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【黒ウィズ】アイドルωキャッツ!! Story1

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作成者: にゃん
最終更新者: にゃん
2018/03/30


猫葉原の駅に電車が滑り込む。

ドアが開き、人々が水のように吐き出されていく。


本流から逸れて彼女たちが行き着いたのは、駅のプラットホームにあるミルクスタンドであった。


その濁流の中にきゃっつはいた。

たどり着くとガトリンはスタンドに肘をつき、言い放つ。


いつもの。


出てきたのはナースの如く純白のミルクが詰まった瓶と白あんぱん。

がま口財布からコインを取り出し、支払いを終えると、がま口はパチリときれいな音を響かせた。


私、フルーツ牛乳と3色パン。


と、財布を閉じているテープをバリバリ鳴らしながら、リルムはコインを取り出す。


私はうぐいすパンといちごミルクです!

リリーちゃん、いつもうぐいすパン食べるけどさ。うぐいすパンって何入ってるの?

うぐいすですよ。

マジ?

え!? これ、うぐいすなんですね……。うぐいすってこんな味するんですね。

鵜呑みにしてるから、誰か止めてやってくれ。


他の者もそれぞれの注文を済ませ、パンとミルクを手にする。

電車移動が多い、きゃっつにとって、事務所のある猫葉原駅のミルクスタンドは、仕事終わりの憩いを与えてくれる場所だった。

それぞれ、思い思いのミルクと、思い思いの菓子パンを手に取り、備え付けられた簡易的なテーブルを囲む。


んぐ………んぐ……ぷはー! はー、この一杯のためにいきていますね。


冷たいミルクで一息ついたら、彼女たちの話題は自然と今日の仕事のことになる。それが彼女たちの定番であった。

ただ今日は、自分たちのパフォーマンスの出来よりも、自分たちの現実に打ちのめされた日である。


今日はちょっとショックでしたね……。

すまない。ワタシがのり弁さえ持ってなかったら、あんなことにはならなかったな。ちょっと慌てていたんだ……。

(慌ててたらのり弁持っていくの? セラータいますごく変なこと言ってる……かわいい!)

慌てた時は、一旦手に持っている物を置いた方がいいよ。私もよくそうする。

お前はそうやって我を置いたままどこかに行くだろ。セラータも気にするな。誰が悪いとかではない。

しいて挙げれば。売れてないのが悪い。


「「「「それな。」」」」



セラータはクリームパンを齧りながら、ホームの向こうに見える巨大な塔を見上げていた。

そこはアイドルたちが憧れる場所〈偶像の塔〉である。

全てのアイドルはあの頂点にある会場でライブをすることを目指していた。

ホームで煌々と光るデジタルサイネージが同じ映像と音声を繰り返している。

雑踏が生み出す音の壁を越えて、なぜかその声がきゃっつの耳に届いた。

『色んな具材を超よくばりにサンドしたよくばりサンドイッチ! もう具だくさん過ぎて、どんな味に感じるかは食べた人次第。

貴方のよくばりサンドイッチは一体どんな味? いまならロディ・ギャドの96時間ライブチケットが当たる!


ロディはあそこでライブするんだろ。96時間ライブ。すごいな。

ライブのスポンサーがサンドイッチの会社みたいだね。売れてる人には売れてる物が寄ってくるんだね。

そうだね。友達のソフィちゃんも「世の中、金」って言ってた。

すごい友達だね……。

小娘、それ違うソフィだからな。最近、お前ごっちゃにしてるけど、それ違うからな。

そろそろ事務所に戻りましょうか。

あ、みんな、バンのポイントシールちょうだい。集めてるんだ。杖の人に貼って。


いいよ、とばかりにきゃっつの面々はエターナル・ロアにシールを張りつける。


ちょ! お前ら! そんなものを我に貼るな!


