【黒ウィズ】幻魔特区スザク Story2
story2 中級 其は白より出し
君たちは、先ほど見つけた少女を街唯一の小さな病院へ運ぶことにした。
「ん……うぅ……。」
「おおおおおいこれだいじょうぶなのかおいこれ!苦しそうだけど!なあ!」
慌てるキワムを完全に無視しながら、医師は少女を淡々と診察していく。
「けっけけけ怪我とか大丈夫なのか!?熱とか無いのか!?心臓動いているのか!?」
「だーかーら、アンタは心配しすぎたっての!」
「だ、だって、もしすげえ病気だったり、大怪我してたりしたら大変だろ!?
大丈夫なのか!?ちゃんと生きてるか!?」
「うるさいな……静かにできんのかお前は。」
診察を終えた医師は一度ため息をつくと、キワムにしかめっ目をしながら静かにこう続ける。
「大丈夫、きちんと心臓は止まっとるよ。」
「そうか!きちんと心臓は止まって……?は?」
「この子には脈拍も、血圧も、心臓の鼓動もない。そもそもこの子は人間なのか?」
と、そこまで医師が言った時だった。
「こ、これはどういうことにゃ……!?」
『ンギイィィ……!!』
ドロドロと女の子の姿が崩れ、突如としてその場所に妙な人形が現れたのだ。
『ギギ ギ ギ!!』
s「うわっ!?」
その人形は風のように診察室を駆け抜け、目にも留まらぬ速度で病院の外へと抜け出てしまった。
「ノイズ!!」
『了解。』
スミオの命令に短く返事を返し、ノイズは素早く人形を追いかけ始める。
そして、それを合図にしたかのように――。
街の中心にある巨大な塔――ロッドが、黒い煙を吹いた。
***
k「これ……どうなってんだよ……!」
眼前に広がるのは、少し前まで平和だったロッド周辺が見る陰も無いほどに破壊された光景……。
s「……最近魔物が増えてきてたのは、これの予兆だったってことか?」
y「悠長なこと言ってないで、この犯人を探さないといけないでしょ!?」
k「……そうだな。なあ、そういえばさっきの人形!アレって何だったんだよ?」
s「俺もそれが気になってた。行こう、あっちに逃げていったはず……!」
スミオの言葉に、君たちはうなずく。瓦礫を避け、向かったその先には――。
「くっ……多勢に無勢だな………」
「………ッ!」
物々しい空気を纏う集団と、それに襲われている二人――。
そのひとりは、あの人形が化けていた人物に酷似している。
「333号ロッドの自警団トキオよ。大人しくその娘を渡せ、貴様も死にたくは無いだろう?」
「断る。ロッドを析られた時点で貴様との交渉は既に成り立たん。
貴様……ヴィルゴとか言ったか。お前たちの目的はなんだ?」
「貴様がその娘をこちらに渡すのなら答えてやっても良い。少し待つぞ、どちらか選べ。
その娘を渡すか、死ぬか。」
瓦礫に隠れながら、君たちは遠巻きにトキオとヴィルゴのやり取りを見ていた。
「トキオ兄ちゃんが相手してる奴は誰だ……?見たこと無い装備だぞ。」
「そんなこと言ってる場合!?はやくトキオさんを助けないと……!」
「あのトキオって人は……?自警団って……?」
「このロッドに魔物が近寄らないように守ってくれてるの。昔からずっと。」
「もうすぐ俺たちも自警団に入れてくれるって話だったんだけど……こんな様子じゃ……。」
ヤチヨとスミオの話を聞きながら、君はトキオに加勢しようと身を乗り出す。
だが、ふとその時君はキワムが近くに居ないことに気づいた。
咄嗟に君が周囲を確認すると、キワムは呆然とした様子でトキオに近づいて行っている……!
「トキオさん……ど、どういうことなんだよ。これは、いったい……!?」
「……なんだ、まだ生き残りが居たか。」
ヴィルゴはそうつぶやくと、舌打ちを交えて銃口をキワムに向けた!
「チッ……!“エクスアルバ"!!」
走り始めた君よりも早く、トキオはヴィルゴとキワムの間に割って入る。
そして――!
もうもうと舞う土煙が晴れると、そこにはバラバラになったトキオのガーディアンと、倒れ伏すキワムの姿。
だが、トキオのガーディアンは体を紫の炎で繋ぎあわせ、すぐに臨戦態勢へと移行する。
「と、トキオさん……ご、ごめんなさい、俺……!!」
「話は後でたっぷり聞く。今は――。
こいつを叩くのが先だ。」
君は二人に走り寄ると、加勢する、とだけ言って、魔力を手に込める。
「トキオ兄ちゃん!」
スミオとヤチヨも君に追いつき、ガーディアンを展開した。
「と、トキオさん、俺……!」
「お前は足手まといだ、クロと一緒に隠れてろ。」
トキオはキワムを見ずにそう言うと、君に向かって向き直る。
「……お前はスミオとヤチヨの知り合いか?何にせよ……加勢、感謝する。」
彼はそう言うなり、体に纏ったガーディアンから紫色の炎を大きく噴出させる。
それを察知したのか、ヴィルゴは携えた銃にエネルギーを充填し始めた……。
「来るぞ!」
***
BOSS ヴィルゴ
***
君たちの攻撃が功を奏したのか、ヴィルゴの鎧からは火花と煙が上がり始めていた。
「チッ、モロい装備だな、まったく……!これだからガーディアンは……!」
捨て台詞を残しながら、ヴィルゴは手にした銃を捨てると、背を向けて逃げていく。
「待ちやがれ!」
その背中をスミオが追おうとするが、その行く手をトキオが阻んだ。
「もういい、追うな。」
「なんでだよ兄ちゃん!やられっぱなしでいいのかよ!!」
「いいんだ。どうせもうこのロッドは機能しない。」
「そんな……。」
力なく座り込むスミオを慰めるように、ノイズが肩の周囲を旋回する。
「……辛いだろうが、俺達は住む場所を変えるしか無いんだ、諦めろ。」
「ロッドって……一体どんな役割を果たしてたんだにゃ?」
「生活に関わる一切だ。水も、モノを動かす魔力も、すべてここから生み出されている。
……今はもう、それを欲する人間は、このロッドでは俺たちだけになってしまったがな。
……ところで、お前と――そこの女の子。貴様達は何者なんだ?」
物憂げな表情から一転して、トキオは厳しい追及の目を君と謎の少女へ向ける。
まず君は、自分が『ロッドのない場所』から来たことと、ウィズが自分のガーディアンであることを告げた。
「……なるほど、君の戦い方が特殊なのもそのせいか。まあいい……次は、君だ。」
「わ、私は……。」
いつの間にか、彼女の隣には病院から逃げ出した例の人形が浮いている。
「私は……アッカ。逃げてきたの……『収穫者』たちから。」
「『収穫者』?なんだそれは。」
彼の言葉に、アッカは一瞬表情を曇らせた。
「ロッドを……すべてのロッドを折ろうとしているヒトたち。
私、逃げてきたの。そこから。」
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