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【黒ウィズ】心竜天翔 Story3

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作成者: にゃん
最終更新者: にゃん



story



 ベッドの上にはミーレンがいた。

その瞼は固く閉ざされていた。

いまは目を覚ますのを待ちましょう。

 処置が早かったおかげで、ミーレンはー命を取り留めた。

意外、と言っていいのかわからないが、アマイヤの的確な指示が功を奏した。

と言ってもまだ意識は戻らず、安心できる状態ではなかった。

なんてざまだ……。

 君も視線を落とす。アデレードの言葉通りだった。

みんなでログォーズを討伐した時、まさかこんな未来が待っているとは想像しなかった。

それはベッドの上で死の淵を行き来する少女も、片隅で震える少年も、同じ意見だろう。

あんまり責めてやんないでよ。ふたりが悪いわけじゃないんだから。

責めているわけじゃない。

 やり場のない怒りが言葉として出た。それだけだった。

黒幕がいるんだからさ。

 続いたアマイヤの言葉にー同は息を呑む。

どういう意味ですか?

みんな、イケルの人が変わったみたいだと思っているんでしょ?

そう。その通り。こいつはイケルであって、イケルではない。

邪悪な竜力に絡めとられた傀儡さ。

 その後の話は驚きの連続だった。

この何百年かの間、セトの王は、みんな世継ぎを作らぬまま病死かあるいは失踪していた。

そして度々、王の試練が行われ、王が誕生し、行方が分からなくなった。

それを冴しく思ったとある竜がアマイヤを使い、調査を進めていたのだ。

そこで分かったのが、

試練を通過した優れた人物に邪悪な竜力を植え付け、その力を奪っていたってわけさ。

王に竜力を与えていた竜は、どうしてそんなことを始めたの?

アレンティノは死んだ。おそらくね。彼女の名を騙っているのは、魔竜の類じゃないかな。

それなら、アニマが感じた邪悪な竜力のことも説明が付きますね。

ひとつ気になるのだが、行方不明になった王はどこに行った。ただ死んだのか?

実際に試練を受けてみて、ようやくそれが分かったよ。

ログォーズさ。あいつらが王の成れの果てってわけさ。

 つまり邪悪な竜力が人の生命力と癒着し、あの姿に変容した、ということらしい。

あり得ない話ではないな。

竜力が竜人を生み出すように、邪悪な竜力がログォーズを生み出すやもしれん。

 彼らには竜力が効かないのも、彼らの誕生に竜力が関係している証拠かもしれない。

解せんな。

 鋭い語気がその場の雰囲気をー変させる。アデレードはアマイヤを見据え、続けた。

そこまでわかっていて、なぜイケルに竜力を手に入れさせた。

お前はあいつを調査のために利用したのか!

 声を荒げるアデレードに対して、アマイヤは動じず答えた。

それがあたしの仕事だからね。

お前があのふたりに少しでも真実を伝えていたらこんなことにはならなかったんじゃないのか?

いけないねえ、それは仕事が失敗する流れだよ。

……でもね。少なからず責任は感じているんだよ。

だからこうして言う必要のないことをペラペラと喋ってんの。

頭ではわかっても、お前のやり方は好きになれない。

アディ。そこまでにして。いまあたしたちがやらなきゃいけないのは……。

 リティカは部屋の片隅をー瞥し、言葉を濁した。それを継いだのは、ミネバだった。

イケルさんを救うことです。ザバールさん、どう思いますか?

まずは洞窟に向かうことだな。何があったのか調べなければいけない。

 ミネバはひとつ頷き、外へ向かう。従うように他の者が続く。

そして、君も。

アデレードが続こうとするのを見て、イニューが彼女の手を引いた。

アディちゃん、駄目だよ。

 アデレードは取られた腕を見つめた。相変わらず震えている。アデレードは、小さく頷いた。

お前は行かないのか?

 残ったアマイヤにアデレードは言った。

これはあたしの仕事じゃないからね。

ああ。そうだった。お前はそういう奴だったな。

 軽い調子でそう言った後、非難の言葉をぶつけられるより先に、アマイヤは部屋から出て行った。


気をつけてください。油断のならないところです。


 ***


 洞窟の奥までたどり着くと、泉があった。

そこは心を奪われるような美しい水辺だった。

以前、来た時とまるで違う……。

「ギュウギュウッ!

