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【黒ウィズ】覇眼戦線2 Story2

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作成者: にゃん
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目次


Story3 敵を打ち倒すため

Story4 右眼の覇眼




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story3 敵を打ち倒すため



 グラン・ファランクス騎士団が撤退する音が聞こえ、やがて遠ざかっていく。

戦場は見るも無残なもので、ゲルデハイラが廃村であったと言っていたが、かつて人が住んでいた面影すらない。


ふん、情けないわね、ルドヴィカ。

グラン・ファランクスが、漆黒の兵団に手を焼いているのは確かじゃが、困ったことになった。

どうしたの?いい気味じゃない。

逃げられては追いつくのも容易ではない。

なにせ統率のとれた騎士団じゃからの。うちのような傭兵団じゃ限界もあろう。

何言ってんのよ、ゲルデハイラ。追いつくに決まってるじゃない。絶対に。

いい?お前たち。グラン・ファランクスは逃さないわよ!追いつき打ち倒すまで前進しなさい!

無茶を言うな、うちの指揮官は……。

 君には気がかりがあった。


……漆黒の兵団のことを考えてるにゃ?

ゲルデハイラをして、不気味と言わせる集団。

生きたものではない走狗や異形が、覇眼を狙っている……ということだけは、どうやらわかっているようだった。

…………。

ジミーが君の肩に手を置いた。

死の気配を残しながら、グラン・ファランクスを追う兵団……やっぱり気になるにゃ。

その意図を察したのか、ウィズが言った。


何を弱気な顔をしてんのよ、魔法使い。

グラン・ファランクスに追いついて、ルドヴィカをぶん殴る。

こんだけ目的が明確化されているんだから、あとはわかるわね?

 漆黒の兵団を倒しながら進むということ。

だがグラン・ファランクスは強い。追いついたからといって、果たして勝てるのか。

なに心配は不要じゃ、魔法使い。

そ。グラン・ファランクスは敵なしと言われるほど強いけど……。

あんたがいない間、私たちがただ黙って指を咥えながら見てるだけだと思ってたわけ?

 先の戦闘を見ても、十分理解していた。

そう、君たちがこの異界から去り、再び戻ってくるまでの間に、彼女たちも大きく成長していた。

たとえ名を轟かせる怪物が相手だろうと、引けをとらないほどに。

今度こそ――見てなさい、ルドヴィカ。

リヴェータの持つ覇眼が、煌々と力強さを宿している。


 ***


指揮杖を持ち上げたリヴェータが、先を促す。

蹄の跡が、グラン・ファランクスが近いことを示していた。

もう背中が見えてくることだろう。

届くわよ、ルドヴィカ……ッ!!

 ゲルデハイラと共に獣に乗った君は、一抹の不安を抱いていた。

覇眼という力。ルドヴィカが持つ眼。あれは人が持っていていいものではない、と。

煌眼という力があるとはいえ、やはりルドヴィカと正面からぶつかるのは、あまりにもリスクが大きい。

進みなさい!あの連中に届くまで!

リヴェータが軍の士気を高めていく。

その最中――。


何の音じゃ?

君の不安を膨れ上がらせるような轟音が、背後から不意に訪れた。

『敵軍だッ!!』と叫んだのは誰だったか、

それらはハーツ・オブ・クイーンの兵を蹴散らし、一点を狙ってきていた。

大地をどよもして迫り来るは、軍勢。

闇をつき、圧倒的な物量で押し寄せる敵は、間違いなくリヴェータを狙っている。


退け、リヴェータ!奴らはお前を狙ってる!

だったら退けるわけないじゃない!正面から迎え撃ってやるわ!

……激情的すぎるのう。

君も同じことを思ったが、指揮官が道を示したのなら、従わない訳にはいかない。

魔法使いも、わかってきた。

 そう、ここで従わなければ、隊列を乱すことになり、士気に影響を与えかねない。

どんな問題を孕んでいるにしろ、リヴェータが戦うと言った以上、退くことは許されない。


おォ、いるではないかッ!我らの狙いが!

