【黒ウィズ】Abyss Code 02 Story
2017/00/00 |
私は、闇の中でつぶやく。
「なぜ、私はこの世に生まれ出でたの?」
この世に生を受けてから、その疑問に苛まれ続けてきた。
世界には憎しみがはびこり、少しでも他者と違う部分を持つものを排除しようとする。
「始めから私の居場所は、どこにもなかった……。だったら、どうして私は生まれてきたの?
いくら考えても、答えは出ない。
だから、私はこの闇に閉じこもることにした。
「落ち着く……。」
暗闇に体を埋めた。
ここは、私だけの世界。闇に守られ、闇に支配されている……。
「自由も、権利も、欲望も捨て去った。
ここに来る代償として、私はなにもかも捨ててきた。」
だけど恐れや後悔はない。
この体に、生まれついて宿っている忌まわしき力――。
それを振るわずに済むのは、私にとって幸福だった。
「耳をふさげ、口を襟め、瞳を覆え……。」
冷たい闇は、私の全てを穏やかに包み込んでくれる。
私にこの世で唯―、安堵を与えてくれるのは、この闇だけなの。
「少し、眠ろうかな……。」
ここにいれば安全だから。
やすらぎに身を預けて、ただただ闇とひとつになるだけでいい。
「え? なに?」
しかし、私か闇に埋没するのを妨げようとするものがいる。
差し込む光の一刺しは、私の安寧を妨げる。
闇とー体化した私にとって、光は私の世界を突き刺す楔だ。
「闇に包まれた私を、輝ける地へ引きずり出そうとしているの?
やめて……。私は、ここいたいの……。
光のある場所へ……。引きずり出さないで!」
光の帯が、私の体を撫で回すように差し込んできた。
それだけで、全身が切り裂かれたように痛かった。
「光は、私の過去を掘り起こす……。」
忌まわしき呪いを宿し、生まれてから誰にも顧みられることなく、忌避され続けた私――。
この光は、惨めな私の人生を、もう一度振り返らせようとしている。
顔をあげて、光の先をみつめる。
人の形をした像が、視線の先にそびえていた。
「何者なの?」
「それ」は、輝ける像に過ぎなかった。
言葉を発することもなく、意思を宿しているわけでないことは、一目でわかった。
手に持った杖から、全てを照らし出すまばゆい光を放ち続けている。
地上の人間たちは、その光に吸い込まれるように、幽体のように歩いていく。
私には、すぐにわかった。
「あれは、不浄なもの……汚れたものだ……。」
一見輝かしく見える、あの杖から放たれる光。人々は、そこに希望を見出しているのだろう。
でも、あれはそんな優しいものではない。
あれこそ、この世から滅されるべきだろう。
人を惑わし、心を狂わせる……。優しげな仮面を被った俗悪なもの。
だが、誰もあの光を放つものが「醜い」ものだと気づいていない。
地上に住むか弱きものたちの敵だとは、思っていないのだ。
あのような禍々しいものがこの世にあるなんて……。
「え――?」
いつの間にか、私の目から熱いものがこぼれ落ちていた。
「涙? なぜ、どうして……?」
自分が泣いている理由がわからない。
「ひょっとして私は、救いを欲しがっていたの……?」
――迷えるものよ。光から目を背けることなかれ。
いけない。
私の心が、あの閃光に吸い込まれそうになっている。
私の安息を守るためには、あれを排除しなければ……。
忌まわしき力の使い道は、ここしかないのではないか。
スビェート――。
名前が、頭の中に入り込んできた。
次の瞬間。足が、体が、感情が……。
「それ」に吸い寄せられるように向かっていた。
私は、やはり救いを欲しがっていたのだ。
もう闇に抱かれることはできない。
体に光が入り込んでしまったのだから。
それでいい……と、誰かの声が私の中に入ってきたような気がした。
それは暖かい、声。
闇と光の境界に立つ私すらも肯定してくれる。
しかし、闇は私の裏切りを許さないだろう。
足を止めろ。まやかしに身を委ねるな……。
「あなたの放つ光ほど、醜悪なものはない。」
私はスビェートを見上げる。
これは……ただただ、眩く輝く光だ。
果てしなく醜い。
「このようなものを目にするぐらいなら……。
私は闇の中で生きることを望む。もし邪魔をするなら排除するのみ。」
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