グリフ、どうしたの?

ここ、じゃあくなりゅーりょく、ぱんぱん!ちょーたいへん!

アニマやグリフが反応しているということは、ここが邪悪な竜力の源流なのでしょう。

おそらく幻術で美しく見せかけているだけで、本当の姿は別にあるはずです。

 そこまで話を聞いて、君は気づく。

もし魔法で幻覚を見せているなら、その魔法の使用者もそう遠くにいない。

少し前からミネバはー点を睨みつけていた。

出てきなさい。

 水面に波紋が走る。その中心が盛り上がり、君たちの前に妖しい女が姿を現す。

ミネバ・クロード。生きていたか。

クロード家の者は、ー度退いても必ず戻ります。

そして、必ず勝ちます!

 ミネバの魔力が弾けて、泉の水を激しく跳ね飛ばす。

うー……りゃあ!

かならずかーつ!

この者の相手は私が引き受けます。あなたたちはイケルさんの方をお願いします。

 引き受ける。とは言ったが、そんな生易しい言葉ではなかった。

自分の獲物は絶対に渡さない。そんな様子である。

今度こそ、殺してくれるわ。

やってみなさい!ほのめくは雷華、うがつは電影!

 素早く女の懐に飛び込んだミネバが、強烈な雷撃を打ち上げる。

恐ろしいことに、雷撃は天井を貫き、女を洞窟の外に吹き飛ばした。

今のうちにイケルさんを。私はあの者を追います。

あにまもおうー!

 と、ふたりはぽっかりと開いた風穴から、外へ飛んでいった。

随分荒っぽい方法で邪魔者を連れ出してくれた。

よっぽど怒っていたんだにゃ。

さて、リティカ。白霊竜の力は邪な力を退ける。

この場にある邪悪な竜力とイケルの結びつきを断ってくれ。

うん。あたしとグリフの出番だねッ!

「ギュウウウッ!

 ふたりは共に翼を広げ、まばゆい白光を放つ。

その光を受けて、これまで半ば意識を失っていたイケルが反応する。

……うう……。

イケル、聞いてッ!絶対に邪悪な力に負けないって誓ってッ!

あなたの強い心が、白霊竜の力を強くさせるの。だから心を強く持ってッ!

うう……うううああああッ!

負けないでッ!

「ギュウウウッ!!

お、俺は……あの女のいいようには……されんぞ……。

俺は……イケル、ロートレック……だ。

この名に……誓うッ!何者にも負けないとぉぉッ!

ぬうああああッ!

 イケルの激しい叫びと共に、彼の体から禍々しい何かが飛び出してくる。

それは竜の姿をしていた。

よくやったリティカ。さて、次は我々の番だな、魔法使い。

どうやら大人しくさせなきゃいけないみたいにゃ。

 稼猛な牙を見せて、竜がこちらを見る。

俺に考えがある。殺すな、魔法使い。

 君は、同意の視線をサバールに送る。



やれやれ、シビレる展開になってきたねえ。

 アマイヤは独り言をつぶやく。主のいない玉座に深々と座り、誰もいない王の間をぼんやりと眺める。

靴音がひとつ、近づいて来る。

アマイヤか。そこは王の席だ。軽々しく座るな。

獲物の間違いだろ。

 そのー言で、場がひりつく様な殺気に支配される。

ひとつ気になってたんだよねえ。なんであんたが魔竜に従ってるか。

それがどうしても分からなかったんだ。

 男の口元が歪んだ。

それか……。

単純だ。竜力を求めてくる強者が、哀れに滅んでいくのが面白いからだよ。

見ていてたまらない。夢も希望も全部見失って、

愚鈍な怪物になり果てるんだ。こんなに面白いものはない。

あ。なるほど。あんた人として腐ってんだね。

 どこまで歪むのか。あり得ないほど口角を釣り上げ、ガンボは気色の悪い笑いを浮かべた。

人じゃねえ。竜人だ。お前らバカな人間と同じにすんじゃねえ。

 アマイヤはすくと立ち上がり、傍に置いていた戦輪を手に取る。

お金にならないことはやらない主義なんだけど。

お前だけは話が別だよ……。

やってみろぉ。人風情……。

それ以上喋んなよ。あんた性根が腐ってるから、吐く息が臭いんだよ。


 ***


 竜が猛烈な突進を繰り出す。

絶対に通さないッ!

