2020年11月13日
目次
Story1 破れた嘘
Story2 五年前
Story3 謎の男
Story4 兄妹で
story1 破れた嘘
「質問させてくれ、ヨナ。
お前はなんのために生きている?」
……ん……ぅん……
…………
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……夢……か……
……珍しいな。
……あの人が生きていたら…………今頃、きっと――
<レイガの率いる傭兵団の経営は、事実としてヨナの双肩にかかっている割合が大きい。
営業はレイガが主だが、経理などその他ー切についてはヨナがほぼ一人で仕切っている。
傭兵業界の競争は激しい。情報は金銭に代えがたい価値がある。
定期契約している新聞で、ヨナは今朝も世界情勢のチェックに余念がない。……と……>
――!?
***
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どうしたヨナ?そんなに血相を変えて……
兄さん!言ってたよね……あの人は死んだって……
…………
これはどういうこと!?答えて!
…………
……すまん。あいつの意志だった。死んだことにしてくれと。
決して――助けに来ようなどとは思わないでくれと。
なにそれ、約束?私には関係ない。
そうだ。お前や俺たちと、無関係だと証明するために、あいつは一人で行ったんだ。
…………
……全部教えて。なにがあったのか。
……わかった。まず――事実だ。
その新聞に書いてある通り、あいつは死んではいない。
アゾニオ島の監獄に囚われている。五年前の、あの時からずっと――
***
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――なんだ、お前は?
…………
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……クエスタ。
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story2 五年前
どこから来た?
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……ここはどこだ?
質問しているのはこっちだ。
俺はここで……何をしている?
……お前……記憶喪失、というやつか……?
…………
ここは安全じゃない。町へ行け。命は惜しいだろう。
生が意味を持つのも、記憶があるが故だ。
……なに?
記憶がない俺に命を惜しむ理由はない。惜しまない理由もないがな。
口は達者だな。記憶がない割には。
そういうものだと聞く。
<――不思議な男だった。普通、記憶がなければ怯えるのではないか?混乱するのではないか?
だが、男は冷静だった。澄んだ湖面のような色を帯びてこちらへ向けられる瞳には、有無を言わせぬ圧すらあった。>
お前はどうしてここに?
……仕事だ。傭兵をしている。
それは俺にもできるか?
無理だな。貴様のような得体の知れない男を傭兵団に置くことはできない。傭兵は信頼が第ーだ。
どうすれば信頼してもらえる?時間以外方法がないというなら諦めるが。
……何を言っている?
そこの木の爪痕はケラウノスのものだ。表皮に焦げあとが残っている。
!!
雷獣だ。この曇天で元気ー杯だろう。多くの場合三体以上で行動する。
っ!!
俺も戦おう。
素人は下がっていろ!
勝てたら素人ではないな?
貴様っ……!?
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背中は任せろ。
***
……どうして傭兵になりたいと?
なりたいわけじゃない。
じゃあなんだ?
お前はいい奴そうだ。拾ってくれるかもと思ってな。
くっ……!……はははは……!
本気か、それ?
本気だ。
わかった。俺が口を利いてやる。だが、傭兵団に入れるとは思わないでくれ。
みんなが俺のように、カンだけで人を信じたりはしないからな。
そうか。
客としてもてなそう。好きなだけいてくれ。
……感謝する。
<――あれは五年前のこと。お前が初陣を経験するより、ほんの少し前のことだったか――>
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story3 謎の男
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戦い方はどこで学んだの?
…………
魔獣の知識はどこで?
…………
……記憶喪失って本当なの?
…………
ヨナ。クエスタが困ってるだろ。
だって兄さんが、この人は強いって。だから色々聞いてるの。
だそうだが?
…………
……ふぅ……もういい――
……気負うな。
……え?
強さはーつだけじゃない。
……もったいつけて、言うのはそのありきたりな正論だけ?
…………
そのくらいにしておけ、ヨナ。メシにしよう。
<……実際、初陣前の私は、気が立っていたところもあったと思う。
あの人とは上手く話せなかった。傭兵でもないくせに先輩風を吹かせているみたいで、腹が立ったりもしてたと思う。
だけど――>
…………
お~う!飲んでるかあ~?
