【黒ウィズ】幻魔特区スザク Story4
story4 幻魔級 其は機械より出し
「それにしても……大きなロッドにゃ……。」
トルリッカのギルドを100軒詰め込んでも、横幅に足りるかどうか解らないほど巨大な塔。
訳の分からないほどに巨大な「スザク大ロッド」を目の前にし、キミとウィズは口を開けたまま空を見上げた。
「あの塔の内部に、ここら一帯のロッドを管理する中央本部がある。
俺はこれまでの事件をそのまま中央本部へと報告する。お前たちは体を休めておけ。」
トキオはそう言うと、そっと君へと耳打ちをしてくる。
「……すまんがキワムとアッカを頼む。スミオやヤチヨには荷が重い。」
「……どういうことにゃ?」
聞き返すウィズに、トキオは少しだけ苦しそうな表情をする。
「あいつらはキワムの友達だ……わかってくれ。」
君は、その言葉でトキオが列車の上で言っていたことを思い出す。
ヴィルゴを噛み殺した黒い影……ソレを見て、トキオはこう言っていた。
――「アレ」はヴィルゴが怪物になった時の「黒いオーラ」と……よく似ていた気がする。――
つまり、キウムたちをスミオとヤチヨが疑ってしまうような状況は避けたい、ということだろう。
それを察した君は、トキオに向かって小さくうなずいた。
「お前は実力がある。アッカが何か良からぬ事をしても止められるだろう。
スミオたちは脳天気すぎてな……アッカを任せられるのはお前しかいない。頼んだぞ。」
トキオは、そう言い残すと大ロッドの方角へと歩いて行ってしまった。
それを確認して、君はスミオたちの待つ場所へ向かう。
「んじゃ、俺らも行こうぜ。腹減っちまったよ!」
「ちょっと待ちなさいよスミオ!まったく、脳天気なんだから……。
ほら、キワムもアッカも行くわよ。……どうしたのよ、暗い顔して。」
「あ、ああ……ごめん。俺、なんか食欲なくて。」
列車を降りてから、キワムは急に元気をなくしていた。
足元にじゃれつくクロにも目を合わせず、どことなく避けているようにも見える。
「私もここにいるよ。スザク大ロッドにはなるべく近寄らないほうがいい気がするし。」
にしし、と笑いながら、アッカは君に流し目を送る。
あんまり茶化さないで欲しいな、と言いながら、君はアッカに苦笑を返した。
「じゃあ、あなたとウィズちゃんはどうする?」
「私達もキワムとアッカと一緒にいるにゃ。」
「そう……じゃあ、何か食べる物でも買ってくるから。後で落ち合いましょう。」
「はーい!」
ヤチヨとスミオの二人を見送りながら、君は元気のないキワムヘ声をかけた。
「……俺は、大丈夫だから。放っておいてくれよ。」
そろ言うと、彼はフイとそっぽを向いて歩き出してしまう。
「……追いかけなくていいの?」
アッカの言葉に、君は苦笑を返してキワムを追いかける。
「スザク大ロッド」――巨大な塔に見下ろされた街。
見上げれば遥か空の向こうまで続くその塔に、君は漠然とした不安を感じていた。
***
「――ッ、ついてくんなよ!お前なんなんだよ、一体!」
『ヒャンッ……!』
キワムに近づこうとしたクロは、彼の一喝で小さく後ずさる。
その様子を見ていたアッカは、クロに近寄るとその体をそっと抱き上げた。
「キワム、クロをいじめたらダメだよ?」
「……いじめてるつもりなんかねぇよ。怖いんだ、単純に。
そいつは、そいつは、列車の上で……敵を……。」
キワムの言葉で、君の中で一本の線がつながる。
あの時君が背中で感じた暴力的な殺気は、クロが発したものだったのだ。
得体の知れない生き物――おそらく、キワムはクロのことをそう感じているのだろう。
長く一緒に過ごしてきた、家族のような存在が、魔物だった……。
