【黒ウィズ】リルム編(GP2020)Story
リルム・ロロット(cv.大和田仁美) エターナル・ロア(cv.細谷佳正) 超大雑把でちゃらんぽらんな魔道少女。 持っている〈魔杖エターナル・ロア〉にはぞんざいな態度をとる。 最近、これからは断捨離だと思っている。 |
開催日:2020/08/31 |
目次
story1 魔道「断]
我だ。魔杖エターナル・ロアだ。
我は今、とある家のー室から海を眺めている。
小娘は――今はいない。
魔道ベンチャーキャピタルとの会合があると外に行ってしまった。
「我も連れて行け」と言ったのだが、「わかった!」と威勢のいい返事だけして出ていったのだ。
というわけで置いていかれた我はなすすべもなく外を眺めている。
小娘は昼食時にちゃんと帰宅するタイプだ。時計を見るに、頃合いだろう。
小娘は、ソフィの家のー角を間借りしていた。
そこには山積みにされ今にも崩れそうなガラクタの山。
え?要するに何?捨てるのか?
つまりなんだ?小娘は、今まで溜め込んできたあれこれを捨てて――ミニマルな生活をしようとしているのか?
我には、間借りしている部屋の隅々までいらないものに見えるが……。
小娘がそうやって分別ある行動に出るというのなら、手伝うのもやぶさかで昧ない。
我は小娘に持ち上げられ、「いらないモノ」と書かれたダンボールの中に置かれた。
だいたい、あわよくばって何だ?使い方間違ってないか?
そんな我のことなんてお構いなしに服やら拾ってきた石やらじゃがいもやらをダンボールにぶち込んでいく。
ー個目のダンポールが満杯になったところで、我はおもむろに尋ねた。
不法投棄は魔道犯罪でしょ!
小娘が意外なことを言ったので、我は思わず聞き返してしまった。
モノも売れてお金も手に入ってー石二鳥だね。
魔道ネットワークは、どこぞの魔道災害が気まぐれで生み出し、爆発的に普及した通信システムのことらしい。
膨大な魔力を必要とすることなく使用でき何より家にいながら必要なものを注文したりできるとか、できないとか……。
我はよくわからなかった。時代に取り残されていた。
少しでも不必要なものを減らしていかないと。
我は慌てて重心を移動させ、ダンボール横にあった魔道エアスケボーに倒れ込んだ。
もちろん逃げるためである。
そもそも魔道ネットとやらは日に何百万、何千万の人間がアクセスするという。
そんなところに晒されたら、いよいよ売れてしまうかもしれない。
***
我は家出した。
着の身着のままで家出した。
こうして街中を歩いて――ではなく魔道エアスケボーで滑っていると、奇怪な目を向けられることが多々ある。
杖の身ではあるが、重心をずらすだけで左右に曲がることもできるし、意外に便利なアイテムだ。
だが誰も手を差し伸べてくれない。
全く何が魔道ネットだ。何がフリマサイトだ。
我、杖だけど。
小娘も小娘だ。
魔道ベンチャーキャピタルと怪しい会合を繰り返し、しまいには変なことを言い出して我を売ろうと――
情けない。泣けてくるではないか。
壁にもたれかかっていた我を見るなり――
近寄ってきて声をかけてきたのは――
***
メリィ・ミツボシに連れられ我は魔道士協会の地下に併設されている食堂を訪れていた。
目の前のお茶に手をつけるか悩んでいたが、杖の状態で飲めるわけがない。
我は返答に詰まった。
杖見知りをしないこの少女に話していいものか、話したとして、なんと言えばいいのか。
最近は魔法のトラブルも多いでしょう?それに加えてアリエッタさんが通った場所には色々あったりとか……。
エターナル・ロアさんは悪いことに巻き込まれたりしていませんか?
言いよどんだ我を見て、ミツボシが微笑んだ。
自衛ができるならともかく、そうではない人たちも多くいます。
魔道士協会は、そういう人たちを守り、より良い営みを送れるよう努力しなければなりません。
いずれは大魔道士に名を連ねることになるリルムさんもきっと情勢を慮り正しい行動をしてくれていることでしょう。
思わず口を滑らせた我。
そうだ。我がついていながら、日くありげな魔道ベンチャーキャピタルに引っかかってしまった。
これは我の不甲斐なさからくる失態ではないか。
――家出はするべきではなかった。
あの魔道シンジケートは、特に人集めに躍起になっているようですし、ちょうどいいかと――その後いかがですか?
悪いが用事を思い出してしまった。その話はまた今度でいいか。
story2 魔道「捨」
豊かさと便利さは、人を強欲にさせ、自らのキャパシティを狭めてしまう。それではよくない!
ものを持ちすぎれば、動きが鈍くなるでしょう。心にゆとりがなければ、思考が鈍るでしょう。
刻ー刻と変化していく情勢についていくために我々が必要とするのは、このゆとりです。余裕がなければ新たなものを取り込めない。
だからいいですか?皆さん。今すぐに不必要なものを捨て去ってください。それらは全て過去の産物です。
正しく未来を見据えるため、過去を捨て去ってください。あなた方はそれができる!
