【白猫】こよみめぐり Story
2017/06/26
目次
登場人物
<クジョウの島……古の社に続く森。>
ねーね……
ワオーン!!
ねーね!! どこにいるの!! 返事をして!!
キャウン、キャウン!
コヨミ、タロー、いつかワタシがいなくなっても……
絶対に、追いかけてきちゃだめだからねえ~。ねーねとの約束だよ~。
ねーね……イヤだよ……!
キャン……キャン……
……こんなお別れは……嫌だよ……!
こよみめぐり
story1 こよみはじめ
<コヨミとタローが、違和感に気づいたのは数日前――
彼女の消息が、途絶えたのだ。
奇妙なことに、人々の記憶からも、彼女の存在は消えていた――
真相を告げたのは、とある神であった。>
おそらくコリンくんは、『存在しないもの』に変身したんだろうね。
うんうん。わかってるよ。だとすると……ある前提を、否定しなくちゃならない。
コリンくんは、変身できるのが見た目だけといっていたね。
しかし彼女の変身術は――完璧すぎたんだね。
彼女は、中身まで含めて変身できることを、隠していたんじゃないかな?
…………
……
ねーねは……この島のどこかに、いるはずだよね……
<コヨミは、手紙を手にしていた。コリンが残した書置きである。>
絶対に、追いかけてきちゃだめだからね~。
ねーねとの約束だよ~。
キャウン……
蛇のお兄さん……ねーねを見つけられるのは、コヨミだけだって……
ねーね……今度はコヨミたちが、ねーねを見つけるから!
キャウン……キャウン……ガウ!?
ガウガウ、ガウガゥ!!
……ねーねのにおい……かすかだけど、まだ残ってる! ……行こう、タロー!
story2 はるこよみ
<……コヨミが両親のため、雪のルーンを探していたころ……>
はあ、はあ……
ガルゥ……ガルルゥ!!
<コヨミとタローは、狼の半獣。半獣とは成長につれて獣から人の姿になる種族のことである。
幼い頃は、コヨミもタロー同様、狼であった。>
どいて……魔物さんたち……
……雪のルーンを見つけて……パパとママを……助けるんだから!
<戦争による負傷で、二人の両親は人の姿を保てなくなり、狼に戻ってしまった。
コヨミとタローは、両親を人の姿に戻すため、狼の半獣に力を与える雪のルーンを探していたのだ。
コヨミは膝をついた……>
はいは~い。どいたどいた~。
<少女の放った稲妻が、魔物達を吹き飛ばす!>
……えっ……?
……キミィ、大丈夫~? けがはないかい?
ガウウ!! ガウガウ!!
うわー、メッチャ吠えてる!
うっ……
うわっ、けがしてんじゃん! ちょっと、君たち~!
……行こう、タロー……
待ちなよ。こっから先は、魔物の巣だ。
ガウゥ!
おうちに帰れなくなるよ。
コヨミのおうちには……もう、誰もいないもの……
そーかそーか。じゃあ……
こっから先に行きたきゃ、ワタシを倒していきなー。
…………
……
ねーねのにおい……かすかだけど……まだ……
あの時、ねーねがコヨミたちを見つけてくれなかったら……
キャウン……!
今度は私たちが、ねーねをみつけるの!
ワオーン!!
わっ!? 何だろう!?
えっ……!?
ワオーン、ワオーン!
お花畑……? お花のにおいは、しなかったのに……?
キャンキャン!
ねーね……? お花畑から……ねーねのにおいがする……?
story3 なつこよみ
他の島と同じく、クジコウの島にも骨肉の争いというものがあった。
時の支配者に煮えたぎるほどの怨みを抱いたかの一族は、支配者を呪った。
実に恐るべき手段で――
彼らが目をつけたのは、島に住む神獣・天狐。
一族は百年の間、天狐を崇めよしみを通じた。固い絆を結んだ。
天狐も一族を愛し、信じた。だがその絆は、偽りだった……
一族は、天狐を裏切り、<闇>への賛と捧げる。
穢れた闇は天狐を呑み込み、悪しきものへと変えた。
――日く、九尾の邪神という。――古書『桜の宮』より。
我はこの地に封じられた。この忌まわしき社に……
そして力無き子ぎつねとして、再び生まれた。ああ、忌々しい。
そうだったねえ。で、ワタシはこの神社の娘として育てられたってわけ。
愚かなものよな。我が古の神獣とも知らず……
おいおい、ここの宮司さん一家は、事情を知ってたんだぜ?
