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【黒ウィズ】黄昏メアレス2 Story4

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最終更新者:にゃん


story



〈夢〉は、黄昏に輝いていた。

〈オルタメア〉――そう名乗る〈夢〉。門と都市、その膨大なる魔力を受けて、黄金色に輝いている。

ラギトの鎖につながれたままの〈ラスティメア〉が、茫然と声を上げた。

待てよ、おい……てめェ……なんで生きてる。何やってやがんだ。

そうややこしいことはしちゃいない。魔力の一部を切り離し、〝改変〟して、〈アイアンメア〉のフリをさせただけさ。

おまえたちが集めてくれたこの魔力を、まるごと一気に俺のものにするためにな。

てめェ――ハナっからそのつもりで……!

ハナっからってわけじゃない。〈アイアンメア〉自体はちゃんと存在していたさ。おまえたちの仲間として。

それを殺して、すり替えておいた。〝みんなを守る〟とかいう、ちみっちぇえ夢。あいつがいちばん成り代わりやすかったからな。

――てめェッ!!

 激情に任せ、〈ラスティメア〉は引きちぎる――鎖に絡め取られた己の肉体の方を。

そして頭を中心に瞬時に再生――落ちていた火炎放射器を拾い、〈オルタメア〉へと橋を駆けた。

ふざけてんじゃねェッ!!

 猛る激情、荒ぶる魔力のすべてを炎に変える。灼熱の業火が地獄めいた産声を上げて燃え盛り――

うるせぇな。

 腕の一振りで割かれて、消えた。

さらにその腕は、愕然と凍る〈ラスティメア〉の頭をつかむ。

名前にふさわしい姿に〝変えて〟やるよ。

 君たちは、見た。

〝失われたものを取り戻す夢〟――それゆえに失われたものを復元する力を持つ、その〈夢〉が。

一瞬にして、赤黒く錆びていくさまを。

お……あ……あああぁあああああーっ!

 悲鳴だけを最後に残し、〈夢〉は砕けた。

 錆まみれの魔力が、砕けながら風に広がっていく。

そのあっけなさに、誰もが言葉を失った。

〈ロストメア〉なんてのは、しょせん魔力の塊だ、人らしい見た目も、そういうイメージの元に成り立っているもんでしかねぇ。

そいつをちょいと〝変えて〟やれば……こうなる。

なんで……なんでこんなことするのよ!なんで〈ラスティ〉を!仲間だったのに!!

 〈レベルメア〉が悲鳴めいた糾弾の声を上げた。

〈オルタメア〉は、瞳を殺意に濁らせ、槍のような眼差しで少女を射抜く。

仲間だ?忌々しいふざけんなよ。〈ロストメア〉どもめが。

俺は〝世界を変える夢〟。〝〈ロストメア〉のいない世界に変える夢〟だ!てめぇらなんぞの仲間になったつもりはねぇ!

辛かったぜえ……?〈ロストメア〉の仲良しごっこに付き合うのはよ。吐き気がするったらなかった……。

あんただって〈ロストメア〉のくせにっ!

 少女は信じられないとばかりに叫んだが、〈オルタメア〉は、それすら肴にせせら笑った。

そうよ。だから、早ぇとこ自分を叶えてぇ!〝現実〟に出て、夢として叶って、この世界から一切の〈ロストメア〉を消してやりてぇのさ!

 そして、くるりと背を向ける。

つうわけでよ、俺ァそろそろ門に向かうわ。こんだけの魔力があったらよ。〈ロストメア〉を消し去るなんて、わけねぇだろ。

待ちやがれ、ゲス野郎が!

許さんぞ――〈オルタメア〉ァッ!!

 君たちと〈ロードメア〉は、四方から一斉に仕掛けた。逃れようのない集中攻撃が〈夢〉に殺到する。

すっこんでろ。

 〈オルタメア〉の身体から、カッと黄金色の魔力が放たれる。

それは君たちの攻撃をことごとく打ち払い、君たち自身さえも強烈に跳ね飛ばした。

うあっ……!