リルムは魔道社長の話を体育座りで聞いていた。
なるほど……とは言ったが、正直なところいまいちょく理解していない。
ここには今20のスタートアップ企業と、そして会合を開いた魔道社長がいた。
魔道ネットワークの爆発的な普及やハーネット商会の成功を見た若者たちが、ー大ドリームを掴むべく起業に踏み切る――
そんな時流が来ていた。
ここはそういった皆さんの交流の場――そして新たな才能を発掘し、投資する場でもあります!
我々は今、皆さんの力を借り、多くの事業に取り組みたいと考えています!
既にいくつかの投資会社と話が進んでおりますが皆さんの力添えがなければ成り立ちません!
より大きな成功を収めるため皆で力を合わせ頑張っていきましょう!
「やるぞ!」とか「成功するんだ!」という声が会場内に響き渡る。
リルムも息巻いていた。
ここらでいっちょバシッとした成果をあげようと気合を入れていた。
周囲がざわつく。
「またあいつか」「どこの女だ」「どこの金持ちを引っ掛けてきたんだ?」といった言葉が飛び交う。
事実、リルムは金に物を言わせてこの会合でも知名度を上げていった。
壇上に上がったリルムは、軽く手を上げる。
彼女を見上げる人々の感情は様々だが少なからずー歩先に行かれた――という漠然とした焦燥感を抱いていた。
ところで、リルムの隣に立つ、この魔道社長。
魔道犯罪前科9犯の極悪人である。
***
我はあまり手がかりを得られず、広場の真ん中で右往左往していた。
しかし困った。そもそもこの大きな都市だ。会合なんてそこかしこで聞かれている。
我としてもそう簡単に見つかるとは思っていなかったが……。
そういえばメリィ・ミツボシが魔道シンジケートの話をしていたな。
そこを手がかりに情報を集めれば、辿り着けたりしないだろうか?
***
他にも会社を集めて、何をしとるのやら。まあ、いい噂は聞かんな。
聞き込みを始めて2時間ほど経って、ようやく我はそれらしい情報を持った人物に接触することができた。
まあ若くて金がありそうな連中を集めるのが目的なんだろうよ。
この人物によると、最近、金集めと人集めをしている団体があるらしい。
集めた人を使い何をしようとしているのかあるいは集めるだけ集めて、金にならなくなればそこで切り離すつもりか……。
どちらにせよ、小娘はその怪しい連中に引っかかってしまったということだ。
我としても誠に遺憾である。
我というすこぶる優秀な魔杖がついていながら、よりにもよってそんな詐欺まがいの魔道犯罪者に騙されてしまうとは。
社会経験が少ない夢見る若者が格好の獲物なのだろう。
小娘に夢があるかは別として。
アホだアホだと思っていたが、何も良からぬ道に逸れなくてもいいではないか。
小娘が魔道犯罪の片棒をかつぐなど、無知がゆえに起こりうることかもしれんが……。
我がついていながらそれでは、魔杖の名折れである。
我はー言礼を言って、その場をあとにした。
story3 魔道「離」
我が事を他人に委ねている時点で奴らは成功とは程遠い人間だ。だから甘言に騙され、体のいい養分になる。
あの小娘も同様だ。わけもわからず金だけを持ってきて理解もできないまま利用される養分……。
ー定額を持ってきたら、百人だか千人の組手に付き合う……と。
だが魔道社長を見上げるリルムの目はもうやる気満々だった。
「やる」と答えた瞬間にぶん殴ってくる勢いである。
魔道社長は瞬時に考えを巡らせる。
オウムのように同じ言葉を繰り返す少女。
どこの金持ちだか知らないが、いい金づるだ。
こいつを逃す手はない。だが……。
勝負勝負と付きまとわれるのは面倒だ。それを考えると、ここらで叩き潰して新たな金づるを探すほうがいいのではないか?
おいお前ら出てこい!
どこに隠れていたのか、ぞろぞろと現れた魔道チンピラがリルムを取り囲む。
百人組手が終わったら、父さん驚くぞ。
***
我は小娘がいるらしい怪しい会合の場所へ滑っていた。
アホでも馬鹿でもいい。道を外しさえしなければ!
突然の爆発音に驚き、我は音がしたほうを見た。
魔道士の喧嘩なんて、ある意味日常茶飯事だが――
あたりを見回すと瓦篠の山があり、そこを取り囲むように野次馬が集まっていた。
とりあえず3は倒したかな!
どう見ても3人以上の魔道士が目を回しているが小娘はいったいどんな派手な喧嘩をしたのだ?
あ、でも魔道ネットワークでサイトを作るときに会社として登記しなくちゃいけなくて――
我、これからよくわからないサイト運営の代表取締役なの?
そう言って小娘は我を手に取る。
協会の人に聞いたら、ダメですって言われて。
ありがとう協会の人。
全く関心がなさそうな返事をした小娘は、我を見ることなく歩き出した。
道中、先日会ったメリィ・ミツボシとやらにすれ違った気がしたが、声はかけないことにした。
相手が気づいているかはわからないが、声をかければ面倒事になりそうだし、放っておいても片付けてくれるだろうからな。
あとは小娘が余計なことをしでかさないようしばらくは目を離さずにいようと、我は思った。
落ち着く……当分は無理だろうなと思いながら我は小娘に揺られるのだった。
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