それは、恐らくキワムにとって大きなショックだったに違いない。
「ずっと一緒に過ごしてきたのに、あんなバケモンだったなんて……。
そんなの、受け入れられるワケないだろ……?」
だが、そんなキワムに対して、アッカはクロを抱いたまま、あっけらかんとこう返した。
「化け物だっていいじゃない。ね?」
『ギシシシシ……。』
下品な笑い声を上げるロッカをクロと一緒に抱きしめながら、アッカは続ける。
まるで、自分に言い聞かせるかのように。
「……この子は、怪物になってでもキワムを守りたかったんじゃないかな。
だからさ、一緒に歩いてあげてよ。二人はいつも一緒だったんでしょ?」
そう言い、アッカは抱きしめていたクロをキワムに差し出す。
――だが、その時だった。
ぶわん、と風の舞う音とともに、アッカの体が消える。
その拍子で、彼女の手にしていたクロは宙に投げ出されてしまった。
「なっ――!?うおっ!」
キワムは驚きながらも、なんとかクロをキャッチする。
「上にゃ!」
ウィズの言葉に、君とキワムが空を見げると、そこには――。
「ヴィルゴは失敗したようですね。『実』を与えたというのに……使えない。」
「お前……列車の上にいた……」
そう、ヴィルゴを変貌させた張本人、トキモリがそこにはいた。
彼女はアッカを抱えたまま、宙に浮かんでいる……!
「とりあえず、この娘は頂いて帰ります。全く……手をかけさせてくれましたね。」
「お前――!」
「おっと、動かないほうが賢明ですよ。足や手を失いたくないのならね。」
トキモリの言葉にハッと気づいた時には、君たちの手や足に見えない糸が結ばれていた。
それは鋭い切れ味を持つようで、糸の触れる場所の服が薄く切り裂かれている。
君が悔しさに歯を軋らせ、トキモリをもう一度見上げた時――。
『ギシシシシ……。』
聞き覚えのある笑い声が、アッカの口から漏れてきた。
「……まさか、こいつ――!」
『アーッハハハハハハ!!!』
怪物と化したアッカは、鋭いツメを振り回し、見えない糸を切り刻む。
さらにその怪物は口からさらにアッカを吐き出すと、彼女を抱きかかえるようにして着地した。
「ど、どっちがどっちにゃ……!?」
「私が本物のアッカ。それでこれが私のガーディアン、ロッカ――“トイボア”よ♪」
そして、アッカはキウムを見つめると、諭すようにこう続ける。
「怪物でもいいじゃない。あなたの願いにこの子は応えたんだから。」
「ねがい……?」
「数年前、友達が欲しいと願った時に、あなたの隣に現れて……。
少し前、戦う力が欲しいと願った時には、怪物になってあなたを助けた。
あなたはそれに、応えてあげなくちゃね。」
何もかも見透かすようなアッカの言葉に、キワムはふと抱いたクロを見つめる。
彼のポケットにある箱が光り、キワムは思わずそれに浮かんだ文字を読み上げた。
「アウデアムス……“共に挑め”……!」
瞬間、クロの体が膨張し、あの時列車で感じた強烈な殺気が辺りを包む!
「……これは、予想外ですわね。
ベイト!」
トキモリの叫びと共に、空から黒ずくめの男が降ってくる。
列車で見かけたその男が、一度コートをはためかせた次の瞬間――!
トキモリに覆いかぶさるように、巨大な人の上半身が生まれる。
「本気で行かせてもらうわ。」
彼女の手には、ヴィルゴを変貌させたコインが光っていた。
だが、キワムは怖じること無く、手にした光る箱を構え、トキモリに向き直る。
「……行くぞ、クロ。俺はあいつをやっつけたいんだ。」
その背後には、変わり果て殺気を振りまくクロの姿がある。だが、彼の目は前だけを向いていた。
「力を耳してくれ、クロ――いや……!