 リティカの指先から展開する障壁が、竜との衝突を食い止める。

素早く竜の背後に回った君は、同じように障壁魔法を展開した。

ふたつの障壁の狭間で身動きが取れなくなった竜の上から、

烈なる撃氷!雪崩れ撃て!

 ザハールが大量の氷塊を叩き込む。

君とリティカが障壁を退くと、目の前には巨大な竜の氷漬けが出来上がっていた。

これでもう大丈夫にゃ?

ああ。氷の魔法を解かない限り目覚めることはない。

お前たちはミネパの助太刀を頼む。俺は彼を見ておく。

 と、サバールはイケルヘ視線を送る。

君は、頼んだ、とー言返して、リティカとともに洞窟の外へ向かった。

うう……く、くそ……。お、俺は……俺たちは……まだ……。

 足掻くイケルをー瞥して、サバールは岩壁に背をもたせかけた。

いくらでも待とうという構えであった。


馳せよ迅雷、荒べ風烈!

ふるえよこがれよくずおれよ!ほむらひしめけ、ななつにじいー!

 雷撃と火焔が前後から迫る。

ふふ……。

 よけるわけでもなく、薄らと笑った。

そして、雷撃と火焔はー点で衝突し、波動を残してお互いをかき消した。

ちょくげきッ!

違うッ!

 背後で漆黒の魔力が踊る。

間ー髪のところでミネバは身をかわす。だが、黒の波動は威力を失わず真つ直ぐにアニマヘと伸びていく。

あわわ……。

アニマちゃんッ!伏せてッ!

 アニマが頭を抱えて伏せる。その上を光る軌道が通り抜ける。

こんなもの打ち返してやるッ!

 リティカが振り抜いたメイスは黒い魔力を弾き、元来た方へ飛んでいく。

ふん。

 やはりそれもかわさずに直撃する。が、喰らったはずの女の姿は霞のように消えてなくなった。

どういうことにゃ?

わかりません。

こちらの攻撃がまったく当たらないのです。当たったと思っても手ごたえがない。

ちょうめんどうなてきなのっ!

 女は怪しげな笑みをたたえ、ただこちらを見つめていた。



 ゴン。遠くから鈍い音が聞こえた。

何の音だ?

 ゴン。また聞こえた。

どこかの部屋からかな?

 ゴン。ゴン。ゴン。

三度立て続けに鳴ったところで、ふたりはそれが意思を持った音であると気がついた。意図は分からないが、その音を鳴らしている者には何らかの目的がある。

見てこよう。

私も行く。

 音は王の間に続いていた。

確かめようと中を覗くと、

 ゴン!

 ゴン!ゴン!ゴン!

そこには、意識を失ったアマイヤの頭を何度も何度も打ち据えるガンボの姿があった。

何をしているッ!

ああ。お前か。いや、こいつの頭を割ろうと思っているのだが、なかなかどうして……。

硬い頭をしている。

抵抗の出来ない者になんてことをするんだ……。

抗できないからいいんじゃないか。チッ……まあいい、もう白けた。

 ガンボがアマイヤの体をこちらへ投げ捨てる。

アデレードは傷だらけとなったアマイヤの体を受け止め、しっかりと抱きしめる。

どうして……。

ああ……かっこわるいところ見られたね……。やられちゃったよ……。

どうしてひとりで……相手は竜人だぞ!

だからさ……。責任は感じてるって言ったじゃないか。

それに……「人」として、あいつはこの手でぶっ飛ばしたかったのさ。

 アデレードは眼光鋭く、ガンボを見据える。

いまなら10数えるまで待ってやろう。ほら、逃げろ。ほらほらほーら。ハッハッハ。

イニュー、アマイヤとミーレンを連れてこの城を出ろ。

アディちゃんは?

