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【黒ウィズ】ミカエラ・セラフィム

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作成者: にゃん
最終更新者: にゃん

ミカエラ・セラフィム cv.川澄綾子
2014/02/28



バックストーリー


訣別のクロニクル


魔界での戦いを終え、天界へと戻ってきたミカエラはまず、父イアデルの葬儀を執り行った。


――お父様のような強く厳しい聖王に、私もなることが出来るでしょうか?

王宮の地下聖堂に父の棺を納めながら、ミカエラは胸の中でそう問うてみた。

昨日までのミカエラであれば、おそらく傍らに立つ侍従長のアクサナにそんな不安を吐露していただろう。

しかし彼女はもう、決して弱音を吐かないと決めていたのだ。

天界の民を力強い愛で導いた父はもういない。

心を通わせた双子の弟イザークも、魔界の王という別の道を歩き始めたのだ。


「……少し一人にさせてください」

イアデルの葬儀を終えたミカエラは、そう言葉少なにアクサナに告げると、王宮の屋上にある塔に上った。

そして、これから自分が王として治めていく広大な地を見渡した。


――これからは一人で、この天界を護り、導いていかなくてはいけない。

彼女がその華奢な双肩にかかる責務の重さを改めて実感した時、空が揺れた――。


ミカエラは思わず胸元の首飾りを握りしめた。

それは、大天使プリュム・ノワランから授かったものだった。


「神界は間もなく崩壊するでしょう……」

魔界の宮殿で聞いたプリュムの言葉通り、ミカエラの目の前で今、神界の結界は解かれた。

神界を覆っていたその淡い光は乾いた音とともに儚く弾け、その瞬間、天空をなめる様に波紋の輪が広がる――。

波紋は一陣の風となり、新しい時代の訪れを告げる様に彼女の頬をなでた。


ミカエラはもう一度、胸元の首飾りに触れた。

そして、プリュムの言葉を思い返した。

「この首飾りはあなた方が双子であるという証、天魔の調和の象徴となるでしょう」

彼女はそう言って、ミカエラとイザークにその首飾りを渡したのだ。

「イザーク、私は強くなる……」

手にした首飾りを見つめ、静かにそう呟くと、彼女は塔を一気に駆け下りて王宮の中へ戻っていく。


宮中ではアクサナが心配そうな面持ちで、ミカエラを待っていた。

「ミカエラ様、先ほど神界が……」

アクサナの言葉を遮って、ミカエラは凛とした声で告げる。

「わかっています。すぐに戴冠式の準備をして下さい。喪に服している時間などありません!」



――こうして先王の喪明けを待たずに聖王の座についたミカエラは、天界の民衆に宣言した。


「結界が解かれた今、いつ魔族が攻めてくるかも知れません。しかし恐れる事はありません。

私はここに誓います。皆さんを、この天界を、必ず護り抜くことを――」


そしてその言葉通り、若き聖王ミカエラ・セラフィムは動乱の時代を迎えた天界を、強く、逞しく統治していくのだった。



第2回「黒ウィズ精霊グランプリ」TOP3

【第2位】2014/10/31


「お美しい……お父上がこの場におられたなら、きっと涙を流すことでしょう……」

普段とは違う、一際華やかなドレスをまとった天界の若き姫王、ミカエラ・セラフィムは、その姿をまず年老いた従者長に見せた。

先代から王宮に仕えているその従者長は、教育係として若い時からずっとミカエラの事を見守ってきたのだ。


今日は天界の祝日。ミカエラが天界の王に即位してから、ちょうど500年という節目の日である。

種族の違いだろう。同じ時を生きてきたはずなのに、目の前の従者長はひどく年老いてしまっている。

父の死、双子の弟イザークとの決別、即位して間もなく始まった動乱の日々……

自分一人であったなら、きっと乗り越える事は出来なかっただろう。

目の前にいる、涙でくしゃくしゃになった従者長の顔を見ながら、ミカエラは胸を熱くした。


宮殿から市街地をまわるパレードの馬車の中から見える人々の顔は喜びに溢れ、

彼らの表情がミカエラの統治者としての功績を物語っていた。

血をぬぐって挙げる戦場の勝どきとは違う響きの、平和な歓声がそこにあった。

もちろん、天界を統べる者として、民衆の脅威となる存在を討ち果たす事は重要な務めだ。

しかし、争いをミカエラが望む事はこれまで一度もなかった。

争いを望むのはいつだって双子の弟であり魔界を統べる王である、イザークだった。

ミカエラが先王から後継者として指名されたその日、イザークは天界を去り、魔界へと堕天した。

やがてイザークは魔界の王として君臨するようになり、ミカエラの統べる天界を脅かす存在になったのだった。


――イザークは今、どうしているかしら。

ミカエラはふと、遠く離れた弟の事を思った。

双子というのは、総じてあらゆる点において共通した面を持っているという。


両軍それぞれの命運を背負って剣を交えたあの日。

ミカエラにはイザークの太刀筋が手に取るようにわかった。

そしてそれはイザークも同じだった。

どれだけ鍔&size(8{(つば)}を合わせても、勝負はつかなかった。

生死の賭けた戦いの渦中あってなお、露呈する双子の絆。

ミカエラがそれを意識した刹那、イザークもまた微笑みを浮かべた。

そして二人は互いの剣を収めた。


あの日以来、魔界と天界は緊張関係を保ちつつ、実質的な争いは起こっていない。

歓声鳴りやまぬパレードの中、姫王ミカエラの脳裏に浮かんだのは、そんな弟の微笑みだった。



夏休み

2014/07/31



遠くに落ちる夕日が、赤い彼女の髪をより赤く染めている。

ぬるい潮風と波の音が満ちた砂浜には、一人の天使がいた。


比喩裏現などではなく、本物の。


「風が、気持ち良いですね」


夕晩けで琥珀色に光る波に、ミカエラ・セラフィムはひとりごちた。


「景色も良い……今日は、とても良い日です」


風に揺れる髪を耳にかけながら、彼女は少し寂しそうに笑う。

彼女は「天界」という異界を統治する、若き姫王だ。

だが、今の彼女は一人の少女に見える。


世界ひとつを背負うには、その肩はあまりにも華奢で小さく、頼りないものに見えた。

遠くを見つめる横顔は切なげで、そのすべてをオレンジ色の金昏が照らしていた。


「――憎みあった相手とも、こうして穏やかに過ごせる日が来るのでしょうか」


誰にに聞くでもなく、ミカエラは言った。

きっとその答えは既に出ているし、彼女は気の利いた言葉を求めている訳ではない。


ただ、このまま放っておけば、彼女は夕日の中に消えてしまいそうな気がした。

伝えきれない心を置き去りにして、彼女は一歩前に進む。

砂浜に小さな足跡が残り、やがてそれを波が消した。


「明日からはまた、強い私に戻らなければ」


「天界」と呼ばれる異界を統治している若き姫は、そう言ってほんの少し笑う。

先ほどまでの儚さはどこへやら、夕日を睨む不敵な表情は、姫王という名に恥じない自信と品格をたたえていた。


彼女の短い余暇も、終わりを告げようとしている。

潮風に髪を弄ばれながら、彼女はそれを惜しんでいるように見えた。


ふと、足元にまとわりつく波を、ミカエラは小さく蹴る。


「だから、今日くらいは……ね?」


予感の微熱をその頬に宿しながら、彼女はいたずらに振り返る。

肩越しに見えるその笑顔は、掛け値なしの天使だった。

比嶮表現などではなく、本物の。

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