【白猫】ジルベスタ物語 Story2
2019/05/31 |
目次
story6 反省してるのじゃ~
――姫様! ま~た城から勝手に抜け出して! もう何十回目ですか!
じゃから、さっきからずっと謝っておるのじゃあ……
反省が見られませぬ! しかも今回は、大切な国賓の皆様にまでご迷惑を……!
皆様、本当にありがとうございました……
いいさ、カシス。ここは騎士の国。騎士道を重んじる国だろ?
誰か困ってたら手を差し伸べる。それが俺の騎士道なんでね。
ですので、我々のことはどうかお気になさらず……
ま、何はともあれ無事でなによりやねぇ。よかったわぁ!
ほれ、皆もこう言うとるぞ?
そういう問題ではございません!
くどくどくどくど! ガミガミガミガミ!
はぁい……ユーカが悪かったのじゃ。本当にごめんなさい……
まったく……
くっ……
……大臣の言う通りですよ。ユーカレア様はもっと、一国の姫君として自覚を持たないと……
むぅ……フリントはユーカの味方じゃと思っておったのに……
そんなこと言って、この間だって僕の授業から逃げ出したばかりじゃないですか。
だってぇ……城の中はたいくつなのじゃ……
もしもこんなことが公になれば、民に示しがつきませんよ?
……はーいなのじゃ。もう逃げませーん……
う゛ふっ!
(わ、笑うな馬鹿……!)
――はしたないですよ?
ぶにゃっ!? きゅ、急に振り向くでない! 変顔はすぐには戻せんのじゃ!
ディーンさん、カレンさん。ヴィクトールさんにエイスさんも。身内事に巻き込んでしまい、本当にすみませんでした。
ああ、いや……
ヴィクトールさんたちとは以前からの知り合いですが、改めて――
フリント・アインヴァッカ。国王ロレンツの弟で、この国の騎士団を管理しています。
以前は騎士団長として、兵を率い、勇猛に戦ったとお聞きしています。
もう昔の話ですよ。――それでは、僕もいったん失礼いたします。また食事の席で。
そういえば大臣、父上は?
急な公務が入ってしまい、しばし席を外しておられます。
申し訳ありません、皆様。本来であれば、ロレンツ様が城内をご案内する予定だったのですが……
……気を遣わなくて構わない。
では、ユーカレア様。そろそろお勉強の時間で――
……カシス! 父上の代わりに、ユーカが客人を案内するぞ!
いけませんよ、ユーカレア様……そんな勝手に……
俺は構わないよ。いいのか、姫様?
そのような堅苦しい言葉遣いはよすのじゃ、ディーン! 親しみを込めて、ユーカと呼べ♪
そうか? じゃあユーカ、よろしくな!
ではさっそくついて参れ♪
あ、ユーカレア様!? ですから城内を走っては……!
城の案内と鬼ごっこ! 趣味と実益をかねた、一石二鳥の作戦じゃー!
おっしゃ! 負けねえぞー!
こら、ディーン……! ああもう!!
元気やねー。ウチらは脱走に備えて、空から見張ってよか?
……ああ。
>速いな、おい!!
>まったくもう……!!
>こっちじゃこっちじゃ~☆
>早くしろカレン、逃げられるぞー!
>なぜ楽しそうなんだお前は!
story7 スピード・プリンセス
しししし☆ こっちじゃこっちじゃー!
うぉぉお!? めちゃくちゃ速ぇ……!!
いけません、ユーカレア様! 王や大臣たちに知られたら、また叱られてしまいますよ……!
それならバレる前につかまえてみせい☆
そういう問題ではありません! もう……!
見失っちまう……! カレン、お前のファフナーで追えないか?
(おいそれと人前で出せるか! バレたら二度と他国に入れなくなるぞ!)
(そ、それもそうか……なんでもアリのスパイみたいなモンだからな……)
ほれほれ♪ おーにさーんこーちらーじゃ☆
俺は右だ! カレンは左から回り込んでくれ!
わかった! 速やかに終わらせる!
では僕は、退路を制限するために上へ……!
(くそ、見失っちまった! でも廊下は一本道だし、きっと今ごろカレンが――)
いたぁーーーー!!
――って、はあ!? どうしてお前とぶつかるんだ!
こちらのセリフだ! 挟み撃ちにできたとばかり……
……おや、お二人とも、こんな廊下で座り込まれてどうされました?
