【白猫】ジルベスタ物語 Story
2019/05/31 |
目次
story1 道を探す物語
――その国は、二つに割れていた――
「ありがとうございます、騎士様……ああ、酷い怪我を……」
「はぁ、はぁ……心配無用です……
僕は、誇りある――<忠勇の国>の騎士ですから。」
「今月分の税金を納めてもらう。」
「今月は怪我人が相次いで……治療費で、金が……」
「では今月は、お前たちのエリアには護衛兵を置けないな。」
「そ、そんな……! この貧民街のすぐそばは、深い森だ……!
もし魔物が入ってさたら、わしらはひとたまりも……!」
「ならば、必死に稼ぐことだな。
騎士団の維持には金がいる。それに貢献できない者を、我々が守る義務はない。」
――<騎士>と<騎士>が割れていた――
「今夜、うちで食事でも♪ 腕利きのシェフを雇ったんです。」
「ええ、ぜひ♪ うちもつい先日、最高級のワインを取り寄せましたの♪」
「おい、蔵に泥棒が入った! 例の貧民街のガキだ!!」
「――ッ! もうバレたか!」
「またアイツか! こ汚い貧乏人め!!」
「けがらわしい……! 誰か早く捕まえてちょうだい!」
(あれっぽっちの配給で、ガキどもが満腹になるかよ……
みんな腹空かせてんだ……捕まってたまるか!)
――<民>と<民>が割れていた――
「……昨夜また、街の酒場で若い騎士同士が乱闘騒ぎを起こしたそうだ。」
「――僕の耳にも届いているよ。彼らを導く身として……この国の軍事責任者として、厳然と対処するつもりだ。」
「……そろそろ、まとまるべきだ。騎士たちも、それに我らも――そう思わないか。」
「兄上の言うことは、本当に――とても、よくわかる。
でも、僕は僕のやり方を曲げない。……それが、僕なりの……この国を守るための、信念だ。」
――<信念>と<信念>が割れていた――
「しつけえなあ、オッサン……!」
「今日こそ逃がさないぞガキ! 捕まえて城に突き出してやる!」
「てりゃっ☆
――しししっ♪ 悪いのぅ♪」
「イテテ……仲間がいたのか! 待てこの――
はぉぉぉおっ!?」
「ざんねん♪ そこは落とし穴じゃ☆」
「……誰が助けろっつったよ。」
「いいから逃げるぞ、ガフ! みんなに腹いっぱい、食べさせるんじゃろ♪」
「言われなくても、だっつの!」
私がこれから綴るのは、<道>を探す物語。そして――
story2 忠勇の国のおてんば姫
間もなく到着します。お二人とも、下船の準備を。
――ふぁ~っと……ようやくかぁ! 長い往路だったな、カレン。
……降りる前に、顔でも洗ったらどうだ、ディーン。
わかってるって。大事な友邦からのお招きだもんな。
<ディーンとカレンは、飛行艇の甲板から、眼下の島を見下ろした。>
連邦加盟国――<ジルベスタ王国>ね。
<連邦>――
白の民の直系を称する<聖王家>を中心とし、多数の国々が名を連ねる国家連邦。
ディーンが元首を務める<剣の国>もまた、連邦加盟国の中の一つである。
こうして実際に訪れるのは初めてだな。
交流があったのは、カイデン殿が<剣の国>の元首だった頃だからな。
騎士がたくさんいる国……なんだよな、たしか。
ああ。国を取り囲む深い森には数多くの魔物が生息し、常に民をおびやかしている。
また<嵐の国>をはじめ、戦乱うず巻く国々とも程近く、常に侵略の危険に晒されてきた。
それらの脅威から国と民を守るため、騎士団の拡充による防衛体制を固めてきた国――
で、多くの騎士たちを束ねるため厳格かつ清廉なる騎士道を重んじ――
そこはいつしか<忠勇の国>と呼ばれるようになった……か。
なんていうか、燃える成り立ちだよな!
……同じ騎士として、学ぶことも多いかもしれないな。
だよなぁ!
だが今回、私たちは招かれた身だ。国の代表としてふさわしい振る舞いをすること。いいな?
そうしたら褒めてくれるか?
褒めるか! 子どもか! 元首として当然の振る舞いだっ!
