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【黒ウィズ】シール・サンテ

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最終更新者:にゃん

シール・サンテ





ウィズセレ



ここはとある港町。

陽光を遮る鈍色の雲から降りしきる氷雨が、風景を冬色に染めている。

家々は、まるで氷の魔女から主を匿うかの様に、鎧戸を固く閉ざして冬が行き過ぎるのを待つ。

そんな無人の港に、遥か沖合いから1隻の船が真っ直ぐに向かってくる。

船が進むにつれ、まるでその航跡をそのまま映したかの様に、雲が割れ、空が晴れあがっていく。

そして町はすっかり「夏」になった……。白亜の魔道船、エスターテ号の入港と共に――。


「んー。気っ持ちいい……。私、やっぱり夏って大好き!」


そう言って、船を降りてくる彼女の名はシール・サンテ。エスターテ号の航海士である。

夏を待ちわびた町の人々は、彼女を熱烈に歓迎するが――。


「毎日毎日夏なつナツナツ……って私もう限界夏バテで痩せちゃうわよ!」

シールの後ろから付いてくるエスターテ号の船長はゲッソリとしている。

「船長ってば、みんなこんなに喜んでるのに夏バテなんてサムいこと言わないでくださいよ!」

「さ、寒いって……。だいたい夏が好きって、シールちゃん、夏以外の季節知らないじゃない……。」

「ま、細かいことはいいじゃないですか。私、向こうでフラッペ食べてきまっす!」

と、瞬く間に店が開いた町の目抜き通りへと消えていくシール。

「……はぁ。シールちゃんと働くのは大変って聞いてたけど………。もう私、夏嫌い……。」


――シール・サンテには「夏」しかない。

「自分の周囲を夏にする」

そんな力を彼女は生まれながらに持っていた。

だから今、こうしてエスターテ号に乗り、各地に「夏」という季節を届けて回る仕事をしている。


「さっ! もひとつ夏を届けに行きますか!」


そして船は出航する。港に夏の匂いを残して――。



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story2



夏を曳いて大海を進むエスターテ号。

「もいいけど、やっば海よね!」

海風に髪をなびかせて、シールは舵を握る。

「ね、船長もそう思うでしょ……ってあれ!?」

と、シールはあたりを見回すがそこに船長の姿はない。

「ありゃりゃ……。また逃げちゃったか……。」


常に夏と共にあるエスターテ号の船長職は決して楽な仕事ではない。

シールの魅力と『夢の常夏航路』といういかにもな謳い文句に惹かれる者は後を絶たないが……

しばらくすると、みな夏の陽射しに嫌気がさして船を降りてしまうのだ。


「あーあ、またひとりぼっちか。まあいいけどさ。」

魔力によって進む魔道船は、彼女ひとりでも動かすことが出来るし、元々はそうしていた。

しかし、陸に上かっている時間よりも圧倒的に長い時間を海上で過ごす時間の方が長いシールは、話し相手欲しさに「船長」を募集する様になった……のだが、いつもこうして逃げられるのだ。

「うーん船長って言葉がいけないのかなぁ……。提督……ちがうなぁ……親方? うーん。」

などと言っていると、前方に小さな船が木の葉の様に波に揺れているのを見つける。

「おぉ! 話し相手はっけーん! ……でもこんなところをあんな小さな船で大丈夫かなぁ……。」

と、海上から突如魔物が飛び出して、小船を襲い始めた!

「大変! 助けなきゃ! 沈没なんてサムいこと、私の航路で絶対起こさせないんだから!」

シールの体から夏色の魔力がほとばしり、エスターテ号が加速する!



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story3



「大丈夫だった!? お嬢ちゃん?」

魔物を退けたシールは小船に乗った少女に声をかけた。

「ムキー! お嬢ちゃんじゃないっ! 無敵の海賊、ピレット・チャップだ!」

確かに小船には骸骨の描かれた黒い旗が掲げられている。

「せっかくひとりで倒そうとしてたのに! 初めての魔物だったのに! どうして邪魔したの!?」

「なんか……ごめんね。」

と、シールは謝ってみるが、ピレットの小船はすでに壊され、航行出来る状態ではない。

「この船、ピレットさんひとりで乗っているの? 実は私も――。」

「オマエひとりなのか! ぷっ……笑える! ピレッドは違うぞ。モチピとー緒だ。」

「……モチピ?」

と、船室から金槌をもったこざるが顔をだす。

『ウッキ!』

「モチピ、どう? 穴、塞げそう?」

『ウキ……。』

とモチピは残念そうに首を横に振る。

「……穴って! もう大変じゃない! ピレット、私の船に乗ってよ! 次の港まで送るからさ!」

「うう……しかし海賊が他人の助けなど……。」

「そんなサムいこと言わないでさ! 一緒にいこうよ! ちょうど私も船長探してんだ!」

「何!? ピレットが船長でいいのか!」

「うん!」

「それならピレット世話になる! オマエの名前はなんていう?」

「シール・サンテだよ。夏を届けるエスターテ号の航海士!」


こうして、シールは新たな話し相手――船長と共に、次の町へ夏を届けることとなった。







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