あ、いえ、大臣……これは、ええと……
い、いやぁ~……! あんまり綺麗な城だもんで、よそ見してたら転んじゃって……
……っ!
? 私の顔になにかついていますかな?
い、いえいえっ!
そんなことは!
***
上に行ったぞ、カレン!
わかってる! さあユーカレア様、追い詰めました。今度こそ――
って……いないだと!?
……え? あれ? 一階にいる? どういうことだ!?
上に逃げたはずなのに、なぜ下から現れる!?
すげえ逃げ足の速さだ……!!
そういう問題なのか、今の現象は!?
そのパターンはすでに読んでいましたよ! はぁぁああっ!!
***
……くっ、捕まらない……!
なんつーすばしっこさだよ……
ししし♪ どうした皆の衆? 口ほどにもないではないか♪
姫様、降りてきてください! その高さから落ちたら……!
ししし♪
大丈夫じゃー! そんなドジするわけ――
って、おろっ? ここの建材、もろくなって――
ひゃーー!! おーちーるーのーじゃー!?
ユーカレア様……! 床に激突する……!!
――ファフナー!!!
お、おおお!? お主は何者じゃ!?
あ、危なかった……
<大きなシャンデリアが、ユーカレアたちに向かって落下してきた!>
ディーン!!
よしきた! どりゃああああああ!!
おおーー-ーっ!? あんな大きなシャンデリアが、粉々になったぞ!? すごいのじゃー☆
(己のソウルを飛ばして、照明を破壊した……あれが噂に聞く神気道……!)
ふぃ~! ギリセーフ、だな!
天井全体が傷んで、脆くなっていたのか……?
ともあれ。――よーやく捕まえたぜ、お姫様。
ディーンもカレンも、すっごい特技を持っておるんじゃなっ♪
そうだろそうだろ~!? いや~はっはっは! そういうユーカも足速いな~!
姫様……!! おてんばが過ぎます!
むぅ……怒ってばっかだと寿命が縮むぞ、カシス。
――ししし♪ ディーンにカレン……助けてくれてありがとの♪
笑い事ではありません……! お怪我をなさったら、どうするんですか!?
そう怒るでない♪ それと、今さらじゃがージルベスタヘようこそなのじゃ!
よろしくな、ユーカ!
……それにしても……
あそこの天井……この間のぼったときは、あんなに傷んでなかったはずなんじゃが……
>あらためて城を案内するのじゃ♪
>おう! 頼むぜ、ユーカ!
>……私は疲れた。
>こっちが騎士たちの修練場じゃ!
>へぇ~、充実した設備だなぁ!
>さすがは騎士の国だな……
>そうじゃろそうじゃろ☆
story8 貧民街にて
(……はぁ、逃げ回ってたら夜になっちまった……)
ただいまっと……
武器は腕だけで振るんじゃない。全身を使うんだ。
えっと、こう?
兄ちゃん、鼻くそあげる。
いらないよ! ボクのマントにつけるんじゃあない!
ほら、鼻を綺麗にしたいのならこの高級ハンケチーフをあげよう♪
みんな、もうすぐご飯ができあがるからね♪
――あ?
「「「ガフ兄ちゃん、おかえりー!」」」
あ、おかえりー。
いやおかえりじゃねーよ! お前ら、どうしてここに……!
さっき別れたあと、どうしても気になって……
聞き込みをしたら、この辺を根城にしてるとすぐわかった。有名人なんだな。
わしの怪我を、アイリスちゃんが治してくれたんだよ。
ご飯作ってくれてるの! お肉も買ってくれたんだよ♪
余計なお世話だったかしら?
……お人好し。
***
――ひとりで寝ずの番か?
子どもが夜更かしするものではないよ。ここはボクたちが代わろう♪
魔物だらけの森が、目と鼻の先だ。ここらに住んでるのはガキや年寄りばっかだし、用心はおこたれねえ。
……それに、昼間のやり取り聞いてたなら、わかんだろ。騎士は頼れねえ。
……この国の騎士は、みんな、ああなのか?
大部分はな。税金納めりゃ守ってくれる。でなきゃ、なんもしてくれねー。
……ずいぶんだね。<忠勇の国>が聞いて呆れるなあ。
こんなんでも、今の王様になってからはずいぶんマシになったらしーけど。
俺が生まれるちょっと前は、貧民街なんざ見向きもされなかったって。
今は一応、少ねーけど配給があったりもするしさ。
存在を認知されているだけ、まだマシというわけか……
そういえば……ガフは昼間の女の子――レッカとは仲がいいのか?