私はこいつをたたっ斬ってからお前たちを追う。

それなら10数えるのはやめだ。寿命が縮んだなぁ、おい。

 アデレードは黙って、剣を抜いた。

貴様ぁぁ!「人」を舐めるなよぉぉ!

舐めてねえよ。……しゃぶりつくしてやるんだよぉ!


 イケルは地べたをはいずり、ようやく氷漬けの竜の前に辿り着いた。

勝手だと思われるかもしれないが、俺はこいつを助けたい。

俺は、もう誰も見捨てない。そう決めたんだ……。

方法はある。500程な。だが、おすすめするのはひとつだけだ。

この竜の力をお前のものにしろ。

与えられるのではなく……。奪い取れ。



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story



 敵とのにらみ合いが続いている中、橋の向こうからイニューがやってくるのが君の目に入った。

人をふたり抱え、ヨロヨロとこちらに飛んでくる。

イニュー、どうしたにゃ!

 君はイニューが抱えていたふたりを引き受ける。

ひとりはミーレン、もうひとりはアマイヤであった。

君に驚く暇も与えず、イニューが息も絶え絶えに訴えかける。

中で……、アディちゃんが!

 城にひとり残り、アデレードが戦っているという、アデレードの体は戦える状態ではない。

イニューはー息にそう言った。

助けに行かなきゃッ!

 だが正体不明の能力を持った敵が、君たちの前に立ちはだかっていた。

敵なら私に任せて下さい。最初からそう言っているはずです。

状況を顧みてなのか、彼女のプライドが言わせたのか。

ともかくここはミネバたちに任せ、君は城の中へ向かうことにした。

何を無駄話をしている。もう終わりにしてもいいか?

いいだろう?

 どこからそんな声を上げるのか。

女はのけぞり、天に向けて口を大きく開けると、恐ろしい金切り声をあげた。

と、それに反応して、山の向こうから雲が押し寄せてきた。

違う……あれは……。

 しばらく眺めていてようやく分かる。最初、雲だと思ったそれは竜の軍勢だった。

うーわー。いっぱいだー。

 君はミネバを見返す。

ミネバはやってくる大軍を見据えたまま、答えた。

……私に任せて下さい。

 すぐに周りは竜だらけになる。だがミネバの顔に宿る自信と誇りに曇りはなかった。

アニマ、周囲の竜力を集めなさい。それを私に。

 ミネバの言いつけ通りに、周囲の竜力と同調を始めるアニマ。

あの時、心のどこかで、私はアニマを拒否していた。

己の研錯以外で得た力など……。心のどこかでそんな気持ちがあった。

ですが……いまは違うッ!

いくよー。

 膨大な竜力を蓄えたアニマがミネバに寄りそう。

全ての者と力を合わせる。それはかつてあなたが教えてくれたことッ!

 ふたつの個体が、雷流と火流が、交じり合い、ひとつとなった。

いま私は、それを知っています……。

リティカさん!白霊竜の力で障壁を。

竜たちを追い出すんですね?

 ミネバは不敵に笑う。

違います、閉じ込めるんです。皆さんは障壁の外に。

 リティカが竜の大群の外側に巨大な障壁を張る。見計らい、ミネバが詠唱を始めた。

王たる者の杯は、満つるを知らず干るもなし!もって汝の耐えうる道理……

 ー瞬、君にはミネバとアニマの姿が重なって見えた。

なァしッ!

 巨大な雷の奔流が何条もミネバから伸びてゆく。障壁に閉じ込められた竜たちは逃げ場もなく、焼き殺されていく。

おっそろしい威力にゃ……。

さあ、いまのうちに!

 君はすぐに城に向かって駆けだす。数歩進んだところで、背後に冷たい感触を覚える。

お前から死ね。

 反射的に魔法を放つ体勢を取るが、自分でもわかる。

間に合わない……。

うぉぉぉああッ!

 頭上から聞こえる声が、君の背中のすぐに近くに落ちた。

グぅ……ッ!

行け、魔法使い。

 イケルは、思わぬ攻撃を喰らい、狼狽している女に向かって、言い捨てる。

お前の相手はこの俺だ……。そうだろ、魔竜ディルクーザ!

