【黒ウィズ】双翼のロストエデン2 Story5
最終話 絶級 宿命の殺し合い
何が起こったのか、理解できなかった。いや、にわかには信じがたかった。
跪くアルドベリク。腕を取り見下ろすルシエラ。
何が起こったかはわからないが、何か良くないことが起こっている。それだけはわかった。
白炎が君の目の前に舞い降りる。
出し抜けにヴェレフキナが忌々しげな言葉を呟いた。
そうやって時間稼いで、ルシエラの記憶を読み取ったんや。
ヴェレフキナが濁した言葉の先をシミラルが継いだ。
冷静に状況を分析し事実を伝えた。必要だから……。そんな調子の言葉だった。その言葉を聞いて、
もう……元には戻らないのか?
抑えつけられた腕をやり返しながら、アルドベリクは立ち上がる。
難しい。精一杯の希望を絞り出し、ヴェレフキナはそう言った。
ルシエラを殺せば、ジェネティスも死ぬ。
「それと、この戦いが終わったら、あの約束を果たしてくださいね。
あの花が咲いている所に連れて行ってくれる約束ですよ。」
「ああ。」
「この花をいっぱい敷き詰めて、その上で眠りたいです。」
言うと、ルシエラに掴みかかり、共々空へ飛び上がった。
君の横にシミラルが駆け付けて、
言われたまま君はその背に飛び乗る。
***
白い翼と黒い翼はもみ合いながら、花の咲き乱れる丘へと落ちた。
衝撃につられ、赤い花びらが血のように吹き上がり、白い花びらが雪のように舞った。
君たちもすぐさま降り立った。
花の上へ叩きつけた勢いのまま、抑えつけたか細い首に力を込める。
言い切るアルドベリクをルシエラは嘲笑する。どこにそんな余裕があるのか、気分の悪くなる笑い声をあげた。
さらに腕に力を込めるアルドベリク。突然、ルシエラはもの悲しげに言った。声はまるで別人のようだった。
意表を突かれ、腕の力が緩む。再び力を加える勇気はなかった。
知らないでしょ?どうして一緒にいてくれないの?そう思っていたのよ。
最後の瞬間まで、そう思っていた。あなたは花ばかり摘んでいたけど。
私はそんなこと求めてなかった。可能性を捨てたのだって………
あなたが勝手に決めた……。いつも………いつも……。
黙ってれば好き勝手しやがってよぉ!……ここで殺してやる?
お前が死ねよ!!
ルシエラが怒号と共にアルドベリクを吹き飛ばす。そのままゆらりと立ち上がり、顔を覆う髪をかき上げると、
すでにそれはルシエラ以外の何かだった。
アルドベリクの不安は的中した。起こるべきことは、必ず起こる。
君は手にしたカードを握りしめ、つぶす。
突然、ヴェレフキナがアルドベリクに体を当てて吹き飛ばした。
シミラルぁ!この花や!この花の香り。しっかりと記憶しとけ!
状況が絶望的なものであるのは、認めます。けれど、あなたは……。あなたたちは!
わずかでも可能性があるなら、それを捨ててはいけません!