“アウデアムス”!!」
『グォォォアアアアア!!』
***
BOSS トキモリ
***
「くっ……力押しで負けるなんて……!」
クロの圧倒的な力と、君とアッカのサポートも加わり、トキモリはほぼ防戦一方だった。
背後に浮かんでいたベイトというガーディアンも、既に人型へと戻っている。
「……アンタには聞きたいことが山ほどある。あのコインのこと、そして「収穫者」のこと。」
今までとは打って変わって、キワムの表情は深い恨みに似た感情に染まっている。
まるで、キワムの心がクロの殺気に呑まれたかのように君には見えた。
「全部、話してもらうぞ。」
「……そうね。ひとつ位なら答えてあげてもいいですわ。
このコインは、ガーディアンを攻撃的な性質に変化させるもの。
当然、ただの人間には扱えない。人間か使えば、これは身を蝕む毒となるのよ。」
「ん……?ど、どういうことにゃ……?」
「ヴィルゴはただの人間だったってことよ。多少体は改造していたみたいだけれど……
ここで質問タイムは終わり。言ったでしょ?あなたたちは、ここで「終わって」頂きます。」
ニヤリ、と笑うトキモリ。その視線の先――立ち並ぶ建造物郡の上に、君は誰かが立っているのに気がついた。
そして、次の瞬間!
爆音と共に、その影はキウムを襲撃する。
だが――!
君はその影がキワムへと衝突する寸前に魔法を放ち、その軌道を変えた!
影はそのままの勢いでトキモリのすぐ横の壁をぶち抜くと、その奥で止まった。
「な、なんだ……!?」
「距離を取るにゃ!アレは、ヤバイにゃ……!」
ウィズの言葉に、君も同意する。一瞬判断が遅れていたら、キワムが危なかった。
なぜならその影は、ヴィルゴやクロと同じ、強烈な殺気を孕んでいたから……。
「いやァ~~失敬失敬。君らの人数が気に食わなかったもんでさぁ。
3人はイカンだろ3人は。ええ?3は大っ嫌いな数字でなぁ。」
「タモン様、お怪我は……?」
瓦礫を押しのけ現れたタモンと呼ばれた男は、トキモリの言葉にヘラヘラと笑う。
「お怪我するわけないでしも、あんなショボくれた攻撃の一つでさあ。
……で、も前らはなんでトキモリちゃんをいじめてくれてる訳ぇ?」
「アッカを連れ去ろうとしたからだろ!大体――。」
「違う違う違う、その娘は俺たちのなの!落し物を取り戻しに来ただーけ!
でもまぁ返してくんないんだったら仕方ないよなぁ、アッカちゃんナシで仕事しないとサ。」
「俺たちの……?まさか「収穫者」の――!」
「当たりぃ~!ピンポンピンポーン!」
ウィズの言葉の途中でタモンはそう叫ぶと、両手をブンブン振り回しながら君に詰め寄る。
「アッカが居ないとさぁ、このロッドを『収穫』するのが超大変なんだよ……!
ただしぃ~、居るのと居ないのとじゃ労力に差が出ちゃうんだよねぇ~。
だから、君らに少しだけ考える猶予をあげよう。
今日の深夜、日付けが代わるまで、その娘を引き渡すかどうかよぉ~っく考えて欲しいんだ。
渡すならここに連れて来て欲しい。渡すつもり無いならそのまま寝てりゃいい!」
明るい口調とは裏腹に、タモンの目は一切笑っていない。
そして、彼はそこから声のトーンをひとつ落として続ける。
「ただ、渡してくれない時は……このロッドの住人みーんながひどい目に遭うから。
それだけは覚悟しといてね♪
それじゃあね、少年たち。またあとで会おう!」
強烈な殺気を振りまきながら、タモンはトキモリを連れて君たちの間を堂々と歩いて行く。
「友達もたくさん、連れておいでね……ククク……ヒャッハハハ……!!」
まるで、勝ち誇ったかのように笑いながら……。