 一蹴。そう呼ぶしかない一撃だった。君たちは強烈な衝撃に打ち抜かれ、苦鳴を上げて橋上に倒れる。

人殺しの趣味はねえんだ。じっとしてな。俺が自分を叶えるまでな。

 〈夢〉は、そんな君たちに目もくれず、歩みを再開する。

君は、どうにか身体を起こした。鈍い痛みが身体に響く。意識さえ、半ば飛びかけていた。

何かが違う。魔力の量が違う、というだけではない。力の〝質〟が違う――異様なまでに!

門の力を、得ているからだ……!

 レッジが、苦痛にうめきながら言った。

黄昏という刻限に呼応して……その力が、極限まで膨れ上がっている……!

黄昏時は、無敵ってこと……!?〈ロストメア〉がそれじゃあ、手がつけられないじゃない……!

それでも……止めなければ……!

 弓を杖代わりに、レッジは起き上がろうとする。

歯を食いしばり、目に光を宿し――必死に、戦いの意志を燃やし続ける。

あんな奴に……ユイアの世界を穢させてたまるかッ……!

w――レッジ。

 ふと、彼を優しく呼ぶ声があった。

振り向くレッジ――その肩に、〈ラウズメア〉が、そっと手を触れていた。

私は、あなたを解き放つ夢……。だけど。

あなたはもう、解き放たれてる。自分の心で、道を決めてる。

私……叶っていたのよ。レッジ――

おまえ――何を。

 彼女は、にこりと微笑んで。

歩き去ろうとする〈オルタメア〉に、毅然と言葉を叩きつけた。

〈アイアンメア〉のこと……〝ちみっちぇえ夢〟と、そう言ったわね……〈オルタメア〉。

 その身が、淡く輝き始める。まっすぐな意志――誇りに満ちた決意のもとに。

教えてあげるわ。夢に貴賤などない……。

どんなに小さな夢だろうと、どんなにくだらない夢だろうと……〝願われた〟ことに変わりはない!!

 輝きが強まるとともに、人の輪郭が薄れていく。

あるべき形を失って、戻りゆく。

〝夢〟そのものへ。

〈ラウズ〉ちゃん……!

 ハッとなる〈レベルメア〉を振り返り、彼女は決意の声で言う。

〈ロード〉。〈レベル〉。私は叶った。だから、この力――使って!あなたたちの〝願い〟のために!!

〈ラウズ〉ちゃぁんっ!!

 光が砕けた。

ガラスめいた魔力のかけらが、黄昏の光を受けて、きらきらと踊る。

それは、導かれるように、ひとりの男に吸い込まれていく。

〈ロードメア〉――決然と拳を握る男のもとへと。

おまえの意志……おまえの決意!受け取ったぞ……〈ラウズメア〉!

 開いた拳を天へと伸ばし――

〈夢〉は、渾身の咆呼を放った。

うぉぉぉぉおおおぉおおおおおッ!!

……なんだと?