ああ。
明日はヨナの初陣だ!パーっとやろうぜなぁオイ!
<不思議とあの人の周りには人だかりができた。
傭兵団のみんなが、なんか、あの人のまわりでよく踊っていた気がする。なんか今思い出した。
……なんか、やたら踊っていた。
とにかく、それも含めて、私はその男のことを、気に入らなかった。けど――
――初陣から戻ってきた私に――>
それがお前の選んだ道だ。
まだほんのはじまりにすぎない。……負けるなよ。
……わかってる。
ああ。お前がわかっていることが、なにより大事なことだ。
……うん。
<そういう労い方をしたのは彼一人だけで。今日のことが、初陣での失態がー見透かされているのかも、とも思った。
でもそのときだけは、反発じゃなくて、安心を覚えた。
わかってくれる人がいる、そういう風に思えて。それと同時に――>
…………
<彼に歪んだ何かを感じた。>
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story4 兄妹で
――恩を返すため。かな。……今のところは。
そうか。
あなたはどうなの?
ない。だから――俺もそれにする。
――え?
「――クソ!しくじった!この俺様がこんなことで!!!
今日はまたずいぶんだな。何かあったのか?
……たいしたことじゃない。
…………
…………
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……はじめからキナ臭い依頼だと思っていた。
たしかに依頼主にとっては賞金首なのだろう。だが……国に帰れば、王族に連なる人間だという。
……それを殺めた。俺たちの仕業だと知れれば、こんな小さな傭兵団など……
…………
……仕方ない、な。
レイガ?
仲間たちを路頭に迷わせるわけにはいかない。
――俺一人でやった。そう言って出頭すれば、ヨナたちも……
やめろ。
他に手はない。ライネルに、この状況を乗り越えられる度量はないからな。だから、俺が……
初めて会ったときのことを、覚えているか?
……ああ。お前は、命を惜しむ理由などないと……
!!――まさか……!?
今は、違う。……お前を、ヨナたちを。この、傭兵団を。
大切に思えば思うほど……俺も、長く生きていたいと思う。
クエスタ……
だからこそ――
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――レイガ。お前には行かせない。
俺が罪をかぶる。
何を言うんだ!?お前は傭兵団の人間でもないじゃないか!
そうだ。傭兵でもない俺を、お前たちは温かく迎えてくれた。
……っ……!
気にやむ必要はない。拾った男が、恩を返すと言ってるだけだ。
それに……俺も満たされる。大切な場所を守れるのだからな……
<――あいつは本気だった。
過去のないあいつにとって、唯ーできた、守りたいもの――
それが、俺たちだったのだから……
――決意の固さを知り、俺は口をつぐんだ。>
さよならだ、レイガ。
「――罪を認めるのだな?」
「――はい――」
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…………
……ここが……
ぐぅ!?
ヒャハハハハア!『ここが』じゃねえだろ!
歓迎するぜ!仲良くやろうや、新入りィ!
…………
…………
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――俺とライネルは、あいつは仕事中のケガが元で命を落としたことにした。…
…クエスタは自首したんだ。罪をかぶり、一人で。
どうして言ってくれなかったの?
……ヨナ、お前まさか……
――仲間を犠牲にはしない。もう、誰一人――
ヨナ!クエスタの気持ちがわからないのか!あいつは俺たちを巻き込まないようにと――
五年前とは違う!損得でしか動かない、ライネルが率いていた頃とは!
いまならできる。彼を助けることが。それに、無実でしょ?
……危険だ。脱獄の手引きなど……
そうだね。だから、誰にも協力は頼まない。
おい、ヨナ!?
……兄さん以外。
っ!?
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力を貸して。私たち兄妹で――
仲間を助けよう?
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……っ……………………………………!!!
光焔シリーズ
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あらすじ
ある日ヨナは、死んだはずの仲間がまだ生きていたことを知る。
名はクエスタ。一時期傭兵団で世話をした、レイガの友であった。
クエスタを救出するため、ヨナは一人、監獄の奥へと潜り込む――
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