貴様、その名を……。

 君はイケルに任せて、その場を後にする。

さあ!悪しき竜どもよ!覚悟しなさいッ!


はあ……はあ……。

最初の勢いはどうしたぁ?

(体が鈍い。勁くごとに軋むようだ。激痛で意識が腺腫とする。

いっそ倒れてしまったら、どんなに楽だろうか)

 剣を支えにして、まともに戦えば、勝算もない。よろける体を持ち直す。いまの自分に万にーつ勝算もない。

(それなら何か方法を考えろ!戦いはただの力のぶつかり合いではない)

 ふと、アデレードはあの中庭の出来事を思い出す。

アニマが集めた竜力をミネバに流していたあの光景を。

そうだ。あの時、私は何かに気づきかけた。

 だが疲労と痛みが頭を掻き乱す。これではなににも集中できない。

そんな時、苦しい修行の時。アデレードはいつもひとつの法則を信じることにしていた。

逃げなかったのを後悔しているか?もう誰もお前を助けに来ないぞ?

よかったなぁ。なぶり殺しにしてやるぞ。

 敵が竜力を高める。周囲の空気が震える。

肌で感じるほど、竜力がその場に満ち満ちていく。

まずは足の腱を斬り、動けなくする。その次は腕だ……。死ぬほど痛いぞぉ……。

 敵の竜力が牙を剥く。

アデレードに殺意とー緒に強烈な竜力が飛んでくる。

それが。

な、に……ッ!

 敵の肩口をかすめた。

俺の竜力を使いやがった……。

ヒュー……。コツは掴んだ。

 苦しい時はいつも、アデレードは体に自らの意思をゆだねた。

戦士として本能に身を任せた。


 ***


 君は王の間に駆け付ける。

同時に、城全体を揺るがす程の衝突音が鳴り響く。

見ると、アデレードとガンボが正面から激突し、つばぜり合いでお互いー歩も譲らない構えであった。

ぬああああああああ!

ぐうぉぉおおお!l

 徐々にアデレードが押し込まれている。

(クソッ……竜力が足りん)

 君はガンボに向けて、魔法を放つ。

チイッ!

 魔法の弾丸をかわし、アデレードから距離を取るガンボ。

もうひとり……「人」が来たかぁ……。

 さげすむような口調と邪悪な笑い。自分の知っているガンポではなかった。

手を出すなッ、魔法使いッ!

 そうはいかない、と君は冷静に答えた。イニューに助けろと頼まれた。と付け加える。

手伝ってもらえよ、ひとりじゃ敵わないんだ。

お前ら、「人」は束になったって竜人には敵わない。

どんなに努力しても竜力なしじゃ限界がある。

俺は竜力を持っている。お前らはない。

最初から決まってんだよ。どっちが強いかはなあ。

 嬉しそうにガンボが目を細め、大口を開ける。その口に、

あぐがあッ!

 君は魔法の光球をぶちこむ。

この世界は「力こそ全て」だと聞いたにゃ。その割にお前はずいぷんとおしゃべりにゃ。

ごちゃごちゃ言わずに、どっちが強いか決めればいいにゃ。

 ガンボはのけぞった体を起こし、口にくわえた魔法の光球を噛み砕いた。

後悔するなよぉ。

 アデレードが君に囁く。

奴が最大の竜力で攻撃してくるように、仕向けてくれ。

その竜力を、私がそのまま奴に叩き込む。

 竜力を弾き返せるの?と君は聞き返す。

いや、違う。周囲の竜力を使うことが出来るだけだ。

 そうか……。と君は独り言のように呟く。

そして、魔法で城壁をぶち抜いた。

それなら外に出よう。外は竜だらけだ。と君はアデレードに言った。

アデレードはすぐに君の真意を察する。

そういうことか。行こう。


 空は荒れ狂い、竜の咆陣がそこかしこから聞こえる。

もうここも終わりだなあ。

 遊び場所をひとつ失った。その程度の感慨しかないようだった。

お前らを殺して、終わりだ。

 その体から激しい魔力、あるいは竜力が奔出する。

魔法使い、時間を稼いでくれ。ここの力を集め、私の力にする。

 君は同意をして、ガンボに相対する構えを取った。

まだこの力は完成していないんだ……。


 ***


 乱戦の隙を突き、君はガンボに強烈なー撃をくわえた。

やったにゃ?