 あっけに取られたような声を上げ、〈オルタメア〉が足を止めていた。

それは、君たちも同じだった。誰もが、まさか、という顔で、見上げていた。

空を――星の瞬く、静かな夜空を。

どうなってんだ?さっき黄昏になったばかりじゃねェか。

……導いた。

 荒い吐息とともに、〈ロードメア〉が言った。

俺が……夜を導いた。〈ラウズメア〉のくれた、力のすべてで……。

 〈オルタメア〉は、感情の見えない瞳で〈ロードメア〉を見つめ――

なるほどね。だがそいつは、一度きりの奇跡だろ。

 気のない声で言って、歩き出した。

しょうがねえ。次の黄昏まで待ってやる。邪魔しようなんて考えんなよ。さっきも言ったが人殺しの趣昧はねぇんでな――

待てッ――

 倒れたまま、レッジは声を絞り出す。

だが、それが限界だった。

夜の闇に消えていく〈オルタメア〉――

その背を追う力は、誰にもなかった。


 ***


 〈オルタメア〉から受けた傷の治療を終え、君たちは、〈巡る幸い〉亭に集まった。

重苦しい空気が、卓を包んでいる。

完敗――そう呼ぶしかない戦いだった。

圧倒的な力の差を見せつけられ、誰もが重く口を閉ざしていた。

……状況を整理するにゃ。

 こういうとき、口火を切る力がウィズにはある。君は半ばほっとして、師の言葉の続きを待った。

〈オルタメア〉は、魔法陣の内容を〝改変〟して、都市の魔力と門の魔力を、自分に集めている……そうだにゃ?

……そうね。だからこその、あの力よ。

その力は、門の魔力の影響で、黄昏時に極限まで強化される……そうなると勝ち目がないってことは、わかったにゃ。

そして、奴が次に姿を現すのは、おそらく明日の黄昏時……文字通り力ずくで、門を通ろうとするでしょうね。

なら、考えるまでもねえだろ。黄昏までに野郎を見つけてぶった斬る。それしかねえ。

そうですね。黄昏時でなければ、まともにやり合えるかもしれません。それでも、きつい戦いにはなると思いますけど……。

奴の居場所……探し出せるか、〈魔輪匠(ウィールライト)〉。

奴は門とのつながりを得ている。〈ディテクトウィール〉で辿れるはずだ。

あとは戦力つすね。他の〈メアレス〉たちにも声をかけるとかして――

 ミリィは、ちらりとテーブルの隅を見やった。

そこには、本来ここにいるはずのない、ふたりの姿がある。

我々も戦う。

 ぼそりと告げる〈ロードメア〉。ゼラードが、盛大に顔をしかめた。

〈ロストメア〉との共同戦線、ねえ……どさくさに紛れて門を潜るつもりじゃねえだろうな。

奴が門を潜れば、〈ロストメア〉は消える。我々は、なんとしてでも奴を倒さねばならない。

それに……〈アイアン〉も〈ラスティ〉も、〈ラウズ〉ちゃんも、あいつのせいで死んだんだやり返してやんなきゃ、気が済まないよっ!!

おまえたちが拒むのは勝手だ。しかしそれなら、我々も勝手にやらせてもらう。

勝手をやられては連携が取れない。奴を確実に仕留めるなら、協力すべきだ。

確かに。しゃあねえ、決着はその後でつけるか。

方針は決まったな。それでは――

異議がある。

 唐突な言葉に、場が静まり返る。

みなの視線が集中するなか、リフィルは厳然と腕を組み、続けた。

奴は〝改変〟の力を持つ〈ロストメア〉よ。こちらの捜索を逃れる手段なんて、いくらでもひねり出せる。

 確かに、と君はうなずく。

他の〈夢〉のふりさえしていたくらいだ。〈オルタメア〉が黄昏まで本気で逃げ回ったら、見つけ出せるかどうかは定かではない。

でも、リフィルさん。それ以外に方法は――

〝ない〟を〝ある〟に変えてみせるのが、魔道の理よ――コピシュ。

 リフィルは、意味深な視線を〈ロードメア〉に向けた。

明日の黄昏――門の前の広場で〈オルタメア〉を迎え撃つ。

こちらに勝ち目があるとは、向こうも思ってないでしょうね。だからこそ力押しで来るはずよ。

その油断に付け込み、潰す。

 堂々たる宣言に、〈メアレス〉たちは、顔を見合わせ――

いずれも、その顔に戦意の笑みを浮かべた。

リフィルがそう言うからには勝算があるのだろう、という確信に満ちた笑みを。

奴の意表を衝いてやるわけか。

俺ァ、そっちの方が好みだな。夕暮れの決闘ってなァ、洒落てるじゃねえか。

あたしも、探すよりは真っ向からぶつかる方が得意っす!

