状元の龍亭
概要
レア度 | 画像 | マス |
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効果
35
入手方法
イベント、袁洪(梅山の七怪)
物語
苗が家出した。町中総出で捜し回ったが、見つけることはできなかった。
家が衰えてから、苗は幸せを感じなくなり、兄の湛との関係も以前ほどではなくなっていた。
突然の家出に、家族はとても焦った。湛は父に、弟を探しに町に行くと告げた。父の周は憔悴しきった顔で「あんな不孝息子、 探す必要ない!」と大声で叱りつけた。
しかしそんな父親を背に、湛は家を飛び出していった。湛は、弟の行き先を知っていた。そこは、自分にとって憧れの場所だった。
町の中にある龍亭。そこは、書生たちが秀才になる試験を受ける場所であった。そして、そのそばの井戸端で、苗は酒壺を抱えて酔いつぶれていた。湛はしゃがんで、弟の体についた土埃を払った。
「一緒に帰ろう、 苗。」
苗は兄の顔を捉えると、手にした酒をぐいと飲み干した。
「帰る? あそこはあんたの家だ、 僕の家 じゃない! 僕はもう大人だ、自分の人生 は自分で決める!」
「苗。 行こう、 家に帰るんだ。」 苗は兄の手を振り払い、叫ぶように怒鳴 った。
「なんで!なんであんたは勉強できて、 僕は借金返済の畑仕事なんだ!」
「なんで僕だけ書院に行かせてもらえないんだよ!」
「父さんが息子だと思ってるのはあんただけだ!どうせ僕は、家族の借金を返すためだけの除け者なんだ!」
湛は自分よりずっと年下の、げっそりした弟を見た。固く握った弟の手は、まるでわら紙のように荒れていた。
「帰ったら父さんに、兄さんが勉強をやめて苗を書院に行かせるよう言うから、な?」
苗の涙は止まらず声もかすれ始めた。
「兄さん、子供の頃ここに連れてきてくれたよね、 あの立派な建物を指差して、将来はここで、学問で名を轟かせようって。でも何年も、何年も! 僕は、兄さんが何度も入ってまた出てくるのを、ただ 遠くから見ることしかできなかった!」
「一度でいい!僕も入ってみたかった!そう思って何が悪い!でも父さんは兄さんのことばかり!」
弟の訴えるような言葉は、湛の心に深く突き刺さった。苗は涙をぬぐって、大きく息を吸った。
「兄さん、もう帰ってくれ。僕はついていけない。僕のことは忘れてって、父さんに伝えて。」
苗は立ち上がって、振り返った。その目は湛ではなく、龍亭を見ていた。苗はふらふらと遠くへ歩いていき、夜の闇の中に消えていった。
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