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【黒ウィズ】双翼のロストエデン2 Story2

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story3 中級 変異



 呻きを上げた貴族の体は崩れ、歪み、溶けた。かと思えば、再び形を成した。

それは見たこともない禍々しい生き物で、見ただけで嫌悪を催すような姿をしていた。

まるで目的を持って、そんな形をしているというくらい、よく出来たバケモノだった。


なんだあ、こりゃあ……。

どうやら思ったより厄介なことが起こっているようだな。

面倒な話は抜きだ。まずはこいつらをぶっ倒そうぜ。

賛成にゃ。どうせ話は通じないにゃ。

 君はウィズの言葉に頷いて、戦いの構えを取る。ふと、妙に周囲が静かなことに気づいた。

嫌な予感が背筋に走り、君は辺りを見渡す。

喧嘩を見物している時ですら、平気で騒いでいた魔族たちが皆、うろんな目をして佇んでいる。

おいおい。これはまさか……。

そのまさかのようだぞ。

 魔族たちは恐ろしい呻きをあげて、体を怪物へと変化させる。

どこかで激しい爆発音がした。巨大な火柱が上がり、怪物の無数の影が空へと飛び立った。

そして、一瞬にして、フェスティバルの会場は炎の波に呑まれた。


大丈夫か?

さすがにいまのは危なかったにゃ……。

 間一髪だった。異変を察知した君はすぐに魔法の障壁を張った。

おかげで辛うじて難を逃れることが出来た。

おい。あいつらどっか飛んでいくぞ。

 怪物たちの群れは、空を渡る黒い帯となり、君たちがやって来た方角――アルドベリクの居城へと伸びていた。  

あそこにはルシエラたちがいる。

クソ……。何が狙いだ。

 察したアルドベリクはすぐに翼を広げ、飛び上がった。


キミも追いかけるにゃ!

そんなら、俺も行くとすっか。おい、魔法使い!競争だ!

 と言うなり、彼はすっ飛んで行った。面白い人だな、と君は心の中で思いながら、後を追った。


 ***


見るにゃ。

 ウィズに促され、君は空を見上げる。

攻め入る怪物たちに向かい、城の方からも魔界の兵たちが飛び出していた。

ありゃ、アルドベリクの軍だな。応戦するんだろう。

 だが、ぶつかり合うふたつの群れがもつれあうように争い始めると、それらは妙な動きを始める。

始めはただ魔界の兵が押されているように見えたが、そうではなかった。

呑みこまれているにゃ。

 戦い始めると、魔族は次々に怪物へと姿を変えた。

なんだ、ありゃあ。病気みたいにうつるのか?

魔族にも病気はあるにゃ?

あるぜ。俺は滅多にかからないけどな。

 何となくわかります、と君は答える。

鍛えてっからな。

下らんおしゃべりはそこまでだ。

 君は頭上を見上げる。


何かあった時のために避難する場所は決めてある。ルシエラはそこにいるはずだ。ついて来い。

 言い残すと、アルドベリクは怪物を蹴散らしながら、城へと向かった。

私たちも城に突入するにゃ。


 ***


 ルシエラは胸にふたりの子供を抱えながら、城内の廊下を飛んでいた。

怪物の襲撃を察して、危険の少ない方へ向っている最中だった。


あれがあなたたちの言うバケモノですか?

 ふたりは黙って頷いた。良くない記憶がその頭の中で駆け巡っていた。

大丈夫ですよ。ここの人たちは腕っぷしだけは強いんですから。逆にやっつけちゃいますよ。

違うんです。ただ強いだけじゃない。あれは……病です。

大いなる疫病によって、世界は3つの夜を過ごすうちに滅びるだろう。

僕たちの世界に伝わる予言です。それはいつか必ず起こると言われています。

そして、本当に起こったんだ……。

あら。子供の癖につまらないことを言いますね。そんなのはよくある言い伝えですよ。

何の変哲もなくて、下らないくらいですよ。それに、もし本当だったとしても……。

運命とか宿命は蹴っ飛ばす為にあるんですよ。

でも私たちは、予言を信じる。そういう風に生きてきたの。

どんな人にも運命はある。そこからは誰も逃れられない。

…………。

 ルシエラは城の奥にある一室の前で翼を下ろす。

さ。ここに隠れますよ。

 と、扉を押し開ける。


 ***


あそこにゃ。

 駆けつけた時、ちょうど扉が破られたばかりだった。怪物たちは我先にと室内へ突入していく。

ちっ、遅れたか!

 こちらを察知した怪物たちが、大挙して向かってくる。

邪魔だ!どけ!