ん? 半年くらい前に知り合って、たまにつるんでんだ。
。フラっと貧民街に来ちゃ、食いもん置いてったり、ガキどもと遊んだり、仕事手伝ったりしてる。
いい子なんだね。……何者なんだい?
さあな。どこに住んでるのかは知らねー。
よくわからん女だが……あの度胸は、認めてやってもいい。
(……彼女がこの国のお姫様ってことは、知らないようだね)
(……なにか、事情があるんだろう。今は黙っておこう)
――来やがった。
さて……さっそく出番のようだ!
ボクら三人の華麗な連携、見せつけてあげようじゃないか♪
手早く片付けるぞ!
>そっちは任せたぞ、ブライ!
>華麗に片付けてみせよう♪
>くそ、どんどん魔物がきやがる!
>安心してくれ、俺たちが守る!
>ガフは安全なところにいたまえ!
>……気をつけろよ!!
story9 アメちゃん姫ちゃん
いいですか、ユーカレア様。<アイレンベルクの基礎定理>を根幹においたこちらの例題は、多岐にわたる性質の変化が――
ふぁあ……
聞いていますか?
うむ! 聞いておるのじゃ!
ではここの節には、どの術式が入るでしょう?
わかんないのじゃ!
……姫様、なんかちょっと動いてません?
――
……まあ、いいです。授業を続けますよ。
おーなのじゃーっ!
――逃がしませんよ!!
***
あらー、お姫ちゃんやないの! こんばんわー。
ヴィクトールにエイスといったかの? こんばんは~なのじゃ!
あらあら、元気いっぱいやねぇ~。アメちゃんあげよか?
いるー♪ お主の竜は優しいのう、ヴィクトール♪
……光栄です。
堪忍なぁ~。この子、仏頂面しとるけど怖がらんといてあげてな?
くるしゅーないのじゃ♪ この国はどうかの?
……有意義です。フリント殿が考案した戦闘訓練方式は、非常に効率的かつ効果的です。
さすがは騎士の国やね。勉強になるわぁ。
……騎士の国、か……
のう、お主らに聞きたいことがあるのじゃが!
?
***
……なるほどねぇ……
結論から申し上げると……その問いに自分が答えても、無意味です。
せやね。かわいそうやけど、姫ちゃんのためにはならんと思う。堪忍な……
申し訳ありません。
いや、構わんぞ! 今からディーンたちにも聞いてみるのじゃ♪
今からって……もう夕飯も終わってるし、二人とももう部屋やないの?
……あの子の周りだけ、重力ないん……?
…………
こそこそこそ~……
>しっしっし~☆
客人の多い夜はわくわくするのぅ♪
さあ、カレンたちの部屋へゆくぞ!
story10 お姫様、夜のご訪問
(……やれやれ。とんだ滞在初日だったな。
ロレンツ殿やフリント殿ともあまり話せなかった。明日は時間がとれるといいのだが……)
って、うわぁぁ!? なぜここにっ!?!?
どうしたカレン!?
ディーンまでなぜいる!? というかノックくらいしろ!!
用事あったから部屋の前まで来たらお前の大声が聞こえたんだよ!
カレンのお部屋に侵入作戦、大成功じゃな♪
ははは、ユーカはニンジャみたいだな!
笑ってる場合か! ユーカレア様もお戻りください! 今なら誰にも――
<ユーカ>じゃ。他人行儀な呼び方をするでない。
……はぁ。わかったよ、ユーカ。ただし、三人の時だけだぞ。
それで、どうしたんだ?
ん! 実は二人に、聞きたいことがあっての。
――<騎士道>って、なんなのじゃ?
***
ふぅ……魔物はあらかた片付いたな。
ボクらにかかれば、当然の結果さ♪
まだだ! 向こうにもいやがる……!
彼らに手を出すな!! ――かかれ!!
くそっ……!
sす、すみません……助けに入ったつもりが、逆に助けられました……
貧民街を気にかけてくれる騎士も、ちゃんといるんだな。
――そいつらは、<国王派>の騎士さ。
<国王派>?
