて、落ちてくる銃たちをパクリと呑み込んでしまう。
Zな、なんだとぉ!?
qこれがみなさんの〝いちばんの武器〟ですか。いいですね。いい食べ応えです。
さあ、もっと出しなさい。あるでしょなんか。ありったけ出しなさい、ありったけ。全部、本官の懐に納めますんでね、はい!
Zう、うわあああああ!
***
コピシュの服を選ぶセンスは絶妙にゃ。キミも少しは見習うべきにゃ。
いえ、そんな。魔法使いさんのセンスも、なんていうか……独特だと思いますよ。
ほら、言葉を選んでるにゃ。
あたしはいいと思いますけど。
だよねえ!と君はうなずいた。この都市ならではの服が手に入ったので、内心ウキウキだった。
買い物を終えた帰り道である。ミリィとコピシュが服を買うというので、君も同行させてもらったのだ。
……あれ?
ふと、コピシュが足を止めた。
今、何か聞こえませんでした?悲鳴みたいな……。
あたしも聞こえた!〈ロストメア〉か、〈ボンノウン〉かも!
ですね。行きましょう!
うすうす!
わかった!と答え、君も駆け出した。
キミはその服(?)脱いでからにしろにゃ!!
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q摘発!これも摘発!
Z勘弁してくれえ!もう何も出ねえよお!
やっぱり――〈ボンノウン〉ですね!
だったら速攻オ!
ミリィがパイルバンカーを手に〈ボンノウン〉へ突撃していく。
q摘発!
〈ボンノウン〉が叫ぶと、ミリィの手の中からパイルバンカーが消えた。
え?あれ?あたしのパイルバンカーどこ!?
あそこです!奴の真上!
qごっくん!
食べたぁーーーーっ!?
qうん。なかなかいい武器ですね。まろやかさの奥にコクがあってね。私腹が肥えますね~はい。
C気をつけろ。こっちの武器を奪うのが奴の能力らしい。
えええええそれ先に言ってくださいよー!
C言う暇なかったろ。
そういう相手なら、数撃ちゃ当たるの理屈で攻めます!
コピシュの身体から魔力が噴き上がる。応じて、背中の剣庫から数多の剣が次々と抜き放たれ、宙に浮かんだ。
ファルシオン!レイピア!エストック!カットラス!イルウーン!バスタード!クレイ――
q――はい、摘発。
モアぁぶっ。
突如コピシュが潰れるように倒れ伏した。浮かんでいた剣も一斉に落下し、彼女の周囲に散乱する。
コピシュ!?どうしたの!?
お、重い……。
qけぷっ。いやあ、いい魔力ですね。これは肥えますわ。
まさか、剣じゃなくて魔力をまるごと取られたにゃ!?
そんなのありぃ!?
コピシュがあれだけの剣を背負えていたのは、念動の助けがあってのことだ。魔力を失ったため、剣庫に押し潰されてしまったらしい。
C奴ば相手の最大の武器〟を優先的に奪い取れるらしい。
だからそれを先に言ってくださいよ!!!
つまりコピシュの場合、剣1本1本ではなく、それらを操る魔力そのものが、〝最大の武器〟として奪われたわけだ。
なると――と、君は冷や汗をかいた。自分の場合も、魔力を――あるいは、魔法そのものを奪われてしまうのだろうか?
qそこのあなたも何か持ってそうですね。いただきますよ。摘発!
異様な魔力が君に襲いかかった。
抵抗する間もなかった。大事なものが、ごっそりと奪い取られる感覚。君は驚きと戦慄に撃たれ、立ち尽くす。
qあれ。なにこれ。着ぐるみ?ま、いっか。いただきまーす。
……待つにゃ。ちょっと待つにゃ!キミ、あれが〝最大の武器〟ってどういうことにゃキミの中では魔法より仮装が上にゃ!?
いや、違うよ!と君は抗弁した。自分の最大の武器は、この魔法だ!
qあ、そうなの?んじゃそっちも摘発しますね。はい。
魔力を取られた。
何してるにゃーーーー!!
だって!!と叫ぶ君の横を、誰かがサッと駆け抜けた。
〈ラスティメア〉に酷似した、あの青年だ。確か、グラースと呼ばれていた。
彼は〈ボンノウン〉に向かって駆け込み、懐から抜いた銃を突きつける。だが、そんなことをしても――
qいい銃ですね!いただきます!!
〈ボンノウン〉の頭上に、瞬時に武器が転移する。〈ボンノウン〉は真上に大口を向け、それが落ちて来るのを待った。
だが。
あんぐりと聞かれた口に落ちたのは、銃ではなく、導火線に火の点いた小型の爆弾だった。
qあれ?――ほぎゃん!!
爆弾は、〈ボンノウン〉の体内で詐裂した。怪物は、黒い煙と悲鳴を吐き出す。
すかさずグラースが銃の引き金を引いた。奪われることなく彼の手の中に残っていた銃から、銃弾が吐き出され、〈ボンノウン〉に命中する。
qひいん!ひいん!!
〈ボンノウン〉は泣きそうな声でのたうち回った。すると、君の身体に失われた力が戻ってくる。
魔力が戻ってきた!
お帰りあたしのパイルバンカー!!
痛打を与えたことで、相手の能力が解けたらしい。そういえば、前に交戦した〈ボンノウン〉もそうだった。
また取られる前に奴を倒すにゃ!