 鎧に身を包んだ巨躯が、先頭にいた。

ハーツ・オブ・クイーンの兵を散らしながら、傲然と速度を増し、ここへ突っ込んでくる。

グラン・ファランクスと衝突する前に、戦力を削っておけ、との命令を受けてなッ!

さァ、益荒男たちよ!狙いはハーツ・オブ・クイーン、女が率いるたかが傭兵だ!蹂躙するぞッ!

 喊声をあげて、怒涛の如く襲いかかってきた。

異様なまでに統率の取れた動き、立ちはだかるかのように前方からも軍が現れる。

間違いなく、待ち伏せされていたと考えていい。

雇い主からは殺すなと言われちゃいるが、その速さは見過ごせん!

足の一本はもらっていくぞ、イレの娘よッ!

 お腹に響くような声で、男は言う。

はぁ……あのさ、馬鹿を相手にする暇なんてないってのに。

雑魚は疾く失せろ! 向かってくるなら――死を以って遇してやろう!

暇はない……だけど、私の前に立ちはだかるなら全部踏み漬す!

足の一本?そんなにほしいなら、あんたの首が落ちる前にとってみなさい!

 哮り立つ声が轟いて、ハーツ・オブ・クイーンと敵軍が激突する。

砲弾が落ち、剣が交わり、無数の蹄が音を立てる。

怒号のような音が、君の体に熱を宿す。


さあ、攻めるぞ――我らがゲーのために!!

行くわよ、魔法使いッ!馬鹿でかい鎧なんて壊してやるわ!


 ***

 BOSS:メンジャル

 ***


ちィッ……なんて力だ……ッ!

話にならないわね。何よ、あんた。

リヴェータたちと共に、男を打ち倒した君は、大きく息を吐いた。

軍の統率力はともかく、単体ではそう強い相手ではなかった。

奇襲をかけられなければ、相手にすらならない。

キミ、疲れてないかにゃ?

 君は大丈夫、と返答する。


女だてらに見上げた奴だ……覇眼はこれほどまでに強大なのか……。

見たところ、ルドヴィカとは無関係でしょ、あんた。何をしに来たわけ?

……俺は、ゲーに遣わされただけだ。目的なんか知らん。

……よりによって、その名前を聞くことになるとはの。

 ゲルデハイラが眉をひそめる。

カンナブルには、イレ、ロア、ルガ、スア、ゲー、ラド、これらが覇眼持ちとして名が知られておった。

 覇眼を持つ者たち……。

没落し、怪物だけが息を潜めるラド。和を尊び、多くの信頼を集めるスア。

そしてあの反乱によって崩壊したカンナブルで、特異な立ち位置を守り続けてきたゲーの一族。

かのイレの当主でさえ、忌避していた右眼の覇眼……。

私たちがキルベインを倒したから、行動を起こしたってことかしら。

ふふ、楽しくなってきたわね。

…………。

 ジミーがかぶりを振る。面倒が増えた、と言いたいようだ。

詳細は知らん。俺はゲーの剣。それだけだ。

ふん、何が剣よ。自分で姿を見せない臆病者の剣なんて、たかが知れてるわよ。


 だけど「グラン・ファランクスと衝突する前に、戦力を削っておけというのは、少し気になる。

何故、そんな命令をするのか?――疑問は払拭されない。




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story4 右眼の覇眼



 燃え盛る村から、強い死の匂いを感じる。

轟々と音を立て崩れ落ちる家屋。もはや呼吸すらしていない者たち。

だがこの死の匂いは、別のところから発せられていた。

進むたび空気の重みが増し、息苦しささえ覚える。


……なんだあいつは?

 大剣を背負う女と、そしてそれに背を向けて走り出す奇っ怪な影。

逃げた者は、フードで顔が隠れていた。

見えたのは黒猫を抱えていたところだけ。

魔法を使ったな……亜人か?

む。同種の匂いはしないな。アレは、別のものだ。

別もの?馬鹿言え。亜人以外に魔法が使えるか。

馬鹿はお前だ、アシュタル。現に使ってたじゃないか、あいつが。

 常識なんて容易に覆される。

争いの最中に身を役じれば、誰だってわかることだ。

だが運がいい。

……アレとやるのか?

