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【黒ウィズ】アレス・ザ・ヴァンガード Story3

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作成者: にゃん
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「ヒーローなんて、いない……。」


 ティタノマキア事変――

最悪のヴィラン、魔神プロメトリックにより生み出された無数の暴走巨神たちが、オリュンポリスを襲撃した惨劇。

最強のトップヒーローたちに率いられたオリュンポリスフォースの総力戦により敵は退けられ、事件は終息したが――

それはすべての人間が救われたことを意味しているわけではない。

オリュンポリスから離れた場所にある小さな町。アレイシアの家はそこにあった。

そして巨神に踏み潰された。

ヒーローは人々のために戦う。正確には、より多くの人々のために。

オリュンポリスが襲撃されている混乱の最中、小さな町に起きた惨劇は後回しにされた。

仕方のない選択ではあったのだろう。この町に派遣するヒーローの戦力で、数倍のオリュンポリスの人間が救えるのだ。

だから、アレイシアは理解した。

「ヒーローなんて、いない。ボクのところには、来ないんだ。」

 見上げる。しかし空は見えない。あるのはこれから自分を踏み潰す巨大な足だけ。

せめてもの幼き衿持を視線にこめて、その光景から目をそらすまいと、歯を食いしばる。

彼女の短い生の終焉を告げる黒い天蓋はゆっくりと降りてきて、視界は闇黒に染まり――

空が見えた。

「ノイトス・クロツァオ!」

 ヒーローが、いた。巨神をー撃のもとに打ち倒していた。

ディオニソスⅩⅡ。最強と謳われたヒーロー。オリュンポリスにいなければならない人物。

来るはずのない存在が、この惨劇の中、都市を離れ、アレイシアの前に立っていた。


「遅れてすまなかった。だが、もう大丈夫だ。」

 力強い手が、優しく彼女の頭を撫でる。気がつくと、笑みがこぼれていた。

「いい笑顔だ。君を守れて良かった。」

 そう言って、ディオニソスⅩⅡは飛び去った。それきり、会ったことはない。

だがアレイシアの胸に、想いは刻まれた。

――ヒーローは、来る。ヒーローは来るのだ。

道理も常識も摂理もなく。声なき声を聞き届けて。ある日、突然、あらわれる。

だから――


いいかげん、起きたらんかい、パンドラァァァァァァァァ!

ア、アレイシア!?その姿は!?

 輝く炎のごときその立ち姿。腕に備える槍から発する神秘の光。それはまさしく神の力だ。

知らん!なんか変身できた!!

なんかってなによ!それにそれ、ハデス神の力じゃないわよねいったいなんの神なの!?

知らん!なんか強い!

人造神器は……その髪飾り?というか、それ、もしかしてレプリカじゃなくて本物の神器!?

知らん知らん!わかるのは……。

 起き上がってきた敵に向けて、アレイシアの肉体が前傾する。その身が猛る炎となり、走り出した。

ヒーローが来たってことだぁぁぁぁぁぁ!

はやっ……!エリヤ・ロパロォ!

 しかし距離が離れており、敵の反応も鋭かった。すかさず振り下ろされた棍棒が、直進するアレイシアを捉える。

だから動きが素直すぎるって……!

だっしゃしょかぁぁぁぁぁぁ!

 突き出された左の拳が、その棍棒を弾き返した。

障害なんてものは、全部壊してあらわれる!それがヒーローでしょうがぁぁぁぁ!でもちょっと痛かったぁぁぁぁ!

なっ、マジかよ!チッ、いったん隣の区に逃げて……。

 ヴィランは俊敏に飛び退り、隣の区へと逃げ込んだ。だが、アレイシアは迷わずそれを追う。

タイマンから逃げるんかぁぁぁぁぁ!

まっ、ちょっ、待てよオイ!ディオニソス区に入ってるぞ勝手に活動していいのかよ!

悪がいる限り、ヒーローは止まらんのじゃぁぁぁぁぁぁい!

