【白猫】ブルーミングブレイズ Story4
ブルーミングブレイズ Story4
後日談
目次
story13 決然ガールズ♪
この度はご迷惑をおかげしまして、誠に申し訳ございませんでした。
意外とショボかったですね……
楽譜、演奏しないで食べてしまったからなのでは?
元に戻れなくなったら怖いから、食べるくらいなら大丈夫かなって……
メリシャさん。この人は、いったい何者なのですか?
彼――ポギーは、私の元弟子よ。私か現役時代に書き溜めた曲を使って、音楽界を上り詰めた男……
盗んだってこと……?ひどい……どうして、そんなことしたの!?
……才能がなかったからに、決まってるだろう……?
だからといって――誰かを足蹴にして得た名声に、意味はありませんよ。
それでも僕は……しがみついていたかったんだ……
どれだけ挫折しても……どんな汚いことをしてでも……音楽の、世界に……
あの、みなさん、メリシャさんも!ここはわたしたちに任せて、早くステージヘ!!
うわ、そうだった!?まずいよ、急がないと……!!
……いえ。本番の時間はもう、過ぎてしまっているのです……
……少々の遅刻なら、大目に見てもらえるかもしれません!諦めずに――
――無理よ。オープニングアクトは、あなたたちの予定だった。
ぽっと出の新人が遅刻を待ってもらえるほど、甘い世界じゃないわ。
それじゃあ、もう……
――メリシャ。それならせめて、あなたが隠していたこと、ぜんぶ教えて。
……
ここまで付き合った私たちには、あなたの思惑を知る権利がある。そうでしょ。
深い理由なんてないわ。……本当よ。
けれど、それでもいけれど、それでもいいなら――昔話を、してあげる。
……私には、幼馴染がいた。私が音楽の道を志すきっかけになった、親友が。
……それが、ミーサさんね?
メリシャさんは、友だちと一緒に音楽を始めたんだね。
ノアたちと一緒なのです。
けれど、ふたりで書いた初めての曲がようやく完成した日、ミーサは倒れた……
――病気だった。とても厄介な、ね。
それから私は作曲家になり、ひたすらに曲を生み出して、病床のミーサに聴かせた。……<鬼才>と呼ばれるようになったのはその頃よ。
メリシャさんは、病気のミーサさんを音楽で励まそうとしてたんだね……
そう。私の音楽が、病と闘う力を生むと……愚かにも信じて。
愚か、って……それじゃあ……
彼女は旅立ってしまった。二十年以上も前に。
それでは、メリシャさんが音楽界から姿を消したのは――
……虚しくなったからよ。いままでの歩みが、すべて無意味だったと気づいて。
音楽に現実を覆す力なんてない――そんな現実を、突きつけられて。
そんなわけ……無意味なわけないよっ!!
ミーサさんはきっと……ううん、絶対っ!メリシャさんの音楽で元気づけられてたよ……!
……もしかして、私たちが今日まで練習してきた曲は――
そう。私とミーサが若い頃、初めてふたりで書いた曲。
いつか病気が治ったら、一緒に演ろうと、決めてた曲……
とても大切な曲だったのですね……
そんな大事なものをなぜ、会ったばかりのわたしたちに……?
……自分でも、よくわからないわ。
ただあの日――風に飛ばされた楽譜を拾ってくれたあなたたちに――私は、運命を感じたの。
ずっと眠り続けていた曲を、せめてちゃんとしたかたちで人目に出して……葬ってあげたかった。
ただそれだけの、くだらない感傷。がっかりした?
――嘘。
音楽に懸けるあなたの思いは、そんな生易しいものじゃなかった。私たちを指導するあなたの熱は、そんな仄暗いものじゃなかった。
……大切な曲を聴いて、あなたはもう一度、前に進みたかったんじゃないの?過去を振り払って……もう一度、音楽の道を。
知ったような口を……!
――ねぇ、みんな。
はい。やりましょう。
ようやく本番なのです。
やるって、まさか――演奏を?
当たり前じゃん!ほらきて、メリシャさん!あとおじさんも!!
だ、だがもう、ライブの時間は過ぎて……
なんのこと?私たちのライブは、これからよ。
***
……準備よっし!それじゃあ、いくよ……!
――あたしたちは!……あたしたちは~……あ~……
マールさん?ど、どうかしました……?
バンド名、まだ決めてない!!!
すっかり忘れていたのです……
エンジェル☆ド根性ガールズ!?握り飯握り隊……ああ、なんか違います!
story14 咲いてロッキンガールズ♪
「いいか貴様らの正体を教えてやる!永遠に咲かないクソッタレ花だ!!
根腐れてッ!茎には虫がたかりッ!葉はしおれッ!つぼみは頑なに閉じたままッ!
――あなたたちは、私の望んだ薔薇ではなかったわ。」
私たちは……不屈の薔薇……
私たちは――<Not lose Rose>!
<Not lose Rose>――
Blooming Blaze!