それは20点分集めて応募すれば、きれいなお皿が当たるというパン会社のキャンペーン用のシールであった。


0.5点が6つで、杖の人、合計で3点だね。

もう……後できれいに剥がせよ。


 ***


ユッカ・エンデは、ティータイム前に自室に戻り、身支度を整えていた。


「パンケーキ、パンケーキ、バナナパンケ~キ~。今日のティータイムは~。バナナパンケ~キ~。」


髪に櫛を入れ、リボンを結びなおす。

お楽しみのティータイムには、時計塔の仕事でぐずぐずになった姿で参加したくない。

それは乙女心とは違う、時計塔の作業者としてのけじめである。

最後にお気に入りの帽子をずぼっと被る。顔を少し右に向け、それから左に向け、鏡に映る自分を確かめる。


「よし! 完璧。ではではティータイムに向かいますか!」


鏡に映った自分はそうは言わなかった。黙って無表情のままだった。


「あれ?」


おかしいな。と思った時、鏡は光る。光は彼女を飲み込み、やがて鏡の中に収束していった。

その場にもはや誰もいない。使い終わったばかりの櫛に亜麻色の長い髪が一本、垂れ下がっていただけだった。


 ***


「あれ? あれあれ? 私、自分の部屋にいたはずなのに!? ここどこだろう……?」


見ると、ユッカの横には表情のない、まるで人形のような人々が長い隊列を作り、どこかへ向かっていた。

押し黙り、苦しみを感じているようにも見えるが、それ以上に足を止めることすら億劫そうに進んでいる。


「なんだろう、あの人たち……。大丈夫かな?」


彼らを見た瞬間、ユッカは自分の立場を忘れ、彼らの向かう場所へ行こうと思った。

ユッカ・エンデは、そういう少女である。


 ***


奇妙な行列についていったユッカは、何やら騒ぎが起きている所にたどり着いた。


「貴様、労働ノ 邪魔ヲ スルトハ 何事カ!」

「バカヤロー! みんな働き過ぎて、心が壊れちまってるじゃねーか! こんな状態で働けるわけないだろ!」

「何ヲ言ウ! 心ガ 壊レテカラガ 本当ノ労働ダ!! 心ノ『スクラッブ&ビルド』コソガ 労働ナノダ!」


とりわけ奇妙な人形と小さな羽を背負った少女が言い争いをしていた。

口汚く罵りあっている光景を見て、ユッカはこの人たちとは関わらないでおこう。と思った。

そう思い、そこを素通りするつもりだった。ところが。


「休憩時間ナド 必要ナイ! 食事スルノモ! オ茶ヲ飲ムノモ、全テ 仕事シナガラ ヤルノダ!」


その言葉、聞き捨てならなかった。

時計塔の整備主任兼生活向上主任としても。その言葉は聞き捨てならなかった。

ユッカは口汚く罵り合うふたりの間に入り、一方の奇抜な人形を見据えた。

そして、敬愛する上司である女神セリーヌが言いそうなセリフで人形に迫る。


「いまの言葉。もしかして、ティータイムをバカにしてますか?」

「ナ、ナンダ オ前ハ? ティータイムトカ 一言モ 言ッテナイゾ!」

「ティータイムは仕事の効率を管理する上では非常に重要なことなんです! 謝って下さい! ティータイムに謝って下さい!」

「ナナナ、ティータイムニ 謝ルトカ、意味不明ダ!」


そこになぜか加勢し始めたのが、言い争っていた少女である。


「謝れよ! コノヤロウ! 謝る時はすぱっと謝るのが、筋ってもんだろうが!」

「謝って下さい!」

「謝れよ!」

「謝って下さい!」

「謝れよ!」

「ヌヌヌヌヌヌヌ……! ソレデモ僕ハagreeデキナーイ!」


 ***


「ドント……トラスト……オーバーワーク……。アイ……マスト……アポロジャイズ……。」

「ふー、どうやらわかってくれたようですね。いやーよかったよかった。」

「アイ……マスト……アポロジャイズ……。」

「ティータイムを否定された時は。ちょっとびっくりしちゃいましたけど、わかってくれたらいいんですよ。」

「アイ……マスト……アボロジャイズ……。」


もはや謝罪の言葉を呟くだけの、生ける骸となり果てた者の肩をポンと叩き、元の場所に送り出す。

そこでようやく、自分と共闘した少女へと、ユッカは目を向けた。


「こんにちは。私はユッカ・エンデです。さっきは助けてくれてありがとう。助かりました。」

「いえいえ、こちらこそですよ。わたしはルカ・フォルティス。守護天使をやっております。日夜、悪を退け、正しき心を導いております~。」

「へえ、そうなんだ。だから、さっきもティータイムを守ってくれたんですね。」

「ええ。ですがその前に、あの人がここにいるみなさんを無理に働かせるものですから……。」


ルカはぐっと拳を握りしめた。


守ったらーい! という気持ちになってしまったんですね。

そうだ、ユッカさんは何かお困りのことはございませんか?」

「えーと……あ。ここから帰る方法を探してるかな……。」

「お。それなら途中でそれっぽい機械を見つけましたよー。いまは道連れのみなさんが調べております。」

「機械?」

「ええ……ですが、みなさん、機械というものに不慣れでして、どうしていいものか困っているのです。」


そこまで聞くと、ユッカは拳で自らの胸を叩いてみせた。


「それなら私に任せて! 私、こう見えても、時計塔エターナル・クロノスの整備主任です!