 右眼に陥を宿す女性がひとり、こちらの殺気に気づいたようだ。

……右眼の覇眼。

…………。

……あんたのことは、よく知っている。

 アシュタルがにやりと笑う。

数百年前の――亡霊だ。

私を知る者………

ああ……あんたは、ギンガ・カノン、原初の眼を持つ者だ。そうだろう?

 結果的に、見知らぬ魔法使いらしき者を逃がすため、立ちはだかる形になった。

“だがまあ、いいか。これのほうが都合がいい”

カノンを殺せば、覇眼の呪いは広がらないんだろ。

……殺しさえすれば、な。

 構えた剣の切っ先が、カノンの首へと向いている。

大剣を携えたカノンは、ただ無言でアシュタルを睥睨している。


アシュタル・ラドだ。あんたの名前、その口から聞かせてくれよ。

斬り合いでもまあ、それぐらいの礼儀は弁えるもんだ。

……カノン。ギンガ・カノン。それがお前たちを殺す者の名だ。

無論、覚える必要はない。

……大した自信だ。俺を殺せると思ってやがる。

おいアシュタル。あまり熱くなるな。

 初手は必ず相手より速く。――それはアシュタルの信条だ。

思考で相手を上回れ。より速く動き、確殺の距離を作るために。

殺すために重要なのは、思考の速度だ。

どこまでも加速しろ。右眼に炎を宿す、その女をぶっ殺すために。


***


おぉぉぉぉーーッッ!!

 アシュタルは力強く気を吐いた。

沸き立つ血潮が、喰らい甲斐のある敵を見て歓喜に震える。

初手を防がれたことを備え、十の策を巡らせ、それを受け切られたことを想定し、さらに数百の手を考慮する。

そうして振り下ろされた剣が、カノンの首を斬り落とした。――はずだった。

ちィッ……!!

 手弱女とも呼べるほどの白肌に、剣が沈み込む感触があった。

退け、アシュタルーー!!

 炎を照り返し、まるで血を宿したような巨剣がアシュタルヘと迫る。

ぐうッ……!?

正面から受け止めるも、その勢いを削ぐことはできず、アシュタルは吹き飛ばされてしまう。

アシュタル……っ!?


……ボケが、何してくれてやがる。

 アシュタルは剣を支えに立ち上がる。

撤退だ!逃げろ、アシュタル!

なに問題ない。この程度なら殺せる。

 その闘志を、眇めるかのような眼差しで受け流したカノンは、息をひとつ吐いた。


強いな、お前は。

大して嬉しくないよ、化け物。

 カノンは再び構えるアシュタルから目を逸らす。剣を構えることすらしていない。

“強い”と称した相手を前にして、これだけ隙を見せるということは、既に彼を敵と認識していないということだ。

それはアシュタルにとって、何よりの屈辱であった。

強い相手とやるつもりはないんだ。殺さねばならない奴がいるから………

強いのをひとり殺るのは時間がかかる。それに“ひとり殺したところで”、あれは来ない。

 それだけを言い残して、カノンは歩き出す。


追撃し背を狙うなら、今が好機だ。お前の敵は、騎士道に奉じてなどいない。

隙を見せれば斬りつける。逃げるのなら背を追って叩き伏せる。

勝利を手放すのなら、ありがたく頂戴しよう。


だめ、アシュタル。

 ずるりと身を沈ませたアシュタルに、予期せぬ事態が訪れた。

私たちには目的がある。それは、ギンガ・カノンを殺すことではない。

すぐ熱くなるのはアシュタルの悪いところ。やるべきことを見失うのはよくない。

…………。

ああ、悪かったよ……。

10以上も離れた子どもに諭されるなんて、お前という男は………

 確かに、アシュタルは強い――セリアルはそう思った。

ほかの覇眼持ちなど相手にならないほどに。

死線を知っていて、殺すことを知っていて、恐れや不安、苦しみをも凌駕した。

あの首をとれる、と言ったのは偽りなき自信と、過ちを犯さない絶対の自負があったからだ。

だが、だからこそ……彼には踏み止まってもらわねばならない。

そうさな。手始めに、向こうに行ったルドヴィカを追おう。

あれからは死の匂いがした。




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