新人はしがらみに気づかないってアレか!?ウチも昔はバイト先で散々やったけど!なら!

 ヴィランは方角を変え、環境保全区に入る。緑の茂る場所では能力使用が制限される。ヒーロー以前にこの都市の常識だ。

常識がなんぼのもんじゃあぁぁぁ!せいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!

 アレイシアの右手に握っていた槍が、迷いもなく投じられ、大気までをも焦がしながらヴィランに迫る。

ウッソだろ、おい!ネメアの獅子(ネメア・レオン)

 すかさず獅子の毛皮を顕現させ、槍を防ぐ。だが槍は傷ひとつつかぬはずの毛皮を貫き、衝撃でヴィランの身体が吹き飛ぶ。

ゲホッ……!信じらんねえ……。こんな緑だらけのところで炎だぁ?燃えちまうだろうが。常識ねえのかよ。

興味ない!

めちゃくちゃじゃん!こんなことしたら、絶対にクビになるぞ!二度とヒーローになれねえ!いいのか!?

興味ない!!

こ、こいつ……!公務員の安定した収入を捨てるのが怖くねえのか!?

 安定した収入。輝かしい未来。憧れの職業、ヒーロー。その道を閉ざされた時、彼女は闇に堕ちた。

だが目の前の少女は、自らそれを投げ捨て、なおも昂然と胸を張り、熱い眼差しで立っている。

常識もルールも全部!興味ない!ボクはボクの!ヒーロー道をいく!!!

 ヴィランは――いや、かつてヒーローを目指した女、コリーヌは理解した。

目の前の少女は、金も地位も名誉もいらない。だれかを救う。ただそれだけのためにヒーローになろうとしているのだと。

勝敗は、そのとき決し、コリーヌは膝から崩れ落ちた。

か、勝てねえ……こんなイカレたヒーローに、勝てるわけがねえ……。

いけないね、コリーヌ君。私のあげた希望を無駄にしては。



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 魔神は、音も気配もなくあらわれた。

う、うそ……まさか魔神プロメトリック!?

若いのによく勉強しているね、新人君。そう、君たちは私をそう呼んでいた。

10年前、オリュンポリスを揺るがした巨神と化したヴィランたちのー斉蜂起――ティタノマキア事変。

その首謀者が創滅の魔神と呼ばれたヴィラン、プロメトリックだ。

い、生きていたの!?

君たちはいつもそうだね。少し活動を休んでいただけで、勝手に殺してもらっては困る。

さて、コリーヌ君。

自分の方が見習いヒーローよりずっと強い。遊び場でそう管を巻いていた君に、なんのため希望を与えたと思っている。

そ、そりゃアンタのくれた人造神器は役に立ったよ。研修の時に使ってたのより強かったくらいだ。

けど、無理だ……。こいつは本物のヒーローだ。ウチに勝てる相手じゃ、なかったんだ……。

勘違いしてもらっては困る。希望というのは、簡単に捨てられるものではない。ー度抱いた以上、どこまでもついてくる。

 その言葉に反応するように、人造神器――オリーブの棍棒が黒い輝きを放つ。

え……な、なんだよ、こりゃ!

 黒い輝きが、侵食するように持ち手の肉体も黒く染めていく。眼球の結膜までが漆黒に染まる。

さあ、パンドラ。叶えたまえよ。最後に残された希望をね!

う……う……WOOOOOOOOOOOO!

 黒い光が爆発する。神代の力が身を支配する。

次の瞬間、そこに立っていたのは、溢れ出るヘラクレスの力を暴走させた悪夢の姿だった。

ティタノマキア事変の巨神たちと同じ……!漆黒神器(ブラック・パンドラ)

さあ人間よ。君たちの希望を私に見せてくれ。

 言葉と同時に、プロメトリックの姿が消える。それを追いかけることもできない。

GAAAAAAAAAAAA ! !

