【白猫】Wings of hearts Story 前編
Wings of hearts Story1
目次
story1 さみしんぼ
……さみしんぼ?
そ。ちみの担当は、かわそ~なガキンチョ。
……火種、撒けるんすか。ガキなんかで。
ちみは初めてだから知らないだろーけどさあ、ガキってさあ、好き嫌いの感情ははっきりしてるけど、善悪の判断は曖昧なんだよ。
染まりやすいんだよねえ、純粋だから。で、ちょうどいいのが一匹いるってわけ。
……へえ……
知ってるでしょ?いまの情勢。なかなか緊迫してるじゃない。
……反サタニアスども……幾らブチのめしても沸いてきやがる。
ぼくたち、外からは過激派って言われてるらしいよ。……バカだよね、ホント。
悪魔なんだもん。過激で当たり前じゃん?
シスターと偽って布教活動?チラシ配り?ホントたのむよって感じぃ~。人間かっつうの。
(人間も悪魔みてえなモンだがな……)
……とにかくよおレイン。まずは一発、火ぃつけてこいや。
人間を殺し、人間に殺させ、死体の山ぁ築け。てめーが先鋒だ。
悪魔の存在、誇示してこいや。
はい。……エルゴラム様。
…………
……
いってえ!!
ははっ!やった、当たった!
なにすんだよ!……このっ!
当たんねえよ、ば~かっ!お前なんか、こうしてやる!
わ、わわっ……!やめろ、やめろっ!
はははは!じゃーな!ひとりぼっちのロニー!
冷たっ!!くっそ~、なんだよ……!
……かえろ……
…………
<――机の上に、お金が無造作に置かれている。>
……いない。
パンをふたつと、卵をひとつ。……あ、あと牛乳も。
おつかいかい?えらいねえ~。
……べつに。
あ、リンゴも買わなきゃ……
ん?なんだガキ、また来たのか?
ひとつちょうだい。
金あんのかよ?盗ったりしたらただじゃおかねえぞ。
……やっぱいいや……
…………
……外、くらくなってきたな………………
寂しいか?
……え?
story2 少年は悪魔に出会う
うわっ!?なんだおまえ!?
……悪魔だ。
あ、あくま……!
…………感じるぞ。……妬み、辛み、憎しみ……
ハハ、いいモン持ってるじゃねえか!
え……?
つまらねえだろ?
……!
オメーを取り巻くこの世界が。――思い通りにしたいとは思わねえか?
俺と一緒にうさ晴らししようぜ。
…………
俺の力を……ガキ、お前に貸してやる。
何だって意のままだ。気に食わねえ奴を憎め。俺がブチのめしてやる。
欲しい物は奪い取れ。奪われてきた苦しみを、他の奴にも味わわせろ。
おまえは……ぼくの味方なの?
そういうことにしとくか。
ぼくといっしょに、いてくれるの?
くく……テメーが<悪い子>にしてるならな。
…………
何でいっつも俺のせいなんだよ!!
だってそうでしょ!?あんたがしっかりしないからあたしが苦労するハメになんのよ!
苦労!?おまえ、苦労なんてしてたのか!?大して働いてもねーくせによ!
はあ!?あんたよりはずっと働いてるわよ!
チッ。……話になんねーよ!
…………
…………飲まなきゃやってられないわ。ロニー、ちょっと留守番してて。
…………
……うう……
……ふふ。ふふふふふ……!
ぼくだけの、悪魔……!ぼくだけの……!!
ねえ、名前はなんていうの!?
……レイン。
ねえレイン!!おまえがいれば、ぼくは せかいせーふくだって できるんだね!?
出来る。オメーが世界を憎めば憎むほど、世界はオメーのモノになる。
やったー!!
これからよろしくな、クソガキ。
(……クク、バカが何も知らずに……)
クソガキじゃないよ!ぼくの名前はロニー!
わかった、クソガキ。
もう!
story3 せかいせーふく
よーーし!今日から、ぼくのせかいせーふくを はじめるぞ!!
とりあえず、この村を焼くか。
ちょっと待って、もう少しでくると思うから。……あ!
お、ロニーがいやがる。おいロニー、今日も雪んなかに――
な、なんだそいつ!?