 ***


 猛烈な勢いで、怪物たちを打ち倒していく君たち。

だが行く手を遮られ、扉の向こうに次々と怪物たちが雪崩込む。

何が起きたのか、怪物たちが部屋に入った途端、目の前で大きな爆発が起こった。

立ち込める粉塵の中から人影が見える。


遅いぞ、アルドベリク。ルシエラを守るのはお前の役目だろう。

貴公があまりにも遅いので、俺が代わりにやっておいた。

代わりをお願いしちゃいましたー。

 ふたりの間から、にょっこりと顔を出したのはルシエラだった。その傍に子供たちもいる。

どうも解せんな。タイミングが良すぎるぞ、お前たち。

詳しいことはここを離脱してから話そう。まずはその算段を考えようか。

追手についてこられても困るからな。

それならクィントゥスさんを囮に使いましょう。

敵の目をクィントゥスさんの方に向けて、その間に逃げればいいんですよ。

いま囮って言ったにゃ……。

ふむ。悪くない考えだ。

ああ?何の話だ?

えーと、ですね。強いクィントゥスさんにしか出来ないことがあるんですよ。

何も考えず敵中に飛び込め。貴公はそれが得意だろ。

んん?まあ……それなら得意だな!任せろ!

 納得するクィントゥス。おだてるルシエラとイザーク。それを見て呆れるアルドベリクとエストラ。

作戦が決まったみたいにゃ。

 一同はクィントゥスを残し、離脱の準備に入る。

心配するな。アイツは死なない。

根拠はないが、必ず戻るはずだ。

 クィントゥスを見る君の不安げな視線に気づき、イザークが言った。

きっと死んでも気づかないで帰って来ますよ。

やれやれ。天界生まれはご立派だ。


 ***


状況を説明しよう。

 迅速に撤退を済ませた君たちは、アルドベリクの領地を離れ、敵の手の及ばぬ場所へとたどり着いた。

到着早々にイザークが、皆の前に立ち、話し始めた。

見てわかるように、魔界は攻撃を受けている。それも多方面から突如として攻撃された。

だが問題は、攻めてきているのは何者か、だ。

天界の奴らではないのか?新手の魔術や兵器、そんなところだろう。

違う。断言できるが、天界が攻めてくるなら聖王自ら陣頭に立って、攻めてくるはずだ。

聖王どころか天界の兵すらいない。無関係か。なら何者だ。

何者……果たして敵と呼べるのかすらわからんな。

考えてもみろ。敵はどこから現れた?

 君は突如として魔族たちが苦しみ始め、体を変異させたあの光景を思い出す。

 敵は、味方だったものの体を作り変えて現れた。

にわかには信じられないことにゃ。

あの数をあらかじめ潜入させていた……というのは無理があるか。

軍団丸ごとというのは不可能だろう。

それに、この子たちの世界でも同じようなことが起きているみたいです。

 ルシエラの両脇に立つ少年と少女が、怯えとも懇願ともとれる目を皆に向けていた。

私たちの世界にある予言では、それは病だと言われていました。

世界を滅ぼす疫病だと。

そういうものは本来、我々のような魔の眷属の襲来を例えているんだが。

 アルドベリクは少し笑いながら言った。何かの皮肉のように聞こえたのだろう。

病か……。俺は間違いではないと思う。

ただし、肉体を壊す病ではなく、魂の病だ。

何か考えがあるようだな。

今はただの勘だが、詳しく調べてみる価値はある。死界の専門家に助力を頼もうと思う。

死界というは、主に死者の魂を管理している場所だ。

 聞きなれない言葉にきょとんとしていた君に、アルドベリクがそう教えてくれた。

だがどうやっていく?あそこは他とは隔絶されている。簡単には行けないはずだ。

問題ない。死界に行くのはとりわけ簡単だ。死ねばいいんだからな。




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story4 上級 冥道下り



 「死ねばいい」。とんでもなく突飛なことを、イザークは平然と言った。

その言葉を受けたアルドベリクたちも、発言がもたらす不可解さを隠そうとしなかった。


詳しく話してくれるか?

ああ。ここにドラク家の秘薬〈夜の雫〉がある。

 イザークは小瓶を取り出して見せた。中には黒い液体が満ちている。薬の類だろうかと君は考えた。

それにベルゴン家の秘薬〈酪酊牙〉を混ぜ、服用する。

すると一時的に肉体が死に、死界で活動できるようになる。

聞いたことはあるな。特殊な薬を使い、死界と交信する方法があるというのは。

で、誰がやる?断っておくが、私は嫌だぞ。死んで甦るなど気持ちが悪い。

 真っ先にエストラが辞退を表明し、言い終わると、なぜかちらりとアルドベリクを見た。

……?