機械のことなら何でも知ってるよ。」

「本当ですか! これはラッキーですね~。では早速案内いたします。ささ、こちらへ。」

「大丈夫。機械なんて大体叩けば動くから。」

「おやおや、整備士らしからぬお言葉。自信のあらわれですかねー? 頼もしいですね~!」


 ***


不思議な機械がガタゴト音をたてて動いていた。その傍らに、4人の少女たちが立っていた。

向こうから歩いてくるルカたちを見つけ、機械を調べる手を止める。


mルカちゃんが帰って来たみたいだ。誰か連れてきてる。

Eどなたでしょうか? ハンマーを軽々と振り回してますね。何だかいかつい方ですね。

t(いかつい……?)

でも、仲良く話しているから大丈夫じゃないでしょうか?


簡単な自己紹介を済ませ、少女たちはユッカに機械の調査をゆだねることにした。

ちょうどよく作業着らしい服があったので、それに着替えて、ユッカは作業に取り掛かった。


ユッカさん、わかりますか?

yうん。なんとなくわかった。この機械の上の部分に鏡がついているでしょ。そこが別の世界と繋がるようになっているの。

こちらに呼び出す力が作動しているみたいだけど、これを逆転させれば、元の世界に帰れるんじゃないかな?

お~、ユッちゃん、天才! そんなこと出来るんだ!

yうん。まあ、このレバーを下に降ろせばいいだけなんだけどね。

ユッカが機械の側面についたレバーを下に降ろすと、駆動音が変わった。

b最初からそういう風に出来ていたんですね。

yうん。でもこんな大掛かりな物、一体誰が作ったんだろう。

m謎っちゃ謎だよね~……。

おや?


ふと周囲を見ると、虚ろな表情の人形たちが機械の側に集まりつつあった。


みなさん、どうしたのですか?


その顔は、虚ろでありながら、何かを伝えようとしているようでもあった。


yこの人たちがこの機械作ったのかな?

え?

yこの人たちが、自分たちを助けてほしくて、この機械作ったのかも……。

機械って整備している人の想いが宿るの。この機械はすごく願いを込めて手入れされてた。

mここの人たち、確かに辛そうに働いてるよね……。

bわたくしたちはここに呼ばれた? ということですか?

E何のためにですか?

yこの世界を変えるためじゃないかな? ここ、すごく環境が良くない。

労働の効率も作業者の負担も全然考慮されてない。ただ、やみくもに働かせているだけだもん。

そういうことがわかるんですか、ユッカさん。

yうん。私、整備主任だから、一般整備員の、労働状況を把握しなきゃいけないんだ。ここが最悪の状態だっていうのはわかるよ。

ユッカさん……やりませんか? ここの職場環境を変えませんか? 働き方! 改革しませんか!

yうん! やろう!


少女たちの目に異様な輝きが宿った。

奇妙な世界で、奇妙な緑を作った少女たちが、そこに込められた願いを知り、世界を変える決意をした瞬間である。


tでは、私はこのあたりでー……。

m駄目。


その団結は固かった。


tあー、やっぱりー……。

みなさん! やりますよ!

職場環境! 守ったらーーーい!!

「「らーーーい!」」

「「「らーーーい。」」」



 ***



一方その頃、きゃっつは。


おう……ガドリン、オメエ、いまなんつった?

あ? オメエのことピュアだっつったんだよ。聞こえなかったか、コラァ?

ああ? 誰に向かってピュアだっつってんだよ? もういい。オメエとは話になんねえ。帰らせてもうらうぜ。

おいおい、待てこら。もう引き返せねえとこまで来ちまったぜ。ショーマストゴーオンなんだよ、コノヤロウ!


あれは何をやってんだ?

暇なときに見ていたテレビの真似事だ。小娘たちの間で流行ってるんだ。


地下で起きていることなど、知る由もなく、ふざけていた。




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アイドルキャッツ!!


  プロローグ 

1 Heart break Work(初級)

  無防備会議

2 キューリー(中級)

3 物販戦線異状アリ!(上級)

  リアル・ブラウンの弁当

4 アイドル特攻大作戦(封魔級)

5 フルタイム・チケット(絶級)

6 番外編

7 嘘猫は眠らない






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