 黒きヴィランが禍々しい光を放つ桓棒を振りあげて襲いかかってきたからだ。

声のデカさじゃ負けんとよおおおおお!うおらっしゃああああああああああああ!!

 アレイシアは槍を振り回し、棍棒を迎え撃つ。ふたつの力は激しくぶつかり合い、弾ける。

いいぞぉう!やっぱヒーローは正面からの殴りあ……い……?

 突然、カクンとアレイシアの膝が崩れた。

なんじゃこりゃあ!急に、体の力が……。

神器に力を引き出されすぎたのよ!慣れてないのに無茶するから!

 神器は身中に眠る神の力を引き出し、増幅させる。ゆえに、力が足りないものが扱えば、ー瞬ですべてを引き出されて意識をうしなう。

人造のレプリカですら、研修中に意識をうしなう者は多い。アレイシアのものが本物ならその効果は数倍だ。

なんのぉ!ヒーローなら……この程度……!

 しかし、アレイシアは立つこともできない。ゆえに、エウブレナは決意した。

……ヘカテーを使うわ。

 ヘカテーはハデスに仕える冥府最強の女神であり、かの神の権能をその身に宿すのが、ハデスヒーロー最強の技である。しかし――

なに言っとるんじゃあ……。そんなことしたら……。

あれを放っておけば街が無事では済まないわ。本部隊が来るまでにどれはどの被害が出ることか……。私がやるしかないのよ。

だからって、死んでどうするんよ……?

 ヘカテーは死と狂気を司る女神。その力を宿したものは例外なく命を落とす。

それでも、やるしかないの。私だってヒーローなんだから!

人造神器、最大出力!

 エウブレナの人造神器が、強い光を放つ。コントロールできる限界を越え、神の力を引きずり出す。そして――

生きて還るまでがヒーローじゃろがああああ!

 弾き出すように飛び出したアレイシアの拳で、エウブレナの人造神器は砕け散った。

アレイシア……貴方……なにをするの……。

 強制的に引き出された神の力が散逸し、エウブレナの意識は急速に遠のいた。

ボクが守るんだ……この街も……君も……!だから……。

 意識をうしなう瞬間、エウブレナの目に映ったのは、悪を前に雄々しく立つ、見知らぬヒーローの姿だった。

かかって来んかあヴィラン!ボクは……アレスだあああああああ!


 ***


 大神ゼウスとアルクメネの間に生まれた神話最強の半神半人ヘラクレス。その武を称える逸話は数え切れない。

AA !!! EEEEEEE !!

 アウトリュコス、エウリュトス、カストル、ケイローン……名だたる達人より学んだ、無双の武芸。

GRRRRRRAAAAAA!

 ケリュネイアの鹿をー年間追い回して仕留めたという無限の体力。

AAAAARRRRRGG!

 あらゆる負傷をものともせず、12の功業を成し遂げた、神にも等しい強靭性。

生半可な神話還りの身には余るその力が、暴走したいま、遺憾なく発揮されていた。

対するアレイシアは、動かぬはずの肉体を気力で動かしているだけだった。

ヒーローに、ピンチはつきものぉ……!

 棍棒が振り上げられる。次に来るのは、神話の時代、山脈をふたつに割ったと伝えられる、全力のー撃。

アレイシアはそれを待っていた。力をためるー瞬の隙をつき、懐へ飛び込む。

チェエエエエイイイストオオオオオオ!!!

 残されたわずかな力のすべてをこめた乾坤ー擲の槍突撃。チャリオットもかくやというそれが、神速をもって敵に突き刺さる。

衝撃に、ヴィランの両手から檻棒がこぼれ落ちる。――そこまでだった。

GAAAAAAAAAAAAA!

 黒く染まった獅子の毛皮が、槍を受け止めていた。そして棍棒を手放し空いた両手が、アレイシアの胴にまわる。

半神ヘラクレス最強の武器。それはその剛腕そのものである。

な……んだ……!

