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【黒ウィズ】Heretic Blader Story

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作成者: にゃん
最終更新者: にゃん
2014/07/22

主な登場人物








朱き凶月は低く大きく


クオン・リムセは、化け狐のヤスナと共に夜の樹海を歩いていた。


「ずいぶんと回り道をしたものだ。敵の居場所はわかっている。真っ直ぐ進めばよいものを。」

「仕方ないじゃない。凶兆の方角を避けながら進むのは、陰陽道の基本よ。」

「行く先に災いが待つのならば、それごと敵をねじ伏せればよいではないか。」

「あなたたち物の怪なら、それでいいでしょうけどね。」

「そなたも今は、我ら真狐の力を持ったのだ。その物の怪の春属ではないか。」

「わかっているわ。でも、この力、私に使いこなせるかしら。」


クオンはじっと自分の手――人ならざる者の妖気を帯びた右手――を見つめる。


「当代最高の陰陽師と称されるそなたなら扱えよう。そう信じたから、―族の力を託したのだ。

九尾に達した真狐の力……並の人間なら、宿した時点で無事では済まん。」

「ええ。本当に、恐ろしいほどの力だわ……。」

「クックック……。後悔しているのか?」

「ううん。もちろん、感謝しているわよ……。

私の力だけでは、到底「アレ」を止めることは出来ないのだから。」

「月を墜とす妖魔……か。」


そう言って、ヤスナは空を見上げた。

樹海の木々の合間から、異様に巨大な月が見える。


「信じがたいわね、異国の妖魔の力というものは……。」

「和ノ国の物の怪が劣っているわけではないからな。その者が異常なのだ。」


不機嫌になるヤスナの頭をクオンは軽くなでる。


「そうね。これまで月を守って来た、妖狼のー族だという話だけど………。」


『異国の妖魔が月を墜とそうとしている』

クオンがそんな噂を耳にしたのは、数ヶ月前のことだった。

そんな話を信じるものなど誰もいなかったが、月は確かに地上との距離を縮めていった。

やがて月が日増しに大きくなっている事に気づいた人々は、クオンに助けを求めた。

妖魔を祓うため、その妖気を辿って向かった先にいたのが、月に向かって吼えるリュコスだった。


「墜としてやる! 私から全てを奪ったおまえを、必ず、必ず叩き墜とす!」


「あの恨みに満ちた悲しい目……忘れられないわ。の時私が味わった、圧倒的な無力感も……。」


その時のクオンは、リュコスに挑むことなくその場を去った。

人間であるクオンと、妖魔であるリュコス。その力の差は、あまりにも歴然としていた。


「そして、そなたは我らの元を訪れた。人の力を超えるために。」

「ええ……。

人間のためにも、物の怪のためにも、月を墜とさせるわけにはいかない。」

「月が墜ちては、月見酒が味わえなくなる。それだけでも戦う理由になるというものだ。」

「ふふふっ。それもそうね。お月見が出来なくなったら、悲しむ人が沢山いるわ。

クオンはそう言って、ヤスナの頭をもうー度優しく撫でた。


人間と物の怪、異なる種族の力を併せ持つ少女は今、相棒と共に決戦の地へと向かっていく。


「止めてみせる……必ず!」


クオンは空に浮く巨大な月を見据え、決然と言い放った。



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