【黒ウィズ】神都ピカレスク Story
国際都市・神都(シエンタウン)――
街の夜は、昼間の華やかさに覆い隠された欲望がむき出しになる。
そして夜の主役は、それぞれの欲望を胸に秘めた盗賊たちだった。
二人組の盗賊ケネスとギャスパーはとある事件に巻き込まれ、人間離れした〈怪人〉と対決することになる。
なんら対抗策を持たぬ二人だったが、己の身に起こった奇妙な力の萌芽が、彼らの窮地を救い――運命を変えた。
プロローグ
1QZ8年、神都(シエンタウン)――
その街は数十年前まではただの漁業を商う水郷だった。
だが、何百年と培った時代遅れの慎ましい秩序は、ある時一挙に崩れ落ちた。
戦争。そして内乱の果てに、この地は世界征服という夢物語を追う列強国が奇妙に共存する地となった。
文化も人も混じりあい、せめぎ合い、急速に近代的な様相を与えられ、以前の秩序は新たな秩序に塗りつぶされる。
けれども、街が夜を迎える時、出来合いの新秩序も鳴りを潜めた。
無秩序という名の夜を飛び交う、盗賊たちの饗宴が始まるからだった。
盗むこと、それは美学だ。
相手の目をくらまし、騙し、忍び込み、そして盗む。誰にも気づかれず、誰も傷つけず。
我々にとって最良の選択は、より大きく、より困難な仕事に挑むことだ。
それが、盗みをより美しくする。
「相変わらず下品なことを考えるな……。」
一枚のカードを見つめて、男が呟いた。カードには所々に穴が空いている。
パンチカード。その不規則な穴が膨大な情報を内包している。
読み取り機に差し込めば、そこには人の知能とは違う、あるか、無しか、で描かれた世界が現れる。
地上から上空へ吹き上げた風が男の髪を揺らした。
「ギャス、そいつは一体いくらになるんだ?」
「金では測れない。こいつには連合の軍事計画が書かれているんだ。どこかの国に売れば大金になるが売る気はない。」
「まーた、戦争嫌いかよ。」
「そうだ、ケネス。我が一族の家訓だ。「美学のない盗みを許すな」。
戦争は、誰もが美学のない泥棒になる。そんなものは下劣で、下品だ。」
「そうですか。まあいいさ。こんなところで時間潰してないで、帰ろうぜ。」
はためく外套を払うと、それは夜風と混ざり合い、夜の一部になった。
その夜に亀裂が走る。
女性の声だった。
「いやな予感……。」
「計画変更。……女性を助けるぞ。」
「本気か? 俺たち泥棒だぜ?」
「ああ、泥棒だ。だが美学がある。か弱い女性は必ず助ける。お気に召さないか?」
「お気に召さないね。人助けは嫌いだ。勝手に生きろ。それが俺の考え方だ。
けど、賭けは好きだ。どっちが悪党をとっちめるか、賭けようぜ。」
「けしからんやつだ。」
「ああ、泥棒だからな。」
ふたつの影が高層建築物から飛び降りた。
神都ピカレスク | |
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