悪いが俺も天界に用がある。事が事だけに俺が行った方が話は早いだろう。

 明らかにイザークはアルドベリクに向けて言っていた。

……?

「「「じー……。」」」

 君を除く全ての視線が、アルドベリクに向けられている。つまりそういうことなんだろう、と君は察する。


すまんな。アルドベリク。

お前たち……狡いぞ。

そう怒るな。その魔法使いにもお供してもらう。寂しくはないだろう。

 え……。と君はうわずった声を漏らす。あまりにも唐突だった。

にゃにゃ!それは横暴にゃ。

 ウィズがそう言うのも無理はない。君もその意見に何度も頷いた。

俺たちは全ての案件を、常に決を採って決定してきた。今回もそうあるべきだろう。

ふっふっふー。そんなこと言っていいんですか?こっちには子供たちがふたりもいるんですよぉ。

人質を取ったみたいに言うな。無論、子供に権利はない。

あ。ひどーい。

私はこの魔法使いの師匠にゃ。師匠には議論に参加する権利があると思うにゃ。

その通りだ。

 つまり、イザーク、ルシエラ、エストラに対して。自分とアルドベリクとウィズ。数の上では互角である。

と、議論の略の中に、ドンと激しい音をたてて、何かが落ちてきた。


到着!いやー、なかなか手間取ったけど、全員ぶっ飛ばして来たぜ!

 と、砂煙の中に立つクィントゥスは快活に言い放った。

おや?何してんだ?

 迎えの言葉もなく黙ったままの仲間たちを見て、ようやくクィントゥスも彼らが真っ二つに分かれて、にらみ合っていることに気づいた。

クィントゥス。貴公はアルドベリクで良いと思うか?

 出し抜けにイザークが問いかけると。

ん?なんかよくわかんねえけど、それでいいんじゃねえか?

 およそ何も考えてないであろう答えが、返ってきた。

クィントゥス……恨むぞ。



 結局、君とアルドベリク、そしてウィズは、死界へ向かうための秘薬を飲んだ。

甘くて意外と飲みやすいにゃ。

 皿に落とされた秘薬の雫を舐め、意外だというようにウィズは呟いた。

君が大丈夫だと言うのも聞かずに、ウィズは強情を張って、同行することを押し通した。

師匠だからにゃ。

 それが理由らしい。仕方がないな、そう思いながら、君は目を瞑った。


 ***



 目を開けると、そこは死の世界であった。


忠告しておく。決して立ち止まるな。決して振り返るな。そして、強い心を持て。

出来なければ、魂を奪われる。……行くぞ。


 ***


 どろどろと湿った沼地であった。薄暗く、差す光もなく、水も泥も腐った臭いをさせている。

分かりやすく例えるとすれば、そう表現出来た。

そのぬかるみの中に踏み込み、足を抜き、また踏み込む。

いつも何気なくやっている歩くという行為が、途方もなく苦しいことのように感じられる。

……もう少しのはずだ。

 アルドベリクの翼は鉛の様な水でぐしょぐしょに濡れている。飛び立つことはおろか、開くことすら叶わない。

…………。

 いつものウィズの軽口もない。口を開けば、弱い言葉しかでない。それなら黙っているしかなかった。

それは君も同じだった。ただ黙って、腐ったぬかるみの中に足を踏み入れる。


 雨が降った。重たく、体を打ちつける雨だった。息が出来ないほどの勢いで振り続け、体から体温を奪っていった。

耐えるんだ……。

 君は小さく頷いた。耐えることしか自分たちには出来ない。唯一の抵抗は進むことだ。


 激しい雨音の向こうから、声が聞こえる。幻聴のように聞こえるかと思えば、耳元で囁くようにも聞こえる。

w何を恐れる?

何も恐れない。

wお前は失うことを恐れる。

俺は失うことを恐れない。

 その嫌な声から逃れようと、君は耳を塞ごうとした。

耳を塞ぐな。どんなに恐ろしくても、耳を塞ぐな。目を閉じるな。そして恐怖の声を上げるな。

 アルドベリクの言葉が君を踏みとどまらせる。逃げることは出来ない。恐れることも。

 君はさらに一歩前に進む。

wお前は別れを恐れる。

俺は別れを恐れない。

w嘘だ!お前は何よりも別れを恐れる!いや、恐れた!恐れから何をした!?

