【白猫】スタートライン Story2
2019/04/11
目次
登場人物
ギャング<シガーファング> | ||
---|---|---|
部下 | フェネッカ・クロッカ | ジェイク |
自警団<ソルトホーン> | ||
レイモンド | リルテット・ミッケ | 部下 |
story7 ガールズ・ティー・パーティ
<フェネカとリルテットがあべこべの職場に採用されてから数日が立った――>
これ、わたしの全財産です!足しにならないかもですが……!
***
どうした!?こないのか!?ならこっちから――
***
***
「お仕事上がりにお茶するの。日課になっちゃいましたねー♪」
「……フェネッカが毎日、誘ってくるからでしょ。しかも、追いかけっこ直後に。」
「ご、ご迷惑でしたでしょうか!?定時も一緒ですし、つい~……」
「別に……迷感とは、誰も……」
「ほんとですか……?ならよかったです♪
――それにしても。<シガーファング>と<ソルトホーン>の人たちって、どうしてあんなに嫌い合ってるんでしょうね?」
「……自警団とギャングなんて、そういうものじゃないの。」
「そうなんですかねぇ……」
「私たちみたいな新人じゃ、わからないこともあるでしょ。」
「そうですね……あ、新人といえば。リルテットさんのところって歓迎会とかありました?」
「私、用事あるって断った。」
「えー、だめですよー!社会人はお付き合いも大事って、お母さんが言ってました!」
「フェネッカはいったの?」
「幹事、わたしでしたから!愚痴とかお説教とかいっぱい聞かされて、ちょっびり疲れちゃいました。」
「どうしてフェネッカの歓迎会の幹事をフェネッカが……」
「でも、わたし社会人なんだー!って感じがして、新鮮でしたよ♪」
「……すごいね。」
「?」
「私、そういうのできないから。誰かと仲良くしたりとか、一緒になにかしたりとか……」
「……もしかして、職場の人たちとあんまし打ち解けられてませんか……?」
「別に、興昧もないけど。」
「――あの、リルテットさん。今からわたしに、お稽古つけてもらえませんか!?」
「……なんで?」
「いっつもわたし、リルテットさんに追いかけ回されてばっかりですし!
ちゃんと鍛えて強くなって、たまにはこう、ばちこーん!ってやり返しちゃうんです!」
「それを私に頼むのか……」
「仕事終わったあとに自分磨きって、かっこよくありませんかっ!?」
「……ハンバーガー、おごってくれたら、いいけど。」
「おごりますおごります♪それじゃさっそく移動しましょう!」
story8 がんばる新卒、励む新卒
「はぁ、はぁはふぅ、あ、ありがとうございました……!」
「だいじょぶ……?」
「ご心配なく……! いやぁ……わたし、ほんっとにダメダメですね……」
「……そんなことない。最後の方はちゃんと、ついてこれてたし。
ただ、フェネッカはすぐ目つぶる。最後までちゃんと、相手のこと見て。」
「肝に銘じます! ――ところで、ひとつ提案なんですが!」
「……?」
「自警団の人たちとも、こうやって親睦を深めてみてはいかがでしょうか?」
「こうやってって……特訓で、ってこと?」
「コミュニケーションの方法って、言葉だけじゃなくって、いろいろあると思うんです。
苦手なことだと、弱気になって物怖じしちゃいがちですけど……
でも得意なことでしたら、なんかこう、なんか……自信わいてきませんか?」
「やだよ。くだらない。」
「そ、そうですか……」
「でも――覚えとく。一応。」
「……はいっ♪ またお稽古、つけてくださいね!」
***
で、できた……!ありがとう、リルテットちゃん!
***
***
「褒められちゃいましたっ!!」
「そ。よかったね。」
「エヘヘー♪リルテットさんのおかげです!
今さらなんですが、リルテットさんってどうしてあんなに強いんですか?」
「……父親、デカ島の刑事だから。小さい頃から、護身術とかいろいろ教わってて、それで。」
「なるほど、納得しました!お父さんと仲いいんですね♪」
「…………」
「リルテットさん……?」
「――なんでもない。
ごめん……今日、用事あるから帰る。」
「あ――は、はい……」
story9 手取りは意外と少ない
エヘヘ……なにに使おうかな~♪あ、でも実家に仕送りして、貯金もして――
いい加滅――潮時だろ。
***
先輩たちも君を褒めてる!もっといろいろ話してみたいとみんな言っていたぞ?
……まあ、君の言う通りなんだが、な――
ところで初任給はなにに使うんだ?やっぱり今の若い子は貯金か?それとも親御さんにプレゼントか!そのへん、たまにはメシでも食いながら語り明かさないか!
