【黒ウィズ】訣別のクロニクル Story
2014/12/29
目次
Story1 ・
プロローグ
ある日の午後。君の元にバロンがやってきた。
「ちょっと面白いものを見つけてな。これをお前に持って来たんだ。」
バロンはそう言うと、君に分厚い本を手渡した。
かなり古いものらしく、表紙にはたっぷりと埃が積もっている。
「くしゅんっ!」
手渡された拍子に宙に舞った埃を吸い込んだのか、ウィズが大きなクシャミをした。
「はっはっは!猫もクシャミをするんだな。」
「ふにゃぁ。」
「まぁいい。魔法使いとして過去の歴史を学んでおくのもいいんじゃないか?」
そう言うと、バロンはその場を去っていく。
「ずいぶん古い歴史書だにゃ。」
君の開いた歴史書を覗きこむウィズ。
「フムフム……神界について書かれてるにゃ。」
ウィズと共に君はその歴史書を読み始める。
『かつて存在していた神々の統べる7異界を内包した大異界、神界は天界の聖王イアデルの崩御により、終焉へと向かう。
聖王にはミカエラとイザークという双子がいたが、王座を継いだのは姉、ミカエラであった。
弟イザークは自身が王になれない事を知ると、自ら魔界へと堕天し、魔界の王となった。
この愚かな天界の王子が神界を崩壊させたのである……』
「んにゃ!?」
開かれたページに書かれている文字が消えていき、白紙になったページが眩い光を放つ。
「……歴史が一つとは……、限らない……。」
光の中から聞こえてくる謎の声。そして光は君とウィズを包み込んでいく。
眩い光の中で、君は天使の姿を見る。
「それに、目の前の事実が、常に真実であるとは限らない。
私はプリュム……神界の天使。あなたのその眼で、真実を見つけなさい。」
そして君たちは、光の中を落ちていく……。
story1 天界の双子
「ちょっと、君。ねえ起きてよ。もしもーし。」
<光の中で見た天使の姿を探す君の目に飛びこんできたのは、>
そのお尻の下の本、渡してくれる。あと猫ちゃんも踏んでるわよ。
ふにゃー。
<倒れた体の下から、ウィズが苦しそうな声を上げながら這い出てくる。>
師匠の上に落ちるなんてひどい弟子にゃ。
<仕方ないじゃないか。突然のことだったんだから……。>
あら可愛い。喋れるのね、この猫さん。
<気付くともう一人、少女が立っている。>
メッちゃん。ちゃんと自己紹介しなきゃ。私は……。
私、メティース。こっちがイストワーレ。
もおー。私が言おうと思ったに……。
そんな事より本!
<ぶっきらぼうに左手を差し出すメティースに君は足元の本を手渡す。
先ほどまで読んでいた古い本は、なぜか見違えるように新しくなっている。>
あー、やっぱ消えちゃってるよぉ。
あれ……なんか新しく書かれてなぁい?
うっわ。マジで?
『若き王女ミカエラはある日、魔族の怒りを買いその命を落とした……。』
んにゃ?私たちが読んだ内容と違うにゃ!
<確かに、先ほどまで読んでいた内容とは違う内容に書き変わっているようだ。
何かがおかしい。そう思った矢先、目の前に魔物の群れが現れた。>
ここ天界でしょ?なんで魔物がいんのよー?
<天界?>
まあ、正確に言えば神界の中にある天界という異界と言いますか……。
そんなこと今いいから!とにかくミカエラ様を探さなきゃ……。
<メティースはそうイストワーレを遮ると、>
君、ちょっと手伝って!
<全く状況の分からぬまま、君はカードに魔力を込めた。>
***
先を急ぐ二人を追いかけていく君たち。
その先で美しい天使が魔物に囲まれている。>
ミカエラ様よ!