その言葉に反応し、アルドベリクは激情から踏みとどまる。
感情を噛み殺し、アルドベリクは答えた。少しだけいつもの彼に戻っているようだ。
殺し合いの宿命をね、クソ野郎。
君は頷く。黙って、何も言わず……。戦いの構えを取った。
***
BOSS ルシエラ
***
どこにそんな力があるのか。相手は全身のバネを使い、飛びかかってくる。
それだけではない。両翼の浮力を活かし、重力からも逃れ、その動きは不規則極まった。
もちろん殺さずに捕らえるという伽も重く、君たちの身動きを奪っていた。
徐々に焦りも生まれてくる。
次の瞬間、アルドベリクは前に出た。無防備に、構えを解いて、ただ立っていた。
君は彼を守ろうと一歩踏み出す。
ウィズに促され、君は思い直す。ここは彼に任せるしかない、と君は覚悟する。
でたらめな軌道を描いて、ルシエラはアルドベリクに激突する。
ルシエラの爪がアルドベリクの肉を引き裂く。
その傷をもろともせず、そのままルシエラを抱きしめる。
背中に回された手は、ルシエラの両翼をへし折る。
腕の中でのたうち回り、肩に噛みつき、肉を噛みちぎる。
それでもアルドベリクは、しっかりとルシエラを抱きしめている。
花の上に押し倒し、手を握ると、自らの手もろとも剣で貫く。
2頭の神獣に食われながら、最後のあがきのように喚き散らす。
声が遠くなる。ルシエラの皮膚を覆った殼もぽろぽろと剥落していく。やがて。
全てが終わったように、静けさが帰って来た。
アルドベリクはルシエラと自分を繋げる剣を引き抜く。彼女はまだ眠ったままだ。
アルドベリクがルシエラを見返すと、彼女の目はもう開いていた。
君は胸が締め付けられるように感じた。あるいは後遺症があるのかもしれない。あるいは失敗した、ということも。
ここにある花の香りを鍵にして、ルシエラの記憶を見つけた。
面白いことにジェネティスは、五感を完全に閉鎖しとった。たぶん痛覚が邪魔やと思ったんやろうね。
たしかに戦った時、痛みを感じていた様子はなかった。
笑い声が聞こえた。
なるほど。彼女らしい。いたずらだったのか、と君は胸をなでおろす。もちろん、アルドベリクも。
多少呆れているか、ムッとしているかはしていたようだか。
ルシエラは顔の真横にある花を見た。大きく胸を膨らませて、その香りを吸い込むと、瞼を閉じた。
返事を聞くと、彼女は花の中に埋もれるように眠りに落ちた。
君もふたりについて、その場を後にすることにした。
ヴェレフキナだけは、少しアルドベリクに用があるのか。最後まで残っていた。
放置されていた亡骸がむくりと起き上がる。
死界に送ってもらった方が早い思てね。方法はキミに任せるわ。
アルドベリクはゆっくりと新たな身体に移ったジェネティスの元へ歩いていく。
とヴェレフキナはアルドベリクに背を向け、去っていった。
俺が魔王と呼ばれる理由を、お前にだけ教えてやる。……クソ野郎。
誰にも、内緒だぞ。
チチチーーッ!!
***
奇妙な声が聞こえた。そんな気がした。何か聞こえた?と君はウィズに尋ねる。
そうかもしれないと思い直し、君は仲間たちの方へと向かった。
エピローグ
「ふう……。」
目の前で黒猫の魔法使いが消えてから、しばらくの間、オルハは異界の歪みの発生を、神経を研ぎ澄まして待ち続けた。
そしてようやく、いつもの如く白日夢が歪みの発生を教えてくれた。
そこは以前、魔法使いが歪みの中に消えていったところだった。
「もうすぐね。……あ。」
花が舞った。風に吹かれたのではなく、歪んだ空間に引き裂かれて、舞った。
花の吹雪が去った後、開いたオルハの眼に映ったのは一本のボトルだった。
見たこともない禍々しい絵の描かれたラベル。
それが貼られているボトルの中身はとうの昔に飲み干されていた。
「何かしら?」
怪訝に思いつつも、オルハはそのボトルを持ち上げた。
空っぽのボトルの底には小さく折り曲げた紙片がある。
蓋を取り、しばらく下に向けて振っていると地面に紙片が落ちた。
「あら?」
そこに書かれていたのは、見慣れた形の文字だった。
もうしばらくこちらにいます。
楽しくやっているので、心配しないでください。
最後には黒猫の魔法使いの名が署名されていた。
「う~ん。これなら、心配ないわね。」
オルハは風に誘われるまま紙片から指を離した。
紙片は、花と共にどこかへ消えた。
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