俺は別れを恐れない。

w本当にぃ?考えたことがあるか?閉じた運命を捨てた時、お前たちにあるのは、別れだ。

お前たちの別れは死だ。死はお前たちのため込んだ記憶を、想いを、全て奪う。

お前は、死を恐れる。

俺は死を恐れない。

w本当にぃ?

w本当にぃ?

 激しく降る雨のべールの表面に幻影が見える。それはルシエラの姿をしていた。

 ほ ん と う に ぃ ?

 ルシエラの幻影が変異していく、不気味な、何者かへと……。


z本当にぃ?

 アルドベリクの背中がわずかに震えた。すぐに声が出なかった。


 君は全力で、前へ踏み出す。アルドベリクの横に並び立ち、雨で閉ざされた前へ向かって叫ぶ。

我々は死を恐れない、と。


そうだ。俺たちは死を恐れない!


 その言葉の前に、ルシエラの虚像は崩壊する。

本性をさらした声の主は、金切り声を上げ、悪あがきを始めた。



 ***

BOSS

 ***


 敵を倒すと、雨は止み、ぬかるみも嘘のように退いた。

礼を言うぞ。

 それだけ言って、アルドベリクは先へ進む。彼にしては、少し素っ気ない様子だった。

 雨が止んだ頃から、目の前に人影が立っていた。


zようこそ。ヴェレフキナが向こうで待ってる。

 使いの者だろうか。君はその少女を見て、拍子抜けする。

ここに来るまでの過程を考えると、強面の迎えが待っているのだろう、と君は考えていた。

だが、違った。

少女は名乗りもせずに、君たちに背を向けて、歩き去る。ついて来いとは言わなかったが、ついて行くしかない。

行くにゃ。


 ***


 少女について行くと、城の一室に辿り着いた。中央には玉座があり、そこにだらしなく腰掛ける少年がいた。

見た目は少年だが、わざわざ彼を頼ってここに来たのだ。姿に惑わされてはいけない。

一体これから何が起こるのか、と君は少し緊張する。


ヴェレフキナ、連れてきたよ。

ご苦労さん、シミラル。

次からはお前が行けよ。

さて、アルドベリ……ん?今なんか言うた?

 と怪厨そうに振り返る。

言うてないよ。

ほんまに?

ほんまのほんまに。

よかった。ボクの勘違いやったんか。疑ってごめんな。

今回は許してやるよ。

ん?

言うてないよ。

キミ、嘘ついてるよね。キミ言うてない言うけど、完全に言うてたよね。ボク聞いたよ、キミが言ったの。

言うてないって言ってるだろ、ボケ。

あー。いま完全に言うたよね。ボケって言うたよね。それちょっとアカンよ。

キミちょっとボクに対する尊敬とかないよね。それアカンよ。キミ造ったんボクやからね。

キミにとってボクは親みたいなもんやからね。親は大事にせなアカンよ。

ご先祖さんは拝まなアカンよ。話聞いてる?

うるさい。……自爆するぞ。

あ。またそれ言う?キミなんか都合悪いことあるとすぐ自爆するって言うよね。

それ良くないよ。それ一種の脅しやからね。簡単に言うとそれ……脅しやからね。

 なぜか君たちを放り出して、些細なことで言い争いを始めた。


何やっているにゃ……。

おい。こっちは言葉通り、死ぬ気でここに来たんだ。

本題に入れ。

お。なんかうまいこと言われたな。うまいこと言うたみたいな顔してるし。

 ヴェレフキナは君たちに向き直り、真剣な調子で始めた。


せやな……。端的に言うと、キミここに来て正解やよ。

 この口ぶりでは、向こうもある程度は事情を把握しているようだ。と君は思った。

そして、ボクも君たちの訪問を歓迎してる。もちろんそれは、助力を借しまんと言う意味や。

相手のことも知っているにゃ?一体どんな敵にゃ?

ジェネティス。ボクがそう呼んでるだけやけど、アレは魂を乗っ取るんや。

乗っ取って書き換える。キミらも見たんちゃうか?

 目の前で魔族たちが怪物へと変わったあの光景を君は思い出す。

アレは目に見えへんし、無数にコピーを造るし、体に乗り移る。ごっつ厄介や。

そんなやつとどう戦う?聞いた話だと、打つ手はなさそうだぞ。

何眠たいこと言うてんねん、キミ。ボクらは魂の専門家やで。

やで。

方法は考えてる。それに切り札もある。

なるほど。案外簡単に話が進んでうれしいが、なぜそんなに協力的なんだ。

人の魂勝手に書き換えて乗っ取る。……完全に舐めとるよね、魂を。

完全にアウトや。

いっぺん、ドツキ回さなアカンよね。そんなヤツは。




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