***
――ようこそ、ジルベスタヘ。私がジルベスタ国王の、ロレンツ・アインヴァッカです。
<剣の国>剣誓騎士団総長――ディーン・バルトです。
同じく副長――カレン・ガランド。此度はお招きいただき、心から感謝いたします。
あなた方<剣の国>と我が国は、ディーン殿のお父上ーカイデン殿がご存命だった頃からの付き合いです。
お父上と同じ、誇り高く力強い瞳をしていますね。ディーン殿。
……え、そ、そうか!? いやぁ~……
ぐむぉう……っ!?
(素を出すな……!)
失礼します、国王陛下。ご報告が……
カシス。どうした?
それが、その。また――姫様が。
……お二人とも申し訳ありません。昼食の時間まで少々、お待ちいただいてよろしいでしょうか?
***
――ふぃ~。さすがに緊張したなぁ!
そうは見えなかったが。……それにしても、城内がなにやら騒がしいな。
ま、おとなしく待ってようぜ。――って、このクッキーうめぇ!
おろ? 初めて見る顔じゃの?
女の子……? いつの間に部屋に――
ええと、俺はディーンで、こっちかカレンだ。君は……お手伝いさんかなにかか?
そのようなものじゃ♪ それじゃ、またあとでの☆
おう。――って、どうして窓の方に? 出口はあっちだぞ?
ヘーきヘーき☆
あ……!? クッキー、皿ごと持ってかれた!?
それどころじゃない!ここは三階だぞ!? 君、危ないから戻――
ぴょーん☆
……はぁ、はぁっ……し、失礼いたします!
今、この部屋に……ユーカレア様がこられませんでしたか!?
ユーカレアって……えっと、確か――
(……この国の王女の名だ)
そうだそうだ……いや、来てないぜ。なぁ?
お手伝いさんの女の子でしたら、今しがた、そこの窓から飛び降りていきましたが……
それがユーカレア様です!
ああ、なるほど。
――なにぃぃぃいいいい!?
story3 乗り換え、ミスって
――知らない島に!! 来ちゃった!!
気を落とさないでくれ、諸君♪ キミたちが悲しんでいると、ボクまで悲しくなってしまうよ?
そもそもブライが、乗る飛行艇間違えたからでしょーが!
アンタがくれたチケット……<世界の高貴な猫まんま展>……楽しみにしてたのにぃ~……
ここから出発し直しても、イベントには間に合わないね……
船弁食べたいなんて言わず、素直に飛行島使えばよかったわ……
暗い顔をしても仕方ないさ♪ せっかくの休暇だしね!
こんなときこそ、そよ風のごとく爽やかに笑おうじゃないか! そう、このボクのように♪
それもそーね! 過ぎたことをうじうじ悩んでらんないわ! さ、探検しましょ!
(ポジティブね、キャトラ……!)
この辺りに、休憩でさるような場所はなさそうだな。
城下町の方まで、足を運んでみないか? 宿くらい見つかるだろう。
おっと、宿をとるのなら当然、最高級のスイートルームだよ♪
ボクの親友ならそのくらい当然、理解しているだろうねクライヴ?
じゃあみんな、行こう。
クラアァァァイヴ!! 君のその露骨な無視、いい加減無理があるんじゃあないか!?
***
それにしても――
島の中心にはでっかいお城があるのに、町の端っこは妙にひっそりしてるわね……
建物も、みんなボロボロだね……
このジルベスタ王国は、騎士がとても多い国なんだ。
騎士が多いということは、維持のために金がかかるだろ。
その費用は国庫を圧迫し……結果として、税金が上がる。
税金を納められない貧困層は、このような居住区を割り当てられてしまうのだろうね……
じゃ、ここは貧民街ってやつ……? 大変なのね……
わっと……!
きゃっ!?
<一人の少年が、アイリスと衝突した……>
いてて……悪い悪い。大丈夫かい、お姉さん?
ええ、平気よ。こちらこそ、よそ見をしていてごめんなさい。
怪我してないならよかった。それじゃ――
少年。立ち去る前に、<それ>を返してくれないか?
あ、あれって……アイリスのお財布!?
いつの間に……
……
ぎにゃー! 逃げられるわ!?
ふっ、任せたまえ♪ このボクが華麗に――
こ、こら! マントを引っ張るな! パパが買ってくれた特注品だぞ!? やぶけるだろ! クラァァイヴ!
story4 騎士の資格
……はぁ、はぁ、はぁ…………逃げられたーっ!
もういいよ、キャトラ。小銭入れだから、そんなに入ってなかったし……
金額の問題じゃないの! こーゆーのはけじめが大事よ!
