【黒ウィズ】ARES THE VANGUARD Story
story
――終焉は始まった。
天を衝くその巨躯。山をも砕くその巨腕。天地をどよもす巨神が群れをなして都市を襲う。
それは現代に蘇る神話の光景。巨神と神々の戦い――ティタノマキア。
巨神の群れを指揮するのは、宙に浮く小さな影。すべてを嘲笑う魔神。
それは無慈悲なる完全な躊踊。ビルは崩れ、道は割れ、人々はただ、天を仰ぎ、嘆く。
ああ、我々はこうして祈りながら、終わりゆくしかないのだろうか?
――否。
閃光がはしる。1体の巨神が揺らぎ、周囲のビルを巻きこんで、轟音をたてながら、どうと倒れる。
雷霆のごとき蹴撃が、ー撃のもとに仲間の巨体を打ち倒したのだと、周囲の巨神が気づいたのは、宙に浮く小さな姿を見てからだった。
ビラ・ヴァレリ!
エク・クリトーン・メテュ!
小さな拳がふるわれるたび、1体、また1体と巨神の身体は吹き飛び、崩れ落ちて大地を揺らす。
だが、これはティタノマキア。倒せども倒せども、巨神は雲霞の如く湧き、マスクの男に立ちはだかる。
ついに取り囲まれたマスクの男は、絶望の光景を前に――笑った。
目覚めろ神器(パンドラ)!
腰にさげた杯を手に取ると黄金色の液体が満ちる。男は左手をふるい、まばゆい光を放つそれを、天に撒いた。
瞬間、幾千の雫は、あるいは剣に、あるいは槍に、あるいは斧に、あるいは矢に、あるいは鉾に、無数の武器へと姿を変え、巨神に降り注ぐ。
その武器のひとつひとつが、神の祝福を受けし刃群がる巨体を貫き、引き裂き、打ち倒す。
魔神の手に真紅の炎が宿る。それは太陽の熱を閉じ込めた極限の赤。炎神の力のみが起こしうる奇跡の顕現である。
杯にふたたび黄金色の液体が満ちる。さきほどにも倍する輝きを放つそれを、男はぐいと飲み干した。
黄金色の輝きが、男を包む。神酒ネクタル。それを飲み干すものは、神にも等しい力を宿す。
赤き炎と金の輝きが、加速する。
それは正しく神話の光景。神の力と神の力がぶつかりあう神代の世界。その光は都市のすべてを包みこむ。
「「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」
***
story
研修室に大声が響くと、「またか」という、微妙な空気が流れ、講師はため息を吐いた。
まず現着するなり戦闘を開始しました。これは戦闘区域への誘導を怠ったと見倣され、第8条違反になります。
またレプリカではない神器の使用は区長の承認が必要ですが、無断使用しています。第3条違反です。
さらに攻撃によるビルの倒壊。こちらは前述の誘導と申請を踏まえていれば防げたと思われます。第7条に照らし合わせる必要があるかと。
また映像は途絶えていますが、この事件でディオニソスⅩⅡは戦闘中に現場を離れ、負傷するという不可解な動きを見せています。
これは市民に不安を与える行動であり、大原則たる第1条違反であるとして、長く議論がかわされることとなっています。
他にも第13条、第42条、第75条などにも抵触している可能性があり……。
彼女の説明した通りです。確かにこのヒーローは勇敢に戦いましたが多数の条例違反を犯しているのです。
悪党に勝つのは当然のこととして、常にルールを意識して活動することを忘れてはなりません。
我々は――国家公務員(ヒーロー)なのですから。
世界最大の巨大都市オリュンポリス。その特殊公務員の新人研修である。
狭き門を潜り抜けた人材は優秀であり、講師の言葉にも、素直に返事した。
「「「はかりません!」
――ひとりを除いて。
いまのヒーローは悪を挫き、弱きを助けました!なにも悪いことなんてありません!
***
人造神器(レプリ・パンドラ)、起動。
***
魂なんかじゃなにも救えない。ルールを守る者にこそ、正しい力は宿る。いい加減、理解できたでしょう?
返事がない。――気絶していた。アレイシアはすこぶる弱かった。
と、そこでチャイムが鳴り、室内から講師や同期が出てくる。
こうして、いつものように、新人研修のー日は終わったのであった。
story
帰り道、アレイシアは近所のエリュシオンマート(通称エリュマ)で、ー日の疲れを癒していた。
アレイシアはうなずきながら、ハンバーガーを頬張る。
帰り道、この優しい店長と話しながら、エリュマ名物ハンバーガーを食べるのが彼女の日課だった。
そう言うと、店長はスッとひとつの皿を取り出す。
国家公務員(ヒーロー)だからね!それじゃ、ごちそうさま!
元気に駆けていくアレイシアを、店長は微笑んで見送る。なお――
彼はただのアルバイトで、店長というのはあだ名である。
ともあれ、これがヒーロー研修生、アレイシアの日常だった。
――この日までは。
あらすじ
神々の力を持つヒーロー達が悪と戦う異界。
ヒーローは国家公務員として正義のために戦っていた。
だが公的機関ゆえの厳しいルールが、いつしか彼らの心を縛りつける……。
新人ヒーロー、アレイシア。
彼女の存在が世界を変える!