号令一下、君たちは即座に構えを取った。
***
q至福の私腹がぁ~……。
君たちの一斉攻撃を受け、〈ボンノウン〉は泣きながら消滅した。
ふー……危なかった~。今回のは、ちょっと「やばっ!」ってなりましたね。
……真っ先に魔力を取られたってことは、わたし、無意識に念動をあてにしてたってことですよね。剣じゃなくて……。
わああああいやほらそこはさ、念動も使える剣士!ってのがコピシュの強みだと思うし、えーとえーと……。
ミリィがコピシュを慰めている横で、君はグラースに向き直り、助かったよ、と笑いかけた。
Cこっちこそ、助かった。あんたたちが来なかったら、身ぐるみをはがされてたとこだ。
素直な謝辞を受け、君は面映ゆくなって頬をかいた。〈ラスティメア〉と同じ顔と声で言われると、なんとも言えない気持ちになる。
Dしかしよ、グラース。さっきあいつ、なんでおまえの銃じゃなくて爆弾を呑み込んだんだ?
C爆弾に火をつけて、背中に隠しておいたんだ。奴は銃が〝最大の武器〟だと勘違いしてたから、ろくに確認もせず爆弾を呑み込んだ。
だが実際は、俺にとっては爆弾の方が〝最大の武器〟だった。だから、ああなったのさ。
〝最大の武器から優先的に奪い取る〟という相手の能力を利用して、不意を衝いたわけにゃ。咄嵯の思いつきにしては上出来にゃ。
C……この都市じゃ、猫もしゃべるんだな。
Dうわあホントだ!マジかよしゃべってる!
お。新鮮な反応すね。懐かしいな~。
ところで……あなたたちは、ここで何をしていたんですか?それに、さっきの人たち、どう見ても――
Dあっとそうだった俺ら急いでんだった!助けてくれてありがとな!そんじゃ~。
ダリクはそそくさと話題を打ち切ると、いつの間にか手にしていた袋を抱え直し、きびすを返した。
――と。突如、上から間色の鎖が伸びてきて、ダリクの袋に巻きつき、奪い取ってしまった。
Dあっ!?
鎖の引き戻される先――近くの屋根の上に、悠然と腰かける少年の姿があった。コピシュが声を上げる。
ラギトさん、来てたんですか?
今来たところだ。強い魔力を感じてな。戦いには間に合わなかったか。
Dおい、おまえ、それ返せよ!
もちろん返すさ。本来の持ち主にな。
袋の中身をのぞき込み、ラギトは肩をすくめた。
〝外〟から持ち込んだ盗品か。ずいぶんな量だな。
Dと――盗品?な、何を根拠に。
さっき逃げていった連中――故買屋だろう。何人か顔を知ってる。
〝外〟の調査の及びにくいこの都市で、持ち込まれた盗品をうまくさばく。そうやって稼いできたグループだ。
あんたたちはさしずめ、盗人と故買屋の仲介を頼まれた運び屋というところか。
Dぐ……。
この品々は然るべきところに出しておく。そうだな、アフリト翁なら、ツテを使って持ち主に返してくれるだろう。
D勘弁してくれよ!文なしになっちまう!
覚悟の上だろ?商売にはリスクがつきものだ。こういう商売は、特にな。
もし手っ取り早く稼ぎたいなら、〈メアレス〉をやったらどうだ?
どちらも修羅場を潜っているようだし、いざというときの機転も利く。夢がないなら、向いてるかもな。
ま……命が惜しいなら、おすすめはしないが。
ラギトは立ち上がり、無造作に足場を蹴った。手にした袋ごと夜陰に消えていく。
Dマジかよ、嘘だろ……一儲けできるはずだったのに。
警察に突き出されなかっただけ、マシと思うにゃ。
ラギトさん、『都市に害がないならまあいいか』みたいなところありますからね。
あれがレッジさんだったら、まちがいなく警察行きでしたね。
C…………。
やるか。〈メアレス〉。
Dは?正気かよ!さっきのみたいなのと戦うってことだろ?危なすぎるだろ!
C危ないのは慣れっこだ。おまえだってそうだろ?
D慣れてるからって、やりてえもんか!ドブさらいでもした方がまだマシだ!
ギャンギャンわめくダリクを見て、ミリィが首をかしげた。
あれ。ひょっとして、あたしら感覚マヒってる?
え、気づいてなかったんですか?普通ああですよ。
そかー。
story
Fそれじゃ、おふたりは〈メアレス〉に?
Dああ……なんせ今回の取引のために借金までしてたからよ。無事に終われば、それを返しても一財産になったのに……。
C失敗した以上、残るのは借金だけだ。この都市で金を稼ぐなら、〈ロストメア〉を狩るのがいちばんいい。
Fでも、〈ロストメア〉と戦うなんて、大変ですよね……武器とか、どうするんですか?
それについては問題ない。
Fひゃっ!ア、アフリトさん、いたんですか……。
この都市は常に〈メアレス〉を求めておる。始めて1ヶ月はお試し期間で、ユバル社から武器・弾薬を無料で貸与してもらえるのさ。
アフリト翁が言うと、新手の詐欺に聞こえるわね。
D武器ねえ……ユバル社ってあれだろ、魔匠具の会社だろ?ってことは、すげえ武器も貸してもらえるってことか!
パイルバンカーいいっすよ!パイルバンカー!
Dなんかオススメとかある?
今!今めちゃくちゃオススメしたんですけどねえ!!!
初心者なら、やっぱ魔匠銃でしょ。拳銃からライフルまで種類が豊富だし、特別な効果を持つ魔匠弾も使えるわ。
いーや、選ぶなら断然剣だろ、剣。〈ロストメア〉とは接近戦になりやすいからな。剣で斬った方が早えし楽だ。
銃よ。
剣だ。
パイルバンカー!!
Dうーん。あ、そうだ。この都市でいちばん強い〈メアレス〉は、どんな武器を使ってるんだ?そいつと同じなら、きっと安心だ!
君たちは顔を見合わせ、異口同音に答えた。
「「「素手。」」」
D素手!!!?