イザーク……。
<ミカエラは道沿いの石垣に腰かけている男の天使に助けを求めているようだ。>
……そんな奴ら、姉さん一人でやれるだろ。
<イザークと呼ばれた天使はそう言うだけで手を貸そうとしない。>
ちょ、ちょっと君、何とかしてよ!
<メティースが乱暴に君の背中を押す。
わかっている。目の前で困っている人を見殺しになんてできない。
その想いと共に、君が再びカードに魔力を込めた時、>
グゥオオオオッッ!
<突然、何者かが凄まじい怒号と供に猛スピードで突っ込んでくる。>
気を付けるにゃ。これまでの相手とは桁違いの覇気を感じるにゃ。
<激戦の予感にカードを握る手が汗ばむ。>
***
グハッ――ゴホッ、ゴホッ。我も老いたわ……。
<君が最初に感じた予感に反し、目の前の相手はあまりにあっけなく膝をついた。>
しかし、まだ終わらせはせんぞ。我が身に代えてもこの子らは守って――
<男はミカエラとイザークを背にし、再び君の前に立ちはだかった。>
お待ちください、イアデル様ッ!
ク、クロノワ先輩っ!
あ、どうしようメッちゃん……怒られるよぉ。
<メティースはクロノワに駆け寄り、周りに聞かれないように耳打ちをする。>
歴史書は見つけたんですけど、何か猫とかに邪魔されちゃって――
たく、お前ら本当ダメだなッ。
<彼はそういうとイアデルと呼ばれた男に振り返り、>
イアデル様、この者達は私とともに旅をしている神官でございます。
メティースと申します。こちらは魔法使いの――
<と、メティースが君の脇腹を肘でつつく。君は慌てて旅の魔法使いだと自己紹介をする。>
お父様、この方たちが助けてくれたのです。
なんと!
我はこの天界の聖王、イアデルと申す。
<これが天界の王……。君たちはその威厳に満ちた存在感に圧倒される。>
この子らを狙って魔族どもがやってくると、クロノワ殿に聞いたゆえ……。
こうして出向いたのじゃが、見事に返り討ちにあった様じゃ。ガッハッハ。
<豪快に笑い飛ばすイアデル。よかった、どうやら怒ってはいないらしい。>
しかし誤解とはいえ、子供らの恩人に対して刃を向けた非礼、何卒お許し頂きたい。
<それどころか、深々と頭を下げる王の姿に君は驚く。>
しかし、この様な窮地にあの高名な『黒猫の魔法使い』殿にお会い出来るとは。
なに?この者はそれほど有名なのか?どうりで手強いはずじゃ。
<君はクロノワの言葉に耳を疑う。紛れ込んだ異界の住人が君たちの事を知っているはずはない。>
この神官、どうやら別の時代、別の異界から来てるみたいだにゃ。
<ウィズの囁きに君は黙って頷く。>
どうじゃ、旅の者。我が宮殿でしばし休まれては?
<こうして君たちは天界の王の宮殿に招かれる事になった。>
<その晩、君とウィズの休む部屋にクロノワ達がやって来た。
これから話す内容は絶対に他言無用、という前置きをして、クロノワは話を始めた。>
先ほどは旅の神官と名乗りましたが、我々は歴史を司る神殿に仕える神官でして……。
<歴史を司る?>
はい。
つまりね、私達はありとあらゆる全ての出来事を記録してるのよ……この本に。
<そう言ってメティースは君の持っていた本を見せる。>
全ての出来事を記録?そんな事絶対無理にゃ。
それがですねぇ、こんなカンジの神獣がおりまして……。
あ、名前は『トート』で、可愛いんですけど実はすごく偉くて、何でかというと……。
とにかく!