 クレタの雄牛を屈服させ、ネメアの獅子を綸り殺した剛力が、アレイシアの小さな肉体を締め上げる。

あ……ああ……。

 先のー撃で、残る力のすべてを振り絞っていたアレイシアは、ろくに抵抗することもできない。

AARRGGU……!

 眼前に、大量の血が舞った。アレイシアのものではない。ヴィランだ。ヴィランの目から口から、血が噴き出していた。

彼女もまた、研修で終わった見習い。ヘラクレスの神力、そのすべてに耐えられる肉体ではないのだ。

このままじゃ……。この人も……。

 血の涙を流す敵を前に、アレイシアの意識が急速に遠ざかっていく。その脳裏に映るのは――

――最強と謳われたヒーロー、ディオソニスⅩⅡ。だがいまのオリュンポリスに、彼の姿はない。

ティタノマキア事変の後、彼は姿を消した。その詳細を、英雄庁は黙して語らない。

事変でプロメトリックと刺し違えたとも、事変の最中、いくつものルール違反を犯し、処罰を受けたとも言われている。

アレイシアにわかるのはただひとつ。真のヒーローが彼女を助け、そして姿を消したということだけだ。

それはまるで、彼女がこの世界から英雄を奪ったかのようであった。

ならば、自分のするべきことは――

死んでる場合じゃなかぁぁぁぁぁぁぁ!どっせいやぁぁぁぁぁぁぁ!

 顔面。頭突き。

もういっちょいやぁぁぁぁぁぁぁ!

 頭突き。もうー度。

締め上げていた両手が、たまらず離れる。

ヒーローは、すべてを救う!すぐにおんしも助けてやるけんのぉ!

 自由になった両手を使って、よろめく相手の頭をがしりと掴む。

バイトテロかぁ。仲間を笑わせたかったんか。ええこっちゃ。

けんど次は!ワシとー緒に!もっとでっかく!世界全部を笑顔にしようや!それが……。

 神話の力も神の権能もクソもない。ただの意地。ただの気力。ただの根性。だが、だからこそ――

ヒーローだぁぁぁぁぁぁぁ!

3度目の頭突きは、暴走していた敵の意識を断ち切った。同時に、地に落ちていた漆黒神器――棍棒が粉々に砕け散る。

勝負はついた。立っているのは、アレイシアひとり。

だれにともなく、拳をふりあげる。


勝った~~~~~~~~~~~♪

そして――そのまま大の字に倒れて気絶した。



おお……間違いない。帰ってきたんだね。

 姿を消していた魔神は、ふたたび音もなくあらわれると、陶然とした視線を、気絶したアレイシアに向けた。

迎えに来たよ。さあ、行こうか――アレス。

悪いなアンちゃん。そいつは認められねえよ。



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ほう、とうに気力をうしない、死んだも同然と思っていたが。

こっちだって、アンタはとっくにくたばったと思っていたよ。

それは良い冗談だ。面白くないところが特に良い。発した者の存在をこの世から消滅させたくなる。

だが今日の私は機嫌が良い。探しものが見つかったのでね。できればこのまま帰りたいのだが?

こっちだって余計な仕事はしたくない。その「探しもの」を置いてってくれんなら、とっとと帰るよ。

 沈黙が落ちる。

やがてふたりは同時に笑った。

フフ………。どうやら、相変わらず我々は気が合うらしい。

はは……残念ながらそうみたいだな。そんなわけだ。

 ヴァッカリオの腕が、腰にさげた空の盃をとり、天に挿げる。

目覚めろ、神器!

10年ぶりの再戦といこうか!プロメトリック!

今度こそ、貴様のすべてを消し去ってやろう!ディオニソスⅩⅡ!


 ***


zう、うん……ここは……。

 目覚めたハデスC213が目にしたのは、変わり果てた環境保全区の姿だった。

zそうか、私はヴィランに襲われて……。アレイシア!エウブレナ!