ドラムは、いわば<根>よ。精確なリズムを刻んで、サウンドを支えなさい。
楽しい!楽しい!!楽しい――!!!
音楽って、すっごく楽しい!!お腹の底から、リズムがどんどんあふれ出てくる!
そうだ。楽しいから、歌うんだ!元気に、陽気に、無邪気に――!
周りの人たちにも――このハッピーを届けるために!!
ベースはバンド全体を繋ぐ<茎>。ギターでは出せない低音で、ボトムを固めるのが役目。
くじけてしまった人ひとりの心すら救えずに――なにが守護天使だ。
どんな絶望も、困難も。立ち上がり続ける限り、光はいつかきっと差す――
それならわたしは、その人が再ぴ立ち上がれるよう応援してあげたい――
それがわたしの――誇りだ!!!
キーボードは鮮やかな<葉>ね。広い音域と優しい音色を駆使し、ギターとは異なる色彩でサウンドを彩るの。
――音楽は、素敵なのです。メリシャさんと出会えて――カスミさんやルカさん、マールと、たくさん仲良くなれたのです――
人と人、絆と絆を繋ぐ力。それはきっと、人の生み出した神秘の力――
旋律の海をたゆたうのは、こんなにも心地いい……
……この心地よさが、この曲を聴く人の心にもどうか届いてほしいのです――
そしてギターは――<花弁>。変幻自在の音色を操り、アンサンプルの要となる鮮烈なる華……
――メリシャの言葉はきっと、残酷なまでに真実だ。音楽に、現実を覆す力なんてあるはずがない。
だけど。それでも。きっと。
「おかげで明日もがんばれそう!だから、アリガトー♪」
苦しい現実を乗り越えて、再び前へと歩み出すための――
小さな小さな情熱を、心に灯すことならできるんだ。
だから私は――ありったけ全部――音と叫びに変えて――!
みんな活き活きしてて……のびのびしてて……とっっっても素敵ですね!!
……なんてまっすぐで、けがれないサウンドだ……
……僕はいったい、いつ間違えたんだろう……あ、独立して売れなくなったときからだわ……
おい、なに立ち止まってんだよ!?もうフェス始まってるぜ!?
ちょっとまって。このバンド、なんか気になって……
なんだなんだ?すげーイカしたサウンドだな!
彼女たちと、この島で初めて出会ったあの日。
私は本当は、あの楽譜を海に捨てるつもりだった。
過去を振り切りたかったから。
親友の死を忘れたかったから。
なのに――
だって風に飛ばされちゃったとき、すごく悲しそうな顔してたでしょ?
きっと大事なものだと、すぐにわかったのです。
どこの誰であろうと、悲しい顔をしているよりも笑っていた方がいいに決まっています!
はい、どうぞ。今度は風に飛ばされないよう、気をつけて。
屈託のない、その言葉が。曇りのない、その瞳が。
「メリシャったら、またひとり?暗いぞ暗いぞー」
「……あなたの薔薇に、水をやっていたんだけど」
「じゃ、終わったら曲の続き、一緒に考えよ!そんでバンドメンバー集めてさ、いつかライブやるの!
――約束だからね!!」
差し伸べられたその手が。――痛いほどに、懐かしくて。
……あなたたちが。私の失くした、あの頃の、情熱(きおく)を――
――――
最終話 不屈の薔薇
<翌日――>
それではみなさん……どうかお元気で!!
ばいばい、シズ!ハッピータムタムハイターッチ♪
今回もお世話になりました!あわただしい日々でしたが、楽しかったです!
にしても、あのポギーって人、普通に捕まっちやったね。
罪をつぐなったら、いつかメリシャさんと仲直りしてほしいのです……
それじゃあ、色々ありがとう。きっとまた遊びにくるわ、シズ。
いつでも誘ってくださいなのです♪
はい、喜んで!
……メリシャさん、見送りきてくれなかったね……
少し寂しいですけど、メリシャさんらしいかもしれませんね。
速達でーす。って、ウワァアア!あのときの足が速い化け物だァ!
その節はお騒がせしましたァァ!!
運転手さん、ノアたちになにかご用なのです?
あ、あぁ……これ、届け物だよ。間に合ってよかった。
うわ、おっきな包み~!いったいなんだろ?
……え?アレ?これ……わたしが使ってたベース!?
ノアのキーボードもあるのです……
ドラムセットだ~!
ギター……それに、あの曲の楽譜も――
裏になにか、書いてあるみたいですよ。
「フフ、気持ちいい天気ね。こんな日は、いい仕事ができそう。
――<鬼才>の復活だもの。手抜きはできないものね。」
『あの曲も、そしてあなたたちが奏でた旋律も――』
『いまはもう、あなたたちだけのもの――』
『これからも咲き誇りなさい。自分たちのために。あるいは誰かのために』
『あなたたちは――世界一鮮やかで力強い、不屈の薔薇なのだから』
Blooming Blaze!
~咲いてロッキンガールズ~ -END-