<全く要領を得ない説明にしびれを切らし、メティースが割って入る。>
トートはあらゆる生物の記憶を蓄積するのね。そんでそれを私達神官が……。
この『歴史の原本』に記録していくのです。トートの記憶とこの本は繋がっておりまして。
なんですけどぉ、そのトートが逃げちゃって、メッちゃんが飼育係だったんですけど……。
何よ!私が全部わるいわけ?だいたいあんたがねぇ……。
ダーッ!お前らちょっと黙っとけよ!これ先輩命令な!先輩の言う事は?
……ぜったーい。
でーす……。
よろしい。
<二人を黙らせたクロノワは説明を続ける。
どうやらその神獣がいなくなった事で、歴史の原本の内容が変わってしまった、という事らしい。>
歴史の原本が書き変わるという事は、過去が変わる事と同義なのです。
<つまり、誰かが歴史を変えようとしている?>
ええ。おそらく、トートを手に入れたのは魔界の者だと思われます。
<改ざんされた歴史の内容からみて、それは間違いないだろう。>
私はこれから魔界へ行き、トートを探して来ようと思います。
そこで、あなたとウィズ殿にお願いが……。
私が魔界へ赴いている間、この宮殿を魔界の者から守っては頂けないでしょうか。
本来であれば、この二人がすべき事なのですが……。
……。
……。
たく……。
分かったにゃ。どうせ私たちもこのままじゃ帰れないしにゃ。
有難うございます。ほら、お前たちもちゃんとお礼を……。
<メティースとイストワーレは無言のまま、何かを訴えかける様に見つめている。>
……ああ、いいよ。喋ってよし。
<二人はほっとした様に口を開き、>
よろしく。
おねがいしまーす!
<どうやら先輩の命令は本当に絶対らしい。
こうして君たちは、すこし頼りない神官二人と一緒に、天界に滞在する事になった。>
story
これが侍従長のアクサナじゃ。
<イアデルはそう君たちに優しそうな天使を紹介する。>
よろしくお願いいたします。王宮の一日は、イアデル様のご講義にはじまります。
<王宮に滞在する事となった君たちは、ミカエラたちと一日を共にする事になった。>
考えてみたら、神様の話を直接聞けるなんて凄い事だにゃ。
<君もそう思う。信仰の対象として人々の心に安らぎを与える神の意志。
それは普段、神官や僧侶の言葉を借りて聞く事しか出来ない。>
どうせまたおんなじ話だろ。それより戦い方を教えて欲しいよ。
きっとそれだけ大切なことだから何度も話されるのよ。
私は戦い方なんかよりよっぽど為になると思うけどな。
なんだか対照的な二人にゃ。
お静かに!ご講義が始まりますよ。
<イアデルは演壇の上に大きな天秤を置き、>
よいか。万事においてもっとも重要なことは、均衡、バランスである。
この様に、双方の力が同じであれば、秤が傾くことはない。それは天下も同じ事……。
<イザークがため息交じりにイアデルの言葉を続ける。>
どちらか一方の力が勝ればたちどころに均衡は崩れ、民は乱れる。
ぜ、全部暗記してるにゃ……。
そんだけ同じ話聞かされてるってことだよそれよりお前、本当に強いのか?
おい!聞いているのか!まったくお前らはいつもいつも……。
ごめんなさい。
オヤジの話は退屈なんだよ。オレは強くなりたいんだ。
<そう言ってイザークは席を立ち、その場を去ろうとする。>
なんだかイザークは反抗期だにゃ。
<本当にそれだけだろうか?君はこの親子の関係にそれ以上の何かを感じた。>
イザーク様、お待ちください。
<険悪な雰囲気を打ち消すかのように、アクサナが口を開いた。>
如何でしょう?本日のご講義はこの位にして。
こちらの魔法使い様の実力を見せて頂く、というのは?
それは面白そうだな。それだったら見ててやるよ。
いいじゃろう。
さぁ、魔法使い様。急なお願いで申し訳ありませんが、お力を見せて頂けますでしょうか?
<と、アクサナは魔物を召喚し始めた。>
***
イヤッハー!お前ら、なかなかやるじゃねえか!