それでも、ワタシを……育ててくれたんだよ。あんたも知ってるだろ?
クジョウに封じられし崇り神。我はその姿を目に焼き付けた。
我は偉大なる天の極星――悪しき呪いの神に変わる。
そんなことしてさあ……何になるんだよ。
我が呪いにより、民人は神の加護を失う。神の加護とは自然の恵み。
天は荒れ狂い、地は実りを生まず、民が民を喰らう。
はいはい。知ってましたけど~。
<神たる天狐。名も無き狐、コリン。両者の変化の力が、荒れ狂う――
花々が咲き乱れる――この花畑そのものが、コリンの変化であった。>
汝とて覚えていよう。命短きものどもが、我らにした仕打ちを。
当然じゃ~ん? あんたはワタシなんだし。
あいつらは、天狐にとりいった。天狐を、ワタシを、崇め奉った。ワタシに信用されるために。
……すべてはこの我を油断させ、裏切るための策……!
あー、ムカついてきた。コーンちくしょうめ~。
我を辱めた代償は、永劫の苦しみよりあるまい。
気持ちはわかるぜ。ワタシ。でもねえ……こんなのは、楽しくないんだよ!!
<コリンと天孤は、激しいソウルの奔流び包まれていく……>
ぐはっ……汝は……何に変わろうと……!
フフン。なんだろうね~?
……我の……存在が……かき消される……汝は、無へと変わろうというのか!
最初から、無かったことになる。この世からワタシは消えるんだ。
消えていく――
この世から――
天弧という存在が。コリン・ツチミカドという少女の存在が。
変化の術だったら、ワタシに分があるみたいだねえ。
我は消えぬぞ――この怨みを晴らすまでは!
いいや駄目だね。呪いになるほどの怨みなんて、あっちゃいけないんだ。
一緒に消えてよ。ワタシ……
「ねーね……!」
「ワオーン!!」
コヨミ……!? タロー!?
くくっ……
ぐあっ!?
ねーね……ねーね!!
どうして、来ちゃったんだよ……
ははははは……!!
その半獣どもの想いが、我と汝を無より引き戻した。布石は、打っておくものよな。
まだ、終わりじゃない……
我が変生は成った。汝はここで果てるがよい。
story4 あきこよみ
ああ、ダメか……ワタシが……別のものになっていく……
<コリンの体が、消えかけている……>
ねーね……!!
キャウン、キャウン……
……だめ、消えないで、ねーね……!!
ワタシはいいから、逃げな……
キャウン、キャウン、キャウン!!
うっ、うううっ……ねーね!! コリンねーね!
……こうなる前に、消えとくべきだったねえ。心残りが……できる前に……
ねーね!!
ガウガウッ!!
じゃーね、コヨミ……タロー……おわかれ、だ……
…………
……
<再び、時は戻る――>
こーんなカンジ?
おねえさん……強いんだね……!
<洞窟の奥で、何かが輝いた。>
これが雪のルーンか……
雪のルーン……
はい、キミにあげる。
キャウーン!
お父さんとお母さんを、人間の姿に戻すんだろ?
どうして……?
キミたちが、いい子だから。
<コリンは、コヨミとタローの頭をなでた……>
キャウン、キャウン……アオーン!
よしよし。いい子だねえ。この子はキミの弟なのかい?
うっ、ううっ……ううっ……
うわっ、弟くん、泣いちゃった!? これ、どうすればいいの?
キャンキャン!
とりあえず~。こっから出ようか。で、美味しいものでも食べよ?
…………
……
<コリンの体は、消えた――>
ねーね……! コリンねーね……!
<辺りから香るのは、コリンであってコリンではない、何かの香り……>
ワオーン!!ワオーン!!
ううっ……うわああ……うあああーん!!
story5 ふゆこよみ
我が権能はすなわち禍い。あまねく全てに災いあれ。
コリンねーね……!!
喜ぶがいい。汝らの怨みも晴らしてやろうぞ。我が呪いをもってな。
コヨミは悲しかったよ……つらかったよ……
幸せな人が……うらやましくて……
ガウガウ!!
でもコヨミは、誰も怨んでない。誰にも不幸になってほしくない!
嘘をつくな。半獣ども!