だがガンボを覆っていた砂埃が十字に裂かれる。

何がやった、だぁ。

しぶといにゃ。

 君はちらりと背後のアデレードを見た。

アデレードは世界と切り離されたように、穏やかな顔で瞑目していた。

瞳を閉じ、皮膚で風を感じ、陽を感じ、空気を感じ、竜力を感じていた。

ゾラスヴィルク……。

お前が与えた竜力が私をここに導いた。

「人」でありながら「竜」の力を持つ者として。

悩み、苦しみ……。そして、何かが見えそうだ。

ゾラスヴィルク、教えてくれ。

私の生き方を……!

 いつかのように竜は、答えない。

だが、竜力は意思を持ったかのように、アデレードの周囲へと集まってくる。

力の流れがアデレードの体にまとわりつき、鎧が軋み、溶け、変形する。

「竜」としての「人」である竜人ではなく、「人」としての「竜」のあるべき姿へと、鋼はアデレードの体を覆っていく。

アデレードの瞳は、再び戦いを睨みつける。

小賢しいことすんなぁ。

そんなもので身を固めた所で、人が竜にはなれるわけじゃねえ。

ただの誤魔化しだ……。

 ガンボは、まるで人への呪いのように、その言葉をアデレードヘぶつけた。

静けさが風のように両者の間を吹き抜けると、アデレードは言い放つ。

「人」で何が悪いッ!

 反駁する余地もない、完全無欠の言葉を。

「人」であり、「竜」でもある!それが私の力だッ!

 君は感覚的にアデレードの前方から離れた。

その正しさを裏付けるように、アデレードが猛スピードで君の横を通り過ぎていく。

ぬうぉおおおッ!

 迎え撃つガンボは両手の巨大双刀を前に突き出し、アデレードの突撃に合わせた。

無駄だあああッ!

 首元に迫る双刀の切っ先を、右の裏拳で払い、粉々に砕いた。

拳の勢いを活かし、アデレードはガンボの懐で回転する。

先に行く右拳が左に握られた剣と合流する。

喰らえぇぇええッ!

両手で掘られた剣はそのまま回転力を加え。最短の軌道を描き、ガンボに叩きつけられる。

砕け散れえええええッ!

おぼおおおおあぁぁ……!

 アデレードの勝ちだ、君は思わずつぶやいた。

まだにゃ。

 ウィズの言葉が君を止める。

もはや抵抗することは出来ないだろうが、ガンボはまだ生きている。

それを見下ろす、アデレード。

アデレードは黙って、剣の切っ先を下ヘ――ガンボの喉元ヘ――向けた。

う、うううう……ち、ちくしょうぉぉぉッ!

こんなところでぇ!こんなところで死にたくねぇえ!

死にたくねえよおぉ……!

 アデレードはきっぱりと言い放った。

駄目だ。鈍い音をさせて、アデレードの剣が突き刺さる。

ピ、ピャア……、い、生きてるぅ?

 剣は、何もない地面に突き刺さっていた。

駄目だ。貴様が武人らしく、戦いの中で死ぬなど……。認めん。

にゃは。アデレードの“完全”勝利にゃ。

 そうだね、と君はウィズに相槌を打つ。

君はふと空を見上げる。

竜の軍勢は退却を始めるものや戦いを続けるものが混在して、その行動には秩序を欠いていた。

ミネバたちの戦いの方にも、何か動きがあったのかもしれない。

どうなっているのだろうか、と君はミネパたちの元へと続く暗雲を見つめた。



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貴様ぁぁッッ!その名を呼ぶなぁッ!

断る、ディルクーザ。

 黒猫の魔法使いが通り過ぎた後もなお、イケルと女の睨み合いは続いていた。

名前……?名前に何か意味があるの?