な、なに事にゃ?
<先ほどまで物腰柔らかだったアクサナの口調が突然荒くなった。
もしかして、魔族が正体をあらわしたのか?>
魔族だぁ?ザけた事言ってんじゃねーよただ昔の血が騒ぐだけさ。
<昔の血?アクサナのあまりの豹変ぶりにただ驚くだけの君たち。>
アクサナは元々、荒事専門の傭兵部隊を束ねておったのじゃ。ああなるともうワシでも……。
さぁお前たち、準備はいいか?たっぷり楽しませてくれぇ。
<どうやら君たちの戦いを見て、アクサナは興奮してしまったようだ!>
***
BOSS アクセナ
***
私としたことが、取り乱してしまって……。誠に申し訳ありません。
<戦いを終え、ようやくアクサナは正気を取り戻したようだ。>
なかなか過激な侍従長だにゃ……。
<その日の晩、クロノワが魔界から戻ってきた。>
思ったよりも簡単に取り戻せたよ、ほら。
<そう言って、クロノワは懐から奇妙な獣を取り出した。>
きゃー、トート!大丈夫?元気だった?
<と、メティースはその獣を抱きしめる。>
ほら、イストワーレ!トートだよ。トート!
うん。トートだね、トートだねぇ。
んーええ気持ち……。
てドアホ!
ちょ、お前ら二人そこに正座せい!
<トートはメティースとイストワーレを座らせるとコンコンと説教を始める。>
大体お前らワイの飼育係ちゃうんか?それを、ほったらかしにしよってからに!
これが記憶を蓄積する神獣なのかにゃ。
はい。これが神獣、トートです。見た目はこの通りですが、大変神聖な存在です。
せや!ワイは偉いねん。それをお前なぁ。
<と、今度はクロノワに食ってかかるトート。>
は、はぁ……。
ワイが魔界のネエちゃんとエー感じになったろ思てたトコを邪魔しょってからに!
ど……、どういう事にゃ?
魔界の使い魔にそそのかされていたところを私が助けたのです……。
<そこまで言って膝をつくクロノワ。見ると腕から血がにじんでいる。>
ホンマ、無理しよってからに……。
簡単に取り戻せた訳でもないみたいだにゃ。
でも、まあ。魔界から帰ってきたにしては……大した事ないでしょう?
<そう気丈に微笑んで見せるクロノワ。>
とにかく、後はトートから正しい記憶を取り出し、『歴史の原本』に書き込んでいけば……。
あとは私たちがやりますから、クロノワ先輩は神殿へ帰って休んでください。
そうか?じゃ、あとは頼んだぞ。
<そう言って、クロノワは何かの呪文を唱えると、君たちの前から消えていった。>
さてっと。仕事にかかりますか?
<そう腕まくりをして「歴史の原本」を開くメティース。本の中身はまだ白紙である。>
はーい。でもミカエラ様とイザーク様、結局別れちゃうんだよね。
<君の知る歴史では、確かにミカエラが天界の王位につくと同時にイザークは堕天する事になっている。>
まーいわゆる、家督争いちゅーやつやな。
……そうだ!今ならもっといい歴史を作れるんじゃないかしら?
どういうことにゃ?
この先の正史では、神界はやがて崩壊し、天界と魔界は長い長い戦争をするの。
つまり、ミカエラ様とイザーク様が戦うことになるんです。
でもそんなの誰も望まないはずよ。『歴史の原本』が白紙になった今ならきっと……。
<これからの歴史を変えることができる?>
そういうこと!
待て待て待て!
やっぱり、ダメですか?
そのミカエラ言うんは、どうなんや?べっぴんさんか?
そりゃ、もうスっごくお綺麗ですよ。
よっしゃ!いっちょやったろうやないか!
<確かに争いの歴史なんて誰も望んでない。君たちは、彼女たちと行動を共にする事にした。>