……確かに、貧民街の警らは国王の意向です。ですが、僕らの意志でもあります。
国を守る、騎士としての……
……事情はわからないけれど、君たちは見どころがあるじゃないか♪
誇りある騎士同士、今度ボクの家で騎士談義に花を咲かせないかい? クライヴも特別に招待してあげてもいいんだよ♪
……この国の騎士団には、派閥があるのか?
クラァァイヴ!! なんかもうクラァァイヴ!!
……相変わらず弱いな、<国王派>の騎士は。
――今さらなんの用だよ、<王弟派>サンよ?
魔物が出たようなのでな。
……この地区の関所にいたなら、事態は僕たちより早く察知していたはずだ。
ここの住人は税金未払いだ。最優先で対応する義務はない。
それでも……騎士か!!
そう、騎士さ――
――
<強さ>こそ……騎士の価値だ。
(……やるな)
貧しい民を見捨てるのが、国を守るべき騎士の在り方か? 誇りはないのか!?
国が潤えば潤うほど、俺たち騎士は強くなる。
立派な『国を守る騎士』だろう? 誇りだの騎士道だのほざく、軟弱なお前らと違ってな!
これが、この国の騎士さ。……反吐が出るぜ。
…………
>…………
>……さっきの騎士たちの件かい?
>この国の騎士はどうなっている……
民を守らずして、何が騎士だ……!
>……同感だね。
>まだ魔物が残っているな。
>いくらなんでも多すぎじゃないかい?
story11 お姫様の悩み
<騎士道>とはなんぞや、ね……
どうして、そんなことを聞くんだ?
このジルベスタは騎士の国……<忠勇の国>と呼ばれておる。
でも、城の騎士たちは……なんというか、バラバラじゃ。国と民を守るべき騎士たちが、別々の方を向いておる……
――二人はすごい騎士なんじゃろ?
皆がバシッとまとまるような、素晴らしい<騎士道>を教えてほしいのじゃ!
…………
まだまだずうっと先じゃが、ユーカはいずれ国と騎士を束ねる女王となるじゃろう。
だから、知っておきたいのじゃ!
……俺なりの<騎士道>ってのは、もちろんあるよ。
♪
でもそれって、単純じゃなくてさ。
俺の生まれとか、家族とか……一人ひとりの仲間とか敵とか……いろんなことが寄り集まって、俺の中で一本の道になってる。
……?
だから、言葉だけで伝えても――それはきっと、ユーカの中で意味を結ばないと思う。
私も、ディーンと同感だ。
私にもむろん戦う理由がある。騎士としての、道もある。
だがそれは突き詰めれば、私個人の思いに過ぎない。
万人が納得するような便利な騎士道は……きっと存在しないのではないかな。
……むぅぅぅぅうううう~……
す、すまない……悪気はないんだ……
……ヴィクトールたちにも、さっき同じこと言われたのじゃ! むぅう……
そんじゃ今度は、俺から質問していいか?
む、ディーンは積極的じゃな。お主のような無遠慮な客人は大好きじゃ♪
そうかぁ~? そんな褒めるなよ~、この~!
……褒められているのか、今のは?
で、だ。ユーカは頻繁に城を抜け出して、外に出かけてるんだよな?
怒られるってわかってんのに、なんでそんなことしてるんだ?
……たいくつだからなのじゃ。
城の中で毎日勉強したり、武の稽古をするだけの日々はもう飽きたのじゃ。
城を抜け出したユーカは、決まって貧民街のどこかにいるって。
退屈をまぎらわすなら、他にいくらでもふさわしい場所があるんじゃないか?
国内のオモシロは、あらかた制覇済みじゃ☆
……改めて、すげえ行動力だな。
なら、どうして今は貧民街に?
ユーカは庶民派だからの!
それに友だちもおる。王女として振る舞わなくていいぶん、気楽なのじゃ♪
お姫様っぽく振る舞うユーカを、見た覚えがないけどな。
いずれ女王になる身なら、なおさら規則は守らないと。
みんなも心配するしな。今日だって、危ないとこだったろ?
……はぁい。
よし、いい子だ。
***
姫様ぁぁああ~! 乗馬の稽古のお時間ですぞ~! どこに行かれたのですかぁ~~!?
昨日の今日でこれか……!
ははは、お姫様の鬼ごっこに今日も付き合うか!
>よっしゃ、追いかけようぜ!
>なぜ楽しそうなんだ……
>さぁて、ユーカはまた貧民街か?
>念のため、まずは城周辺を探そう。
>だな!