【リバリバ】無料配信オールベットの性能

「わかったわかった、兄ちゃんに任せろ！」

そう言ったのは、我らが長兄レアリザスである。
このセリフが出るまでに、苦節数日、私はありとあらゆる手段を駆使したのだ。
無言の圧、じと目、無駄に丁寧な敬語、そして──最大奥義「お兄ちゃん」呼び。

「ねえ、お兄ちゃん？オラス、カジノに行きたいの
　大切な聖地巡礼なの！一生のお願い！！！」

ここまで甘えたのは人生初である。たぶん。
不老不死に一生のお願いもあったものではないけど。
けれど、近年のオラス史上最高にドハマリしたギャンブルマンガに魂を捧げた1人のオタク者として、ここで引き下がるわけにはいかないのだ。

マンガの舞台となったカジノは、第六層の遊戯施設の中にあって、足を運べばすぐにでも行けるところではあったのだけど、いやね？
ほら、オラスって内弁慶というか？外ではお淑やかじゃん？
あんな人が多いとこ、1人で出向いたら生きて帰れる自信がない。
いや、不老不死だけども。

で、ギャンブル狂の兄が一緒なら大丈夫でしょ！と考えたわけなんだけど、それは大きな思い違いだったわけで。

「……無理」

扉をくぐって一秒で詰んだ。
いや、人が多すぎる。リアルの人間、リアルの喧騒、リアルの圧。
オンラインなら無双できるこのオラスちゃんも、オフラインではただの陰キャ美少女ウサギさん。

「兄ちゃんここで見てるから、好きに遊んでおいで」

レアリザスが呆れた顔で言う。

「いや、思ってたのと違った……」

「何が？」

「全部」

煌びやかな照明、ゲームに熱中する人々、チップの音。
画面越しで見るぶんには最高だったのに、いざ現実に来ると、五感が限界突破してしまう。

「でも……」

ここまで来て何もせず帰るのは嫌だ。
尊敬するギャンブルマンガの主人公たちは、みんなこの空間で堂々と戦っていた。
なら、オラスにできることは──……

「──配信する」

「は？」

「ここでライブ配信すれば、人見知り克服できるし一石二鳥！」

レアリザスがなんとも言えない顔をしている。
いや、当然か。思いついた瞬間「天才か！？」って思ったけど、よく考えたら意味がわからない。

「兄ちゃんは、オラスの配信や趣味を全力で応援してる。
　でも、オラスが無理して苦しむことを後押しできないぞ？」

「……そ、それはそう」

「それに、カジノで配信ってアウトじゃないのか？」

「……そ、それは知らん」

考えろ、オラス。
ここでどうすれば、無理なく、かつ合法的にカジノを楽しめるか。

刹那、眼の前に大きな2つの耳がぴょこぴょこ揺れながら横切る。
バニーガールである。
そりゃあカジノだしバニーガールの1人や2人、どころかたくさん歩いている。
生粋のウサギであるオラス的には多少複雑な気持ちにもなるが、かわいいの象徴とされるのはイヤじゃない。

……ん？

そうだ、バニーガールになればいいじゃん！！！

「ねえ、お兄ちゃん？」

全力甘えボイス発動。震えろ声帯。
世界で一番かわいい妹になれ。なるんだオラス！

「……くっ、今の呼び方、嫌な予感しかしない
　だが、お兄ちゃんと呼ばれて話を聞かないわけには…！」

「カジノのバニーガールって、すごく優雅で、素敵で、仕事としても魅力的じゃない？」

「……だ、だから？」

「だから！オラス、バニーガールとして1日働いてみたいの！！！」

「……な、なので？」

「お兄ちゃん、オラス一人だと寂しいから、一緒にはたらこ？」
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「よし、がんばるぞ…！がんばるぞ…！！」

あれから配信許可とか、1日体験の手配とか、学校の許可とか、なんやかんやいろいろ大変だったらしいんだけど、全部我らが長兄レアリザスお兄ちゃん様だいすきちゅっちゅっ（お願いを聞いてもらうためにしばらくそう呼んだ）が手配してくれた。

憧れのあの場所で、伝説の聖地で、いまオラスはバニーになる。

大丈夫、1日なら！1日ならいける！！

──こうして、長い長いバニーな1日が始まったのだ。

──『無料配信オールベット』より抜粋