<シガーファング>のあの子とはもう関わるな――と。
***
(初任給……これでもう、いつだってこの島から出ていける。でも――)
「<シュテルフ>のぬいぐるみ、セールは本日まででーす!みな様、ぜひお買い求めをー♪」
(……フェネッカって、なんかこういうの好きそう。けっこう高いけど……でも買えないこともない)
「――買っちゃおうかな。」
「なにをですか?」
「ひゃいっ!?買わないいらないあげない!!」
「なにかの標語ですか!?……今日はお互い、ちょっぴり遅めですね!」
「ざ、残業だったから……」
「奇遇ですね、わたしもです♪……ところで、ご飯ってもう食べちゃいましたか?」
「いまから買って帰る。」
「またハンバーガーですか?だめですよー、野菜もしっかり食べないと!」
「はいはい……それじゃあね。」
「――あの、よかったらわたしの部屋、遊びにきません?」
「……フェネッカの部屋?」
「一緒にご飯食べましょう!栄養あるもの、作りますから!」
「でもそれ、なんか……友だち……みたいだし……」
「はい?なんて?」
「……なんでもない。まあいいよ……別に。」
「では決まりですね!さっそくお買い物にいきましょう♪」
story10 ココロのトビラ
「ごちそうさま。」
「お粗末さまでした。お口に合いましたか……?」
「ん。フェネッカは料理、上手なんだね。」
「エヘヘ。……それで、あの……リルテットさん……
昨日は本当にごめんなさい……!」
「……? 昨日って、なにが?」
「わたしお喋りで無神経だから、嫌な思いをさせてしまって……」
「なるほど、納得しました!お父さんと仲いいんですね♪
「…………」
「あ、あれは違う……っ!別に、フェネッカに怒ってないから……!」
「ほ、本当ですか!?傷つけてしまったのではないかとほんっとうに心配で……」
「いや、大げさすぎ……」
「……大げさなんかじゃありませんよ。
誰かを守るどころか傷つけてしまったら……わたし、お父さんに顔向けできなくなっちゃいますから。」
「お父さんって……フェネッカの?」
「はい……わたしが自警団を志望したきっかけって、お父さんに憧れたからなんです。」
「フェネッカって……父親と仲良さそうだもんね。」
「あ、うちのお父さん、もうお星様になってて。」
「……そう……なんだ……」
「そんな顔しないでください。わたしが赤ちゃんだった頃の話ですから。」
「……ん。どんな人だったの。」
「わたしは憶えてませんけど、優しくて強くてかっこよかったってお母さんが言ってました。
昔、故郷に大きな嵐がきたとき――わたしとお母さんを守って、それで死んじゃったそうです。
それを聞いて以来、わたしもお父さんみたいに、大切なものを守るために命を懸けられる……勇気のある大人になりたいなって。
「……そっか。」
「って言っても、今んトコぜんぜんダメダメですけどね。ちょっとでも怖いなって思うと、体が動かなくなっちゃうんです。
私……弱虫なんですよ。」
「別に、そんなこと……」
「……ありがとうごさいます。優しいんですね。
リルテットさんはどうして、ギャングに入ろうと思ったんですか?」
「故郷も、周りの人たちも、――父親も、嫌いだったから。
だからぜんぶ捨てて、別のどこかに行きたかった。別にどこでもよかった。」
「やっぱりお父さんのこと……好きじゃないんですか?」
「好きになれるわけない。いつも仕事のことばかりで、ママのこと、悲しませてた。」
「……リルテットさんのお父さん、刑事さんなんですよね。
きっと、たくさんのものを守りたくて……だから必死に、働いてたんじゃないでしょうか?」
「……知らない。ママが出てった朝にケンカして、もう何年も……話してないし。
アイツは、私に興味なんてない。昔も、今も、これからも……」
「そ、そんなこと……」
「……なんでフェネッカが泣きそうな顔してるの?」
「だ、だってぇ……」
「ごめん、めんどくさい話したね。明日も仕事だし、帰る。」
「――リルテットさん!!
わたし、リルテットさんのこと守ります!守れるくらい、強くなります!!」
「……は? なに、いきなり……」
「そうしたいなって――いえ!そうしなきゃって、思ったんです!」
「なにソレ……変なの。」
「わたしみたいなみそっかすが、ナマイキですかね? エヘヘ……」
「――ねえ、フェネッカ。私ね……私、フェネッカと――」
「?」
「……ごめん。やっぱ、なんでもない……」
***
「……はぁ。」
――父親と最後に話した日のことは、よく憶えてる。
悲しかったこと、寂しかったこと、嫌だったこと、辛かったこと――
ありったけの正直な気持ちを、ぜんぶぶつけて、それっきり。
それからは、ぜんぶがどうでもよくなって……
独りの時間がどんどん増えて……
私の周りからは誰もいなくなった。
だから、決めたんだ――
――もう二度と、素直な気持ちを言葉になんて、しないって――
story11 新卒の役目
――償え。
……あ、あれ?お取り込み中でした……?
先週の<ダダン団>からの襲撃は、コイツか流した情報のせいだ。
廊下に二時間立たせたのち、おしりペンペンと平行しつつ反省文を書いてもらいます!たぶん死ぬよりつらいやつです!
とにかくまずは、みんなでクッキー食べて落ち着きましょう!甘くて美味しくて、きっとみんな笑顔になっちゃいますから……!
***
ヘイみんな、島民たちを守れ!気合入れろよォ!!
「「「はいッ!!」」」
その体格なら、気合い入れればそうそう競り負けない……
島民たちの安全と平和は……このオレが守ォォォオオる!!
フゥウ~……!どうだった、オレの勇姿はッ!!
ちょっとリルフェネ!アンタたちも止めるの手伝って――
おれぁただ、ヤツらのケンカをツマミに飲んだくれるだけのダメなおっちゃんよ……
アイリス、主人公!戦いを止めるわよ!
story12 きしむ牙、震える角
あ、このあと、今日も一緒にお茶を――
けれど、やつらはずっと島の平穏を守ってくれとった。表と裏からな。
当時の自警団のリーダーが、当時のギャングのボスに和解を呼びかけたんたよ。もういい加滅にしよう、とな。
――ふたりは死んじまったんだ。お互いを撃ち合ってな……
***
ボスのいなくなった<シガーファング>は、統制を失い、徐々に腐っている――
彼を失った<ソルトホーン>は、どんどん仲間が滅って、いつしか烏合の衆になってしまった……
だがどうなっても、ヤツらだけは許すつもりはねェ――
銃声は続けてふたつ。振り向いたときには、ふたりとも倒れていたってな。
組織の士気低下はオレの責任だ。弱虫のオレに、リーダーなんて向いちゃいなかったんだ……
リルテットがきてくれて、本当によかった……オレたちはそう思っている。