どうやらそうらしいな。

奴の竜力を与えられたイケルが言うのだから、間違いはないだろう。

 女を見据えながら、イケルは仲間たちに言い放つ。

こいつに傷をつけられるのは、こいつの本当の名を知っている者だけだ。

アレンティノになりすましたのも人の姿に見せかけているのも……。

すべて自分の魔法の条件なんだ。

制約をかけることでより強力な魔法を展開していたのですね。

こいつの竜力を与えられたことで、俺はその名を知ることができた。

普通ならログォーズとなり、言葉を失っていたが、生憎とそうならなかった。

死んでもらうぞ、ディルクーザ。哀れな王たちに、死んで詫びろ。

 歯噛みし、歪んだ顔で女は言い返した。

名を知ったくらいで何を勝ち誇るッ!

 イケルは罵声を涼しい顔でやり過ごし、女の心を見透かすように言った。

名を知られたくらいで、何を恐れる?

イ、イニュー……。

アマイヤさん、動いちゃだめです。

何かこう……ー発で効く景気の良いツボってのはないのかい?

戦うつもりですか?だ、ダメですッ!その体ではとても……ッ!

その様子だと、あるんだね……。後のことは構わないからブスッとやってくれ。

あたしだって、あいつにー発入れないと、気が済まないんだよ……。頼む……。

……。


さあ、始めましょう。魔竜ディルクーザ。

ミネバァァァッ、その名を口に出すなぁぁッ!

ならば力を以って、黙らせてみなさいッ!


 ***


でぇりゃああああッ!

 振り下ろされた斧が女の体に深い傷を刻む。

ぐぅッ!

観念しなさい。

 頭上にはミネバ、左右にはリティカとサバールがいた。

思わず後ろに下がるが……。

あんたも逃げるのが得意かい?考えることはお見通しだよん。

 女はだらりと手を下ろし、構えを解いた。

何をしている……。お前はー筋縄でいくような奴じゃない。

その通りよ。

 途端、女の体が明滅を始め、光が収斂する。

こうなったら、お前たちを道連れにするわ。

みんな、下がってッ!!

 リティカが女を白霊竜の障壁で包む。それでも強烈な爆発は障壁を突き破り、周囲の全てを吹き飛ばす。


……ディルクーザはどうなりましたかッ!?

いない……。

 見ると、女がいたはずの場所には、底の見えないほどの大穴が空いていた。

死んだの……?

調べてみよう。


 ー同は周囲をくまなく調べてみたが、女の姿は見当たらない。

それどころか女が死んだという証拠すらなかった。

全てを終えて、

逃げたな。

あの状況でですか?どうやって?

あの体も偽物だったのだろう。だから惜しげもなく捨てた。

あいつの本性は偽ることにある。俺にはわかる。

では、本物がどこかにあるのですね。

 イケルは静かに頷いた。


 翌日。

まだ戦火は煽り続けていたが、ひとまず休息を取ることが先決だった。

というよりも――。

休息せざるを得なかった。

あぐぐ……。イニューもう少し優しくできないのか?

出来ない。

だめって言ったのに戦ったのはアディちゃんでしょ。

優しくなんてしてあげない。

 元々、身体を壊していた分、アデレードの疲労はかなりのものだった。

しばらくは起き上がるのも大変そうである。

残念だったねえ、アディちゃん。なんならあたしが優しくしてあげようか?

 ちなみに彼女もひとりで起き上がれそうにもない。

なんでこいつの隣なんだ。

そんなこと言わないでよ、アディちゃん。仲良くしようよ、アディちゃん。

 さらに隣のベッドのミーレンが笑う。

ふふふ、賑やかで楽しい療養になりそうです。

 さらに隣のベッドのミーレンが笑う。

そうだな。

 イケルも同意の笑いを浮かべた。

いまは体を休めておいてください。

すぐに魔竜ディルクーザの討伐に向かわなければいけませんから。

残念ながらディルクーザを取り逃がしてしまった。すまない。

それなら安心しなよ。魔竜のことなら仲間に知らせた。

応援の戦士たちもこちらに向かっているって話だよ。

 その話を聞き、君は近いうちに行われる魔竜討伐への戦意を高める。

やれやれ、帰るのはもう少し後になりそうにゃ。





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