それにしても……走り回っているうちに、すっかり迷ったな。
最高級生地の魔法衣が、汗でベトベトだよ……
――クソッ、離せよ!
貴族街の住民から通報があったぞ、ガフ。お前また食料を盗んだな!
いてて――オレじゃねえって!
フン、嘘をつけ! それにこの財布……
お前に関係ねえ! こいつは爺さんの薬代だ! 魔物に襲われてケガしてんだよ!
お前ら騎士が近くにいたのに! 守ってくれなかったから! 負った傷だッ!
あの老人が住むエリアは、先月分の税金を滞納している。警備が手薄になるのは当然だ。
だから……そんなんだからオレは――お前ら騎士が大ッ嫌いなんだ!!
この、暴れるな!
ぐぅ…!
――子どもに暴力を振るうなど、騎士の風上にも置けないな。
その子を離せ。
……なんだ、貴様らは。
フッ、華麗にして至高――通りすがりの天才魔法使いさ♪
通りすがりのしゃべる猫よ!!
……お前ら、さっきの……
よそ者は引っ込んでいろ。このガキは盗みの常習犯だ。この財布だって――
――そのお財布は、私が彼にあげたものです。
こいつを庇うのか? 物好きめ。どのみち、このガキの取り調べはするがな。
その子の手当てが先だ。お前が怪我をさせたんだろう。
黙れ! いい加減にせんと公務執行妨害罪で――
ほいやっと☆
ごわっ!? なんだこれ灰か!? つーか、くっさ! クッサァ! なに混ぜたコレ!?
……レ、レッカか!?
ゲーッホ! ゲホッ!待てぇい!!
なにかわからないが、今のうちに俺たちも退散しよう!
オッケー!
ちょ、ま……ゲーーッホ! ガッホ! クッサァ!
アンタまでムセてんじゃないわよ!
story5 ●入者の正体
ししし♪ ガフ、お主が教えてくれた<ニオイ爆弾>、強烈じゃな♪
そりゃどーも、レッカさんよ……クソ、オレまでくせェ……
ほんで――
……お前ら、どうしてオレなんか助けた? なんの得にもならねーぞ。
俺が、騎士だからだ。理由はそれだけさ。
家訓に恥じないよう、騎士としてふさわしい行動をとったまゲッホ! ゴェッホ!!
いつまでムセてんのよ!
――お主らは、立派な騎士なのじゃな。
……ほらよ。財布、返す。
お財布はいいの。それより、さっきのお話を詳しく聞かせてくれない?
怪我人がいるのよね? 力になれるかもしれない。
そりゃ、どういう――
あれ? 痛みが……消えた?
彼女――アイリスは、治癒魔法が使えるんだ。
ほおぉ~~~っ! すごい腕前じゃな☆
ありがとう♪
アンタ、レッカっていったっけ? この辺の子なのかしら?
そんなカンジじゃ。よろしくのぅ☆
……ガフだ。レッカとは腐れ縁だよ。
あらそ。アタシはキャトラよ♪
――!!
……チッ!
あ、まつんじゃガフ! ほれ!
……クッキー?
みんなで仲良く分けるんじゃぞ♪
あ、まって、ガフくん――!
颶風(ぐふう)のごとく、立ち去ってしまったね。
――あれ? お前ら!?
アイリス様、キャトラくん、主人公に――クライヴ殿まで……!?
カレン殿に、ディーン!? 久しぶりだな!
驚いたわー……二人して、こんなとこでなにしてるのよ?
いろいろあってな。おてんばなお姫様を探してる最中だ。
姫だって!?
フーン? つまりロイヤルなかくれんぼね。
あらー! みんなして勢揃いやないの!
<氷の国>のヴィクトール殿に、エイス殿……!?
皆さんまで!?
……この国の王族から、招待を受けて来訪していた……
ちょーっと前に、騎士団同士の合同演習でご縁ができたんや。
ほんで今は、姫ちゃん探しを手伝っとったんよー。
それで、見つかったのかい?
……ええ。と、いうよりも――
あの、そのことは……
こいつらは大丈夫だ。知らないやつもいるけど、主人公の知り合いなら信頼できるよ。
――皆さん、どうかこのことはご内密に。さあ、城へ戻りましょう、姫様。
なにいってるのかしら? その子はお姫様じゃなくて、レッカっていって――
ししし♪ 見つかってしまったのう。
ほらね? ほーら――
「「「ええええええええええええええ!?」」」