 ふたりの教え子は、すぐそぱに倒れて気を失っていた。怪我をしていたが、治療されており、命に別条はないようだ。

その隣には、襲ってきたヴィランの女性が同様の処置を施され、縛られて気絶していた。

zいったい、なにが起きたんだ……。

よう、目ぇ覚めたかい?

zあなたは……あのときの?なぜここに?

こいつらの手当はこっちでしておいた。じきにハデスフォースも到着する。後は任せたよ。

zちょっ、ちょっと待ってください。

 去っていく背を思わず呼び止めたが、なにがなんだかわからなすぎて、なにを訊けばいいのかもわからなかった。

それで、思わずこう訊いた。

zその……もう終わってしまったんですか?

 女は振り向くと、搾猛な獣のような笑みを浮かべ、告げた。

いいや、これから始まるのさ。



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 アレイシアが目覚めると病室で、起き上がると、すぐに呼び出され、偉そうな人たちに囲まれた。

根掘り葉掘り訊かれた。アレイシアに宿る神の力のこと。本物らしき神器のこと。

出会ったヴィランのこと。プロメトリックのこと。漆黒神器(ブラック・パンドラ)のこと。

アレイシアはありのままを答えた。すなわち――

全然、わっかりません!

 困ったように目を見交わした偉そうな人たちは、最後にこう訊いた。

――君は多くのルールを無視し、様々な損害を出した。そのことをどう思うか、と。

何度おなじ場面になっても、ボクは絶対におなじ行動を選択します!

 ――君をハデスフォースに配属はできない。それが相手の返答だった。

クビ、ということだろう。後悔はない。だからー度頭を下げ、胸を張って退室しようとした。

その肩を、止められる。

あわてんじゃないよ。まだ配属先を言ってないだろ?

え?クビじゃないの?ていうか、だれ?

そんじゃ、もらってくよ。来な、アレイシア。

 混乱したまま廊下に出ると、エウブレナがいた。


アレイシア!大丈夫?

あれ?エウさん、どうしたの?

この子はアンタを心配してやきもきしてたのさ。

ハデスフォースヘの配属も決まってたのに、アレイシアを辞めさせるなら自分も辞めるってさ。大騒ぎだ。

そ、そんな騒いではいません!アレイシアが処罰を受けるなら、私も受けないと不公平だと思っただけです!

ハイハイ、わかったわかった。そんなわけで面白いから、この子ももらうことにしたのさ。ふたりとも、ついてきな。

 わけもわからぬまま車に乗り、女性の運転でしばらく走る。

おっと、まだ自己紹介してなかったね。アタシはゾエル。英雄庁直下の部署、地域ふれあい課の責任者だ。

地域……ふれあい課?英雄庁にそんなものが?

新設されたのさ。アタシがしたんだがね。それで人手を集めててね、アンタらをスカウトさせてもらった。

へ~地域ふれあい課かあ。なにするんだろ?

 アレイシアは目を輝かせるが、エウブレナは憂鬱だった。どう考えても、閑職への左遷だからだ。

そんなエウブレナを見て、ゾエルがくつくつと笑う。

なに、すぐ慣れるさ。ちょっと前にも活きのいいのを見つけてね。スカウトしたら、いまやウチのエースだ。

そら着いた。さあ、降りな。

たどり着いたのはハデス区のはずれにある小さなビル。ゾエルの後をついて中を歩く内に、エウブレナは不安になる。

だ、大丈夫なのかしら?なんか私たち、騙されてない?

どこに行っても、大きな声で挨拶すればなんとかなるぞ!

 そして、扉が開く。中にいたのは――


よう、やっと来たか。これでサボれる。

あれ?ヴァカのお兄さん?なんでここに?

やあ、よく来たね。爽やかな先輩が歓迎するぜ。……ふひ。

ふひ?

 そして――

新入り、よく来たにゃ。

猫がしゃべったぁ!?



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