レイン!!こいつをこらしめて!
こらしめる?殺すの間違いだろ?
ころしたりなんかしないよ。ただちょっと おどかせばいいんだ!
……は?
ねえ、はやく!!
…………
<――地面に大穴があいた。>
わっ……わあああああ!!助けてええええ!!
あははは、あーっはっはっは!いい気味だ!ばーか!
……おい。クソガキ、これはどういう事だ?
あいつの顔みた!?ぷぷ、ぷふふふふ……!
何故ブチのめさねえ?
だって、おどかしさえすれば、あいつは ぼくに もうケンカをうってきたりしないでしょ?
それでいいんだ。……せかいせーふく そのいち、かんりょー!さ、次いこ、レイン!
おいおい、マジか……
***
みて、レイン。あのくだもの屋のおっさん。
いつも ひとりだから、盗むだろうって決めつけてるんだ。……むかつく!!
おい、おっさん!!
ん……?またお前か。盗るんじゃねえぞ。
レイン、こんなお店は壊しちゃおう。
……はあ。
はやく!!
……わかったよ。喚くな、クソガキ。
<くだもの屋の屋台がバラバラになった。>
あははははは!!ざまあみろ!!これが悪魔の力だ!!
ひい……!
せかいせーふく そのに、かんりょー!
……おいガキ。いい加減にしろよ。
俺はこんなチンケな事をするためにテメーに力を貸してやってんじゃねえんだ。
いいか?ムカつく奴がいたら……こうすんだよっ!!
ぐ……あ、あぁ……ぐるじ……だずげ……!!
ちょ、ちょっとレイン!やめなよ!!死んじゃうよ!!
こんなクズ野郎、一人二人死んだってかまやしねえよ。
やめてっ!!
はあ、はあ、はあ……ちくしょう、覚えてろよ!
……ガキィ!!
<レインはロニーの首を片手で鷲掴みにすると、体ごと持ち上げた。>
こんな調子じゃラチが明かねえよ。ああ!?わかってんのか!?
う、うぅ……!ううううう……!
これからは俺の言う事を聞け。絶対服従だ。いいな。でなきゃ――
ころせよっ!!
!?
いいよ……べつに……!どうせ……ぼくなんて……!
いてもいなくても同じなんだ……!
…………!
「よわむしレイン! おまえ、なんで悪魔に生まれたんだ?なんにもできねーのに!」
「ほんとさ……いてもいなくても同じだよなー!!さっさとしねー!!」
(クソ、何思い出してやがる……!)
かはっ!!……はあ、はあ……
……帰るぞ。クソガキ。
…………
……
ねえ……ごはん、たべる?
(なんなんだよクソ……
あの時のこいつの目……!本気だった!本気で俺に……!
クソ……クソ!全然上手くいかねえ!
……いっその事、俺一人で……いや、ダメだ。
ガキの意志がねえと……あー、メンドくせえ!)
……レイン。
なんだよ!俺は今イラついてんだ!話しかけんな!
……ああ?
……手、にぎってもいい?
ダメだ。
……まっくらが、こわいんだ……
俺はオメーの親じゃねえ。甘えんな。
ぼくの両親、ほとんど家にいないんだ。……お父さんとお母さんの仲が、すごくわるくて。
おしごとを していないときも、ずっとどこかに出かけてる。一日じゅう帰ってこないこともある。
んなもん、知ったこっちゃねえな。
……ねえ、レイン。ぼくが今日みたいにたくさん目立ってれば、ふたりは戻ってきてくれるかな?
ぼくに かまってくれるかな。声をかけてくれるかな。……しかってくれたっていい。
…………
……そのためなら、僕はいくらでも わるいことをするよ。せかいだって、せーふくしてやる。
……だったら言う事聞けってんだよ……
ね、レイン……いっしょに……わるいこと……し……よ……
ぼくの……ともだち……
(…………すう……)
(……ガキが……)
……クソ。
<レインはロニーを抱きかかえ、ベットまで運んだ。>
……なに運んでんだ俺……
…………
(時間はねえが……じっくりやるしかねえか……)
<レインはしばらくの間、孤独な少年の無垢な寝顔を見つめ続けていた――>
Wings of hearts Story1