涙なんかに負けないもん! コヨミとタローは、狼だから!
ワオーン!!
コリンねーねを返して!
変化の獣たる我は消えた――もう戻ってはこない。
ねーねはいつも……つよくて、やさしくて、かっこよくて……
ガウガウッ……ガウウ……!
コヨミとタローの、大好きなねーねは……絶対に消えたりしないもの!
口が過ぎたな。
ガゥ……!!
<タローがコヨミをかばった……!>
タロー!!
キャウン……キャウン、キャウン……
……タロー、タロー……!
血のつながる者同士、せめて同じ時に散るがよい。
――
何っ……
おっとぉ~。わるものがよく言うヤツ、いただきました~。
ねーね……ねーね!!
貴様……半獣どもの想いを!!
コヨミとタローの心の中の、スーパーなワタシのイメージを、読み取ったって奴~?
ふざけたことを……!
この子たちの中ではさあ……ワタシは本当に……ヒーローってやつみたいでねぇ。
なんでもできて、つよくて、やさしくて、かっこいい。おまけにかわいい。
<コリンは、指を弾いた――>
キャウン!?
タロー!!
<タローの傷が、治っていく!>
我が呪いを癒やすか――半獣どもの想いだけで、どうしてここまでの力を!
ワタシよ。あんたは古き神獣だ。そりゃあ偉くて強いんだろうさ。
でもあんたは、たった二人の想いに敗れるんだ。
ほざけ……!!
キャインキャイン!
……天狐さんは、みんなを不幸にしたら、幸せなの?
たわけ! これは罪の報いぞ!
ちがうよ、天狐さん。だって……天狐さんは、ねーねだから。
ガルルゥ!
我が……獣ごときと同じだと!
本当は優しいの。だから……コヨミとタローが、天狐さんを止めるから!
最終話 こよみつづり
くく、ははは……やってくれるな……獣ども!
もうやめて!……天狐さん……!
お前たちはこの世が……神々の加護に、値すると思うのか……
そんなのわからない! でも……コヨミは、みんなが幸せになってほしいもの!
そ~だねえ。たしかにそうだ。不幸なんかだれも、望んじゃいないのさ!
我が憎しみは消えぬぞ!
天狐さん……タローとコヨミを、怖がらせて逃がそうとしてたんだよね……?
戯言を……!
天狐さんも……コヨミとタローの、大事なねーねだよ!
……コヨミ……ああ、そうか。……そういうことか。
策でも思いついたか……我はまだ負けておらぬぞ!
負けないもん!
ワオーン!!
ワタシはあんた、あんたはワタシ。
……何を……
あんたのその怨み……ワタシが背負ってやるよ。
背負うだと……
コヨミとタローが教えてくれたんだ。あんたはワタシ。だったら、あんたの怨みはワタシが背負う。
ねーね……
我と同じ道を行くか……?
ワタシは呪いなんかにゃならない。ワタシが変わるのは、バカな呪いに崇りで報いを与える存在だ。
それが汝の望みか……呪いを崇る神獣と変わるか!
どうせ呪うなら、他人を呪うおバカな奴を呪う。人を呪わば穴二つってね。
ねーね……!
コヨミ、タロー。いいかい? ねーねのことを考えるんだ。
何をするの? ねーね?
キャウン、キャウン……!
<コリンは……天弧の手を取る。>
後悔するぞ……獣の我よ……!
覚悟してっから。それに、あの子たちもいる。
くくく……ははは……!
***
九尾の邪神は、呪いに対し崇りで報いる神となった。
いってみれば、呪いに対する呪いのようなものさ。
幸せな終わりとは、呼べないのかもしれないね。
そうはいっても、だ。
この結末はきっと――奇跡にふさわしい。私がいうのも、なんだけどね。
……
…………
<コリンの変化した花畑は、消えていく……>
コヨミはね……ねーねのこと、忘れてた。
ガウー。
でも、お手紙を見つけて、ねーねを思い出したの。
大好きなねーねのことを、忘れちゃってたのが、すっごく怖かった。
キャンキャン!
だから、コヨミはもう……ねーねのことを忘れないよ。
ワオーン!!
絶対絶対……ぜったい………ううっ……
「だーれだ。」
……ねーね……?
キャウンキャウン、キャウン!
さあ、一緒に帰ろうか。
帰ろう、コリンねーね!
こよみめぐり -END-