こちらの数を考えると、狭い路地を逃げ回られるより、広場で戦う方が有利ですね。

何より、あのスカした野郎に一杯食わせてやれるっていうのがいいわね。

 陰鬱な空気から一転、〈メアレス〉たちは、どこか楽しそうに笑みを交わす。

あきれたようにそのさまを見てから、レッジはリフィルを振り向いた。

力任せで挑んでくる相手を、いったいどんな手で迎え撃つ気だ?〈黄昏(サンセット)〉。

決まってる。

 問いに、リフィルは勇ましい笑みで答えた。

〝力任せのタコ殴り〟よ。


 ***


 〈オルタメア〉は、夜に沈む都市を見つめていた。

(予定なら、今頃、叶ってるはずだったのにな)

 予定を狂わされてしまった。

〈ラウズメア〉。〈ロードメア〉。ただ利用するだけのはずの相手に。

(思えば、狂わされっ放しだぜ……)

 自らを叶えるため、〈ロードメア〉たちを利用しようと思い至り、〈アイアンメア〉を殺して魔力とすり替えた。

そこまではよかった。

あとは、彼らの計画の成就を待ち――最後の瞬間、黄昏の直前で魔法陣を〝改変〟すればよかった。

それが、途中で死を装ったせいで、計画成就の前に〈ロードメア〉たちが狩られる危険性が増してしまった。

本当なら、そんな必要はなかったのだ。〈アイアンメア〉として潜り込ませた魔力を操り、堅実に事を運んでいればよかった。

なのに、あえてそうした理由は――


ところでさ、名前つけない?名前!

あ?名前だ?なんでそんなもん。

だってさあ。これからあたしたち、チームで行動するわけでしょ?名前がなくっちや呼びづらいじゃん。

いちいち、今よ、〝失われたものを取り戻す夢〟!とかやってらんないっしょ。つか、あんた長い。

るせえな、てめェが短すぎんだよ。なんだ〝反抗の夢〟って。もっとあんだろ。漠然としすぎだろ。

名前を決めるのは、いいアイディアだな。俺としても、呼びやすいのは助かる。

決まりね。どんな名前にする?

なんでもいいだろ。適当に名前っぽけりゃよ。

じゃ、あんたガラワルイザーね。ガラワルイザー。

ダセェのはよせ!!

そういえば……倒された〈ロストメア〉は、〈メアレス〉たちがその〈夢〉に応じた名前をつけているって聞いたわ。

ああ。俺の封印を解除した〝魔道再興の夢〟も、あえなく散って、連中のリストには〈ミスティックメア〉と載っているはずだ。

じゃあ、〈なんとかメア〉縛りで行く?

〈ガラワルイメア〉。

推すな!!!


「…………。」

〝世界を変える夢〟――〝〈ロストメア〉のいない世界に変える夢〟。

その彼にとって〈ロストメア〉は嫌悪の対象だ。

無論、自分も含めて。

だから、あえて、こんな外見をしている。彼にとって、この姿はサナギだった。いつか蝶となり、はばたくための。

(諦めた夢が勝手に化け物になって、勝手に叶って世界を書き換えちまうなんざ、おぞましくってしょうがねえ。

そんな存在のくせして、自分たちで名前つけて、人間みてぇに笑い合いやがって――)

それを見ているのが、耐えられなかった。

人の見た夢の残りかすでしかない者どもが、人の物真似をしている光景が――

見ていられなかった。

だから、あえて死んだと見せかけて、彼らから離れた。

戦力を低下させることで、〝強引に門を突破する〟選択肢を奪うため、という理由も、あるにはあったが、後付けだ。

(まあいい。明日にはすべてが終わる。世界が変わるんだ。連中のことなんざ、忘れちまえばいい。忘れちまえば……それでいい……)

思いは、夜陰に溶けていく。




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