【黒ウィズ】Abyss Code 04 Story
2016/01/30 |
光無く、寒く、貧しい世界があった。
まともな食物などロクにない、誰もが餓えを抱えている世界。
ニティアはその世界に生まれた。笑うのが好きな少女だった。
「えへへ。」
不思議なことに、彼女がいるだけで、人々の心は和んだ。
ニティアの前を通りかかると、人々は彼女の笑顔につられて、笑った。
「ほら、みんなも笑って。」
ただそれは、彼女の前でだけの話。その笑顔は、彼女の前を通り過ぎる頃には、消えた。
「…………。」
だからニティアは舞を覚えた。彼女が舞うと、人々はもう少しだけ長く笑っていられた。
「さあ、みんなも踊って、舞って、はしゃいで、騒いで!
この世界にはこんなに楽しいことが残っているんだよ!」
彼女は、自らの言葉とは裏腹に、舞えば舞うほど、人を喜ばせば喜ばすほど、
世界には、こんなにも楽しいことが残っていない、と思い知っていった。
それでもニティアは笑顔を絶やさなかった。そうするべきだと思ったからだ。
「さあ、さあ、まだまだお楽しみは始まったばかりだよ。」
笑い続け、舞い続けた。
すると人々はニティアを疎ましく思い始めた。
この世界の何が楽しいのか。
常に餓え、常に凍え、常に奪い合う。そんな世界の何が楽しいのか。
ぶ厚い夜に支配された世界の彼らには、ニティアの笑顔が眩かった。
眩し過ぎた。そしてニティアは黙殺された。
人々は、彼女の前を素通りするようになっていった。
だが、それでも彼女は舞い続けた。
「みんなー。ニティアの舞が始まるよ。踊って、騒げば、嫌な気分も吹き飛ぶよ!」
舞い続けながら、こう願った。
「どうか神様、この世界に光を下さい。
どうか神様、ここに住む人々の心を温めてください。」
すると、神が降りてきた。
踊り続ける彼女の心に、直接神が降りてきた。
「神様、あなたは私の願いを叶えてくれますか?」
最初の神は言った。
無理だ、私の力では不可能だ、と。
それでもニティアは舞い続けた。
神を自分の心に呼び込み、繋がり続けた。
「神様、私の願いを叶えてくれる神様。どうか私の声を聞き届けてください。」
何度か神と繋がった後、炎の神ラヒルメの名を教えてくれた神がいた。
「ラヒルメ……。その神様なら、この世界に光をもたらしてくれるのですか?」
その神は、ラヒルメなら容易いだろうと答えた。加えて、ニティアに問うた。
本当に、この世界に光を与えるのかい? この世界の人々はお前を憎んでいるぞ。それに――。
ラヒルメに繋がろうとして、失敗すればお前の心が焼かれてしまうよ。
それでもラヒルメを呼ぶのかい、と。
「でも、この世界に光が生まれるんでしょう?人の心が温かくなるんでしょう?
それなら、何も迷うことはないです。」
ニティアの答えを聞くと、その神は満足そうに、わかったと言い残して、去っていった。
ニティアは暗くぶ厚い常闇の空を見つめた。
「さあさあ、ニティアの楽しい踊りが始まるよ。みんな、一緒に踊ろうよ。
踊って、騒いで、愉快に過ごそうよ。仲間に入りたい者は寄っといで。
神様だって、寄っといで。こんなに楽しいことはまたとないんだよ。」
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